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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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245-協音疾走

「罪とは何か!! 払拭できぬ過去、純然たる事実!! 否、否!! 個人によるただの主観である!! かつての反逆者は悪なれど、今現在人心を揺るがす反逆者に勝ることはなし!!

我が怒る、ただそれ故に貴様らは有罪なり!!」


俺達の前に降り立ったオリギーは、たくましい手足で地面を砕きながら怒り、叫ぶ。どうやら俺達の善悪など関係なく、彼が気に入らないから殺すということらしい。


あまりにも理不尽だ。

……けど、多分そういうのが自然の摂理なのだろう。


俺がただ生きたいからものの命を奪うように、彼も心の平穏を保つために俺達を殺そうとするだけのこと。


必要なのは倒すことで、殺す必要はないけど……

今のメンツでこの人に勝てる気はしないけど……


殺意を向けてくるというのなら、俺は生き残るためにこの人を殺す。とはいえ、もちろん最優先事項は死んでも殺すことではないので、逃げられるなら逃げないとだ。

セタンタも倒れてるしな。


「おい、ガノ」

「なんだ」

「今こいつ殺せると思うか?」

「ククッ、随分と好戦的ですねぇ! しかし不可能ですよ。

このガキを囮にしたとしても……」

「ガルルルルァ!!」


この場を乗り切るために、オリギーから逃げることを優先するべきか、倒すことを優先するべきか。

その認識をすり合わせるためにガノと相談を始めるが、当然彼が待つことはない。


部下のアルゴラシオン達を指揮しながらも、自らが率先して襲いかかってくる。部下も彼の叫びに呼応して化け物みたくなってるけど、やっぱりボスが別格すぎるな……!!


一撃で大地は砕け、めくれ上がった岩石が牙のように刃を向ける。しかも、なぜか亀裂からは炎も吹き出してきているし、こんなんもう、羊じゃなくて悪魔がなにかだ。


かなり小さくなった翼で、それでも懸命に飛んで避けたガノは、剣から赤黒い閃光を放っているが、オリギーは無限に湧き出てくる綿毛で簡単に受け止めていた。


「相性が悪い!! 今、(わたくし)はサンドバッグにされた直後でそれなりにダメージ溜まってますしねぇ」


オリギーに攻撃を防がれたガノは、苛立ちをぶつけるように周りの羊を吹き飛ばしながら怒鳴ってくる。


それらも羊毛でガードしてはいるが、単純にオリギーよりも体格が劣っているという問題で、受けきれていない。

耐え切ってこそいるものの、大きく道を開けていた。


そこら辺のアルゴラシオンでさえこれなら、やっぱりこの場で倒すというのは現実的じゃなさそうだな。


剣が止められるってことは、俺の攻撃も一切通用しないだろうし……必要なのは炎か、それでも力尽くで押し通せるだけの一点突破の高火力……


「私は無傷ですが……」


"音振苦痛"


音だけを頼りにして逃げている関係上、あまり会話に参加する余裕のなさそうだったヘズも、道が広がれば聞くべき音も減り余力が生まれる。


何度かガノに命令されたように、オリギー達に対して苦しみを与える音を流していた。だが……


「外部よりもたらされる異物!! 生命への不当な干渉!!

許されざる事象は遮断し、元凶の排除を敢行する!!」


彼は獅子のようにたなびく綿毛で耳を塞ぎ、不快な音の発生源であるヘズに向かっていく。

ただ走っているだけなのに、地面は波のように左右に裂けていき、裂け目からは炎が漏れ出ていた。


「やはり、あまり効かなかったようだ」

「んなこと言ってる場合かよ!?」


ロロを抱いている彼は、迫りくるオリギーに耳を向けながらも棒立ちのままだ。そもそも武器を持っていないから無理もないかもしれないが、あまりにも無防備すぎる。


ガノは片手にセタンタを掴んでいるため、1番身軽である俺が彼の援護に向かう。とはいえ、今のオリギー相手に剣でどう立ち向かえばいいんだ……?


