表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
300/432

262-魔眼のバロル

神秘的な森よりも頭1つ分くらい上に顔のある眼帯の巨人は、邪魔な木を軽くなぎ倒しながら足を止める。


その動作から既に凄まじいパワーを感じるが、服を着ていない上半身も岩石のようにゴツい。

ガルズェンスでも何人かの巨人に出会い、友達になったやつもいるけど、単純な筋力では1番ありそうだ。


彼は不気味な紫の瞳をしており、額まで覆う眼帯に隠されていない方の目で俺達を見下ろしながら口を開いた。


「騒ぎの元凶は、汝か……」

「あなたが動き出したのが昨日なら、私はまだ地下に来てはいなかった。さっきだって、騒ぎは起こしていない」


洞窟に響き渡るような低音で追求されると、ソフィアさんは自分の数十倍の質量を持つ相手にも臆さず言葉を返す。

たしかに、さっきの戦いではそこまでの騒ぎを起こしていなかった気がするけど……


動き出したのが昨日ということは、もしかしてこの巨人ってオリギーとルキウスが暴れたのを察知して来たのか……?

だとしたら、俺はその場にいた関係者ということになるし、若干よろしくないかもしれない。


どちらにせよ、俺はこの巨人を知らないのでそのまま彼女達のやり取りを見守ることにした。


「……是。隣の小僧は罪人か?」

「……一応は、そういうことになる」

「とすれば、昨日降りた円卓が元凶か。誰だ?」

「ヘンリー卿、シャーロット卿」

「……懐疑。両者では実力不足」

「……クロウさん。あなた方は誰と戦いましたか?」

「えっと、オリギーとルキウスかな……?」

「理解。憤怒と処刑王ならば、納得だ」


ソフィアさんに話を振られた俺は、少し驚きつつも恐る恐る昨日実際に戦った神獣の名前を告げる。

それを聞くと、巨人は変わらず穏やかに繰り返し、特に何をするでもなく背を向けた。


……いや、こいつ誰だよ!?

突然木々をなぎ倒して現れたと思ったら、聞きたいことだけ聞いてさっさと帰るって……


もちろん戦闘にならなかったのはありがたいけど、この存在が意味不明すぎて怖いわ!!


「魔眼のバロール」

「……何か」


俺が思わず心の中で叫んでいると、隣に立っているソフィアさんは、微動だにせず彼を見上げながら呼び止める。

その口から告げられたのは、さっきガノから聞いた4人の強大な神秘の名前の内1つ――魔眼のバロールだ。


たしかに名前と異名、停滞者だと呼ばれたこと、確実に手を貸してくれないであろうことくらいしか聞いておらず、どんな神獣かは知らなかったけど……


まさか巨人だとは思わなかった。

ガルズェンスだけにいる神獣じゃなかったんだな……


眼帯の巨人――バロールが振り返ると、彼女は俺よりも華奢な体で巨大な彼と対等に向かい合う。


「彼に手を貸す気はありますか?」

「否。オレに現状への不満は……無理に手を貸す理由はない。

貴公も手を貸す、もしくは地上に出すと確約するのか?」

「私は試練に手は貸しませんし、あなたをここから出すのも不可能です。審判の間は自力で乗り越えるものだ」

「……決裂。さらばだ」


協力を拒否しながらも、紫色の瞳を不可思議に輝かせて問うバロールだったが、彼女の返事を聞くとすぐまた去り始める。


ガノに停滞者と称されただけあって、本当に脱出に非協力的だ。出られるなら出たいが、無理に出ようとは思わない。


そういった思いが、十分すぎるほど感じられた。

俺的には、正直ルキウスレベルの神獣が敵にならないというだけいいかなと思う。


しかし、ソフィアさんはそうではなかったらしく、このまま黙って彼を見送るつもりはないようだ。

彼が審判の間を揺らしながら数歩進むのを見ると、無駄な力を抜いた綺麗な姿勢で誰にともなくつぶやいた。


「予想通りの結果だ。ただ、協力するつもりがないのなら、円卓の騎士としての私が見逃す理由もない」

「……闘争。汝が望むのであれば、オレに拒む理由はない」

「とのことですが、どうしますかクロウさん?」

「はぁ……!? 俺に聞くの!?」


なぜかソフィアさんに話を振られ、俺は思わず飛び上がる。

挑発したのは彼女なのに、なんで俺がこの人と戦うかどうか決めないといけないんだ……!?


