2-出会い
旅を初めて数日後。
俺は、少し呆気にとられながら立ち尽くしていた。
「……何だコレ?」
ここは草原。そう、草原だ。
太陽にサンサンと照らされる中涼やかな風が吹き、サラサラと音を鳴らしながら草が揺れる。
危険な存在もなく、多くの動物達が静かに草をはむ。
そんな至って普通の、草原。
だが、目の前にあるのは……
「ガレキ……?」
それは石やレンガ、木片など、様々なものの残骸でできた山だった。
ガレキの1つ1つは拳大くらいの大きさ。
だがそれが普通ではありえない量積み重なることで、仁王立ちした大熊が3頭ほど積み重なった程の大きさの山になっている。
ちなみに俺の村の残骸より多そうで、この量がどこからやってきたのかまるで見当がつかない。
建物が崩れたのではなく、ゴミを集めたような有様だ。
ていうか、村で見すぎてもう見たくなかったんだけど……
ここ、草原だよな?
あまりにも異質な光景で、自分の目がおかしいのかと疑ってしまう。
しかも、その上ガレキの根元にいるのは人間だ。
今にも崩れそうなゴミ山の影では、1人の男が寝ていた。
彼はボロボロの服を身にまとっていたが、その割には全然きれいな金髪。
そしてかなりの痩身のくせに、山が崩れてきてもピンピンしてそうだと思えるほどに筋肉がついている。
だからこそこんな危なそうなとこで寝ているのだろうが、俺なら同じ条件でも怖くて寝られない。
暑さを我慢するほうがマシだ。
頭がおかしいような気がするけど、危ないやつだったりしないよな?
……まぁ取り敢えず声をかけてみるか。
そう決めて近づくが、寝息は思ったより聞こえてこない。
……本当に寝てる?
「なぁお前、ほんとに寝てんのか?」
俺はそこそこの声量で聞いて見るが、男から返事はない。
それにかすかだが、よく聞くと寝息もちゃんと聞こえてきた。
うん、寝てたな。
男の熟睡を確認した俺は、耳に向かって大声を出して起こしにかかる。
「ぐご……んぁ〜……よ〜う、なんだ〜お前〜?」
すると彼は、目をこすり、大きなあくびをし、さらにはのびのびと背を伸ばしながら起き上がってきた。
んん、なんかやたらとぽわぽわしたやつだな。
なんか泡がコイツの周りに浮いてるように見える……
「俺はクロウ。旅人だ。急に起こして悪い。
ちょっとこの異質な光景が気になってな」
「ほほ〜う? 異質ね〜。まぁ俺もビビったぜ〜」
いきなり起こしたのは悪いと思ったので一応謝っておくと、男は再び寝転びながらそう言った。
……なんか色々ツッコみたい。緊張感なさすぎだろ。
はぁ、あまりのリラックス具合にコイツの集めた物なのかもとも思ったけど、流石にないか。
俺は、気が緩むのを感じながら力なくツッコむ。
「ビビってて熟睡なんかできてたまるかよ……」
「なっはっは、涼しかったぜ〜。今日は日が強くて暑いからなぁ」
「いやそれにしてもここはねぇだろ。今すぐ崩れたっておかしくねぇし。怖くねぇの?」
実際、今もパラパラと小石などが落ちてきている。
それは小指弱くらいの大きさだが、それでも鬱陶しいし、いつ大きいガレキが落ちてくるかと気が気じゃない。
それなのに、男は全く動かない。
肝が据わりすぎだ。
「ん〜……俺この前もっとこえー思いしたからな〜。
あ、こえー思いといえばだ。お前、魔人だよな〜?」
こんなガレキの山は危ねぇぞ、という話をしていた筈なのにな……
男は、急に話を変えてそんな事を言ってきた。
というか……魔人? 聖人じゃなくて?
魔人かどうか以前に、そんなもの知らないんだが?
「魔人って何だ?」
思わずそう聞くと、彼は眉をひそめる。
正直男には似合わない。
「うん? もしかして田舎から出てきたのか〜?」
「他を知らんからなんとも言えねぇけど、多分そうなんじゃないか?」
「ふーん。でも聖人は流石に知ってるよな〜?」
「それは馬鹿にしすぎだろ。
うちの村だって神秘は使ってたし一度だけだけど聖人も見たことがある」
あまりの言い草に、俺はついそう言い返す。
俺1人しかいなかったのだから田舎者って自覚はある。
けど、流石にそれはな。
一度だけだが会ったこともある。
……けどまぁ、あれはほんと運が良かった。
いつの事かも覚えてないが、神秘が強かったことだけは覚えてる。
一瞬で数カ月分の水を貯めるし、火の強さも段違いだったし……本当に神みたいな人だった。
……人ではないか。
長老も初めて会ったらしいし、力だけでなく出会ったことすらもはや奇跡だ。
俺がそんなことを考えていると、彼はすわったままのんびりと説明を始めた。
聖人は知ってるっていったのに……
「そーそれ。なんか不安な感じだから軽く説明するな〜?
