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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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269-偉大なるアーサー王

「円卓の騎士……!!」


俺達の目の前に待ち構えていたのは、明らかに円卓の騎士の一団だ。中央に立つ女性は威厳がありながらも美しいドレス風の鎧を身に纏っており、圧倒的なオーラを放っている。


煌めく長い金髪が背後でわずかに浮き上がっているほどで、彼女の周囲だけ森が変容しているようだった。

右手に握られた杖も服に負けず劣らず豪華で、どこからどう見てもこの森の女王だ。


その右隣に控えている騎士も、ソフィアさん並みにきっちりしているし圧がすごい。まるで、自分こそ正しさの象徴だ、すべての騎士の模範となるとでもいうような厳格さを感じる。


これだけ模範的な騎士で、ソフィアさん並みに強いオーラを放ちながら女王の隣に立つ騎士であれば、間違いなく序列3位――ウィリアムだろう。


手前にいる小さな双子の姉弟は、言うまでもない。

相変わらず元気そうで、またどこかズレた感性をしていそうなシャーロット、ヘンリー・クルーズ姉弟だ。


数日前に来た時と同じような軽めの鎧を着て、今から行われる殺し合いに心を踊らせている様子である。


他には、地上の森でセタンタと出会った時に行き倒れていた女性――序列5位のテオドーラもいた。

彼女は前回会ったときとは違って鎧姿で、しかし相変わらず空腹なのかお腹を押さえている。


残りの2人は初めて会ったけど、これだけ少人数で来たということは間違いなく円卓の騎士。

消去法的に、まだ会ったことのない6位以下の騎士だ。


ただ……1人は隻腕ながらゴツい重装騎士といった感じなのに、もう片方はなぜかメイド服だった。

たとえ下位でも円卓の騎士に変わりなく、油断するべきではないだろう。


しかし、流石に騎士が立ち並ぶ中、メイドが同行しているというのは異物感が半端じゃない。

女王だってドレス風の鎧を着ていることもあって、ひときわ目立っている。


ともかく、女王自ら6人もの円卓の騎士を引き連れてこの場にやってきた。それは今考え得る中でも最悪の事態だ。


ソフィアさんが約束してくれたのは、俺達を殺しには来ないことともしも暴禍の獣(ベヒモス)が現れたら協力すること。


仲間が俺達を裁きに来た場合、彼女に助けてもらうことはできない。彼女が言っていた通りオスカーがいないのは救いだが、こちらもロロを除いて6人、レーテーも除けば5人だ。


しかも、雷閃には見えない傷が残っているし、ソフィアさんの馬が人型になったことを踏まえると、敵はまだ増える。

全員が馬に乗っている訳では無いが、それでも5頭……


女王であるエリザベスが自ら戦うのかどうか、ケルヌンノスが助けてくれるのかどうか、またどれだけ強いのか。

そこら辺で乗り切れるかどうか変わってくる……


「我に関して言えば、円卓の騎士ではなく円卓の主。

しかし、認識は概ね正しいでしょう。円卓の騎士の約半数……それが今から、あなた方罪人を裁きます」


円卓の騎士達を見つめながら考え込んでいると、俺の呟きを聞いた女王――エリザベス・リー・ファシアスが尊厳な態度で言葉を紡ぐ。


それを聞いた円卓の騎士達は、一斉に馬から降りると、それぞれの武器を抜いて構えて戦いの準備を始めた。

ウィリアムはいかにもな輝きを放つ長剣を、ヘンリーは背丈にあった小さめの剣を。


テオドーラはどこからか現れた盾を構え、右手にはなんの装飾もないシンプルな剣、隻腕の重装騎士は巨躯らしい大剣を握り、シャーロットは血のように赤い槍を構える。


そして、特に場違いなメイド姿の少女は……


「す、素手……!?」


特に何も待たず、片足を引いて構えていた。

他の騎士達が武器を持っているのに、なんで彼女だけ武器を持たずに鎧すら着ずにここにいるんだ……!?


馬に乗っていなかったのはウィリアムも同じだけど、彼女は本当に円卓の騎士なのか……!?


