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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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252-幸運と音を頼りに

ルキウスの光から逃げ出した俺達は、雷閃が敵を抑えてくれている間に全力で逃げる。


セタンタと同じようにレーテーも無事回収し、動ける人で2人を運び、脇目も振らずの全力逃走だ。

負傷者こそいるが、こちらにはまだ円卓の騎士であるガノや音を操るヘズもいる。


面倒な神獣に絡まれることや植物に引っかかることもなく、ルキウス達と遭遇してしまったエリアから、5〜6個先にある入り組んだ通路の辺りまで辿り着いた。


「はぁ、はぁ……なぁ、ヘズ」


負傷者を抱えながら走り続けるわけにもいかず、少し休憩に入ったタイミングで、俺は警戒をしているヘズに声をかける。


さっきまで抱えていたレーテーは、呼吸を整えるとなった時に下ろしてきたので、この場にはいない。

ガノ達と共に休憩中だ。


それをどう思ったのか、耳を澄ませている彼は軽く眉をひそめながら口を開いた。


「何だい?」

「さっき会った雷閃な、めちゃくちゃ方向音痴なんだ。

はぐれたら絶対に合流できない」

「つまり……」

「俺はあいつを回収しに行くぜ。1人ならあいつが運べるし、俺は運がいいからな。上手いこと撒いてくる」


俺の宣言を聞いたヘズは、閉じている目を俺に向ける。

瞳が見えないので確かではないけど、そう感じた。


実際に見えてはいないはずだが、それでも何かを確認するように。死地に戻る覚悟を問うように。しばらく流れた沈黙の後、ヘズは表情を動かさずに言葉を紡いだ。


「君はたしかに運がいい。しかし、あれだけの力を前にすれば、運などほとんど関与できないと思うが」

「少しでいいんだよ。戦いでは、まだ雷閃に頼るから」

「了解した。では……うん。幸運を祈る」

「俺にそれ言うのかよ」


俺の幸運がちっぽけなことは、自分でも理解してる。

それでも行くのは、今求められてるのが戦いではなく、合流するための案内にすぎないからだ。


迷いなく宣言すると、彼もすんなり了承してくれた。

俺はさっきまで背負っていたレーテーを任せて、雷閃がいるエリアへと戻った。




~~~~~~~~~~




ヘズ達と分かれてから十数分後。

急いでさっきの場所まで戻ってきた俺の目の前にあったのは、相変わらずすべてが光に包まれた空間だった。


しかし、逃げた時には光しかなかったところ、それから少し時間が経った現在では、光以外にもいくつかのものがある。


例えば、バチバチと帯電している鉱石に、俺がいる入り口のすぐ近くで輝いている雷の柱。

例えば、そこら中で増え続けている綿毛に、雷の柱によってかき消された光の下にあった木々や地面。


この空間の中央でルキウス達と対峙している雷閃の背後にあるのは、雷で形作られた神秘的な社だ。


美桜に聞いたことが正しければ、環境を変えられる程の神秘には神を名乗る資格があるという。

雷閃が聖神(せいじん)に成ったように、この光の世界を生み出しているルキウスも、神と呼べる存在なのかもしれない。


だが、幸いにも今は戦っている人はいなかった。

もしも雷閃が戦闘中なら、声をかけることでなにか致命的な事態が起こる可能性もあったが、今なら声をかけられる。


もちろんきっかけにはなるかもしれないけど、それでも……

戦闘中に状況が変わるよりはいいはずだ。

少しだけ様子を窺った俺は、意を決して声を張り上げる。


「無事か、雷閃!?」


するとその瞬間。俺の目の前で繰り広げられたのは、およそまともな生物が引き起こせない超常現象の数々だった。


「煌めけ剣閃、余を讃えよ!!」

「ッ……!! ガルルルルァッ!!」


まず真っ先に動いたのは、光り輝く大剣を構えたルキウスだ。ピクリと一瞬だけ俺を見たオリギーに向かう彼は、爆発的な光を迸らせて一気に距離を詰めていく。


速いのは最初だけのようだが、オリギーは出遅れているのであまり関係ない。とっさに彼が操った羊毛を逆に利用して、剣から放った光で巻き上げた中を進み、隙をついていた。


"フロレント"


光り輝く一閃は、なぜか燃え上がっている羊毛に包まれた彼の胸の辺りを通過する。だが、当たったかに見えたそれは、実際は外していたのかオリギーに傷一つつけていない。


もっとも、俺は声を出した直後に雷閃の雷に包まれたので、その影響で見えていなかった可能性もあった。

これじゃ手助けどころか確認もできないし、どうすればいいんだ……?


「グォォ……」

「フハハハハッ!! 珍しく食らったな、余の一閃を!!

どうだ、貴様はこの技を覚えておるか!?

