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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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246-怒りはあまりにも強く

オリギーの叫び声と分身、復活してきたアルゴラシオン達に追われる俺達は、なんとか憤怒の間を出ることに成功する。


振動で平衡感覚でも潰されているのか、何度か変な方向に飛んでいくオリギーを見たが、立ち塞がらなければセーフだ。


分身はあくまでも分身であり、部下達もそこまでの脅威ではないので、俺達は数に押されながらもアリの巣状に繋がっている通路に飛び出していく。


「ぷはぁ……!! この物量じゃ、アフィスティアと変わんねぇよ。どちらか死ぬまでこれなら、むしろヤバいまである!!

本当に何でここを選んだんだガノ!! 他のやつ教えろよ!!」


俺達が飛び出した通路は、憤怒の間のような広々空間を繋げているから通路と呼称しているものの、ここだけでかなりの広さだ。


ほんの少しだけ、息がしやすくなった気がする。

多分、気の所為かなにかだと思うけど。


しかし、キレたらどちらか死ぬまで……というアルゴラシオンが憤怒の間から出ただけで諦めるはずがない。


なんとか憤怒の間からは出られたけど、後ろからは変わらず多数の分身やアルゴラシオン達が迫ってきていた。

たとえ空間が狭くなったとしても、少しずつしか通れない……という程ではなく、一度に何十頭も飛び込んでくる。


1番厄介ではなく、逃げる選択肢も取りやすいという触れ込みだったのにこれだ。もう、どう考えても難易度ミスだったとしか思えない。


「無事に逃げられたらって言っただろうが!!

オリギーはまだ追ってきてんだ、黙って逃げるぞ!!」

「右上の位置に、オリギーの襲来を予測する」

「はぁ!?」


一応は憤怒の間から出られたとはいえ、背後には依然として追手がかかっている。当然、ガノは怒鳴り返してきた。


だが、ヘズの報告は予想外にも程があるものだ。

いきなりオリギーの襲来を告げられた俺は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


しかも、その速度が半端なものじゃない。

ガノまでが驚き、顔を歪めた直後。

オリギーは地下の森を粉砕しながら、壁の上部に現れる。


「ガルルルルァッ!!」

「こいつッ……!!」

「メェーメェー!!」


彼が姿を見せたのと同時に、部下のアルゴラシオン達は怒りを増していき、分身も凶暴に膨れ上がっていく。


キレた羊は止まらない。どこまでもどこまでも、どちらかが死ぬまで殺し合いを続ける……

逃げ場を失った俺は、その情報を身をもって実感していた。


「謝意は罪の肯定!! だが、黙秘もまた無自覚な悪意の元、審判が下される対象である!! 正しき行動を体現し続けられぬ弱者は常に搾取される!! なればこそ、我はか弱き獣畜の代表として、無自覚な悪意を振りまき推定有罪を裁かん!!」


彼こそが、怒り。壁を砕いて体を固定しているオリギーが、憤怒の間で見た時と同じように叫ぶと、周りを囲んでいた羊達もまた、彼と同じような人獣型になっていた。


さっきまでの普通の羊状態でも、羊毛は変わらず無限に湧き上がり、角は絶大な威力を誇っていたんだ。

それがオリギーと同じような機動力を得たら、もう可能性なんて一欠片も残らないぞ……!?


「おい、ガノ!?」

「チッ……こいつ持っとけ」

「うおっ、何するつもりなんだ!?」


慌ててキレた元凶に声をかけると、彼はずっと片手に握っていたセタンタを投げて寄越してくる。


戦力的にずっとそうするべきだとは思ってたけど……

剣はほとんど効かないのに、一体何をするつもりなんだ?


「お前はもうまっすぐ走ってろ!! 戦うな!! 引きこもりもだ!! テメェは援護できるならありがてぇがな!!」


今までずっと飄々として裏があるような態度だったガノは、ここに来て急に覚悟を決めたような顔つきになった。

隠さず荒々しい笑みを浮かべると、俺達に逃げるよう指示を出し、壁に立って唸るオリギーと対面している。


たしかに、オリギーさえ抑えられれば他のアルゴラシオンはかなり楽に処理できそうだけど……

こいつ、自己犠牲なんてするやつだったかな?