再び振り返っているバロールも、じっと俺のことを凝視していて明らかに俺の返事を待っていた。


たしかに手を貸してもらいたいのは俺だけどさぁ……

見逃す見逃さないはソフィアさんの事情だよな……!?


流石にこんな決断を押し付けられても困るので、俺はさりげなくソフィアに顔を近づけると抗議を始める。


「ちょっと待て、なんで俺が決めんだよ!?」

「私個人としては、彼は放置しても問題ありません。ただ、あなたが彼の強さを実体験できるのはいいことですし、ガノ卿達の救出にも私は手を貸しません。利用できるのでは?」

「……利用?」

「私はアンブローズ様とは戦いませんが、バロールを誘導することは可能です。彼が現れれば、流石の彼女も引きます」

「なるほど……」


最初は抗議のつもりで声をかけたはずなのに、ソフィアさんの提案を聞くことでつい納得してしまう。

俺ではあの魔術師と戦いにならないが、バロールを誘導できればそもそも戦う必要がなくなる。


そのためにルキウスやオリギーと同格のやつに喧嘩を売るのは怖いけど……アンブローズの手を引かせるためには、たしかに最善の選択だ。


……一応、ソフィアさんが見逃さないっていう体ならば、彼女がメインで戦うということでいいんだよな?


「確認だけど、俺も戦う? 相手にならないと思うぞ?」

「任せてください、私1人で事足ります。それで、答えは?」


念のため確認しておくと、ソフィアさんは余裕の表情を見せながら、1人でバロールと戦うことを宣言する。

本当に申し訳ないけど、彼女が俺よりも強いのは確実だ。


仲間を助けて、万全の状態で審判の間に挑むために、あんたの力をバロール誘導に利用させてもらう……!!


「俺はあんたとの闘争を望むぜ、魔眼のバロール!!」

「……了承。オレはこれより、"湖上の花弁(ランスロット)"の殺害、および同行者2名の処刑を遂行する」


"バロルの単眼"


俺が闘争を宣言すると、バロールは眼帯で隠していない左の瞳を紫から赤へと変化させ、輝かせる。

直後、地下の森に広がったのは、その瞳の色と同じように赤々と燃える火の海だ。


思わず咽てしまう程の煙と熱気が、一瞬で俺達を包んでしまう。ロロはまだ寝てるので、急いで回収しないと……!!


「魔眼、限定解除。対象、および世界の焼却を開始する」

「魔剣、疑似解放。淡く、儚く、私は世界を保障する」


俺がロロの回収に走っている間にも、彼女達の力は激突している。バロールの視界に入るすべては燃え上がるが、双剣を淡く輝かせるソフィアさんによって周囲は湖上と化しており、炎は勢いを落としていた。


「名を騙ろう。厄災に至らぬ神秘、ただ神の如き存在の獣。

我は魔眼の主。真に神たることのない弱き意志」

「名を借りよう。獣には不要なれど、変わらず願いを保つ力の名を。我は湖の騎士。禁忌を守護する誓いの泉」


"魔眼のバロル"


"湖上の花弁(ランスロット)"


俺が飛びついてくるロロを受け止めて振り返れば、そこには瞳とそれを起源として全身を不気味に輝かせる巨人と、双剣から流れる儚さを全身に纏う騎士がいた。




~~~~~~~~~~




「君達は走って! 方向はわかりますよね!?」

「お、おう……!!」


バロールと対峙しているソフィアが叫ぶと、ロロを肩に乗せたクロウは全力でこの場を離れ始める。


全てではないにしろ、周囲が燃えていることもあって木々は倒れ、だが湖上故に煙や炎は抑えめだ。

視界は深い森だった時よりは良くなっており、彼の向かう方には花びらで閉じられた世界があった。


「……困惑。逃がすのならばなぜオレは闘争を望まれた」

「騎士たる私はあなたを裁き、罪人たるあの子は逃げる。

正しい役割かと思いますが、どこかおかしいですか?」

「……すべて」


"アラウンドレイク・アロンダイト"


打って変わって獰猛に笑うバロールに、ソフィアは淡く輝く双剣を振るう。湖上である領域のあらゆる方向から彼に襲いかかるのは、もちろん唐突にその場に現れる斬撃だ。


体の硬度によってそれを防ぐバロールは、人型のまま微笑み背後に飛ぶ白鳥の神獣を追い、巨大な一歩を踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