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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
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24-大図書館司書

ウィズダム大図書館は、外観からも凄そうな雰囲気があったが内装も圧巻だった。


もちろん綺羅びやかな訳ではない。

実際、ほとんどは装飾というよりは蔵書量による感想。


そのあまりの蔵書量により、視界の全てが本で埋め尽くされる。

それが何十メートルも上まで、そして町レベルの広さで存在しているのだ。本嫌いなら病気になる。


そして装飾は、細かな所に施されており上品だった。

手すりの模様やネオグレックのインテリアは本棚に負けないほど立派だが、主張し過ぎず蔵書を引き立てるように存在している。


それを灯りが照らすことで、本の大聖堂と言いたくなる威容を見せていた。


「これを見ると何でも知れそうな気になるな」

「ほんとだね。フラーの一番大きな図書館なんてこのフロアより小さいかも」

「まじか……」


俺達が今立っているのは、本の無い待合スペースのような場所。

そして頭上は吹き抜けになっており、全10階全ての本棚が見える。

ローズが言うこのフロアというのがどこまでかは分からないが、突き当りには扉があり、多分同じような空間がまだまだある。

頭がおかしくなりそうだ……

リューとロロも、口をあんぐりと開けている。


「すげー……」




しばらく圧倒された後、俺達は誰もいないことに気がついた。

外には衛兵がいたが、中には職員すらいない。


「これ、どこに行けばいいんですかね?」

「うーん……この図書館の司書に会えとは言われたけど……」

「中に衛兵はいねぇのかな」


そう辺りを見回していると、突然3階部分の本棚の森が割れ、階段が伸びてくる。

相変わらず誰もいないがこれは……


「来いってことだよな?」

「あはは……すごいスケールだね……」

「テンション上がるぜ」


俺達は誘われるがまま3階部分へと進んだ。




~~~~~~~~~~




3階に登り奥へ進んでも、左右には尽きることの無い本棚が立ち並ぶ。

その本の密度も上がってきているし、神秘も本の匂いも濃くなっていく。


そんな中にポツンとそれらはあった。

小さなテーブルとイス、そしてそこに座っている分厚い本を読む小さな少女。

やけに大きな帽子を被っていることや、周りが巨大な本棚なのも相まってより一層小さく見える。


「……よく来たの」


俺達が近づくと、少女は本から目を話さずにそう言った後、視線を向けてくる。その俺達を見つめる目は、いくつもの色に満たされていて星のように輝いていた。

……容姿に似合わない口調だ。


花の女王(ティターニア)……そよ風の妖精(ゼプュロス)……恵みの強風(ノトス)……お主は幸運の呪い(チル)と言っておったか……うむ。なかなかよいの」

「……誰のことを言ってるんだ?」


見に覚えの無い呼び名だ。

いや、たしかフーとの戦いでそう口走った気もするが……

必死だったからかあまり覚えてないな。


「無論、お主らのことじゃよ。4人の神秘の名じゃ」

「私はそう名乗った事はないんですけど……」

「うむ。それもうちの子から聞いておるよ。その上で、じゃ」


ローズは困惑の表情を浮かべる。

俺もちょっと、ついて行けてる自信がない。

え……どうするのが正解?


魔人一同が言葉に詰まっていると、ヴィニーが助け舟を出してくれる。


「すみません。私達はローブの大厄災にここを紹介されて来たのですが、貴方が司書殿ですか?」


ヴィニー……いつも頼りになりすぎる……


「そうじゃ。わしが司書、シル・プライスじゃ」




「……ええと、ここに来れば強くなるきっかけが出来ると聞いたのですが……」


再び視線を本に戻した彼女にヴィニーが再び問う。

この話しかけにくい雰囲気に、よく話しかけられるな……

ありがとう!!


「そう言われてもの……わしはただの老いぼれじゃ」

「え、その見た目で?」


暗に出来ないと言われたが、そっちではなく衝撃発言の方にリューが食いついた。


「ふふ……若く見られるのは嬉しいが、わしは3418歳じゃよ」

「ふぇー‥すげぇなあんた」

「いきなり元気じゃな、恵みの強風(ノトス)

……そうじゃな、すごいかもしれん。

じゃが強力な魔人ならばさらに悠久の時を生きておるよ」

「まじか〜」


俺の村よりも長く生きてないか、これ?

口調は背伸びしてるのかと思ってたが、間違いなく老人だな。


身長も150センチなさそうで、声も見た目も幼く見えるのに……

神秘になるとこうなのかな?


「……神秘に成ったら寿命が伸びるのか?」

「いや、寿命はなくなるのじゃ。殺されれば死ぬが、何もなければ永遠に生きるよ」

「永遠……」


そうか……村のみんなは死んでしまったのに、俺だけが……

つい、そんな感情に支配されてしまう。

すると、何を思ったのかシルが穏やかに問いかけてきた。


「……お主らは大厄災と戦うのかの?」


その問いかけを聞くと、リューは俺達を振り返り、身を引く。俺達から言えってことか……


「私は……分かりません。私に責任があるのは、フラーだけですから」

「ふむ」


シルが俺に視線を移す。

全てを見透かされている気分だ。


「……その前に1ついいか?」

「よかろう」

「俺達はここに来るまでに1人の魔人と戦った。それも‥」

「知っておるよ。大厄災、暴禍の獣(ベヒモス)じゃな」

