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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
288/432

250-処刑王

「えっと、どちら様……?」


炎雷の光で鎧を輝かせてる男を見た雷閃は、先程の彼の言葉が聞こえていなかったのか……というくらいにほのぼのとした態度で問いかける。


グランベルクを倒したのが雷閃とはいえ、今目の前にいる男はその蟹に巨大な大剣を突き刺し、炎の真っ只中で威圧感に満ち溢れているのだ。


どう考えても場違いで、俺は思わず頬を引きつらせてしまう。隣に立っているヘズは目が見えないので反応が薄いが、俺達よりも男に近いセタンタ達は衝撃に打ち震えていた。


そんなふうにいくつもの視線が注がれる中、鎧の上に纏ったやたらと豪奢なマントを翻す男は、堂々たる態度で口を開く。


「余はアヴァロンの皇帝、ルキウス・ティベリウスである!!

そこな神秘共、余の輝きを鈍らせておるという自覚はあるのだろう? 目障りゆえ、即刻消えよ!!」


こう、てい……? ……皇帝?

一瞬、聞き間違いかもしれないとも思ったが、彼はたしかに皇帝と言ったようだ。威圧的に言い放った男――ルキウスは、心底満足気に胸を張っていた。


それに、一応は皇帝に相応しいような態度ではある。

まぁ、つまりは態度がデカイということだけど……

とりあえず、アヴァロンって国の王は女王エリザベスじゃなかったかな?


「なぁ、ヘズ」

「何だ?」

「あいつ、皇帝って言ったか?」

「言っていたな」

「でも、アヴァロンの女王はエリザベスって人なんだろ?」

「あぁ、そう聞いている」

「じゃああの皇帝は何だ?」

「……皇帝、なんじゃないか?」

「ううむ……」


念の為ヘズに確認を取ってみても、ルキウスはたしかに皇帝と言ったらしく、この国の王もエリザベスで間違いないようだ。


彼は若干ヤケクソのように、俺の質問に答えていた。

流石のヘズも、かなり戸惑っているということだろう。


実際、どちらも合っているとなると、ますます意味がわからない。多分この男の自称、ということにはなるんだろうが……


一体こいつは、ここに何をしに現れた?

即刻処刑と言っていたし、まさかこいつも守護者なのか……?


「えっと……君、この場の全員に対して言ってる風だったけど、ずっと僕の顔を見てない? もしかしなくても、最初に言っていた君以外の光って僕のこと……」


俺達も戸惑っていたが、最初に声をかけられていた雷閃も、やはり同じように戸惑っていたらしい。

ルキウスの宣言を聞いてしばらくキョロキョロしていた彼は、やがて諦めたように確認を取り始める。


すると、それを聞いたルキウスは、ゴーンと効果音が聞こえてきそうなほど大袈裟に驚いて目を剥いた。

あまりの反応に、雷閃は戸惑いっぱなしだ。


「なぁにぃ!? 伝わっていなかったのか!?」

「えぇ……? なんか、ごめんなさい?」

「フハハハハ!! 自らの過ちに気がついたというのであれば、大人しく地べたに這いつくばり、頭を垂れよ、若造め!!

そして即刻、この世界から消え失せるがいい!!」

「あ、つまりは死ねと。それは嫌だな〜」

「良かろう!! ならば余自らの手で処刑してくれる!!」

「うぇ〜?」


あ、あまりにも話が通じない……

やたらと上から目線の言葉を雷閃がやんわりと断れば、彼は何が良かろうなのか、蟹から大剣を引き抜いてすぐさま処刑を執行しようとし始めた。


多分最初から、彼に邪魔者を処刑するということ以外の行動指針などないのだろうが、ここまで来ると雷閃は大混乱だ。

またも気の抜けるような声を出し、脱力している。


ただ蟹を焼いただけだというのに、これほど粘着されることになるとは……うん、ご愁傷さまです。

しかし、この場には彼の他にも若干俺の予想を外れるような人物がいた。


その人物とは、さっきからぷるぷると衝撃に打ち震えていたセタンタだ。彼はなぜか一歩踏み込んでいくと、嬉々としてルキウスに声をかける。


「処刑王、ルキウス・ティベリウス……!!

