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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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268-女王の襲来

食事の担当になった俺達は、主に料理をするヘズの協力の元、ケルヌンノスの食事を激辛料理にした。


それも、昼、夜と連続でだ。

案の定甘党だった彼は、流石に参った様子である。

……まぁ正直に言うと、俺達が出したのは辛いものが好きでも悲鳴を上げるような危険物だったけど。


ともかく、ケルヌンノスは2食続けて転げ回り、日をまたいだ今日も口内の焼け付くような痛みに涙目になっていた。


「か、か、辛い……!! なんて仕打ちだ……

儂、神なんだが……? 今からお前達を助けるんだが……?」


神殿の縁に座り、甘い香りのしている酒樽から酒をガブガブと飲んでいるケルヌンノスは、延々と口直しをしながら文句を言ってくる。


当たり前のように料理を丸投げした上に、危なっかしい行動をしてきたけど……うん、流石にやりすぎたな。

助けてくれるし、そこまで大したことをされた訳でもない。


少しばかり言い方があれで、なんかめちゃくちゃするようなイメージを受けたけど、ガノやセタンタよりも断然マシで、明らかに俺達が悪かった。


ヘズはテントを畳んでいてこの場にいないが、彼は俺が巻き込んだだけなのでむしろ好都合だ。

離れた位置で喧嘩している光景から目をそらし、俺は未だに辛そうなケルヌンノスに頭を下げる。


「ごめん、やりすぎた」

「はぁ……ほんとだぜ。ありゃもう毒だ。美味かったけどよ」

「いや、美味かったのかよ!?

なんで全部完食したのかと思ったら」


本気で申し訳なくなって謝ったのに、当のケルヌンノスは辛さに苦しみながらも嬉しそうだった。

思わぬ反応を見て、俺は思わずツッコミを入れる。


そりゃあ、ただ辛さだけを追い求めた訳じゃないけどさ……

あんだけ悲鳴を上げてて好評ってどうなんだ……?

機嫌を損ねなくてよかったとは思うが、少し引いてしまう。


しかし、本当に美味しくて嬉しかったらしく、彼はまたも頭を左右に揺らしてハラハラとさせながら熱弁していく。


「あっは、そりゃ美味いだろ。甘味も辛味も、自然の中じゃたかが知れてんだ。人の形だけ模倣したって儂にゃ作れん。

そも、せっかくの料理を残すとかもったいなさすぎる!!

