表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
263/432

225-外堀を埋めるために

「さて、では次の行き先を決めましょうか。

私が案内できるのは、王様の住処くらいなのですが……」


リューとアブカンにアールの実験を任せて塔を出た一行は、少し離れてから投げかけられたバロンの言葉で立ち止まる。

この塔に来る前に彼から聞いた依頼は、ここでの研究協力、魔獣討伐、女王の話し相手、苦労人の事務手伝いだ。


1つ目の研究協力は担当が決まったが、残る3つも担当を決め、手分けして速やかに終わらせなければならない。

その内、魔獣は一所にとどまっているはずがないし、女王はこの森を我が物顔で闊歩しているという。


唯一、苦労人のデュークだけは王様の住処で事務仕事をしているらしいので、案内があるのはここだけという現状でどう分担するか決める必要があった。


最も怪しげなアールの研究を除けば、最もつらいのが過酷な事務仕事てまあるため、彼らは難しい顔で相談を始める。


「どうします? まずは探さないとですけど、お嬢は女王の相手で大丈夫ですか?」

「うん、いいよ。普通に適任だろうし」

「わかりました。でも、彷徨うなら意味ないかな……

バロンさん、心当たりとかありません?」

「そうですねー……彼女は騒がしいというか、派手というか。

一言で言えばやたらと目立つ人なので、まぁ賑やかな場所にでもいるんじゃないでしょうか」


ローズの了承を受けたヴィンセントが問いかけると、バロンはどこか遠くを見ながらゆっくりと呟く。

彼は女王の居場所を知らないとのことだが、それでも同じ七皇として、やはりその性質はよく理解しているようだ。


ないよりはあった方がいい、という程度の手がかりではあるが、彼は十分女王を探す助けになる情報を伝えてくれた。

しかも、ライアン達がクロウと長く行動を共にしたからなのか、やたらと運がいいことに……


「なるほど、賑やかな‥」

『キャ〜っ!! 女王様〜っ!!』


ヴィンセントが彼の言葉にうなずいていると、タイミングよく賑やかな声、そして女王という単語が飛び込んできた。

かなり遠くから響いてきた声ではあるが、明らかに女王だと思われる賑やかさだ。


これには元の性格へと戻りつつあるフーは笑みを禁じ得ず、ライアンなどは呵々大笑している。

唯一ソンだけは興味なさげだが、ヴィンセントも困ったように目を泳がせていた。


「……えっと」

「ははは。いましたね、女王」

「ですよねー……これはたしかに賑やかだ」


戸惑うヴィンセントに、バロンは愉快そうに笑いかける。

同じ七皇として、彼女のことをよく知っているであろう彼がいたと言うのだ。


距離があってやや不確かではあるものの、王様の外堀を埋めるための依頼対象、女王で確定だろう。

探す手間が省けたローズも、目指す場所がはっきりしたことでホッとしたように笑っていた。


「あはは、じゃあこの声を辿ってみればいいかな?」

「お〜、それでいいと思うぞ〜! あっはっは!!」

「フー、お嬢のことよろしくね。

あ、一応ヴァイカウンテスさんも連れて行って」

「……ん」


依頼相手を見つけたローズは、ヴィンセントに頼まれたフーを伴って声がする方向に向かっていく。

彼女はヴィンセントの背中からヴァイカウンテスを移動させているため、ローズは満面の笑みである。


残る3つの依頼、その1つ目が進行開始した。

それにより、残る依頼は魔獣討伐と苦労人の事務手伝い。

この場にいるのは、ヴィンセント、ライアン、ソン、それからバロンだ。


もしもバロンを含めるとするのなら、2対2で分かれられる。

最初からソンは魔獣討伐と宣言していたので、あとはどちらが事務を担当するかだった。


「あとは討伐か事務だけど、どうする?」

「私は魔獣討伐だ」

「知ってますって。ライアンか俺かって話」

「……そうか」

「いや〜……ここは流石に、なぁ?」


ソンが魔獣討伐に立候補すると、既に塔を出る時に聞いていたヴィンセントは苦笑しながら同意する。

しかし、彼かライアンかということでも、どちらが事務仕事に適しているかは考えるまでもない。


ソンが何を考えているかわからない無表情でうなずく横では、災いを呼ぶ茨槍(ボルソルン)を手頃なサイズにしたライアンが懇願するような目を彼に向けていた。


「あはは、まぁ俺だよね。……ケット・シーの国の政務かー……どんなことするんだろう? 流石に自信ないけど」


すると、そんな彼を見たヴィンセントは、もうローズがいないからかやや肩を落としながら、渋々と了承する。


彼は普段から旅の雑用などをしているが、いくら色々な作業をしてきたとはいっても政務ではない。

ライアンがするには不安がある、国は国でもケット・シーの国の事務だ、とはいっても、流石に不安があるようだ。


「安心してください。どうせ暇なので、私も手伝いますよ」

「え、こんなに案内もしてもらったのにいいんですか?

