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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
277/432

239-音色の先に

空から降り注ぐゴリラ達は、続々と地震を起こすことに参加していき、揺れは酷くなる一方だ。


しかし、新しいゴリラがやってこなくなると、揺れの波長は段々と一定なものになっていく。

揺れのタイミングに合わせるように、どこからか響いてくる音色も波長を合わせていた。


「っ……!! 揺れが、変な周期に……?」


揺れる枝に振り回される俺は、周囲の正確な様子を見ることはできない。だが、揺れる動きと音だけは確かだ。


揺れはまるで地球をドラムか何かとして演奏しているように一定で、腕が叩きつけられるタイミングに音色も重なって、森の演奏会のようになっていた。


この音は、ゴリラの統率者がなにかなのか……?

音色と振動のタイミングが合致してから、少しずつ地震が収まってきている気がする。


「ロロ、そろそろ降りれそうだから、着地の補助頼む」

「あいさー!」


細い木々は砕け、地面は裂けてクレーターを作っていく。

大樹も一部は崩落に巻き込まれ、無事なのはほんの一握りだ。


それでも、徐々に揺れが弱まってきた中で、地下の森は依然としてその威容を保っていた。

ロロの補助付きで飛び降りた俺は、ボコボコになった地面に躓きながらも無事な木々の影を通って2人を探す。


「やっぱ探知は無理か?」

「うん、あのゴリラもいるし、神秘がつよくて」

「なら騒がしいとこ……」


ゴリラ達がウホウホ騒いでいる中、肩にロロを乗せたままの俺は密かに進み続ける。あの音色を聞いたからか落ち着いているそれらだが、多分見つかれば戦闘は免れないだろう。


できればバレることなく、ガノとセタンタ……特にセタンタと合流したい。なぜなら、ほぼ間違いなく騒いでいるから……


「あーっはっはっは!! 目が回るじゃねぇか、このゴリラ共!! 地面揺るがすとかふざけてる!!」


俺が急いで探し回っていると、予想通り騒いでいる彼の声が聞こえてくる。まだ音色は続いていて、セタンタも声だけなのでゴリラも暴れていないようだが、気付かれたらマズい……


といっても、地震で吹き飛ばされているのだから、とっくにゴリラから遠く離れている可能性もあるんだけど。

ひとまず声は出させないようにしないとだ。


響いてくる騒がしい笑い声を頼りにして、俺はなぜかすでに少しずつ再生を始めている地下の森を歩いていく。

砕けた地面の下とかも見ないといけないと思ったが、笑えてるなら大丈夫か……?


「ゲホッゲホッ……あぁ? 無事だったかクロウ!!」


生き埋めやクレーターの中にいる可能性を捨てて探していると、しばらくして前からうるさい声がかけられた。

パッと前方を見回してみれば、少し先にいたのは赤い木の枝に突き刺さっているセタンタだ。


どうやらかなり地震にもみくちゃにされてしまったようで、全身ボッコボコになり、最終的に足を貫かれてぶら下がっている。


彼の足が突き刺さっている赤い樹木の枝は、そこまで太いものではないはずだが、相当硬いらしい。

いや、あいつあの状態で大笑いしてたのかよ……!?


「何でそんな事になってんだ……?」

「いやぁ……そこの岩に顔面ぶつけて、吹き飛んだ先に硬ぇ木があってな? 視界チカチカして、そのままブスっと」


戸惑いつつも慌てて駆け寄り聞くと、彼は痛みを感じないのかと言いたくなるくらい体を揺らしながら、笑って答える。

指差された方を見てみれば、たしかにそこには赤く染まった岩があった。


あんなものに顔面ぶつけて、さらに木に突き刺さるって……

ちょっとばかり、運が悪すぎやしないか?

一応は俺の運を分けてたはずなんだけど……


「とりあえず静かにしてろ。ロロ、あいつ浮かせてくれ」

「あいさー」


まぁ、実際に顔面ぶつけて木に突き刺さっているのだから、今更気にしても仕方がない。


俺はひとまず彼を黙らせてから、ロロに念動力を頼んで彼の体を浮かす。すると当然、彼は興奮気味に騒ぎ出すのだが、予想はしていたので念動力で口を閉じてもらった。


血は念動力で止めてはいるので、とりあえず放置しても問題ないだろう。かなり強引だが、セタンタの回収は完了だ。


普通に騒がしかったがダメージはあるらしく、彼はあまり強力ではないロロの念動力も振りほどけずにいる。

好都合なので、このままゴリラ達から離れさせてもらうことにした。次はガノだけど……


「あいつもどっかに刺さってたりすんのかねぇ。

セタンタみたいに騒いだりはしなそうだけど」

「あの人はぶじなんじゃない? こんなにボロボロになっている姿、そうぞうできないや」

「たしかに」


もうすっかり元の森に戻った畏ろしく神秘的な森を、俺達は雑談しながら進んでいく。

地面はもうすっかり青々とした草が生い茂り、折れた木々もまっすぐ立って淡い光を放っていた。


きのこの周りに散らばっていた骨などは散らばっているが、水色の水たまり、帯電している苔などは健在だ。

人数が減ったこともあって、注意深く周囲を警戒しながら歩を進める。すると……


「うわっ、ジャガー!?」

「……」


しばらくして、目の前には妙に神々しい黒いジャガーが姿を現した。見た目はゴリラのようにそこまでおかしくないが、やはり普通よりも大きくて立派だ。


黒い毛並みは艷やかで、地上の木々のような透き通るような輝きを放っているような気さえする。

それは驚く俺達を気にせず近づいてくると、隣を一緒に歩きながら唸り声を上げた。


「ククッ、合流できて何よりです」

「どわぁ!? お前ガノかよ!?」

「何です、気づかずに接近を許したので?