といっても、今の俺にできることなんてたかが知れてるし、従う以外に選択肢はなさそうだ。

若干不信感が募るも、大人しく逃げに徹することにする。


「……わかった」

「ふむ、任されたよ」

「ガルルルルァッッッ!!」

「グルルルルァッッッ!!」


後ろから2頭の神獣の唸り声が轟く中、俺達は武器をしまっての全力逃走を開始する。ヘズは時折音を飛ばしているが、俺はセタンタを背負ったままただただ走り続けた。


「あれ、クロウ君? すまない、音が多くて居場所が……」


しかし、俊敏な分身やアルゴラシオンに追われていることに変わりはない。目が見えないヘズは、音を飛ばして援護していることもあり、何度も方向を見失っていた。


今も振り返ってみると、逃げている方向から90度ズレて別の道の方を見ている。

正直、俺よりも仕事してる人に何も言えねぇけど……


「グルルルラァッッッ!!」

「こっちだ!! ヘズ!! こっちーッ!!」

「ガルルルラァッッッ!!」

「おっと、危ない危ない」


2頭の強大な神獣が荒れ狂っていて、さらに数え切れないくらいの雑魚までも暴れまわっている中、それに負けないだけの音量を出すのはちょっと辛い……


声を掠れさせながら怒鳴ると、キョロキョロと耳を動かしていた彼はようやく俺の居場所を察知する。

いくら音の神秘でも、流石にこの中で完璧に捉えきることは難しいようだ。


「メェーメェー!!」

「……!?」


"音振苦痛"


ヘズを呼ぶために立ち止まっていると、目敏くそれを察したアルゴラシオン達が襲いかかってくる。

だが、今は俺の居場所を捉えている彼なので、殴り倒される前に音を飛ばし、苦痛で地に伏せさせていた。


「すまん、ありがとう」

「こちらこそだ」

「怒れ!! 怒れ!! その苦痛を与えた恨みを叫ぶのだ!!」

「グルルルルァッ!!」


すかさず怒りを叫び、部下達と同調していくオリギーだったが、猛る黒ジャガー――ガノから放たれる赤黒い閃光が降り注ぐことで、多くの羊は叩き潰されていく。


一部は斬り刻むことに成功しているが、やはり大部分は綿毛の防御によってあまりダメージを受けていなかった。

閃光の圧力で倒れはしたものの、少しすると平気な顔をして立ち上がってくる。


とはいえ、俺はまったく戦わずにただ逃げていたのだ。

通路は長く、オリギー達の追撃という恐ろしい脅威がある中だったが、次の空間への出口は目の前と言えるほど近い。


完全に逃げられる気はしないが、少しでもいい結果に迎えるよう、ガノの指示通り死物狂いで疾走していく。


「もうすぐだヘズ!!

どうなるかわかんねぇけど、とりあえず援護より走れ!!」

「了解だ」


ヘズの援護も中断して、俺達はただ走る。

アルゴラシオンが舞う中を、赤黒い閃光が迸る中を、裂けた地面から炎が吹き出してくる中を。その果てに、俺達はクタクタになりながら次の空間に突入した。


「ッ……!! 着いたッ……けど!!」


通路を抜けた俺達が振り返ると、そこには当然無数の羊達と無限に湧き出てくる綿毛があった。

オリギーもガノを相手に優勢であり、どう考えてもここから逃亡成功とは程遠い。だが……


「グルルルルァッ!! 入り口を崩落させなインドアッ!!」

「なるほど、ならば全力の振動を御見舞しよう」


"世界の調べ(オルフェウス)"


ガノが作戦を叫ぶと、入り口を向いているヘズの口からは、凄まじい音圧が発せられた。

それは、俺にとっては心安らぐもので、今いる空間の木々もさわさわと涼やかに鳴っている。


しかし、標的である入り口とその先にいる神獣の群れ、通路自体にもたらしたのは、凄まじい破壊だ。

最も重要な入り口は爆発四散し、中から飛び出てきたガノを除いて、その他の神獣は耳から血を流しながら倒れていく。


唯一、オリギーだけはこれでもあまり効いていなそうだが、それでもガノに吹き飛ばされたまま、動けずにいた。


もちろん、この崩落も少ししたら完全に直ってしまうだろう。だが、ひとまずオリギーの視界から離れることには成功だ。


満身創痍の俺達は、気絶したガノを背負いながら追跡を逃れるためにこの空間を後にした。



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