まさか本当に実在したとはなぁ!!」

「むっ……?」


見るからに嬉しそうな彼の反応を見たルキウスは、処刑するために持ち上げた大剣を再び蟹に刺し、満更でもなさそうにその目を彼に向けた。


処刑が止まったのはよかったけど、随分と物騒な二つ名が聞こえたような気がするぞ……

聞き間違いでなければ、今まさに行われようとしていた行為の王……処刑王。


これ以上ないくらい物騒だ。

というか、皇帝を名乗ってたのってそういうことか……?

俺達がドン引きしている間にも、彼らの会話は続く。


「ほほう、貴様は余を知っておるのか?」

「ああ! 小せぇ頃に読み聞かせされた、御伽噺でな!」

「ふふん、いつの間にか余は物語にもされたか。

うむ、素晴らしい。余の威光を永遠に語り継ぐが良い。

もう生きてはいないだろうが、制作者は褒めて遣わす」


セタンタの話を聞いたルキウスは、さらに満足気に傲岸不遜な笑みを浮かべた。まぁ、物語にされたというのは、嬉しくもなるだろうという感じだけど……


いや、まさかの御伽噺!?

しかも、処刑王だと伝わるような物語で!?


絶対子どもに読み聞かせるような内容じゃないだろー……

何してんだよ村の大人、多分あの時の村長さーん……


(わたくし)も知っていますよ、処刑王」


俺があ然としていると、いつの間にか人型に戻っていたガノもまた、セタンタと同じようにルキウスに話しかけていく。


だが、彼とは違って何か企んでいるような様子だ。

一体処刑王に何を言うつもりなんだ、あいつは……?


「ほう、貴様は……フハハハハ、ガノ・レベリアスか。

うむうむ、貴様なら知らぬ方がおかしかろう」

「えぇ、御伽噺よりもよーく知っていますよぉ? 我が王に地下へ落とされ、それから数千年もの間、審判の間をクリアできずに彷徨う愚者の中の愚者……すなわち、愚王ルキウス」

「……何?」


あいつ、とんでもない爆弾を言い放ちやがった……!!

愚王と評されたルキウスは、直前までの満足げな表情をかき消してとんでもない威圧感を発し始める。


その身からは神秘的な光が迸り、足元にあるグランベルクの死体はミシミシと軋んでいた。

しかし、ルキウスの感情を逆なでするのは、なにもガノの話だけではない。


地上にある人間の村に御伽噺が残されていたとして、円卓の騎士に愚王と評される人物が、どんな物語で語り継がれるのか……


考えるまでもなく愚者としてであり、それをセタンタは何の気もなしに直接口にする。


「あとあと、俺は一緒に落ちてきた戦士どころか、自分の後から落ちてきた戦士まで、その全てを尽く処刑し続けた馬鹿野郎ってのも聞いてるぜ!! いやぁ、あれは面白かった!!

