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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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237-審判の間を脱出するために

「……」


フェイが薄れていくように消えた後、俺は拘束されたままで放置されているセタンタ達を黙って見やる。

ガッチリと拘束されている彼らだが、拘束されているのは体だけで、心は折れていないので騒がしい。


見たところ、不気味なだけで現在地に魔獣はいなそうではあるけど……とりあえず、一度黙らせた方がいいかな。

協力関係を結ぶにしても、これじゃ話し合いにならなそうだ。


彼らも頭は外に出ているので、俺は剣で殴打することで気絶でもさせようかと近づいていく。


「ふーざーけーるーなぁーッ!!

あのガキぃ、次会ったらぶち殺してやる……!!」

「フェイの野郎、俺に何させてぇんだ……殺す。

どちらでもいいってなんだ……叩き殺す。

あはは! あー、とりあえずイライラしますねぇ……

あぁ、あぁ、血を吸いてぇ……グルル……」


しかし、近づけばその音は聞こえやすくなるし、彼らの言葉もはっきりと聞こえてきて、かなり嫌な感じだ。


特に騒がしいセタンタも、彼より身の危険を感じるガノも、どちらも木の拘束を解こうと暴れていて、ギシギシと嫌な音を響かせている。


普通に危なすぎるというか、いつ拘束を破壊してもおかしくないからおまり近寄りたくもない。

下手したら噛まれそうだ。……うん、黙らせられる気しねぇな。まずはロロ起こしとこう。


数歩で危険度を再確認した俺は、大人しく元の場所に戻ると、気絶しているロロの頬を軽く叩いて起こそうと試みる。


「おーい、ロロー」

「うにゅう……」

「起きろー」

「あーい……」


最初は反応が悪かった彼も、しばらくむにむにと柔らかい頬をつねっていると、無事起床する。

若干寝ぼけている様子ではあるが、どうせしばらくあいつらには近寄りたくないので関係ない。


お世辞にも落ち着く景色とは言い難いものの、それでも一応は畏ろしさの中にある神秘的な美しさを眺めながら、ロロの意識がはっきりするのを待った。




数分もすれば、ロロの意識もはっきりとしてくる。

さっきまでぼんやりとしていた彼は、神秘的ながらも畏ろしいという、周囲の異様な光景に怯え始めた。


「ひぇっ……クロー、ここどこ?」

「ティタンジェルの底だ。地下にも森が広がってるらしい」

「血みたいな木、ほねだらけのキノコ、なんかボヤボヤしてる花、どれもぶきみだよ……」


特に目立つ部分を見て俺によじ登ってくるロロは、神獣であるはずなのにブルブルと震えていた。


ただ神秘的で綺麗な森より、こっちの方が神獣らしい場所ではあるはずあるんだけど……

まだ子どもで、初対面の時には人の世界で捕まってもいたから、無理もないのかもしれない。


しかも、目立たないところではバチバチと帯電していそうな草や、木を溶かしている花粉を撒く花もある。

外の神獣だと、年齢関係なくキツイ環境な可能性もありそうだ。……まぁ、決して生物が生きられない環境ではないが。


「やべーやつを閉じ込めとくとこらしいからな。

そんで、そこに落とされたのが俺達と……あの危険人物達だ」

「うわぁ、しゅーじん……こわ……」


セタンタ達の方を見るように促してみると、ロロは揺れ動く繭のような彼らに眉をひそめた。

どうやら、周囲の異様さよりも彼らの暴れっぷりの方が気になったらしい。


俺としても、現在進行系で危機感を覚えるのは、環境よりも断然あの2人のギスギスや暴走具合だ。

ぜひ、あれを落ち着かせるのに協力してもらおう。


「ガノがここを出る方法を知ってるらしいし、単純に危険を減らすためにも全員で協力したいんだよな。

念動力で落ち着かせるの手伝ってくれないか?」

「あいさー!」


同じ認識を持ったロロなので、当然断りはしない。

少しばかり怖がっていたものの、それも恐怖というよりは、何こいつこわ……という性質なので、問題なしだ。


彼は森から意識が逸れたことで俺の体から離れると、朧気に光を放っている草の上を一緒に歩き始める。


たまに口のような葉を持つ植物もいるが、近くに生えた雑草はちょっと粘着質な程度で、すぐに木に拘束されて繭のようになっている彼らの元に辿り着いた。


万が一のために念動力を準備してもらってから、俺は彼ら……特にガノの説得をするべく口を開く。


「おい、ガノ」

「ここならいい毒が……何ですかぁ?」


どうやらフェイの毒殺を企んでいたらしいガノは、俺が声をかけると左右に揺れていた動きを止め、周囲を物色していた目を前に向けた。


たとえ標的じゃなかったとしても、こいつの性格で毒持たせとくの無茶苦茶怖いな……


「お前、ここから出る方法知ってるんだろ?

