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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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267-獣神の庇護の元

ケルヌンノスの神殿に匿われることになった俺達は、収納箱からテントなどの野宿道具を取り出して準備を始める。


なぜかすっかり元気そうに見えるセタンタ達がテントなどを広げ、椅子やテーブルなどは並べるだけなのでロロが浮かせていく。


俺が取り出している間に作業は始まっているので、荷物を出し終えた俺は若干手持ち無沙汰だ。

手伝った方がいいんだろうけど、セタンタとガノは喧嘩しながらやってるから、ついていけないんだよな……


そもそも、念動力でものを並べているロロ以外は二人一組で作業をしているので、俺が手伝える余地はない。

レーテーは年寄りでまだケルヌンノスと奥にいるし、勝手に食事の準備をするのもどうかと思うし、うーん……


「うぇ〜……なぁんか、酔いが回るの早ぇなぁ……」

「ホッホッホ、酔っていれば加減はわからぬものじゃよ」


俺が特にやることもなくぼーっとしていると、山積みの酒樽の奥からはレーテーとケルヌンノスがやってくる。

体格差や体の老い具合的に、レーテーがケルヌンノスの体を支えられはしないが、寄り添ってはいたようだ。


見た目はともかく中身は同じ老人として、踏み込みすぎずに離れすぎずに、というような距離感で笑い合いながらやってきた。


「よー、ガノと一緒に来たしょーねん。

ここに落とされるたー運がなかったなぁ」


再び顔を真っ赤にしているケルヌンノスは俺に気がつくと、心なしか遠くを見つめるような目で見下ろしてくる。

しっかりと立ってはいるが、明らかにふらついてもいるし、やはりかなり酔っているらしい。


運は……まぁたしかに良かったとは言えないけど、1人では落ちなかったのは救いだ。おまけにソフィアさん、ケルヌンノスと裏からだけど助けてくれる人もいた。

そう悪くもないんじゃないかなと、俺は思う。


「……こんにちは、ケルヌンノス。

試練以外では助けてくれるんだよな、ありがとう」

「気にぃすんなって。人間はよく供え物をくれるからなァ。

持ってくるのはぁ、円卓の騎士らけど」

「供え物って……酒か? 他になんかないのか?」

「ない!!」

「そ、そうか……」


ほんの少し呂律の回っていない彼は、俺の質問に力強く断言する。あまりにも酒ばかり積み上がってるとは思ったけど、まさか本当に酒だけしかないとは……


何を供えてんだよ上の村で暮らしてる連中。

そんで、普段何食ってんだよこの獣神。


かなり好意的で気のいい神だけど、強さ以外はあんまり信用ならないダメ人間の香りしかしねぇな。


俺が若干頬を引きつらせながら考え事をしていると、ずっとポワポワとしていたケルヌンノスは、急に目の焦点が合ってシャキッとし始めた。


セタンタといいこいつといい、さっきから何なんだ……?

明らかに肺が凍っていたり酔っていたりするのに、急に何事もなかったかのように普段通りになるの怖すぎるだろ……


「っと、また目が覚めてきた。……うん? また?」

「ホッホッホ、酔いが醒めたなら何よりじゃ」

「しっしっし、まーそうだなぁ。細けーことは気にせずいくか。今日は楽できそうだし、美味いもん食えそうだし」

「……もしかして、あんたの分も作れって感じか?」


不思議そうにしながらもレーテーに同意する彼は、どうやら俺達の食事に交じるつもりのようだ。


まだ作り始めてもないのに、随分と気が早い。

というか、こっちが助けてもらう立場ではあるが、当たり前のように丸投げはどうなんだろう?


あと、さっきから忙しなく酔ったり治ったりしていて不思議なのは俺の方こそだ。いやまぁ、こっちのセタンタもそんな感じだし、食べるなら食べるでいいんだけど。


「そうそう、人の作る料理は美味いからな。

儂も人型にはなってるが、めんどーでやってらんねぇや」


俺の質問に頷くケルヌンノスは、できるできないに関わらず面倒だと言う理由で丸投げしてくる。

やっぱりダメ人間だ。


しかも、頭を振ることで巨大な角を酒樽ギリギリのところを掠れさせていて、めちゃくちゃ危ない。

いくら山積みになっているからって、ぶちまけていいはずがないし単純に汚いだろ……!! やめろよ……!!


「作るから首振んのやめろ! 危ねぇだろうが!」

「ダイジョーブ、儂の角はプリンでできてっから」

「んな訳あるかぁッ!! よし、よくわかった!!