試練で勝てないわかってるのに、自分以外は殺すって……

だーっはっはっは、あんた脳味噌入ってねーのか!?」

「それ、俺を殺そうとしてるテメェにも言えるからな?」

「あぁん? テメェ1人くらいいらねぇよ、死ね!!」


あぁ、終わったな……

問題児達の発言を聞きながら、俺はやや遠く感じる思考の中でふと思う。


ガノのように、明確な悪意を持っての事実ではないものの、彼は事実以上に、御伽噺で読んだ内容に追加して自分の感想という名の罵倒までしたのだ。


自らを皇帝と称している彼が、激怒しないはずがない。

案の定、それを聞いたルキウスは再び蟹に刺した大剣に手を置き、下を向いてぷるぷると震えていた。


しかも、散々罵倒したガノ達はもう自分達の喧嘩に戻っている。自称でも皇帝ならば、最大級の侮辱だろう。


おまけに、女王エリザベスに落とされたのが何千年も昔の話であるというのなら、彼はそれだけ古い神秘。

それだけ永い間、強い感情を蓄積してきた神秘。


実際に対等に戦えるのかは別だとしても、女王と同じレベルの皇帝を名乗るのならば……


「……処刑」


まったく現実感のない畏ろしい森の中。蟹の上から圧倒的な存在感を放っていた神獣は、ゆっくりと顔を上げ、不気味な程に穏やかな顔で呟く。


その瞬間、世界は光に満ちて崩れていった。


地面は砂のように溶けていき、木々はそのすべてが花粉であるかのように舞っている。空気すらも、光の粒子であるかのようだ。


たとえそれが、輝きでそう見えているだけだとしても。

光のみになった世界は、たしかに崩壊している。


「……守護」


だが、崩れていく世界は消え去りはしない。

一瞬でルキウスの前の空中に立ち、雷を迸らせている雷閃は、崩落していく世界を鎖で繋ぎ止めるように雷の柱を乱立させる。


世界を飲み込んでいた光は、雷の柱で囲まれた俺達には手を出せずに輝くのみだ。既にルキウスは大剣を引き抜いていたが、雷閃もまた愛刀――童子切を抜いて鍔迫りあっていた。


「やはり貴様は余の輝きを霞ませる。最優先処刑対象として、ここで確実に処刑してくれようぞ」

「それは困るよ。だって君、人間なら魔神(まじん)聖神(せいじん)クラス……神だよね? クロウ君達を殺される訳にはいかないから、僕は君を倒すよ。国は違うけど、僕は将軍……守護する者だから」


拮抗している彼らは、それぞれの主張をぶつけ合う。

まだ、俺には手を出せない領域だ。


いつか生き残る以上の意志を持つことができれば、俺が神秘に成った理由を思い出せれば、変わるのかもしれないけど。

少なくとも今は、まだ……


つばを飲み込んで周囲を見回してみると、雷閃とほぼ同時に飛び出していたであろうガノとセタンタは、少し離れた位置で倒れていた。


流石の彼らでも、どちらか片方だけならともかく、ルキウスと雷閃の激突にはついていけないらしい。

俺達は全員、雷閃の邪魔になる。


ガノはまだ意識があるようだし、セタンタとレーテーを回収して撤退しないと……


「おい、ガノ!!」

「……わーってますよぉ、2人じゃ近付くのもキツい。

クソガキ回収して撤退ですねぇ……」

「急ぐぞ!!」


ガノに撤退の旨を伝えた俺は、ルキウスと雷閃が斬り合っている中、レーテーが隠れている場所を目指して駆けていく。

すると……


「おやおや、昨日の罪人を見つけたと思ったら」


空から何かが降ってきて、ほとんど光にしか見えない地面を砕いたかと思うと、俺達と雷閃達の間には、人獣型の巨大な羊――オリギーが現れた。


セタンタを担いでいるガノに目を向けた彼だが、生態に反して特に手は出さない。代わりに標的となったのは、続いて目を向けた人物――ルキウスだ。


周囲を包みこんでいる雷光から身を守るように無限の羊毛を湧き上がらせると、彼は獅子のように猛り始める。


「審判の間を荒らす大罪人、処刑王ルキウス・ティベリウスまでいるんですねぇ……あぁ、これは決して見逃せない。

見逃せるはずがありませんよねぇ……!?」

「っ……!? だ、誰……!?」

「フハハハハ!! 現れたなオリギー!! 余の覇道を邪魔する守護者の一角、今ここで陥落せしめてくれようぞ!!」


雷閃はオリギーとは初対面であり、当然戸惑う。

だが、やはり永い時をここに落とされたまま生きてきたらしいルキウスは、好戦的に彼に笑いかけていた。


彼とオリギーの間には、明らかに因縁がある。

憤怒の間の守護者である以前に、アルゴラシオンのボスであるオリギーは、彼の姿を見るだけでキレて暴走していく。


「罪人が罪人を処するという侮辱!! 我らに敗してなお生き残らんとする醜い性根!! オオ、貴様だけは赦してなるものかッ!! いざ、いざ!! 大鷲狩りの時間である!!

ガルルルルァァァッッッ!!」


猛獣の唸り声が轟く中、俺達は死物狂いで撤退していく。

その後ろでは、八咫国将軍雷閃、処刑王ルキウス、憤怒の間の守護者オリギーによる、三つ巴の殺し合いが行われていた。


カオスだよ……オリギー暴れ過ぎだよ……頭おかしなるで

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