次いつ食えると思ってるんだ!!」

「いや、知らねぇけど……」


どうやら甘さ辛さに限らず、何かに振り切った料理というのはケルヌンノスの好物であるらしい。


甘党というよりかは甘さに振り切った料理が好きで、同じく辛さに振り切った昨日の料理も好き……つまり、濃い味が好きということだ。


意図せず彼の好物を作ることができたようで、結果オーライだと言える。……うん、けどやっぱり次はやりすぎないように気をつけよう。


「ただまぁ、痛ぇことに変わりはねぇんだわ。

痛けりゃ気も立つし、そんな時に暴れてるやつがいれば……」


俺が反省を続けていると、酒で口を潤しながらも文句を言い続けるケルヌンノスは、唐突に立ち上がる。

遅れて見上げてみれば、その瞬間には彼は素早く体を屈め、空高く舞い上がっていた。


「……っ!! はぁ……!?」


風圧から顔を庇いながら目で追うと、どうやら向かっているのは喧嘩中のセタンタとガノのところだ。

もちろん酒樽は神殿に置いてある。


綺麗な弧を描いて地面に降り立ったケルヌンノスは、彼らが反応する前に頭を殴り倒し、そのまま担いでまた俺の隣まで飛んできた。


「うーっし、これでスッキリだぜ。

残ってる痛みは戒め的なものだと思っておこう!!」

「マジでごめん……」


爽やかな笑顔で笑っているケルヌンノスだが、それでも当然痛みは健在のようだ。雰囲気とか勢い以外に気になるようなことはなく、実害も今のところはないのに戒めとか……

本当に申し訳ない。


痛みで頭を抱えるセタンタ達がうめいている中、俺はそれを無視して再度謝る。


「美味かったからいいんだよ。それより、ほら。

テントとかが来たぞ。しまう係」

「おう」


本当に好意的で気のいいケルヌンノスは、俺の謝罪をあまり深刻なものとしないで仕事を促してくる。

その視線の先を見てみると、言われた通り外に出していた物がロロの念動力に運ばれてきてきた。


障害物のせいでまだロロ達は見えないが、酒樽を倒さないために高めに浮いているので、来ていることは明らかだ。

畳み終わったなら呼んでくれればとは思うけど……

まぁ、ケルヌンノスの側にいた方が安全かな。


「クロー、もってきたー」

「おー、ありがとう。一旦止まって、順番に下ろして渡してくれ。まずはテーブルとかからな」


酒樽の迷路を超えてきたロロは、自分の真上に荷物を浮かせながらやってきていたので、少し離れた位置で静止してから手前に1つずつ物を置いてもらう。


一度に置いてもいいけど、積み重なると入れる順番とかが少し面倒になる。酒樽に気をもむのも御免だ。

それらを1つずつ受け取った俺は、最低限整理しながら収納箱にしまっていく。


物はいくらでも入るけど、その分失くしやすかったり破損しやすかったりするので、場所はちゃんと決めておかないといけない。


「よし、終わったぞ。出発するか」

「あいさー!」


慎重に荷物をしまい終わってから、俺は仲間達に号令をかける。ケルヌンノスに殴られたセタンタ達も、本気でやられた訳ではないので負傷はなしだ。

ぶつくさ文句を言いながらも立ち上がっていた。


「他の試練ということだが、まずはどこへ行く?」

「そこはガノかヌンノスに任せる。詳しく知らねぇし」

「儂はオリギーとか止めるだけだっての。

どこ行くかとかは勝手にしろ、お前らの試練だからな」


ヘズの質問を丸投げすると、ケルヌンノスはすぐさま決めることを拒否した。彼がしてくれるのはあくまでも手助けなのだから、まぁ正論だ。


仕方がないので、未だに頭を抱えて苦しんでいるガノに目を向ける。だが、彼は彼で不機嫌なので、ブツブツ文句を呟いていて質問に答えてくれない。さて、どうしたもんか……


「呑んだくれがふざけやがって……暴犬共々、そのうち殺す」

「おーい、ガノ」

「ルキウス辺りをおだてれば……ふむ」

「聞こえてねぇのかー、ガノ卿?」

「とすると、オリギーも引っ張って来られる可能性……」


再三呼びかけてみるが、ガノは隠しもせずに謀略を考え続けている。腹黒いのか正直なのか、よくわらからない。

とりあえず言えることは、会話にならないということくらいだ。会話に引っ張り出すとしたら……挑発かな?


「だめだコイツ。セタンタのがまだ使える」

「あぁ? ふざけたことぬかしてると、あなたもブチ殺しますよ? クソガキより有能に決まってるでしょう?」

「はいはい、じゃあ目的地決めてくれ。俺はわからん」

「……ふむ」


ようやく顔をこっちに向けたガノは、治安の悪い言葉を並べながらも素直に目的地を考え始める。


セタンタのようなチョロさとは違う気がするけど、これはこれで扱いやすい。……キレてなければ、だが。


しばらく目を伏せて考え込んだ彼は、やがて顔をしかめながら口を開いた。


「……まぁ、実力的には色欲の間なんじゃないですか?

近さで言えば強欲とかありますけど、どうせ無理です」

「了解だ。じゃあ、早速出発しよう」


目的地を色欲の間に決めた俺達は、オリギーやルキウスを抑えてくれるというケルヌンノスと共に、神殿がある空間からティタンジェルへと踏み出す。


しかし、その先にあったのは昨日までの神獣が存在しない森の広がる洞窟ではなく……


「おや。ようやく出てきましたね、罪人の皆さん」

「やっほー、お兄さんたちー! 殺しに来たよー!」

「えっと……姉さんは軽いですが、ちゃんと仕事です」


明らかに女王だと思われる王冠を被った鎧ドレスの女性と、数日前にやってきたシャーロットやヘンリー、その他にも4人もの円卓の騎士が馬に乗って待ち構えていた。



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