表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
28/432

25.5-それは彼らを形作るもの②

前回よりも暗いかもしれないです。

苦手な方はご注意ください。

彼らにもかつて、親がいた。

彼らにもかつて、故郷があった。


それは、彼らが覚えていられないほど幼い頃に。

もはや誰の記憶にも残らぬ昔……




西の果てに、アストランという国がある。

それは、世界を維持し続ける神秘の庇護下には収まることが出来ず、自力で生き抜くことを強いられた強者達の国。

魔獣と争い続ける、自然のままの神秘の地。


その国境、どこにも属さぬ人の里。

そこが、彼らの故郷だった。


アストランの強い神秘に影響を受け、多くの魔獣がいるその地で、だがアストランの反対側にあるフラーのお陰で滅ぶ事はなかった里。


小さく、特に名産もなく、聖人が生まれることもなく、長きに渡り密かに生きてきた民。


彼らは何の力も持たない。

それでもほそぼそと麦を作り、小動物を狩り、魔獣に太刀打ちできないとしても、隠れながらでも、強く生きていた。

そんな無辜の民。貧しくも暖かい、平和な生活。


そんな平穏を破ったのは、1羽の魔獣。

風を操るその獣は、たった1羽で全てを壊した。


何故それが襲うのか、分からない。

何故この里なのか、分からない。


人々は混乱した。逃げ惑った。蹂躪された。

泣き叫び、助けを求めた。

だが、この地に守護者はいない。


全てが崩壊した後、この場で生きているのは魔獣のみ。

それが、その里の終着点。




だが、助かった命もあった。

たった2人の生き残り。それは空高くへ。


魔獣の風に運ばれて。神秘をその身に浴び続け。


本来死ぬはずの命は、その神秘をその身に宿すことで辛うじて生き延びた。

それは幸運だったのか、不幸だったのか……




彼らを拾ったのは、1人の神父。

神父は、嬉々として彼らを育てることにした。


赤子でありながら神秘に成った彼らは……いい研究対象。

養う代わりに、実験を。

神秘をイジる。記憶をイジる。偽りを、忘却を。


そんな彼らは、精神に異常をきたす。人格を崩壊させる。


壊れた彼らは、魔人。




救いは食を。救いは友を。異常は治らず、だが喜びを。


彼らは異常で正常に。


彼らは今、生きている。




~~~~~~~~~~




北にあるのは、世界を維持する者の都。

天を象徴する国エリュシオン。


その近辺は、平和そのものだった。


隣国、水の都。

美の国アルステムも争いのない国だった。

美しい文化が根付き、幸せで溢れていた。


聖人が生まれ、不安な気持ちなど生まれない。

そんな素晴らしい国。




その国には、とある青年がいた。

穏やかで優しい、清く正しい青年だ。


彼は家族を愛し、恋人を愛し、友を愛し、隣人を愛した。

熱心に仕事に取り組み、大きな成果を上げていた。

彼は、幸せだった。




そんな彼には、とても信頼する友がいた。

小さい頃から仲が良く、気が置けない友だった。

そしてその友も優しく、嘘などつかない男だった。


だがある日、その友はこんな話を持ちかけてきた。


1つ、仕事を頼まれてくれないか? と。

俺は今忙しくて手が回らない。だが、大事な用事なんだ、と。


その用事とは、西の国へと荷物を運ぶこと。

どう考えても、1年以上はかかるような仕事だった。


当然最初、彼は断った。

だが、彼は友の焦った顔に、困った顔に押された。


さらには職場の上司にも、信頼から休職でいいと言われた。

友も、職場の手が足りない時は少しは手伝えると誓ってくれた。


彼は、旅立つ事にした。




長い、旅だった。たった1人での苦行だった。


だが目的地に辿り着くと、そこに待っていたのは賊達。

彼は怪しみながらも、誠実に。賊達に荷物を届けた。

友に何か事情があるかもしれなかったからだ。


だが頼まれた荷物を受け取った賊達は、青年をも襲おうとした。

驚いた彼が問いかけると、賊達は青年も依頼に含まれている、と言った。


その時初めて、彼は友に騙された事を悟った。

彼は逃げた。追われながらも、命からがらに。




彼が辛うじて身を隠せた時、彼の乗ってきた馬車は壊れてしまっていた。

二度と家族に会えないことが悲しかった。

仕事を放り出してしまったのが悔しかった。


友が、憎かった。

何故騙されたのか、分からなかった。

何故死を望まれたのか、分からなかった。


その悲しみから、彼は神秘に成った。

その力は、故郷へ帰るための風。


何よりも帰郷を。自分に非が無いのならば友に制裁を。

そのための力だった。




彼は飛んだ。

疲れ果てていたため、非常にゆっくりとしたスピードだったが、確実に。


そんなある日、彼は1人の老人に出会った。

老人が青年にしたのは、風の魔人ならばこの先に行けば力を得られるという話。


当然断彼はった。

彼は老人を信じられなかったし、言いなりになるつもりは無かったからだ。


だが、老人は別にどちらでもいいと言った。

正直なところ、たまたま風の魔人がいたから気まぐれで助言をしてみただけだと。


それを聞いた彼は、見るだけ見るくらいならいいのでは? と感じた。


結局は老人の思惑通り、青年は進んだ。




結果、彼は強大な神秘を手に入れた。

それは暴風。


信じてよかった、と彼は老人に感謝を伝える。

そして老人は、笑顔で彼と語らう。その笑顔は胡乱げに。




精神が、歪んでいた。強大な力は、心を鈍らせた。

だがそれだけではなく、彼は偽装を、忘却を。


穏やかさは、優しさは、清く正しい心根は、反転した。

荒々しく、酷く、汚く悪事に手を染めた。


目的を忘れ、封じ込められた心のままに暴れるようになった。

暴飲暴食をし、大男となり、さらなる悪行を。


彼は、もはや悪だった。


よければブックマーク、評価、感想などお願いします。

気になった点も助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