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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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241-憤怒の間へ

ヘズを仲間に加えた俺達は、彼がいた洞穴を出てから改めて憤怒の間へと向かい始める。


あるかもわからないフェイの企みに心を奪われていたガノだが、1人だけ残されれば拒否するメリットはない。

ぶつぶつと文句を言いながらも、大人しくついてきていた。


少し申し訳ないが、セタンタはずっと浮かせられているので選択権はなしだ。ほとんど物音も立てないため、ヘズも特に気にせずこれからについて聞いてくる。


「ところで、審判の間について聞いてもいいかな?」

「あぁ、審判の間っていうのは、俺達が今いる地下の森のことだよ。ここを出るためには7頭の神獣を倒し、7つの試練をクリアしなくちゃいけないらしい。目指すのはたしか……」

「憤怒の間だ、忘れてんじゃねぇよ」


俺が目的地を思い出そうとしていると、凶暴な目をしたガノは皮肉っぽく口を挟んできた。


ただ、別に武器を持っていたりする訳ではないので、あまり気にする必要もなさそうだ。喧嘩腰の彼をスルーして、目的地についてだけピックアップする。


「だそうだ」

「なるほど……森の地下にそんな場所ができていたとはね。

あの方は忘れないだけで、情報がなければ当然知ることはできない。思わぬ収穫です。ところで、彼は?」


ガノの補足を受けたヘズは、安否もわからないシルへの土産ができたとばかりに微笑む。

しかし、最後に付け足されたのは、予想外の質問だ。


俺は唐突のことでよくわからず、少し不審に思って彼の顔が向いている方を見てみる。すると、そこにいたのは黙らされたまま、宙を浮いているセタンタだった。


どうやら、セタンタ自身は物音を出さないが、彼の鼓動などはもちろん止まっていないため、ヘズの耳には情報が届いていたらしい。


別に隠すつもりがあった訳じゃないし、最初から気づいてたならさっさと聞いてくれればよかったのに。

というか、よく平然と移動を始めてたな。


「こいつはセタンタ。

ガノより頼りないけど、ガノより信用できるやつかな」

「おいおーい、なぜ俺を基準に使う。それはいいとしても、まだ信用されていないとは……はぁ、悲しいですねぇ」

「なるほど、嘘つき……と」

「面倒だなぁ、この男」


俺の説明に突っかかってくるガノだったが、やはり言葉とは裏腹に何も感じていないらしい。

心音から悲しいと嘯いたのを看破され、面倒くさそうに頭をかき始めた。


「それで、彼はなぜ拘束されているのだろう?」

「あー……ケガもあるけど、1番は騒がしいからだな。

ゴリラにバレたら危ねえと思って」

「ケガ……もう治っているような」


理由を聞いたヘズは、耳を澄ましてからそっとつぶやく。

耳が良いだけでケガの状態までわかるのか……?


よくわからないけど、そう言われて見てみれば、たしかに彼の足に開いていた穴はもう塞がっていた。

顔についていた血も消えている始末だ。


それなら、もう念動力で捕まえておく必要はないかもしれない。ヘズという頼りになる仲間も増えたことだし、余計な力を使わせることもない気がする。


「ロロの力で自己治癒能力上がってるからな。治ったなら、もう自分で歩いてもらうか。ロロも疲れるだろうし、流石に落ち着いてきてるだろ」

「あ、あいさー……」


俺の言葉を聞いたロロは、ずっとセタンタを抑え込んでいたことで疲れた様子を見せながらも、慎重に彼の体を下ろしていく。


やはり暴れるセタンタを拘束するのは大変で、時間も長すぎたのかぷるぷると震えているが、彼は問題なく足を下にして地面で解放された。


全身はもちろんのこと、口を塞いでいた念動力もなくなったので、数十分ぶりに手足を伸ばせた彼は当然のように騒がしく笑っている。


「ぷはぁ、ようやく外の空気が吸えるぜ〜!!

話は聞いていた、あんたも仲間になったんだってな!!」

「えぇ、よろしくお願いしますね、セタンタ君」

「おう!! んで、仲間が増えたってことはよー……」


ヘズの挨拶を聞いたセタンタは、快活に笑って彼を歓迎する。だが、その直後には凶暴な笑みへと変わっていた。

明らかに何かしようとしているというか、確実にこれは……


「……!? おい、まさか‥」

「テメェはもういらねぇよなぁ、ガノ・レベリアス!!」

「ククッ、そりゃこっちのセリフだクソガキィ!!」


瞳に暗い光を宿したセタンタは、危惧した通り、当たり前のようにガノとの喧嘩ならぬ殺し合いを開始した。

周囲にもうゴリラ共の気配はないけど、そうだとしてもふざけてる……!!


