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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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240-欠落司書

「〜♪」


洞穴の最奥で見つけたヘズは、俺達が現れたことには気がついていないのか、完全に無視して歌を歌い続ける。


至近距離で聞くまでもなく、彼がゴリラ達の振動に合わせて奏でられていた低い音色の出どころだ。

前回会った時は案内くらいで、能力の名前くらいしか聞いていなかったけど……


もしかしたら、彼の歌には生物を操るような力があるのかもしれない。……いや、そもそも何でこの人がここにいるんだ?


ウィズダム大図書館は消え去っていたし、詳しい話が聞きたい。だが、この歌のお陰でゴリラの地震が止まったのなら、邪魔してしまうとまた地震が起こる可能性も……


そんなふうに俺が次の行動を決めかねていると、彼のことを全く知らないガノは、静止する間もなく口を開く。


「すみません、お兄さん?」

「ちょ、ガノ‥」

「黙ってろ、薄幸少年。フェイが隠してるやつなら、確実にここにいる意味がある。標的見失って地震も起きねぇよ」


慌てて止めに入るが、彼は的確に止める理由を潰してきたので、ほとんど言葉を発さないままに、伸ばした手が行き場を失ってしまった。


俺はせめてセタンタが騒がないよう注意しておくことに決め、彼とヘズの交流に耳を傾ける態勢に移る。


「〜♪」

「すみません、お兄さん」

「その人はヘズだ」

「何だ、知り合いか? ……こんにちは、ヘズさん?」


歌を止めてでも話を聞くことにしたので、俺は名前を知らずにお兄さんと繰り返すガノに、彼の名前を伝える。

それを聞いたガノは、わずかに顔をしかめて考え込む素振りを見せるが、すぐに気を取り直して再度呼びかけていく。


俺の知り合いだと知ったからか、さっきまでよりも遠慮がない。より距離を詰めて、大きな声で呼ばわっていた。

するとヘズも、見えない目を閉じたままではあるが、歌うのをやめて耳を彼に向ける。


「……どちら様でしょう?」

「円卓の騎士、序列4位、ガノ・レベリアスだ」

「つまり、ここはアヴァロンですか。

クロウ君は無事に入れたようだな。よかったよ」


どうやら現在地を知らなかった様子のヘズだが、ガノの名乗りを聞くとすぐさまそれを理解した。


おそらく、シルに色々な知識を教え込まれていたのだろう。

円卓の騎士という単語だけで看破してしまうとは、恐ろしい知識量だ。


しかも……この人、俺の存在にも気がついてないか?

少し離れたところにいて、歌をやめた後は話していないのに、俺の名前を呼び、砕けた口調で話している。


明らかに確信を持っている様子だ。

俺は少し戸惑いつつも、念のため確認を取るべく口を開く。


「……? もしかして、俺に気づいてる?」

「もちろんだとも。私の耳は、君の鼓動を覚えている」

「うわ、すげぇ……」


恐る恐る問いかけてみると、彼はまっすぐ俺のいる方向に耳を向けながら断言した。


目が見えない彼は、音で周囲の様子を感知する。

それは最初から聞いていたことだけど、まさか俺の鼓動を覚えられているとは思わなかったな……

耳だけでなく、記憶力も相当いいようだ。


すると、俺達のやり取りを聞いていたガノは、彼の様子などから目が見えないことを察したらしく、凶暴な笑みを浮かべながら荒々しく問い詰め始めた。


「クククッ、それなら話は早いなぁ。俺はこいつの同行者だ。あんたの話を聞かせてもらおうか?」

「いいでしょう。何を話せばよろしいか」

「お前は誰か、なぜここにいるのか、いつからここにいるのか、フェイ・リー・ファシアスを知っているか……辺りか。

いや、お前はここがどこか知らなかったな?

