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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
301/432

263-楽園に咲き誇る花

審判の間を覆い尽くす花びらによって、クロウとロロを除くセタンタ達その他の仲間は分断された。


戦っていたセタンタへの影響は少ないが、後方に待機していた雷閃やレーテーなどは惑わされ、仲間どころか自分がいる場所すらわからないだろう。


だが、当然わからないだけで終わることはない。

分断された先でクロウがソフィアに倒されていた頃、同じくセタンタ達にも、アンブローズの魔術が襲いかかっている。


「チッ……ローザの野郎、ふざけた真似を……」


審判の間の一区画を覆い尽くす花に惑わされ、周りの様子が分からなくなっているガノは、赤黒く光る長剣を構えながら悪態をつく。


最初から一貫して暴れているため、セタンタの場所はなんとなくわかる。少し離れた先で、花が燃えていたり凍ったりして光っている場所だ。


しかし、他の面々……ヘズに雷閃、レーテーは戦っておらず、そのまま花びらに惑わされているため、どこにいるかわからなかった。


もちろん、セタンタを放置して惑わせているアンブローズの居場所も不明である。仮にセタンタへ攻撃を仕掛けていても、術師なので騒音の場所にいるとは限らない。


誰の居場所もわからず、元凶を潰すこともできない……このような状況に、彼は心の底から苛立っていたのだった。

だが……


「ちょっと、私は女よっ!?」


どこからかガノのついた悪態を聞きつけたアンブローズは、その言葉に抗議するために花の中から姿を現す。

せっかく自分の居場所を知られていなかったのに、とんでもないミスだ。


空を飛びながら、いかにも魔術師っぽいローブを花びらだらけにしている彼女を見ると、彼は獰猛に笑いながらより剣を輝かせていく。


「語呂がいいんだよ、クソアマ。そこな?」

「はっ……!! しまった……!!」

「俺の邪魔ぁすんなら、死ねや宮廷魔術師!!」


"ディスチャージ・クラレント"


自分のミスに気がついたアンブローズが目を見開いている中、ガノは迸る閃光の勢いで空を飛ぶ。

剣を下に向けることで体を持ち上げ、慌てて花の中に戻っていく彼女がいた辺りを赤黒い閃光で吹き飛ばした。


「っ……!!」


再び姿をくらましていた彼女だったが、すぐさまその辺りを消し飛ばせばもちろんそこに彼女はいる。


花びらのすべてを吹き飛ばせはしないガノでも、一部であれば可能であり、アンブローズは腕を胸の前でクロスしながら姿を現していた。


「ギャハハハハ!! おらおらおらぁ、血を吸わせろ!!」

「嫌に決まっているでしょう……!?」


"赤竜の幻想"


空中の花びらを消し飛ばしたガノは、そのまま回転して再び彼女に赤黒い閃光を向ける。剣から迸るビーム的な剣閃は、容赦なく彼女の身を斬り裂かんとしていた。


だが、斬られるという時に抵抗しない者はいない。

アンブローズは杖を振るうと、赤い竜の形をした何かを生み出してガノに襲いかからせた。


当然剣で防ぐガノだったが、竜の牙を受け止めるために剣の動きを封じられ、為すすべなしだ。


「グッ……!!」

「空中で、剣を封じられ、あなたは何ができるのかしら?」

「ハッ、羽を生やせば解決だろうが。血も貯まってるぜ?」


"不義の翼"


アンブローズに挑発された彼は、体勢的に赤い竜を斬るための力を出せずに運ばれる中、剣から赤黒い閃光を放出する。


光はガノを巻き込むように辺り一帯に広がっていき、やがて彼の背中に凝縮されていって血の翼を形作った。


竜の牙を受け止めたことで勢いが足りず、赤い竜を斬れなくなっただけの彼なので、飛行によって力を込められれば問題はない。


赤黒い閃光を迸らせる長剣を全力で振り抜くと、赤い竜の口を裂いてそのまま胴体、尻尾まで上下真っ二つにしてしまう。


「っ……!! たとえ落ちても序列4位ってことね……!!