本当にありがとうございます、お世話になります」

「ははは。私も普段、彼に任せっきりですからねぇ。

人手が減るなら仕事も減らしておかないと……と思いまして」


しかし、そこは森の相談役――バロンの出番である。

森の先生であるヴァイカウンテスと違ってしっかり者である彼は、頼むだけ頼んで余所者の素人に丸投げはしない。


ズレたメガネを持ち上げながら、朗らかな笑顔で協力を申し出た。彼自身もデュークに任せっきりで、その仕事に関しては素人だろうが、だとしても確実に楽にはなるだろう。


その申し出を受けたヴィンセントは、多少は人となりを知っている彼の協力にホッと胸を撫で下ろしていた。


「バロンがそっち行くのは別にいいけどさ〜。

魔獣ってどこに行けばいいんだ〜?」


だが、そうなるとこの場に案内ができる者はいなくなる。

ヴァイカウンテスはローズに連れて行かれ、バロンは今しがたヴィンセントの手伝いに決まったばかりだ。


一応は来たことがあるとはいえ、それも随分前のことであり、余所者であることにも変わりがないライアンは、やや不安そうに口を開いていた。


すると、もうヴィンセントに同行することが決まったバロンは、にこやかにその質問に答えていく。


「それこそ賑やかな場所ですよ。

魔獣はケット・シーにとって外敵なのですから」

「あー……暴れてるだろうし、逃げるだろうし?」

「はい、その通り」

「前回はキングに無理強いされたからな〜……

あれはあれで嫌だったけど、こっちのが大変そうだ〜……」


自分達にだけ案内役がいない。

その指摘に対するバロンの答えは、割りとその依頼を受けた者に丸投げするようなものだった。


それこそ、もうほぼ見つかっていると言える女王ではなく、こちらにヴァイカウンテスをつけるべきだったと言える程に。


とはいえ、ライアンもあまり下らないことで怒るタイプではない。ガックリと肩を落としていながらも、特に文句を言わずに淡々と現状を受け止めていた。


「まぁ、もちろん目安は教えますとも。

今回の討伐依頼は、ミョル=ヴィドからやってきたジャージーデビル。それから北東からやってきたレグルスの討伐です」

「はぁ〜!? またレグルスなのかよ〜……!!」


未だ明かされていなかった討伐依頼の内容を聞き、ライアンは思わず声を荒げる。怒りや文句というよりは、呆れに近いものではあるが、かなり感情を揺さぶられたらしい。


度々レグルスの能力を使っている通り、どうやら彼は前回もレグルスを討伐し、既に力を得ているようなので、無理もないことなのかもしれないが。


「あれはよくこの森にやってくる。それを処理するのも本来は王様の仕事なのですが、やはりデュークが尻拭いをしているというね。はははははっ!」

「……笑い事ですか?」

「いいや、笑えねぇな〜」

「……」


バロンは毎回討伐対象になるレグルスについて設定するが、そのついでのようにデュークの苦労話が飛び出し、ライアン達は思い思いの反応を示す。


ヴィンセントは戸惑いながらも疑問符で、ライアンは笑いながらも真っ向から否定し、ソンは無反応。

それを見たバロンは、流石に言い過ぎたと思ったのか、目を逸らしながら王様のフォローを始めた。


「ははは。まぁ、王様も何度も言われれば動きますよ?

手が空いていれば、私もたまに説得しています」

「それでも笑えませんって……」

「ははははは……」


しかし、それでもヴィンセントは引いているようだった。

わざわざ狩りに行けと言わなければいけないのだから、当然だ。


バロンは乾いた笑い声を響かせると、今度こそ討伐の対象になっている魔獣を探す目安について話し始める。


「まぁ、そんなことは置いておいて‥」

「根本から見直した方がいいと思うが」

「さっきも伝えた通り、レグルスは北東方面を、ジャージーデビルはミョル=ヴィド方面――北北西方面を探せばいいかと」

「細けぇな〜……」

「ははは。まぁ、どちらにせよ北方面です。ご武運を」


興味なさげながらもソンが放ったツッコミ。

それを完全に無視してバロンの説明は続く。


討伐対象であるレグルスとジャージーデビルがいる、大まかな目安についての説明が。

それを終えた彼は頭を下げ、メガネを持ち上げながら王様の住処への案内を始めようとしだした。


「ではデュークの元へ参りましょう、ヴィンセントさん」

「バロンさんって、案外ノリがいい人ですね……」

「ははは。これでも人間臭いアールと違って、自然に生きるケット・シーですからね。まぁ、基本は自由なものですよ」

「あはは、接しやすくてありがたいです」

「ははははは」


ヴィンセントは苦笑しながらも彼の案内に従ったので、この場に残るのはわずかなヒントのみで放り出されたライアン達だけだ。


談笑しながら去っていく2人の後ろ姿を、ライアンはただ呆然と見送っていた。


「行かないのか?」

「あ〜……そりゃ行くさ〜……」

「なら急ぐべきだと思うが」

「へいへ〜い。なんで円卓の騎士であるお前が急かしてんのかは謎だけど、わかってるぜ〜」


しかし彼らも、できるだけ急いでミョル=ヴィドに攻め込むため、のんびりしてはいられない。いや、ソンは本来、それを阻むような役どころではあるのだが……ともかく、彼らは呆然と2人を見送ったあと、ソンの言葉で捜索を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