どうやってここに来たのか……もだ」


ヘズの同意を得たガノは、目を細めながら畳み掛けるように質問を言い連ねていく。明らかにフェイについて探る気満々だ。


それはかなり遠慮のない質問だったが、それを聞いたヘズも特に反発することなく答え始める。


「……ふむ。1つ目、私はヘズだ。呪名は"世界の調べ(オルフェウス)"。

ウィズダム大図書館に座する賢人――シル・プライス様の部下をしている……雑用が多いが、まぁ司書だ」

「なるほど、やはり侵入者ですか」


ヘズの自己紹介を聞いたガノは、彼の所属などを聞いて満足気に肯いている。目に鋭い光を宿していて、かなり威圧的だ。


とはいえ、ヘズは目が見えないので視覚的な威圧が効くことはない。畳み掛けるように残りの問いに答えていく。


「2つ目、なぜここにいるのかは私にもわからない。3つ目、記憶に欠落がみられるため、いつからかもわからない。

4つ目、その名は今初めて聞いた。

5つ目、気がついたらここにいたので、方法も不明だ」

「何もわかんねぇじゃねぇかッ!?

お前はフェイの隠し事なんじゃねぇのかよ!?」


1つ目の答えには満足げだったガノだが、もはや投げやりだと感じてしまうような残りの答えを聞くと、凶暴に牙を剥いて怒鳴りつけた。


……まぁ、正直俺も同感だ。

俺が知りたかったようなことは全く聞けず、結局ヘズはなぜかいきなり森に現れた異物ということになる。


ウィズダム大図書館に何があったのか、今シルはどこにいるのか、ここに彼がいることは図書館の消失と関係あるのか。


気になることは数え切れないほどあるのに、彼の記憶が欠落していることやここに来た方法など、さらに疑問が増えていく。


「……あのさ。俺はこの森に来る前に、ウィズダム大図書館に行ってきたんだ。だけど、そこに図書館は存在しなかった。

何があったか覚えてないか……?」

「図書館が、存在していなかった……?」


念のために俺が問いかけると、彼はこの世の終わりみたいな顔をして、オウム返しにつぶやく。


この様子では何があったか覚えてなさそうだが、とりあえず彼にとって何よりも大事なことは確かなようだ。

ヘズは眉間に大きくシワを寄せて、目に見えて必死な様子で記憶を手繰り寄せていた。


だが、最近の記憶はかなり大部分を失っているようなので、流石に考えただけで思い出せはしない。

しばらくして、彼は苦痛に満ちた表情で首を横に振る。


「……いえ、思い出せません。もしかしたら、私がここにいる理由とも繋がっているのかもしれないが、おそらくは異変があったと思われる辺りからすっぽり記憶が抜け落ちている」

「そうか……」


ウィズダム大図書館で、一体何が起こったんだ……?

フェイはヘズが森にいることを隠していたらしいけど、彼が全知なのはこの森の中だけのようだし、外のことに関わっているとは思えない。


ガノも深く考え込んではいるが、多分ここにいる以上は何があってこうなっているのか知ることはできない気がする。

圧倒的に情報が足りない……考えるだけ無駄だな。


それよりも、俺達はこの審判の間から脱出ふることに尽力しないとだ。ヘズが戦えるのかは知らないけど、戦力が増えたことを喜ぼう。


ガノとセタンタは手に負えないし、2人を抑える労力が減るという意味でもめちゃくちゃありがたい……


「まぁ、考えても仕方ない。情報が足りないことよりも、今目の前にある問題のことに集中しようぜ、ガノ」

「……ふん。フェイの企みを暴くのも直近の課題だがな」

「そのさらに前にあるのが審判の間のクリアなんだろ?

なぁ、ヘズ。お前って戦闘能力あるか?」


俺の主張に若干反発するガノだったが、順番で言えば考えるまでもなく審判の間が先だ。

特に説得をする必要もないので、速やかにヘズの協力を得るために話しかける。


「……まぁ、補助がメインではあるが、できなくはないよ。

手加減することには向かないがね」

「大丈夫だ、手加減の必要はないから全然問題ない。戦力が足りてなかったから、普通にめちゃくちゃありがたいよ」

「それならよかった。まさか、君と旅をすることがあるとは思わなかったが……これからよろしく頼む」

「おう!」


ヘズは快く承諾してくれたので、旅のメンバーに彼も加わることが決定した。



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