「……え? もしかして、(わたくし)のことですか?」


気にするべきじゃないのかもしれない。

むしろ敵の危険度が下がったと喜ぶべきなのかもしれない。


だが、どうしょうもなく気になってしまった俺は思わず素手と呟いてしまい、少女も戸惑ったように首を傾げる。

急に戦いとは無関係の問いが出てきたことで、他の騎士達も動かず場は膠着状態だ。


しばらく目を泳がせていた彼女は、やがて助けを求めるようにまだ馬に乗っている女王に目を向けた。

その視線を受けると、エリザベスは変わらず女王としての貫禄を見せつけるような態度で口を開く。


「素手は貴女だけですから、きっとそうでしょうね。

随分と気にしているようですし、理由を話してみては?

彼らを見極める材料にもなる」

「は、はい……」


女王に促された少女は、より困惑したように表情を歪めながらも構えを解いて頭を下げる。

見た目通り騎士ではなくメイドなのか、やけに礼儀正しいし綺麗な所作だ。


「えっと……(わたくし)は円卓の騎士序列10位、ビアンカです。

こう見えて、れっきとした騎士なんです、よ……?」

「我は素手の理由についてのつもりだったのですが……」

「そ、そうですよねっ!?

すみません、うっかりしてましたっ!」


いきなり自己紹介を始めたメイド少女――ビアンカを見ると、エリザベスは困惑したようにそっと言葉を投げかける。

落胆したような声を聞いたビアンカは、大慌てで振り返って頭を下げ始めていて少し可哀想だ。


とはいえ、俺としてもいきなり話がズレて驚いたので、正直修正してくれてありがたい。

パタパタと手を振る彼女が、今度こそ女王の言う理由を説明してくれることを期待し、黙って見守る。


「えぇっと……そう、(わたくし)が素手の理由ですよねっ!?

それは単純で、よくミスをするから……なのです?

あまりにも危なっかしいということで、(わたくし)以外の円卓の騎士が満場一致で武器を持たせないという方針に決めまして……」

「な、なるほど……?」


俺が見守っていると、彼女はややもじもじしながら恥ずかしそうに理由を告げる。よくミスをするのが危なっかしい……

つまり、ドジっ子っていうことか?

自分以外の円卓の騎士が満場一致とは相当だ。


ただ、結局危なっかしいというのがどういう方向性かわからないし、円卓の騎士ではあるし、油断はできないな。

もちろん、武器がない分、致命傷なども受けにくいとは思うけど……


とりあえず、なんでエリザベスは俺をジッと見つめてくるんだろう? 見極める材料になるとか言ってたけど、一体何を見極めるつもりなんだこの女王様は……?


「ククッ、そんな雑魚が私の前に来て大丈夫なんですかぁ?

出入り許可のルーン石を渡せば、見逃しますけどぉ?」


俺が女王ノ視線に戸惑っていると、ガノが腹黒そうな笑みを浮かべて前に進み出てきた。同じ円卓の騎士なだけあって、やはり面識があるらしい。


というか、カモにする気満々といった雰囲気だ。

審判の間を封じる結界と連動したルーン石……出入りする許可を与えるということは、多分1つの石で1人だろう。

どう考えても抜け駆けするつもりにしか見えない。


「え……? (わたくし)、そんなに弱いですか……?

お心遣い、痛み入ります。こんなにお優しいガノ様をいつも爆発に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」


すると、ガノの申し出を聞いたビアンカは、おそらくこの場にいる誰も予想できなかったような行動に出る。

許可のルーン石を差し出すでもなく、雑魚という言葉を否定するでもなく。


なぜか受け入れた上で、よくわからない謝罪を始めた。

どうやらガノを爆発させたことがあるらしいけど……

当のガノ本人は、凶暴さを隠しきれずに言葉を返している。


「はぁ……? 記憶を捏造しないでくださぁい。

私がいつあなたにやられたとー?」

「えぇっ……!? す、すみません、いつのお話でしょう……?」

「チッ……!! こっちには別に、あんたの爆発に巻き込まれた覚えはないって言ってんですよ」

「はぁ……では、謝罪は撤回しますね? たまに爆発の中から聞こえてくる悲鳴、ガノ様に似た声をされていたと思ったんだけどなぁ……あ、そっか。ガノ様じゃないっていうことは、円卓の騎士以外で似た声の人……弱い一般騎士の方‥」