でも、手数で攻めればその火力では対応できない」


赤い竜を破壊されたアンブローズは、表情を歪めながらも次の手を打ち始める。懐からいくつものルーン石を取り出すと、それに自らの神秘を込めて砕き……


「嫌な、音っ……!?」


ルーン魔術は術者が砕くことで、その真価を発揮する。

陰陽道のように繰り返し使えない代わりに、呪文などはなくただ願いを込めるだけで力の指向性を定める。


しかし、術者が自分で砕けなければ願いは反映されず、ただ石が壊れるだけだ。彼女のルーン魔術は、地上から放たれた音によりルーン石を砕かれたことで、不発に終わった。

さらには……


"不知火流-炎突"


ヘズの音から少し離れた位置からは、戦闘に加わらず、待機している予定のはずの雷閃からも攻撃が加えられる。

本調子ではないのでもちろん威力は抑えめだが、地上からは炎の刺突が放たれた。


「きゃっ……!?」


ガノの閃光によってアンブローズの姿は露わになり、彼女を守るものはほとんどない。威力は低く、あくまでも引き付けるための刺突はギリギリの所で避けられているが、じっとりとその肌を焦がしていた。


「なんだなんだ、そんなとこにいたのかよ!?」


ヘズの音、雷閃の炎が空にある一点へ向かって放たれたことで、彼女の居場所がわからずにルーン魔術を撃ちまくっていたセタンタも、彼女の存在に気がつく。


やたらめったら撃ちまくっていたルーン魔術を、今度はちゃんとアンブローズに向かって放っていた。

当然、彼女の姿を見つけて、赤い竜からも開放されたガノもクラレントを彼女に向ける。


炎の刺突によって体勢を崩していたアンブローズは、避けることもできずに赤黒い閃光と嵐のようなルーン魔術の直撃を受けた。


「だーっはっはっは、よーやくボロ雑巾にしてやったぜ!!」

「ふん……よく見なぁ暴犬、こりゃ花だ」

「あん?」


段々と血の翼を散らせて高度を落としていくガノが促せば、セタンタはルーン石を砕きながら目を凝らす。

すると、彼の目に映ったのはズタズタになっている花の人形のようなものだった。


"花分身"


アンブローズの姿は、またしても消えている。

ガノの血の翼と同じように、段々と花を散らして消えていくその分身は、わかれ、わかれ、森に降り注がれていく。


血に染まったものもあるが、多くはセタンタのルーン魔術によって燃えていたり凍っていたりと、かなり幻想的な光景だ。


「鼓動……相変わらず、花の擦れる音で隠されているな」

「チッ、もっかい出てきやがれ、ローザの野郎!!

花の色狂い、ドルイドの統括の座を奪われた馬鹿!!」

「ううううるさいっ!! 容赦なく隠れて狙うから覚悟しなさいよ、ガノ・レベリアス!?」


"H.(ハガル)I.(イス)"


"S.(シゲル)L.(ラグ)"


"R.(ラド)C,K.(ケン)"


姿を見せないままに怒鳴り返してくる彼女は、無数のルーン石を砕くことでルーン魔術を放ってくる。

姿が見えない以上、どのくらいの石を砕いたのかは不明だが、彼らには主に3種類の魔術が飛んできた。


1つは、地上に落ちると、氷が針山のように炸裂する雷。

1つは、地上を這い回りながら、中で乱反射する光を放ってくる水のヘビ。


最後に、この場の全員を花びらの世界ごと焼き焦がすような、周囲を飛び回る燃える風だ。

砕いた個数はともかく、砕かれたルーン石に刻まれた文字の種類は6種類ということになる。


アンブローズの居場所がわからないガノ達は、再びむやみにルーン魔術を撃ちまくるセタンタを除いて、逃げ惑うしかなくなった。だが……


「魔眼、限定解除。第2段階を解放。対象に目の前の花びらとその元凶を追加。世界の壊滅を遂行する」

「は……!? 花があるのに、この私が気が付かなかった……!?

いえ、私は何度か気がついて、忘れた……!?」


花びらの世界を突き破り、眼帯を上にズラして額のみを隠した魔眼のバロールが乱入してきたことで、意図せずに状況は打開された。



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