「やっぱあれもそうか……ちなみに俺の出身の村は」

「知っておる。……奴が喰ったの」


目を閉じ、深呼吸をする。予想は、してた。

見覚えがありすぎる。


あれが作り出したクレーターの周りには、ところどころガレキの山があった。

そしてライアンと出会ったのは、村からそう遠くない草原。


ガレキの山には、少しだけ村の家のような木が混じっていたし、村は気がついたら滅んでたし……

覚えていないということは、多分一瞬だったのだろう。


それにいくつか消え去った家もある。

あれがたまに口に入れた異物を吐き出すなら、あの山はあいつの生み出した物だったってことだ。


つまりは仇。

記憶がなくて他人事にしかならないけど、気づいたらもうなかった故郷だけど。確かにあった、俺の居場所。

なら俺は……


「俺は戦います。村のみんなが大厄災に殺されたのなら、その無念は俺が晴らしたい」

「そうか……」


シルは続いてヴィンダール達に視線を移す。


「俺は化け物に殺されたくねぇから来ただけだ。

だけど……俺は記憶が欠けてる。もし大厄災の誰かと因縁があれば、戦う」

「…………」


次にヴィニー、そしてロロ。


「私はお嬢の心のままに」

「オイラはクローが好きだから。クローが戦うなら戦うよ」

「そんな理由でいいのかよ」

「うん。だって親みたいなものだもん」


驚いて聞いてみると、ロロはしれっとそう答える。

生まれてすぐ牢屋ってのは想像以上に重いな……

助けた俺が親代わりか。


「そうか。……ヘズ」


今度は何だ? 近くには誰もいないけど……

特に誰を見るわけでもなくシルはそう呟く。


「そういえば、お主らの名前を聞いとらんかったな」


そう聞かれたので、今更感が否めないが取り敢えず改めて名乗る。名前の前に呪いを認識してたとは思わなかった。


自己紹介が終わると、ローズは聞き覚えのない方の名前について質問していく。


「ところで、何で呪いに名付けて呼んだんですか?」

「お主はもっと気楽に話してくれて構わんよ」

「あっうん」

「魔人にも聖人にも似たような力の者は現れる。区別するためにそう呼んどるよ。

それに、かつての神話を模す方が力を得やすい」


ライアンが言っていた心の在り方……定まるってやつだな。

俺が真面目に考えていると、ローズは話の途中でシルに近づいていく。


「そうなんだ~」

「……何じゃ?」


何をするんだろうか、と思っていると……


「な、何をする! やめんか!」

「かわいいね〜」


シルをもみくちゃにしだした。

うん、見た目と口調のギャップがすごいからな。気持ちは分からんでもない。

それを見たフーも、近づいてシルの頬を突く。


「お主もやめんか!」

「…………」


ただフーは無表情、無口だから怖いな。

しばらくそんな癒やし空間を眺めて、気を緩めきっていると……


「何をなさっているので?」


突然声がかけられた。


「うわっ」


俺達が飛び上がって振り返ると、目を閉じている長身の男が真後ろに立っていた。

……毎回毎回、魔人には気配がないのか?


「おや失礼。あまりにも聞き慣れない音だったもので」


その男は目を閉じたまま、つかつかとシルに歩み寄る。


「何の御用で?」

「ほれ、お主ら離れんかい……全く」


彼女はローズ達追い払うと居住まいを正す。


「うむ、彼らはしばらくここで暮らす。部屋まで案内してやってくれ」

「いいですけど……道は貴女が作るのに、私が案内するんですか? そもそもいらない気がしますが……」

「ばかもん。こういうのは礼儀じゃ。ほれ、はよ行けい」


追い払うように手を払いながら彼女は言う。

さらにその手にはいつの間にやら杖があり、それを床に打ち付けると本棚や壁、床が動き出す。

……さっきよりも規模がでかい。


「……そうじゃな、強く……出来なくもない。

……リューとフーは、死ぬ覚悟が出来るなら後でまたここまで来るのじゃ。

クロウは……ヴィンセントとかの。覚悟はしなくともよいぞ。

そしてローズはわしが動かすべきではない。すまんが自力で頑張るのじゃ」

「分かった」


最初は無理そうな口ぶりだったがやっぱり来てよかった。

リュー達の覚悟ってなんだろう?


「オイラには何かないの?」

「神獣殿に口など出せませぬよ」

「そっか……」


後で慰めてやんねぇと……

シルはもう既に読書に戻っていた。

俺達はそれを尻目に建物の奥へと進む。


「彼女が呼ぶのを聞いていたかもしれないが、私はヘズだ。よろしく頼む」

「おう、よろしくな」


前を進むヘズと軽く挨拶を交わす。

彼は目が見えない……らしい。ずっと閉じたままで、だが何の不自由もなさそうに進んで行く。


「目の事は気にしないでくれ。呪いで問題ないからな」


それを不思議に思っていると、それを察したのかヘズはそう言う。呪いって……心も見えるのかな?


「何の呪いなんです?」

「音だよ。名を、世界の調べ(オルフェウス)という」

「それも、私みたいに彼女に名付けられたの?」

「そうだよ。彼女以上の知識を持つ者はいないからね。

彼女は、彼女が生まれてから起きた全てを知っている」

「は!?……マジで?」

「ああ、マジだ」


半端ねぇ‥‥

これは期待できそうだ。


エリスももう放って置くつもりはないが、少なくともあの獣は俺が殺さないといけない。

絶対に強くなってやる。


でもあの情報だけでも俺には価値があったな。


結局俺はレイスの思惑通りに動く事になったが……

うん、俺の道は決まった。


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