協力してここから出ようぜ」

「あー、まぁいいですよ」

「たしかにお前より弱いかもしれねぇけど、俺の力は……

あれ? いいって言ったか?」

「えぇ。ここを攻略できるものなら……ですがねぇ」


聞き間違いかと思って確認すると、彼は丁寧な口調を保ちながらも、凶暴に歯を見せて答える。


まさか即オーケーしてもらえるとは。正直、普通に断られると思っていたから、つい返事を聞かずに交渉を始めていた……


しかし、条件? 攻略できるものならってのは何だ?

何かトラップとか番人がいたりとかするのか?


……少し不安要素もあるけど、とりあえず次はセタンタだ。

念のためロロに監視を頼むと、俺は隣でまだ騒いでいる彼に声をかける。


「えっと、セタンタは協力してくれるよな?」

「はぁ!? こいつと一緒なら同行しねぇよ!! バカか!!」

「待て待て。こいつは脱出方法を知ってんだぞ?

お前が知ってんならいいけど、そうじゃなきゃ必須だ」

「崖登りゃあ出れんだろうが!!」

「どうだ? ガノ」

「バーカ、ルーンの結界で中からは許可なく出れねぇよ」

「ほら」

「死ね!!」


ガノの答えで必要だと同意を促すと、彼は反射のように暴言を吐く。中身がガキなの知ってるからあれだけど、やっぱり暴力暴言ばっかだな、この男……!!

その死ねは一体どっちに向けて言ったんだ……?


ロロに視線を移してみると、彼はもう興味をなくして周りの草とじゃれていた。さっき怯えてたのはどうしたんだよ……

俺はつい大きなため息を付いてから、さらなる説得材料を求めてガノに問いかける。


「はぁ、とりあえず話を聞こう。脱出方法教えてくれ」

「ふーむ、もしかしてこれ、言わない方が協力できたり?」

「どっちにしろ生存確率上がるんだから協力してーよ。

早く言って説得材料をよこせ」


ガノはもうだいぶ冷静になっているようで、初対面や案内中のような取り繕った丁寧な態度だ。


流石にヤバい暴れ方はしないと判断した俺は、繭のような木の拘束を解きながら促す。

すると、彼はやたらご機嫌に笑いながら説明を始めた。


「ハッハッハッ!! 簡単に言えば、7つの試練があると言った感じですかねぇ。憤怒、強欲、傲慢、怠惰、色欲、暴食、嫉妬。これら7つの間に、それぞれを守護する神獣がいます。

全てクリアすれば晴れて解放自由の身。ただし、彼らは円卓の騎士と同等以上の実力者揃いです。円卓の騎士の序列4位である私でも、勝率は5割ないでしょうねぇ」

「そんなやべー神獣が7頭もいるのかよ……

やっぱガノいるだろ? な?」

「死ねッ!!」

「お前はそればっかだなぁ」


すべての説明を聞いて、再びセタンタに水を向けてみても、彼は相変わらず死ねしか言わない。おそろしい凶暴性だ。


とはいえ、ガノを取ってセタンタを捨てる……なんて選択肢はないし……どうしたもんか。


そもそも、円卓の騎士の序列4位で勝率5割ないって、もはや誰なら全員に勝てるんだ……?

これ、確実に罪人を出すつもりがなくないか……?


「……なぁ、これ攻略できるやついんの?」

「んー? 序列3位から上なら、勝率8割超えるんじゃないですか? 7連勝となると、流石に5割以下でしょうが。

まぁ、さっきのティタンジェルと繋がっていて、罪人を裁くための場所が審判の間ですからねぇ。超高難易度ですよ」


試しに聞いてみると、ガノは軽く体をほぐすように剣を振りながら、適当な感じで答えてくれる。

3位から上……つまりは、ソフィアさんとオスカー、そしてまだ見ぬ2位のやつだ。


恐ろしいソフィアさんや、無茶苦茶なことばっかのオスカーですら完勝できないとか……やべぇな審判の間。

戦力はこれでも足りないくらいだぞ……


「それ聞いて、まだガノと共闘しねぇの?

森出たいんだろ? このままじゃ地下すら脱出できねぇぞ」

「さっさと出せ!! 俺は自由に生きるんだ!!」

「ククッ、じゃあ共闘してくださいよ。

今ならなんと、サービスで美味しい果実もついて‥」

「どーしても手を貸してほしいってんなら、仕方ねぇ!!

貸してやらんこともないぜ!!」


ガノが果物について言及すると、彼はそれが原因で審判の間に落とされたというのに、すぐに食いついた。

説得していたこっちがビビるくらいにチョロい。


しかも、なぜか上から目線というおまけ付きだ。

すでに木から解放されていたガノは、明らかに凶暴な笑みを浮かべている。


「ハッハッハ……こいつ、殺していいかぁ?」

「や、め、ろ」


セタンタも解放されれば、また殺し合いが起こるかもしれない。だが、このままでは一方的に殺されるだけだと察して、俺はガノを静止しながら、慌てて彼も解放していった。


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