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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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259-ドルイドの代表

「チッ……よりにもよってテメェかよ、堅物白鳥女」


ソフィアさんと魔術師の女性を見たガノは、開口一番にそう悪態をつく。わざわざ相手の気持ちを逆なでするようなことは言わないでほしいけど、正直なところ同感だ。


昨日の朝やってきたのは序列9位のシャーロットと序列8位のヘンリーだったが、ソフィアさんは序列2位。

円卓の騎士の中でも、トップクラスにヤバい人なのだから、文句の1つも言いたくなるというものだった。


とはいえ、ノーグの外では授業もしてくれたような、とても理知的な女性がソフィアさんである。

ガノの暴言程度で冷静さを欠くことなく、馬から滑り降りると自然な動作で魔術師の女性に手を差し出す。


以前と変わらずパンツスーツに身を包んでいるソフィアさんは、見た目通り女性のエスコートも完璧であるらしい。

……いや、まぁそのソフィアさんも女性だし、一応こっちは臨戦態勢なんだけどな。


彼女は俺達など歯牙にもかけていないのか、躊躇いなく華奢な背中を向けている。もちろん、隙は一切ない。

誰にも手を出させないままで、魔術師を隣に降ろした。


「……あなたも落ちたからには罪人です。余計な口を利くと、つい審判が苛烈になってしまうかもしれませんよ?」

「ふっふふふ、(わたくし)が貴方如きに敗けると?

たった2位の差で冗談はよしてくださいよ」

「おい馬鹿……!!」


魔術師を降ろしたソフィアさんは、改めてガノに対して警告を出すが、彼は相変わらずだ。

さっきは彼女の到着を嫌がっているような口ぶりだったのに、無駄に挑発的な言葉を投げかける。


これに関しては、本当に勘弁してほしい。

既に容赦しないと言われてるのに、これ以上苛烈になるとか堪ったもんじゃないぞ……


「勝ち目がないことくらい、自分でわかっていると思いますが……まぁいいでしょう。アンブローズ様」


やはり取り乱したりはしないソフィアさんは、ガノの挑発を軽く流して一緒に連れてきた女性に話を促す。

どうやら、彼女は審判を下すというよりは、従者的な立場でこの場にやってきたらしい。


いつの間にか馬が消え去り、彼女達の背後にドレス姿の女性が現れている中、魔術師――アンブローズは口を開く。


「ご機嫌よう、罪人の皆様。(わたくし)はアンブローズ。女王様からの寵愛を賜るため、ドルイドの統括の立場を取り返すため、貴方がたを殺しにきました」

「ッ……!?」

「避けろッ、死のルーンだッ!!」


"ユル"


軽く膝を折ってお辞儀したアンブローズは、いきなり殺しに来たと宣言するとルーン石を砕く。

すると、石を砕いた彼女の手から吹き出してきたのは、黒いモヤのようなものだ。


それは木々や草などを揺らすことなく、だが風のように確かな速度を持って接近してくる。


セタンタとガノが息ぴったりに叫んだことで、どうにか避けることができたが、さっきまで俺達がいた場所の草はすべて枯れ果てていた。


いや、枯れ果てていたではまだぬるい。

セタンタが使った時には他の炎なども混じっていてわからなかったが、死のルーンは地面を溶かしている。これを威力と言っていいのかはわからないけど、凄まじい威力の技だ。


というか、初っ端から死のルーンとかとんでもねぇな……!?

容赦しないにも程があるし、話もさせてくれない。

それに、セタンタもこんなもんをガノに使ってたのか……!!


「ッ……!! ローザテメェ、この色狂いが……!!

女王への求婚しねぇでいいのかぁ!? あぁん!?」 

「いい訳ないでしょうッ!? 一刻も早くあの子の柔肌に触れて甘い香りを堪能したいわッ!! だけど、好感度を上げたら成功確率が上がるし褒められるし……えへへ♡」

「お、おう……」


音で察知できずに戸惑うヘズを掴んでいるガノは、いきなり死のルーンを使ったアンブローズ……ローザを怒鳴りつける。


しかし、彼女は食い気味に同意した上に、俺達を殺すことで貢献した後のことを妄想して頬を緩めており、流石のガノもドン引きだった。


"Y.I."


"Y.R."


