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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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232-怠惰なる王様・前編

一方その頃。いち早く依頼を終え、キングとクイーンに連れ回されていたライアン達は、周りに十数匹ものケット・シーがいる中でその通告を聞いていた。


『通告……依頼はすべて達成された。

王よ、おれの研究所まで来い』


ここはケット・シーの森の奥深く、森の陰にて月光のような輝きを湛える、神秘的な花畑の前。

周りを見ても深い陰を生む木々ばかりのこの場所で、どこからか流れてきたアールの機械的な言葉が響く。


その内容は、依頼の達成と森の王――キングの捕縛。

この2つが表すこととは、もちろんケット・シーの王に助力を得る時が来たということだ。


全てが初耳であるキング達七皇は、座りながらポカンとしており、そんな彼らについてきて花見をしていたケット・シー達は、今は通告に従って彼らの行動を観察している。


だが、もちろんライアン達は彼らの思考が追いつくのを待つことはしない。速やかにこの国に来た目的を果たすために、キングの説得を開始した。


「なぁキング〜。俺達がこの国に来た理由知ってるか〜?」

「え? ちょっと待ってよ。そもそも、あの魔獣討伐は誰かに依頼されていたのかい? なんでそれが達成されたからってボクが研究所に……それがその理由か。知らないよ」


まず前提として、キングはライアン達の目的を知っているのか。ライアンがその確認を取ると、彼はそもそもジャージーデビルを狩っていたことが依頼とすら知らなかったようで、目を白黒させ始める。


しかし、仮にもこの森の王をやっているキングだ。

すぐに気を取り直すと、美味な果実に釣られて目を光らせるケット・シー達に注意しながら言葉を返す。


「あっはっは、やっぱり知らなかったか〜。実は俺達、お前に会いに来てたんだよな〜」

「……なんでかな?」


朗らかに笑いながらも、油断のない目つきで自分を見据えるライアンに対して、キングは若干腰を浮かしながら問う。

隣に座って花を楽しんでいたクイーンは、黙って成り行きを見守っていた。


「それはだな〜……ブロセリアンを突破する戦力に‥」

「ごめんねー、急用を思い出したよー!! クイーン、ボクの代わりに彼らの相手をしてあげて?

決してボクの邪魔をさせないでね!!」


戦力。その単語を聞いたキングは、それだけで彼らの目的を全て察したようで、尻尾から炎を噴出しながら羽ばたいていく。紛うことなき全力逃走だ。


それを見た周りのケット・シー達は、同じく羽を生やして捕縛しようと飛んでいき、ライアンも慌てて腰を上げた。

ローズも茨で体を浮かせ始め、フーも風をまとって追跡体勢である。唯一、ソンだけが我関せずの態度だ。


「あっ、お前っ……!!」

「お安い御用ですわーっ!! いまいち状況わかりませんけれど、王の行く手を阻む者は何人たりとも許しません!!

マーショニスっ!!」


しかし、ライアン達がキングを追い始める前に、彼の言葉を聞いたクイーンが立ち塞がる。

ローズと同じように地面から無数の植物――木々を生やしていき、それを操ることで彼らの足止めを。


攻撃の意思はないため、規模はそこまでのものではないが、それでも5メートル近い木々の壁は突破困難だ。

走り始めていたライアンだったが、空を飛ぶフーとは違って地面を走るため先に進めない。


それと同時に、彼女は取り巻きでありながら親友、右腕でもあるマーショニスにも指示を出していた。

やはり羽を生やして空を飛ぶ彼女は、フーに水球の弾幕を繰り出して地面に叩き落そうとしていく。


「はいはーい、お任せあれー」

「っ……マーさん、邪魔……!!」


最初は避けられていたフーだったが、足止めされているうちに完全に上を取られてしまう。上から下へとなった弾幕は、まるで土砂降りの雨のようだ。


1つ、また1つと直撃していき、やがて勢いよく地面に叩きつけられることになった。


しかも、マーショニスの水球にやられるのはフーだけではない。クイーンの木々に茨を飲み込まれたローズは、壁を超えることができずに地面に落とされていた。


それも、茨の守りがない状態で、である。

水球に生身の体を晒していた彼女は、自身に降り注ぐ神秘の水を防ぐことができずに悲鳴を上げた。


「きゃっ……!?」


"獣化-ヴォーロス"