見えない傷への対処は覚えてきたか!?」


どうやら、俺が雷に包まれているから見えなかったのではなく、そもそも見えない傷だったようだ。

胸を押さえて膝をつくオリギーに、ルキウスは自ら種明かしをしてくれる。


血だらけでだいぶダメージは溜まっているようだが、自らを皇帝と称するだけあって、それでも余裕を失っていない。

だからこそ、彼は明らかに油断しているけど……


「ガルル……驕り高ぶる、その罪を測ってくれようぞ……!!」

「フハハハハ!! 無駄だとも!! なぜなら……」

「僕を忘れているからね」

「っ……!!」


俺が思ったようにルキウスの油断を指摘するオリギーだったが、彼がなにかする前に雷閃が現れた。

2人の頭上に現れた彼は、既にルキウスの光を霞ませるほどの輝きを放っている。


"不知火流-雷火"


空中で納刀したままの刀に手をかけていた彼は、ほんの一瞬だけ手元を煌めかせると、雷炎による居合切りを放つ。

オリギーは大部分を防御しているようだが、ルキウスは油断していたためまともに直撃した。


雷の圧倒的な速度と炎の破壊力、または雷の鋭さと炎の爆発的な速度。それぞれのいいところどころか、その特性の全てを併せ持つその2連撃は、敵を焼き斬り血すら見せない。


派手に斬られたルキウス達は、既に熱で固まっている傷跡を押さえながらうめき始める。


「グギッがァァ……!!」

「はぁ、はぁ……くっ……!!」


しかし、奇襲するために速度を重視していたからか、彼らはどちらも致命傷とまではいかない。

オリギーはすぐさま距離を取り、彼よりもダメージの大きいルキウスすらも、大剣を持って身構えていた。


「っ……!! やっぱり足りてないね……!!」


その様子を見た雷閃は、居合切りの勢いで宙を移動しながらも、納刀している刀から手を離して両手に炎を燃やす。


彼の手の中で輝いているのは、その火炎――"烈火を宿す都(カグツチ)"の継承元である獅童と同じように苛烈な神炎だ。


オリギーとルキウス。2人の神に近い神獣達に向かって、彼は世界を溶かすかのような灼熱を浴びせ掛ける。


"神殺しの神火"


雷閃の手の中から放たれた神炎は、放射状に広がっていってルキウス達を飲み込んでいく。ルキウスは輝く鎧を着ているが、むしろ熱は籠もって苦しみ悶えていた。


度々羊毛を燃やしているオリギーも、流石にこれほどの高熱には耐性がないのか、悲鳴を轟かせている。

だが、彼らは神――つまりは概念に近い神獣であり、さらには神獣の国の神秘だ。そう簡単に倒れるほど我が弱くない。


ルキウスは燃えながらも大剣を振り上げ、オリギーも同じく体を屈めて力を溜めていく。


「おんどりゃァァァッ!!」

「ガルルルルァッッッ!!」


"フロレント"


"神威降誕-炎獄天衣:ブリギット"


ふらふらになりながらも大剣を振り上げたルキウスは、先程オリギーを斬った時と同じように不可視の斬撃を放つ。

同時に、力を溜めていたオリギーも、炎を無理やり自分のものとしながら飛び上がり、空中の雷閃に向かっていく。


……どちらも、明らかに狂気の域にいっていた。

特にオリギーなど、炎に傷付きながらも自らの武器としている様子なのだ。一度キレたらどちらかが死ぬまで……

あまりにも徹底的すぎて、もはやその存在が畏い。


"布都御魂剣"


空中から彼らが力を溜めている様子を見ていた雷閃も、当然迎撃の準備を終えている。空を……この場合は天井を塞ぐ地上の地面や木々を焼き焦がすほどの雷を刀に纏わせると、彼は不可視の斬撃とオリギーに振り下ろす。


「はぁぁぁぁッ……!!」


雷閃の一太刀とオリギーの燃える体、ルキウスの一閃が激突すると、辺りには光をかき消す程の衝撃が走る。

雷に包まれていること以上に、そのあまりのまぶしさに良く見えないが、1対2でも雷閃が優勢のようだ。


迸る雷は光の世界を崩壊させ、正しい森の世界を破壊していく……


「ごはっ……はぁ、はぁ……」

「雷閃!?」


俺が目を庇って収まるのを待っていると、しばらくしてからいきなり目の前に雷閃が落ちてきた。


ルキウスの斬撃は見えないので、どうなったかわからない。

だが、オリギーの拳は派手に食らってしまったようで、彼の胴体はグチョグチョに焼け溶けていた。


いつの間にか雷の囲いもなくなっているので、大急ぎで彼を抱き起こす。


「……やぁ、クロウくん。あはは……運がいいや。

いい感じに、消耗させたから……逃げよう」

「は……!?」

「音が、聞こえる……ね。こっち、か……」


俺が抱き起こすや否や、雷閃は意見も聞かずにこの場からの撤退を敢行する。彼はもうほとんど雷を制御できていない。


それでも無理に逃げるので、俺は壁に激突しかける度に必死で衝撃を殺し、ヘズ達のいるところへ向かった。



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