もちろん、彼女にはかなり邪な動機があるのだから、その後も手が緩まることはない。おそらくは死のルーンを交えて、刺々しい氷の山を次々に生み出し、剣の軌道のように伸ばしてくる。


同時に、俺達を包むように放たれたのは、死のルーンを取り込ませたと思しき不吉な風だ。

さっきとは違って草を揺らしているが、その分よりスピードが増して避けるのが難しくなっていた。


"エイワズ"


とはいえ、こちらにもルーン使いはいる。

死のルーンを相殺することができるのかはわからないけど、獰猛に笑ったセタンタは懐から取り出したルーンを砕くことで、3つのルーン石を取り出し、そのうち2つを砕いた。


"イス"


"ラド"


その手から放たれるのは、刺々しい氷山の軌道と真っ向から激突する氷の山、不吉な風を反らしていく風だ。

確実に死のルーンを防ぐためには回避も怠れないが、かなり楽になった。


最初よりも余裕を持って避けられたことで、セタンタは胸を張りながら誇らしげに声を上げる。


「だーっはっはっは!! 俺様もドルイドの里に行ったことがあるんだぜ!? 相殺なんざ、軽い軽い!!」

「きぃー!! 一刻も早くあの子の胸の中に飛び込みたいのに、生意気なことをしないでほしいわ!」


彼に煽られたローザは、ソフィアさんとは違って簡単に挑発に乗ってくる。ただ……なんというか、邪な願望が漏れ出しすぎていて、挑発に乗ったという感じでもないかもしれない。


殺しに来たと宣言した時は威厳があったのに、女王への求婚という単語が出てから無茶苦茶になっていた。

やってることがヤバいこともあって、落差でどうにかなってしまいそうだ。


「というか、なんであなた達男しかいないのよっ!

1人くらい女の子いてもいいでしょう!?」

「どこに突っかかってきてんだよテメェ!?

それに、最初の威厳はどこいった!?」


ローザの暴走は止まらない。どうやら求婚対象の女王に限らず、彼女は基本的に女性が好きなようだ。

今度は俺達の中に女性がいないことにまで文句をつけてきて、セタンタは珍しくツッコミを入れる。


しかも、そんなトンチキすぎるやり取りをしていた彼女達は、その間もルーンでの攻防を繰り広げていた。


防がれるとわかっていて連発できるものでもないのか、気配的に死のルーンは使われていない。だが、その分風や炎などの威力が凄まじく、森は瞬く間に破壊されていく。


一回一回砕く必要があるみたいだけど、あの威力の攻撃を連続で出せるのはヤバいな、ルーン魔術。


「クソっ、俺は近寄れねぇぞこれ……」

「私も無理かな。音だけで何かしても、余計に暴れそうだ」

「……」


思わず俺がぼやくと、しれっとヘズも同意してくる。

全然焦っていないけど、手も足も出ないならセタンタ頼りになってしまうぞ……?


ガノも黙ったまま移動していて、多分ローザの相手ができるのはセタンタのみだ。あまりよろしくないよなこれ……


「くっ……」


相談している間にも、2人のルーン合戦は白熱してくる。

木々は吹き飛び、地面も凍りついたり焼けたりと無茶苦茶な景色になっていく。


彼らは自分自身こそ守っているが、他に気を配る余裕はないのか俺達やソフィアさんは放置だ。


俺達は仕方なく雷閃達が待機している場所へと向かう。

ルーン魔術が吹き荒れているので、若干分断されているような感じがするな……


「っ……!?」

「クロウ君!?」


しかも、俺達がバラバラにセタンタ達から距離を取っていると、いきなり俺の前にはソフィアさんが現れた。

彼女は双剣をルーン魔術の爆撃に輝かせ、容赦なく俺に刃を向けてくる。いや、いつの間に接近してたんだ……!?


「実を言うと、私が来た目的はあなたなのです。少しばかりお相手願えますか? 端的に言うと……Shall we dance?」


ギリギリのとろで剣を抜いて受け止めるが、ソフィアさんは双剣を力強く振り抜いて、俺は吹き飛ばされてしまう。

彼女の目的が俺……? この剣戟がダンス……?


警告を受けたのはたしかに俺だけど、他の仲間の方が明らかにつよいのに……!!


「俺を無視してんじゃ‥」

「ごめんねー、ガノ卿。私は罪人を殺しに来たけど、そのためにソフィア卿を連れてこられたのは、そこの子を譲るって条件があってなんだ。だから、他の子は行かせないわ。

"楽園を飾る花(マーリン)"の名にかけて……ね」


すかさずガノが助けに来ようとしてくれるが、まだセタンタとルーン魔術合戦をしているはずのローザは、それを中断してまで彼の言葉を遮ってくる。


俺達の中心に瞬間移動してきた彼女は、ルーン石を砕くことで立派な杖を手の中に呼び出すと、その頂点に輝く魔石を輝かせ始めた。


"花の舞踏会"


瞬間、周囲には一帯を覆い尽くさんばかりの花びらの舞いが吹き荒れる。視界は完全に遮られ、花びらしか見えない。

それに惑わされている間に、ガノやヘズ達の声も遠ざかっていき……


「クロー!」

「うわっ!?」


ただ1人、ロロだけが俺のもとに駆けつけて世界は本来の景色を取り戻す。そして、俺達の目の前に立っていたのは当然……


「さて、では改めて……Shall we dance?」


双剣を納めて片手を差し出してくるソフィアさんだった。


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