だが、その水球が彼女を直撃することはない。

行く手を阻まれ、クイーンとマーショニスが敵対したことを認めたライアンは、素早く彼女に駆け寄ると、巨大な熊となることでその攻撃から彼女を守る。


水球は上から下にのみ。横から襲いかかることはないので、ローズは完全に守られていた。


「ライアン、ごめんっ!」

「いいっていいって〜。俺が守るって言ったろ〜?」

「そ、そうだね……あと、私の全てを奪うって……」

「あっはっは! 落ち着いたらそうしよう。

ただ、今はキングを捕まえるための能力だけな……」


慌てて謝るローズに、ライアンは軽い調子で笑いかける。

その言葉を聞いて途端に赤面する彼女だったが、彼は真面目な口調で流すと、槍を突き立てた。


"スリュムヘイム"


現れたのは、雷のように黄色く、轟くような音を発して敵の力を奪う蜘蛛の巣のように広がるサークルだ。


その効力によって、サークル上にいたクイーンの植物はやや萎れていき、マーショニスの雨は勢いを弱める。

さらに、ライアンの右手に握られた槍には赤い炎が散り……


「さぁ、魔熊の膂力を見せてやるぜ〜!」


彼が全力で槍を振るうと、木々の壁は燃えながら切り裂かれ、雨はほとんど吹き飛び、道を開けることになる。

槍の炎が移っただけで元々火力が低く、マーショニスの雨もあったため周囲に被害は一切ない。


しかし、自分の生み出した壁を一瞬で突破されたクイーンとただの雨にされたマーショニスは、大いに面食らっていた。


「ほえー……これ加減してたら勝てないなー」

「なんですのあなたっ!? 巨大な熊になる上に炎も使えるだなんて、ズルいじゃありませんか!!」


クイーンとマーショニスは、どちらも背中に生やした翼で羽ばたきながら、上から彼らを見下ろしている。

だがその反応は真逆で、マーショニスは平然とした態度であるのに対して、クイーンは騒がしい。


普段と変わらないといえば変わらないが、感情的になったとも言える彼女を見たライアンは、まずは数的有利を作るべく彼女達の説得を開始した。


「あっはっは、これでもここまで来るのには苦労したんだぜ〜? ……ところで、あんたは俺達の目的を知ってるか〜?

最終的には一緒に戦ってもらうことになるけど、ほとんどはキングとの旅行ってことになるんだけどな〜」

「えぇっ!? 本当ですの!?」

「……あ、これは裏切るパターン」


彼にキングとの旅行が目的だと聞いたクイーンは、食い気味に確認を取り始める。その様子を見たマーショニスは、もうこの先の展開を読んでリラックスしていた。


同時に、彼女が操っていた水球も意味を失い、あっという間に収まっていく。地面に押さえつけられていたフーは解放され、ローズもライアンの下から出ることが可能になった。


ただし、マーショニスの力を歯牙にもかけなかったソンは、ずっとくつろいでいたので変化なしだ。

パサパサとマントの水滴を払いながら、ライアンとクイーンのやり取りに耳を傾けている。


「もちろん本当だぜ〜。この後アストランに行って、その次はミョル=ウィドに行く予定なんだよな〜。来たいか〜?」

「べっ、別にあの方と旅行したいなーだなんて思っていませんわっ!! 思っていませんので、このまま足止めしていても構いませんのっ!! 構いませんが……まぁ!? あなた方は大変お困りのようですし!? やはりこの国のナンバー2としては、お助けするべきなのかしらねっ!?」


詳しい予定を聞いたクイーンは、一瞬目を輝かせたあと顔を反らす。だが、同行したいという気持ちはダダ漏れであり、つらつらと並び立てている言葉は、明らかに協力するというものだ。


これには、地面に倒れていたフーを起こすマーショニスも、話を振ったライアンも、やや意味合いが異なっているものの、同じようにニヤニヤしながら彼女を見つめ始める。


ソンは未だに無関心、ローズはクイーンのあまりのチョロさにあ然としていた。


「うんうん、めちゃ困ってんだよな〜。

助けてくださいよ〜ケット・シーの女王様〜」

「し、仕方ないですわねっ!! 助けて差し上げますわっ!!

この(わたくし)が手を貸すのですから、確実にあの方を旅行に……こほんっ! あの方の助力を得ますわよっ!!」

「お〜!」

「あはは……ライアンって意外と交渉上手くない……?」


ダメ押しのように頼られたクイーンは、同行したいという気持ちを指摘されなかったこともあり、渋々といった風を装いながら協力を約束する。


主力は3対3だったキング捕獲戦は、クイーンとマーショニスの裏切りにより5対1という圧倒的戦力差だ。

彼らは研究所に向かい始めるソンを放置し、キングを追って森を進み始めた。



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