駄目ですねぇ、油断しすぎです。すぐ死にますよ?」

「いや、敵意なかっただろ……」


思わず飛び上がって驚いてしまうと、彼はジャガーの姿をしたままで皮肉っぽく笑いかけてきた。

油断してても敵意くらいはわかるので、正直そこまで重大なことではないと思う。


だが、ガノは四足歩行を続けながらも、不思議と人型の時と同じような感覚を与えてきながら言葉を紡ぐ。


「はっはっは。では、あなたはなぜ地下に落ちたので?」

「……お前に落とされたからだな。はいはい、気をつける」


棒読みなのも相まって、やたらとイラッとする。

しかし、実際に俺は敵意を感じなかった彼に落とされたので、もうこれ以上は何も言えない。

大人しく彼の助言っぽい何かに同意した。


それを聞いたガノは、自分がその話題を続けたくせに、余計な時間を使ったとばかりに本題に入っていく。


「まぁ、それはいいとして……トランドゥルテクス達が地震を起こしてすぐ、この変な音が聞こえ始めましたよね?」

「そうだな。地震のリズムに合わせて奏でてて、あいつらの地震を制御してた感じがする。ボスか?」

「……いえ、初めて聞きました」

「そうなのか……?」


段々と近づいてくる低い音色が聞こえたタイミングに頷き、統率者でもいたのかと問いかけると、ガノはいきなり人型に戻って首を横に振った。


俺は、空気に溶けるようなその変身に驚く暇もない。

何やら深く考え込んでいる様子の彼に、イレギュラーな事態なのかと不安感を強めながら重ねて問う。


この森の神獣を制御していながら、この森の支配者側にいる神獣であるガノが認知していない存在……

可能性として考えられるのは、俺達以外にも侵入者がいるということくらいか……?


それとも、かなり前から審判の間に落とされていた侵入者がいたとか。どちらにせよ、厄介なことに変わりないな。

隣を歩くガノも、今はセタンタにちょっかいをかけられたりしないため、いつになく気難しい表情をしている。


「……ふん。フェイの野郎、まさかまだ隠し事があったとは」

「え、あいつが? 何でそんなことわかるんだよ?」

「いいか? この森では女王エリザベスは全能、その兄であるあいつは全知だ。お前をすぐ審判の間に落としたように、このことを知らねぇはずがねぇ」

「2人揃って全知全能かよ……ふざけてる」


なぜかフェイの隠し事だと断定したガノに問うと、彼は特に隠すことなく、恐ろしい事実を口にする。

彼とジェニファーさんに指示を出すのがやけに早かったという部分も、これで解決だ。


いや、本当に1人で来るんじゃなかった……

実質全知全能の神相手に、俺はロロと2人きりじゃねぇか……

一応はセタンタも反逆者側らしいけど。


「ちなみに、末の弟オスカーは規格外の馬鹿な」

「……何だその情報」


俺が円卓の騎士のトップ層に戦慄していると、ガノは意味の分からない情報を付け足してくる。

自然と音の出どころを目指して、今はゴリラの通れなそうな洞穴にいるため、彼も少し気を抜いているのかもしれない。


あまりの落差に俺が気の抜けた返事をすると、通り道にある果物をもぎって食べながら、凶暴性を隠さないまま答えてくれた。


「全知でも全能でもなく、規格外の位置にいるんだよ」

「よくわかんねぇけど、序列1位なんだろ?」

「その通り。あれは息をせず寝もせずに九日は戦い続ける。

元々神秘は、飲まず食わずでも生きるだけならできるもんだが、それを踏まえても規格外の化け物さ」

「おい、全知全能より現実味あるやべーやつじゃねぇか」


馬鹿という触れ込みだったのでつい適当に聞いていたのに、彼が語るのはどう考えても重要で異常な話だ。

より身近なヤバさを聞いて、俺はすかさずツッコミを入れる。すると、ガノはやはり軽い調子で話を続けていく。


「はは、だから序列1位なんだろ? あいつは別に、ソフィアやウィリアムみたいな特別な戦い方はしねぇが、単純な身体能力だけでこの国最強だ。ま、超人ならぬ超獣ってことよ。

あいつだけは、審判間を単独クリア可能かもな」

「どうかしてんだろ、この国……」


身体能力だけって言われると逆に現実味が薄れる気もするが、とりあえず1位がヤバいことはよく理解できた。

今のところガノが味方なのはありがたいけど、結局こいつら全員敵かと思うと先が思いやられるな……


「お、ようやく奥だな。んで、隠し事はこいつか……」


俺が脱力していると、いち早く角を曲がったガノは目的地に到着したらしく思考に戻っていく。

セタンタを浮かせているロロを連れ、俺もその後を追うと……


「は……?」


そこにいたのは、目を閉じたまま歌を口ずさむ人物。

野外にいるとは思えないようなかっちりした服装で長身の男――ウィズダム大図書館のヘズだった。




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