他の神獣が寄って来る可能性も上がるし、周囲の植物だって地上のどの森よりも危ないものばかりだ。

彼の足を貫いていたのは、ただ硬いだけの木。


帯電している草や骨だらけのキノコも間違いなく危険だし、進む中で増えてきた口のような葉っぱを持つ草など、自分から捕食しようと襲いかかってくる。


特に危険なものを除いても、森自体が不気味な光を発していて、垂れている葉だけでも気味が悪いことこの上ない。

こんな場所で、警戒よりも殺し合いとか理解不能だ。


そもそも、これから憤怒の間で番人の神獣と戦う予定だってのに……!!


「……おや? 治安が悪いですね」


目が見えないながらも、彼らの怒鳴り合う声やぶつかる武器によって状況を察したヘズは、耳を戦場に向けながら呟く。


わかりやすい音だから気づくのは当たり前として、この冷静さはなんだ……? 順応が速すぎやしないか……?

彼らの殺し合いにも慣れた俺は、今度は逆にヘズの冷静さに戸惑いながら返事をする。


「そーだよ、こいつらは仲悪すぎて殺し合うんだ。

だから、あんたが仲間になってくれてとても助かる」

「しかも、こんだけあばれてるとオイラ拘束できないよ……」

「はぁ……随分と大変なところに来てしまったようだ。

まぁ、別に自分の意思で来た訳では無いが」


実際に音として彼らの仲の悪さを理解したヘズは、心底面倒くさそうに脱力している。


この大変さを理解してくれる人が現れて、とても嬉しい。

もっとも、彼からは少しばかり他人事のような感覚を受けるんだけど……


とりあえず、目下の課題はこいつらをどうするかだ。

せっかく仲間が増えたのに、それで1人減るなら意味がないし、もちろん止めない選択肢はない。


選択肢はないが、だからといって方法がある訳でも……ない。

うん、普通にセタンタを解放したのは悪手だったかもな。

本当にどうしよう……


「……やっぱり解放するのはマズかったかなぁ」

「でも、どっちにしろオイラつかれてたから、そのうちにげてたと思うよ? 他につかまえる方法あるといいね」

「うーん、まず俺にはない。ヘズはどうだ?」


もうロロが疲れていたというのなら、暴れ出すタイミングを選べたのは良かったのかもしれない。

……いや、まぁこれがタイミングを選べたと言えるのならば、だけど。


どっちにしろ俺にそんな力はないので、隣で目を閉じているヘズに聞いてみる。すると、彼は平静を保っていながらも、少し嫌そうな雰囲気を醸し出しながら口を開く。


「……ふむ。あるにはあるが、かなり力尽くになる。

というか、手加減ができないから後で文句を言われそうだ」

「大丈夫、セタンタはチョロいから。

後で果物とかあげればすぐ忘れて懐くぞ」

「ガノ君は?」

「あれは……」


ヘズの懸念点……そのセタンタの部分を否定すると、すぐさまガノについて問われた。それも否定したいところだったが、俺から見てあいつは執念深い方な気がするから、つい言葉に詰まってしまう。


「……いまいち、信用しにくいやつなんだよな」

「はぁ、なら諦めるか。静止優先だ」

「悪い」


正直に白状すると、彼はため息を付きながらも彼らを止めることを了承してくれる。俺はもしもガノがキレた場合、全力で味方になろうと心に決めた。


そんなこんなで、ヘズによるガノ達の制圧開始だ。

彼はゴリラの起こす地震を止めた時と同じように口を開くと、低く心地良い音色を奏でていく。


しかし、それは制圧の対象ではない俺達だけだったようで、段々と離れていっていた2人は突然苦しみ始めた。

耳や頭を抑えて、見ているこっちまで顔をしかめてしまうような苦しみ具合で、目を逸らしたくなる。


"音振苦痛"


「ぐっあぁ……耳が、痛ぇ……!?」

「頭も割れるようだ……!! 何だ、これ……!?」

「セタンタ君、果物をあげるから大人しくしていなさい。

ガノ君は、申し訳ないが矛を収めてくれ。

憤怒の間も近いのだろう? そこで囮にでも使えば良い。

もちろん、私達は助けるのだがね」


苦しんでいる2人の元まで歩み寄ったヘズは、俺が伝えた情報も使って説得を始める。今の彼は果物など持っていないが、目も見えなくて手に入れられるのだろうか……?


そんな不安をよそに、制圧されたセタンタ達はその苦しみから解放されるためにも、渋々説得に応じた。


「わ、かった……!!」

「よろしい。では、ガノ君。

私は目が見えないので、果物を探すの手伝ってください」

「クソ野郎が……!!」


音による苦しみが終わると、ガノは憎々しげに彼を睨む。

とはいえ、憤怒の間でセタンタを囮にするという案もあったことで、彼は大人しく果物探しに協力し始めた。



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