お前もふざけたやつだな、ボケなんだな!?」


棒読みで意味の分からないことをほざいてるケルヌンノスに、俺は反射的に声を荒げる。ダメ人間というだけでかなり可能性が高かったけど、さっきの発言で確定だ。


こいつも、無茶苦茶なことをやらかす、問題児!!

それも面倒くさがりだった美桜に、さらにニコライの真面目な振りした適当さ、獅童の豪快要素なんかが追加されたハイブリットだ。


なんでこんなとこに住んでてプリンを知ってるのかは謎だけど、あんな立派な角がプリンでできているとかありえない。

動かない飾りならまだしも、現在進行系で動き回る神獣の角がそれとか冗談にしてもふざけてる。


だが、これだけ目に見えた嘘をついていながらも、彼はこのまま押し通すつもりのようだった。

爽やかににっこりと笑うと、見た目通りに素早い身のこなしで酒樽の山を飛び越えていく。


「ニンゲンのブンカ、むずかしいね。

儂、ちょいと眠くなってきたぜ。んじゃ」

「いや逃げんな!? くっそあんにゃろう……!!」


咄嗟に手を伸ばすが、とんでもない身体能力で障害物を飛び越える彼を掴むことはできない。それどころか、指先が掠ることもなくあっという間に姿をくらまされてしまった。

供え物を障害物にするとか、面倒なやつだな……


もちろん、後を追って飛ぶことは無理でも、道順に見て回れば彼が逃げた先を探すことはできる。

しかし、わざわざそんなことをするのは面倒だ。


また移動しないとも限らないし……というか、よく考えてみれば危なかった以外は丸投げされただけ。

適当に量だけ作ればいいだろ。余計な心労をかけられた分、かなり腹立たしいけど……追うのはもっと面倒そうだ。


「はぁー……!!」

「どうかしたか? 安全な場所で休めるというのに」

「ん、もう準備は終わったのか、ヘズ?」


俺が思わず下を向いてため息をついていると、テントを張り終わったらしいヘズが声をかけてくる。

酒樽で姿は見えなかったが、ため息という彼にとって最もわかりやすい動作に反応したようだ。


隣で一緒に歩いているらしい雷閃は、当然まだ気付いてないようで素っ頓狂な声を出していた。


「あぁ、あの2人は喧嘩をしている」

「そして僕らは撤退してきた……ってわけゴホッゴホッ」

「うん、すぐに火を起こすぞ」


ひょっこり顔を出してすぐに咽る雷閃を見て、俺はすぐさま彼の凍りついた肺をどうにかしようと立ち上がる。

ケルヌンノスには料理を要求されたし、一石二鳥だ。


戻ってきてすぐにまた出るのを渋る雷閃だったが、ヘズにも合図をして無理やり連れ出した。

酒樽があるとこで火とかありえない。


セタンタとガノが喧嘩をしているところ、テントを張ったところを避けて……


「よし、御札があれば火種からやる必要もなくて楽だ。

すぐに暖まるからな、雷閃」

「えぇ……? 僕は別に寒くないんだけどなぁ」

「私が寒い。付き合ってくれ、雷閃くん」


ごねる雷閃を言葉で押し留め、俺達は収納箱から取り出した薪に御札を使って火をつける。ただ火を出すだけなら呪文もいらず、しかも火の神秘ではない俺が火種を出すよりも簡単だ。


よく考えたら、雷閃は獅童から炎の神秘を継承していたっけな……まぁ、こいつには無理させれないから変わらないか。

ふと思い出したけど、特に気にせず雷閃を温めることにする。


当然、一石二鳥のもう1つも同時進行だ。

しばらく雷閃と一緒に火に当たってから、俺はヘズに食事の準備を提案した。


「ついでに昼飯の準備もな」

「……そうだな。どうせ私が作るのだし、やってしまおう」

「ケルヌンノスの分は別で作ってくれ。

あいつは多分甘党だから、辛いやつにする」

「あぁ、少し言い合っていたからな。了解だ。

ガノくんに聞いて、辛い野菜を見つけてこよう」


さっき角をプリンだと言ったところから推察するに、あいつはおそらく甘党だ。どちらかと言えば……という程度かもしれないが、少なくとも辛いよりは好きだろう。


少しでもギャフンと言わせるべく、俺はヘズと協力して辛い植物を集め、ケルヌンノス用の料理を作ることにした。




「うぎゃぁぁぁぁぁっ!? 口が燃えるぅぅぅっ!!」


それから数十分後。2人で協力して作った激辛料理は、見事にケルヌンノスの口に合ったようで、神殿には彼の絶叫が響き渡った。



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