まず〜世界には神秘が満ちてる。大抵の人は少ーし使えて〜火起こし程度のことはできるよなぁ。
で、たまーに神秘そのものに成るようなやつがいる。
ただの人が火種を生むならぁ聖人は火ぃそのものってイメージな〜。
で、魔人はだな〜。
一般的には〜、その力を悪用してる危険人物〜。
で、もっと詳しく言うとだ〜。
修行でなるやつ、逆境で成るやつ、まちまちらしいんだけど〜その時に負の感情を持ってるか、正の感情を持ってるかなんだってよ〜。そこで質が変わるらしいぜ〜。
お前神秘に成ってるし、オーラ暗いから魔人だろ〜?」
なるほど。うちの周りにそもそも人がそんな来ないから魔人なんて知るはずねぇな。
いつからかは覚えていないけど、俺はずっと1人だ。
そして、聖人も一回見ただけだから説明密かに助かるぜ………
ただ俺が神秘は聞いてねぇ。
「……俺、神秘なの?」
「そー見えるぜ〜。
……普通は自覚するらしんだけど〜おかしいなぁ」
危険人物は嫌なので一応再確認すると、彼は俺をそう断じた。
俺的には嫌なことなのに、男は何も気にしていない様子でどうにもやりにくい。ほのぼのしすぎだ……
村が滅びたからかなぁ。嫌なレッテルだなぁ。
返上できねぇのかなぁ。
でもさっきの説明だと……
「でも俺炎になんてなれねぇぞ?」
「いや〜? 俺もなれねぇよ?」
俺が反論すると、彼は自分もなれないなどと言い出す。
意味が分からない。
しかも、何も言わなければ説明は終わってしまいそうな雰囲気だ。こいつはそんな顔をしてる。
「ちょっとよくわからないだけど……」
「どんな力かってのは個人差あるぜ〜? もちろん普通の人間よりは使えるけどな〜。で、俺はこれだ〜」
バフン
彼が唐突に立ち上がったかと思うと、いきなり視界いっぱいに煙が広り男の姿を隠した。
少し咳き込んでいる間に煙が晴れた、男がいたところには………
「小鳥……」
その小鳥はパタパタと軽やかに飛び立ち、チルの止まっていない右肩に止まった。
えぇ……怖い……
「呪い知らねぇなら驚けよ〜」
いや喋れるのかよ!!
「いや……まあ……すまん。言葉が出てこなかった」
――バフン
再び煙が充満すると、今度は小鳥から男に戻り、俺の肩に腕を載せた体勢でニヤニヤ笑う。
ちょっと……いや、かなりうざいな。
「似てるよな〜。
お前は多分その小鳥が呪いなんだけど〜俺は食った動物になれるんだ。動物仲間〜」
「まず呪いってなんだよ」
「魔人の能力はそう呼ばれてるらしいぜ〜。
ついでに言っとくと聖人は祝福ってな〜」
あぁ、どうせなら祝福されたかった……
なんだってそんな嫌われ者みたいなのにならなくちゃいけないんだよ……
「てか、2人とも動物ってどんな確率だよ。
呪いは動物系多いのか?」
「さぁな〜。俺もお前ともう1人にしかあったことねぇんだわ〜。ちなみに聖人はあったことね〜」
「ほんと少ねぇのな」
「旅してりゃ〜たくさん会うだろ〜。
あっ俺も暇だしついて行こーと思うからよろしくな〜?」
「そんな気はしてたよ」
常にゆるゆるでつい苦笑してしまう。コイツとの旅はきっと楽しいな。
「あと俺〜何も持ってねぇから色々よろしく〜」
うっ、先が思いやられる……
そうだよな……服だって薄汚れたボロ着だもんな……ねぇよな……
けど……
「どうせ食料はそこらで取れるだろ。寝るのも外だし。
水も神秘で出せ。水筒くらいは貸すけどよ」
「助かるぜ〜」
あぁ清々しい。
こうして、俺の旅に仲間が加わった。
「あ〜俺の名前。ライアン・シメールな」
………………聞くの忘れてた。
普通の人はあまり出さないつもりなので補足。
誰でも神秘は使えますが、聖人、魔人、祝福、呪いを使えるのは神秘に成った者だけで、普通の人間は判別もできません。
ただ神秘の気配を感じたり、力に驚いたりするだけです。
例:出会ったのが水に関連した聖人の場合、自分が少しずつ水をタンクに貯めるところを数秒で満たすので驚く、とかです。
話が進んだ頃にもう一度書いてあるかもしれませんが、それはここに書く前に2話を読んだ方向けです。
後書きにはたまに繰り返している説明があると思いますが、気にしないでください。
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