「テメェもう死ねよッ!! 愚図メイドがッ!!」

「ひぇっ……!?」


意図してなのか天然なのか、ビアンカは若干ズレた回答をし続けてガノのことを煽っていた。


最終的に彼はキレているので、おそらく爆発に巻き込まれたことは実際にあるのだろう。しかし彼が否定したことで、暗にガノが弱い一般騎士と見なされたようだ。


剣から赤黒い閃光迸らせているガノは、容赦なくビアンカに斬りかかっていく。


「……ウィリアム」

「はっ」


だが、自分からビアンカに話を促したエリザベスがそのまま放置するはずもなかった。


彼女は隣に立っているウィリアムに命令し、それを受けた彼は、太陽のように炎が吹き出している剣で危なげなくガノの攻撃を受け止めてしまう。


……やっぱり、序列3位と4位の差はかなり大きいようだ。

この太陽みたいな騎士――ウィリアムは、実質円卓のトップであるソフィアさんと対になる騎士。


申し訳ないけど、このままビアンカが脱落してくれれば……と思ってたのに、流石にそう上手くはいかない。


「チッ……優等生が城出てんじゃねぇよ。

馬鹿みてぇにひたすら内政やってやがれ」

「私は内政官ではない。それはダグザ様やローザ殿の仕事だ。私はあくまでもエリザベス様の騎士だからね。

あの方に同行するのは当然というもの、さ!!」


ウィリアムに噛み付いていたガノだったが、彼は向かい合う騎士に余裕の表情で抑え込まれている。

武力でも口でも、正しさや自信ですらも圧倒的だ。


さらには、爽やかな笑顔を浮かべたウィリアムに腹を蹴られ、遠くに吹き飛ばされていった。


「くっ……!!」

「どこに居ても変わらないね、君は」


ガノを吹き飛ばしたウィリアムは、そのまま眩い剣を地面と水平になるように構える。熱は高まり、周囲は茹だり、木々は自然に発火していく。


もはや俺から彼の姿はまともに見えず、直視できない間に力は溜まり切ったのか、それを全力で振るったようだった。


"アラウンドサン・ガラティーン"


瞬間、目の前にはただただ白い世界が広がる。

圧倒的な火力によって目が潰されたらしく、慣れていない俺の視界は塗りつぶされて世界を映さない。


だが、ソフィアさんの話を聞く限り、おそらくはその全てが彼の炎であり斬撃だ。


しばらくしてから、ようやく目が慣れた俺の目に映ったのは一面の焼け野原。ガノが吹き飛ばされていった方向は、地面に木々、空すらもまとめて焼き斬られてしまっていた。


「ッ……!? なんつー火力ッ……!!」


息をするのすらキツい中で、ウィリアムは汗1つ流さず涼しい顔で笑っていた。ガノの生死どころか、体があるのかも不明だ。あいつと彼では、明らかに格が違う……!!

これが、序列3位……ソフィアさんと対になる太陽の騎士……!!


「全員まとめて……というのは獣神がいる以上不可能ですが、いかが致しましょう? 組み合わせはどのように?」

「そうですね……」


何事もなかったかのようにエリザベスの元へと戻った彼は、圧倒的な実力を見せておきながら、女王に伺いを立てる。

やはり見慣れているのか、彼女もまったく動じずに考え込んでいた。


……というか、ケルヌンノスがいれば全滅はないのか?

彼の言葉を聞いてちらりと後ろを見てみると、そこにあったのは余裕そうな獣神の姿だ。

オリギーと同じと見なしてくれればいいけど……


「強い順で言えば、侍、ガノ卿、暴犬、司書、侵入者。

もちろん、能力的に侵入者は最も油断できない相手ですが、反応的に内面の脆さも最もある。負傷などを考慮したとしても、順番は覆らない。相性的にも序列通りに。

ただし、クルーズ姉弟+ビアンカです」

「はっ!!」


ケルヌンノスに確認を取る暇もなく、エリザベスは思考をまとめて円卓の騎士に命令を下す。

女王本人は出てこないようだが、彼女以外の騎士たちは全員一斉に向かってきた。



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