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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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265-ティタンジェルの底に

密かにソフィアさんに助けられ、なんとか魔眼のバロールから逃げ切った俺達は、そのまま休むことなくティタンジェルへと向かう。


目的は変わらず、獣神ケルヌンノスに出会うためだ。

その神獣は、比較的俺達人間にも好意的な人物らしいので、少し疲弊した現在でも気にせず向かうことができる。


ただ……ガノに落とされたティタンジェルに、彼と共に向かうというのは少し複雑なところがあった。

とはいえ、もちろん戦力が足りていない俺達にとっては絶対に必要なことなので、多少複雑でも向かうしかない。


洞窟は落ちた日にガノが暴れていたことで崩落していたが、この数日ですっかり再生している。

だだっ広い森の中で、俺達はケルヌンノスに会うべく歩を進めていく。


「そういえば、ここは審判の間じゃなくてティタンジェルなのか? 見た目はあんま変わりないけど」


終末装置の封印場であるというティタンジェルには、かつての大厄災に限りなく近しい魔獣が封じられている。

それについては軽く聞いているし、実際に獣の声も聞いて、景色も他の地下空間より禍々しくて実りが豊かだ。


しかし大雑把に区別するのならば、審判の間もここも、地上に広がるミョル=ヴィドのように輝かしくはない。

同じように畏ろしい森だった。


正直、審判の間にもオリギーのような化け物はいるんだし、ここもそう呼んでいい気がする。

するとガノは、先頭で案内を続けながら丁寧に答えていく。

どうやら、今は丁寧に接するつもりのようだ。


「まぁ、ここ一応は同じ地下空間なのでねぇ。そりゃあ景色は同じですよ。ですが、ここには神獣がいないでしょう?

この空間にも同じく森が広がっていますが、エリアをつなぐ通路の他にも地下への通路が2つあります。

それぞれが封じられた大厄災の餌場、ケルヌンノスの神殿に通じる道で、彼らがいることで大抵の神獣は寄り付かない。

故に禁域、審判すら終えた者の終末の地」

「なるほど、獣と構造、役割の違い……」


言われてみると、たしかにここには神獣がいない。

他の空間でも、ガノやセタンタといった凶暴なやつが仲間にいるからか、頻繁には遭遇しなかったけど……


ここに入ってからは、遠目に見かけることもなかった。

原因があの鳴き声を上げた大厄災がいることならば、それがいいことかは微妙なところだな。


構造は木々に遮られて全貌が見えないが……俺達が進む先にはケルヌンノスの神殿へと向かう通路、他の方向にも大厄災の餌場へと向かう通路があるようだ。


それらがいるから役割が変わり、獣も寄り付かない地下の森……それだけ恐ろしいやつということで、説得力がある。

というか、微妙な構造の違いとかわかんねぇよ。


「おや、あの目立つきのこは何かな?」

「バッカ、てめぇ不用意に近づくな!!」

「ぐぇっ、ブクブクブク……」


俺がヘズと一緒に傾聴していると、レーテーと共にのんびり後ろを歩いていた雷閃が、ワクワクとした声を出す。


つられて振り返ってみれば、俺の目に飛び込んできたのは、やたらとカラフルなきのこに近づいて、毒々しい胞子を吸い込み倒れている雷閃の姿だった。


さっき怒鳴っていたセタンタは、悪態をつきながらも大慌てでルーン石を砕き、風のルーンで胞子を吹き飛ばしている。

まさか彼ごと吹き飛ばすのでは……? とゾッとしてしまったが、意外にも風は穏やかだ。


速やかに雷閃を回収すると、彼の腹を殴りながら再度また別のルーン石を砕いている。


「そりゃ危ねーきのこだ!! 名前は知らねぇがよ!!

俺は回復のルーン上手く使えねぇから、マジでやめろ!!」


"ヤラ"


