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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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253-殿で戻ると

満身創痍ながらも雷を纏って飛ぶ雷閃に無理やり運ばれる俺は、壁や木々に激突そうになる度に手足で方向を調整して、ヘズ達の元へと向かう。


もちろん、さっきまでの戦いには参加させてもらえなかったので、俺はそこまで疲弊してはいない。


だが、かなり遠くまで逃げたヘズ達に追いつくためには長く飛ぶ必要があり、それだけ衝突させないことや方向の調整に心身をすり減らすことになった。


雷閃が方向音痴というのも悲惨だ。

数十秒に一回は壁に激突しかけるので、そこで上手く調整したが、たまに逆戻りしかけることもあって油断も隙もない。


助けられてるんだから文句は言えないけど、次からは雷閃には運ばれたくないと思ってしまう。


唯一の救いは、雷閃がルキウスとオリギーを追跡ができないくらいに消耗させたくれたことだ。

実際にどれだけ弱らせたのかは見ていないが、少なくとも今、奴らは何度も逆戻りしている俺達に追いついていない。


急ぎつつも、方向の調整や壁に激突して墜落してしまわないことに注力して、ヘズ達のいる空間へと辿り着いた。


……もっとも、無茶苦茶な飛び方をしている雷閃なので、合流できたぞはい着陸、とはいかない。

せっかく彼らのいる場所に辿り着いても、相変わらず何度も何度も壁に激突しかけている。


「ッ……!! こっちだ、バカ!! ていうかもう止めろ!!」

「……」

「クッソ、さっきから反応ないと思ったら無意識か!?

そりゃ壁にもぶつかるわな……!!」


ヘズ達の気配がしても暴走気味の雷閃に声をかけるが、彼はまったくの無反応だ。さっきまでは操縦に集中していたから気付かなかったけど、どうやらずっと気絶していたらしい。


正直、意識ないくせにどうやって雷で飛んでるのか……と問いただしたくなる。今も壁が迫ってきているし、これ絶対に俺がいなきゃ墜落してたぞ……


「方向はあっち、地面にぶつかれば無理やり止まる……

けど、無意識の雷はどうすりゃいいんだ……!?」


ぶつかった壁を足場にして方向を調整するが、結局雷閃の雷をどう止めたらいいのかがわからない。

気絶しながらも暴走させ続けてるって、相当だぞ……!!