「仲間を救わんとするは社会性のある生物の定め」

「ぐっ……!?」


俺が迷いながらも駆けていると、ヘズだけを見ていたはずのオリギーは唐突に振り返ってくる。


彼はまるで最初からわかっていたように、俺へ向かって腕を振り上げていて、準備のできていなかった俺は絶体絶命だ。

というか、まさか罠だったのか……!?


「……音。君の狙いはわかっていた。斬れ、クロウ君」


しかし、オリギーの背後に立ち尽くすヘズは、音を聞くことで最初から予期していたらしい。

閉じたままの目をこちらに向けて、淡々と呟く。


"インパクトボイス"


それと同時に放たれたのは、振り上げていたオリギーの右腕を弾き、全身を叩いて体勢を崩す音波の妨害だ。

予想外の一撃を受けたことで、彼はまたも前のめりに倒れかけている。


「助かる……!!」

「これが、さっきの音だと!?」


オリギーは腕を遠くに弾かれており、攻撃はおろか防御すらもろくにできやしない。ただ剣で斬ることしかできない俺だが、剣に貼り付けた御札の力で水を纏わせて、最大限威力を高めて斬りつける。


"水の相-水禍霧散"


水の神秘並みに強力な水流を纏った一撃は、オリギーのもこもことした綿毛のガードを少しずつ切り裂いていく。

その守りを完全に突破することはできなかったが、なんとかさっき斬ったのとは逆の肩を斬った。


もちろん、そんなことでは決定打にはならない。

さっきは羊毛の海を作ったように、俺の周りに自身の分身を作りながら、鋭い目を向けてくる。


「くっ、貴様は一体何なんだ……? 最も弱い神秘であるにも関わらず、最もいい位置とタイミングに……!!」

「っ……!! 運がいいだけで、決定打には欠ける男だよ」

「だが、撤退戦ならば問題ない。吹き飛べ、オリギー」

「貴様ッ、無音で……!?」


"音響振撃"


俺を羊の群れで囲っていたオリギーだったが、無音で背後から迫っていたヘズには気がつけなかったようだ。

いきなりかけられた声に目を見開き、慌てて振り返った体勢のままで、音の振動を纏った拳に吹き飛ばされていく。


「ぐっ、この程度の攻撃は効かぬぞ……!!」

「今は逃げられればいいのだよ。さようなら」

「ガルルルルァ……!!」


吹き飛びながらも言葉を残す彼だったが、ヘズは優雅に別れの挨拶を述べる。地面から足が離れているオリギーは、なすすべもなく闘技場まで吹き飛んでいった。


「では、急いで逃げるとしよう。

どうせ奴は、またすぐに追ってくるらしいからね」

「その通りだ、インドア野郎!!

流石、引きこもってるだけあるなぁ!!」

「道は既に彼が切り開いている」

「うおっ、お前らチームワーク抜群かよ!?」


流れるように逃走経路を示してくる2人に、俺は思わず叫んでしまう。オリギーに集中していて気が付かなかったが、ガノはセタンタを抱えながらも辺り一帯を吹き飛ばしていた。


多少歩き難くはありながらも、キレているアルゴラシオン達はすべて吹き飛んでおり、邪魔者はいない。

地面が崩れて足場が悪いことなど、敵が立ち塞がっているよりも遥かにマシだ。


「彼は裏があるか荒々しいかで信用はしにくいが、裏がある性質ゆえに、ちゃっかり仕事はしているものだ」

「な、なるほど……よし、じゃあ急ごう」

「おうよ!」


道ができていることを確認すると、俺達は足並みを揃えて、皆一様に急いで逃げ始めた。

アルゴラシオン達はともかく、ボスのオリギーは遠くに飛ばしているだけだ。


確実にダメージになっていないし、絶対に追ってくる。

どちらかが死ぬまで殺し合うっていうのが、もし姿を隠してもだったら絶望的だけど……


「ガルルルルァッ!!」


ひとまず逃げなければ、この話は始まりすらしない。

俺達は闘技場から轟いてくる叫び声と粉砕音を聞きながら、しつこく追ってくる羊毛分身を倒して逃げ続けた。



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