顔を青くしている雷閃だったが、セタンタが回復のルーンを使うと全身が輝き、ほんの少しだけ元に戻る。

宣言通り、どうやら本当に回復させるのは苦手らしい。


ちらりとそれを見たガノは、雷閃が普通に立って歩いているのを確認すると気にせず案内を再開した。


「……ちなみにあれは、毒の霧を撒くきのこですねぇ。

(わたくし)達はシノキリダケと呼んでいたりします。

または、毒を撒く危ねーやつと」

「は? 雷閃死ぬのか……!?」

「いえ……神秘は丈夫ですし、ショボいルーンもありますし、死にはしませんよ。痺れくらいは残るかもですがねぇ」


あのきのこの、円卓の騎士が呼ぶ名称はシノキリダケ……

つまりは死の霧茸だ。名前が危険すぎる。


流石に焦って問いかけるが、どうやら雷閃ほどの神秘であればそこまで大事にはならないようだった。

若干不穏な言葉を残しながらも、遅効性で死んでしまう……というような不安も潰してくれる。


ショボいルーンというのも気になるけど、とりあえず死なないようでよかった……あいつが死んでたら終わってたぞ。


というか、率先して弱体化しないでほしい……

既に見えない傷が治らないのに、さらに痺れとか戦えないだろもう……


「あぁ、それとここには地上への階段もありますよ」

「はぁ!?」

「許可を与えるルーン石がないと、弾かれますがねぇ」

「……あぁ、そう」


思わず俺が脱力していると、ガノはこれまでの苦労を丸ごと無駄にするような情報を伝えてきた。

しかし、実際には機能しないと遅れて告げられ、俺はさらに深く脱力してしまう。


騙されるよりはマシかもしれないけど、ニヤニヤ笑いながら弄ばれるのは、普通に気分が悪い……

少しは協力的になっても、性格が悪いのは相変わらずだ。


「わぁ、綺麗なお花だね〜」

「おー、ホントだなァ」

「ゴホッゴホッゴホッ……!!」


だが、ガノに苛立ってしまうのもほんの一瞬だ。

またも背後から呑気な声が聞こえてきたかと思うと、今度はセタンタも一緒になって青く輝く花に近づいていた。


振り返った時にはもう手遅れで、彼らはキラキラと輝く花粉のようなものを吸い込んだらしく、2人して咳き込んで倒れている。


「……ロロ」

「あいさー」


今度はセタンタがいないので、仕方なくロロに頼んで念動力で運んできてもらう。どうやらあの花が輝いていたのは冷気によるものらしく、彼らの口元や手などは凍りついていた。


セタンタ以外で回復の技を持っているやつはいないし、今回はロロの自己治癒力上昇で自力で治してもらうしかない。


雷閃のやつ、奇跡みたいに遭難ばかりしてるのに、この警戒心のなさは何なんだよ……!! いや、むしろこれだけ迂闊だからこそ、毎日のように迷子になってるのかもだけど。


「あれは、フレイスニルの花と呼ぶらしいです。円卓で6位の男が、ガルズェンスの友人を参考に作ったのだと」

「神獣らしからぬ行為だな、序列6位!!」


俺がセタンタを背負っていると、同じように雷閃を背負って歩き始めたガノがまた植物の解説を始める。


しかし、その内容があまりにも予想から外れていたことで、俺は思わず声を荒げてしまった。

自然に生きる獣だっていうなら、大人しくそのままの自然の中で生きてろよ……!!


というか、なんで今度はセタンタも警戒してなかったんだと思えば、本来この国にはないはずの植物だからか……?

はた迷惑な騎士だなちくしょうが。


この国には、元々生息している危険なやつもあれば、外から持ち込まれた、もしくは中で意図的に作られた危険なやつもあるらしい。ふざけてる。


……でも、フレイスニルの花か。

その名前を聞くと、ヒマリのことを思い出すな。

彼女のこの時代での名前は、グレース・フレムニル。


あの花は近づくものを凍りつかせて、おまけに作ったやつはガルズェンスの友人ってのを参考に作った……

あいつの知り合いが、いるのかもしれない。


「まぁ、そもそもこのアヴァロンが閉じられている理由は、この大陸で特に危険な神獣を閉じ込めるため……だったり。

その中で起きた突然変異と思えば、愉快なだけです」


ケルヌンノスの神殿へ向かう通路に入った俺が、斜面を下りながら大切な友達に思いを馳せていると、ガノは神獣が品種改良したことよりも衝撃的な事実を告げる。


アヴァロンを囲う不可侵の扉ノーグに、生命を貪り喰らうような死の森が存在している理由。

ここが特に危険な神獣を閉じ込めるための場所、だと……!?


アフィスティアやオリギー、ルキウスなど、正直納得できるようなヤバいヤツばかりだったけど、本当に……!?


「何だそれ!? 冗談じゃなく、そういう場所なのか!?」

「……クククッ、どうでしょうかねぇ?」

「はぁ!?」


ニヤニヤと笑うガノから隣を歩くヘズに目を向けてみると、彼は目を閉じていることもあって平静そのものだ。

シルと一緒に図書館にいた彼がこの反応なら、本当なのかもしれない……あれ? 本当なのかもって、何が?


「……?」

「どうかされましたかのぅ?」

「……いや」


なんだか釈然としないけど、すぐに忘れてしまったのなら、そこまで重要なことでもなかったのかもな。

顔を覗き込んできたレーテーに短く返すと、口を閉じる。


俺の顔を見ているガノは変な顔をしているが、ひとまず斜面を下ることに集中することにした。

すると、やがて俺達の目の前に広がったのは……


「少し妙ですが、まぁいいでしょう。

ここが、獣神ケルヌンノスの暮らす神殿です」


いたるところに大量の酒樽が積み上げられた、石造りの質素な神殿だった。


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