とはいえ、ここまで来てまだ飛び続けるもの御免だ。

最後の最後は下にいる仲間達に任せるとして、ひとまず彼らの元へと強行する。


「おいヘズっ!! どうにかして止めてくれ……!!」

「……一応、さっきからその音は聞こえていたけどね。

雷は彼の無意識で、それをどう止めるのか……」


俺が壁を蹴って方向を調整したことで、強引にヘズ達の元へと直行していると、彼はこちらを見上げながら不安になってしまうような言葉を伝えてくる。


だが、もう壁から離れてしまったので制御は不能だ。

そもそも、順当に行くならば雷閃の意識が戻るまで飛び回り続けることになるので、他に選択肢もない。


めちゃくちゃ不安になるけど、もう知らん。

完全にヘズ任せにすることにした。


「とりあえず、音の衝撃で一度受け止めるが……」

「いっで!?」


ヘズの目の前まで来たと思った瞬間、俺の耳はとんでもない音量に潰される。脳まで揺さぶられるような衝撃に、間違えて幸運を選んでしまったかと思うくらいだ。


しかも、その衝撃で俺は雷閃から吹き飛ばされたらしい。

視界がぐるぐる回っていてよくわからないが、背中に地面を感じる。


いや、本当に洒落にならないくらいふらつくな……

これなら自分で着地した方が良かったかも。

その場合、多分足腰がヤバいことになるけど……


「助かった……」

「あぁ。しかし、彼は荒ぶっているぞ」


ヘズの言葉に視線を上げると、音で受け止められている彼は未だに雷を纏って動き回っていた。前にも後ろにも進めてはいないが、上下にすごい荒ぶっている。


……こんなもの、誰がどうやって止めるんだよ。

とりあえず、俺はもう疲れたから休みたい。そう思っていると、ヘズと一緒に逃げてきていた仲間が寄ってくる。


彼らも少し戦っていたり、単純に体力がなかったりと疲れている様子だが、流石にこの光景を見て気を引かれたようだ。


「は……? これは何してるんです?」

「ふぅむ、暴走しとるのう。

助けられたのは事実じゃが、少しばかり危険じゃな」

「私が抑えているから、見た目よりも危険はない」

「へぇー、バチバチいっててきれーだねぇ」

「んなこと言ってる場合ですかぁ? 騒々しい」


口々に言葉をこぼす彼らだが、やはり解決策はないらしい。

レーテーは危険を感じ、ガノはウザがり、ロロはその見た目に感心しながらも、誰も動かずに雷閃は放置だ。


しかし、そのわずか数秒後。雷閃からは、さっきまで纏っていた雷の全てが消失した。ヘズが全力で抑えていたこともあり、逆に吹き飛ばされていく始末である。


俺はまだ寝転がっていたので、この場で一番身体能力が高いガノに慌てて頼む。


「どわぁ!? ガノ、キャッチ!!」

「はぁ? なぁんで私が」

「助けてもらったんだから、借り返せよ腹黒野郎!!」

「チッ……」


これでもかと顔をしかめて、目に見えて嫌そうにしていた彼だったが、俺が怒鳴りつけるといやいや動き出す。

素早く飛び上がると、落下地点で待ち構えるまでもなく空中で彼を引っ掴んで回収した。


「これでいいですかぁ、薄幸小僧?」

「上出来だ、腹黒野郎」

「クソガキが……」

「おいおい、そんな雑に扱って良いのか?」


華麗に着地したガノは、雷閃を引きずりながら悪態をつく。

しかし、俺がさらに口を挟むと、やはり素直にちゃんと運び始めた。


扱いが雑と言えば雑だが、一度上に放り投げた雷閃を背中で受け止めて歩いている。この感じだと、雷閃の功績を使えばガノは制御できそうか……?


もしかしたら、セタンタも競争心を煽ればいけるかもしれない。雷閃はこんだけできたのに……とか言えば。


「くぁ〜……よく寝た。……死ねッ!!」

「ッ……!? 暴犬テメェ……!!」


俺がそんなことを思っていると、ちょうど目が覚めたらしいセタンタが寝起き直後でガノに襲いかかっていく。


彼は雷閃を背負っているというのに、お構い無しである。

タイミングが最悪だ。いや、流石に暴走がすぎるぞ……!!

マジでとんでもない奴だな……!?


幸いにも槍は持っていないので、彼もただ殴りかかっているだけではある。とはいえ、さっきは死のルーンまで使ったという彼なので、放っておく訳にはいかない。


俺は疲労で重い体を無理やり起こすと、急いで駆け寄って2人の間に入った。


「ちょっと待て!!」

「うおっ、クロウ!? なんだ? 邪魔すんなよ」

「テメェの頼みせいで応戦できねぇんだが?

おいどうしてくれんだ薄幸この野郎」

「だから待て待て」


どうにか間に入ることには成功したが、彼らはどちらも本気の殺意を向けていて止めるだけでも一苦労だ。


ガノが雷閃を背負っていて反撃できず、セタンタも寝起きで槍を持っていないのでどうにか止められているが、普通に俺も殴られたり蹴られたりして痛い。この暴力コンビが……!!


「まずセタンタ、こいつが背負ってるやつがみえるか?」

「……あぁん? 蟹に捕まってた雑魚だろ?」

「寝てただけで起きたら瞬殺してただろうが!!」


さっき考えていた通りに首輪をつける案を実行してみたが、すぐに気絶していた彼の認識はあまりよくないようだ。

予想外の雑魚呼ばわりに、思わず言葉を荒げてしまった。


多分、直後のルキウスに持っていかれたんだとは思う。

しかしそれにしても、まだ蟹に捕まっていた男というところで止まっていて、雑魚とはひどい言い草だ。


蟹の部分を訂正した俺は、そのまま彼が気絶したあとのことを少し誇張して伝えていく。


「ともかく、こいつはルキウスとオリギーを倒した。

それと比べて、お前らはどうだ?

戦力足りないのに同士討ちばっかしやがって」

「マジかよ……!?」

「つまり、憤怒の間はクリアだと?」

「あ、いや……」


セタンタは素直に驚いているが、流石にガノは騙せなかったらしく、すぐさま指摘してくる。


憤怒の間はクリアしたのか……つまり、追ってこれないように消耗させただけでは、多分足りていない。

俺はつい言葉に詰まってしまい、彼は嫌な目を向けてきた。


だが、実際にあの2人を同時に相手にできたのは雷閃だけだ。

そこと追い詰めたことは確かなので、気を取り直して口を開く。


「完全に倒せたかは見てないけど、少なくとも追跡できないくらいまでは追い詰めたことは確かだ。

お前らにそれができたか? 仲間を攻撃する前に、少しでも雷閃に負けないよう頑張ってくれよ。強いんだろ?」

「……ふん」

「そりゃそうだなぁ。実際悔しいし、頑張るかぁ」


雷閃の威を借りていることは自覚しているが、それでこの2人の暴走を止められるならそれでいい。

ようやく彼らを抑え込めた俺は、雷閃を受け取って看病を始めた。




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