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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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219-ケット・シーの国

リューとライアン、フーとアブカンが交代交代で駆け抜けること数日。援軍を求めてはるばるやってきた彼らは、ついに目的地であるケット・シーの国へと到着した。


今回もノーグを出発した時と同じように、リューとライアンが当番だ。ローズは遠慮なく彼に纏わりつかせていた茨の中から出て来ると、故郷に近い景色に感嘆の声を漏らす。


現地の住人と出会うまでは案内役を務めるライアンも、彼女にうなずきながら懐かしそうに目を細めている。


「ここがケット・シーの国かー」

「まぁ、これを国って呼べるのかはわかんねぇけどな〜。

だけど呼べるんだとしたら、確かにここがそうだぜ〜」


彼らの目の前に広がっているのは、圧倒的な大自然。

ミョル=ヴィド程の神秘的な雰囲気や雄大さはないが、円卓の騎士という管理者がいないためか、より自然そのものといった感じの森だ。


もちろん人も一切いないので、円卓の騎士だけでなく人の手が加わることもない。邪魔だったのか多少は整えられた場所もあるが、やはり概ねそのままの自然の姿である。


これには同じく初めて見るリュー達も目を見張り、ヴィニーも歩きながら興味深そうに観察をしていた。


「……ただの森じゃねぇか。これが国……?」

彼らがいるから、まったく人が寄り付かないんだろうね。

俺もこっちまで来たことはなかったし、ここまで自然のまま残されている場所なんて初めて見たよ」


基本的に人よりも獣が優勢なこの時代だが、やはり人はどこにでも行こうとするため、ここまで手付かずの自然は珍しいようだ。


おまけにここはフラーの近辺で、ただの森が国だとまで言われるのだから、驚くのも当たり前だろう。

ローズの故郷であるフラーは人の国、そして森は本来国ではないのだから。


「何を言っている? これは荒れているだけだろう?

神獣が暮らしているのならば、本来ある程度は整えられる。

ここまで自然のままなのは、ただの怠慢でしかない。

この国の王は相当な怠け者と見た」

「当ったり〜! 流石神獣だな〜ソン」


しかし、普段から大自然の中で暮らしている神獣であるソンからしてみれば、これを自然のままと言われるのは違和感があるらしい。


どこまでも美しく神秘的なミョル=ヴィドで生きている彼は、ケット・シーの国をただ荒れていると辛辣に評した。

さらにはその予想まで本当に当たっていたらしく、ライアンもニカッと笑って見せる。


「それもそうか……強力な神獣は人と変わらない。

彼らだって、自分達が過ごしやすいように環境を整える」


ソンの言葉を聞いたヴィンセントは、「他の土地よりも人が寄り付かないからだろう」という予想を覆されて、感心したように呟く。


神獣とは、この星に満ちる神秘そのものと成った獣。

神秘的な自然の力を、思うがままに操る獣だ。


だが、八咫の大口真神(オオクチノマカミ)に代表されるように、彼らは人と同じ言葉を話し、繊細な動きをしたければ人の形を取ることもできる。


また、隠神刑部(イヌガミギョウブ)とその一族のように、森に家を作るものすらいる。そんな彼らなのだから、本来は森を整えるくらい簡単なことで、当たり前。


だというのに、自然そのままの森で暮らしているということは、それだけ怠け者だということだった。

とはいえ、それをすぐに理解できるのは、神獣とそれなりに深く関わったことのある者だけだ。


八咫へは遅れてやってきていたリューは、まだあまりピンときていないらしく、暗い声で質問する。


「じゃあなんだ? ここの王はこれが過ごしやすいのか?」

「怠慢だと言ったただろう。サボっているだけだ」

「あぁ、そっか」

「ガッハッハ!! 話聞いとけよリュー坊!!

あんたやっぱ悪童!?」


さっきから遙か前方を駆けていたりしたアブカンだったが、話自体は遠くからでも聞こえていたようだ。

リューがソンに間違いを指摘されたのを聞き取ると、わざわざ走ってきて彼をからかう。


相変わらず暗い表情のリューだが、クロウを助けるために他国へ向かうと決めて数日が経ち、実際にケット・シーの森も見たことである程度落ち着いているらしい。


変に落ち込んだりすることはなく、変わらず大人しいながらも気怠げに反論した。


「うるせぇよアブカン。俺には馴染みねぇんだ。

それに、いつの間に戻ってきたんだこの駄馬が」

「フゥ~!! オレが運んだ結果がそれか!?

役立って未だその評価!?」

「いちいちうるせぇな。韻踏むな鬱陶しい」

「ガッハッハ!!」


リューはアブカンに対してかなりキツく当たっているも、馬である以上に陽気な彼は一切気にしない。

今のリューは普段より暗く、落ち込んでいることもあって、彼らは中々に相性が良いようである。


フーは無言ながら嬉しそうにそのやり取りを見つめ、そんな彼女をローズが微笑ましそうに見ていた。


「ま〜そういうわけよ。ここの王は怠惰なやつだから、会うのもちょっと面倒くさがられるかもなんだよな〜。と言っても、この国に限らずトップはこんな感じっぽいけどさ〜」

「え、じゃあどうするの?」


ひとまず、この国についての情報共有が終わったと判断したライアンは、またアブカンが騒ぎ出さないうちにと場をまとめていく。


結論は、ソンの言った通りこの国の王は怠惰だというもの。

彼らの協力を得るため、この国の王に会うことは大前提ではあるのだが、それすらも面倒くさがられるらしい。


これには隣を歩くローズも困惑を隠せず、ライアンは彼女を安心させるように笑顔で予定を話し始めた。


「とりあえず、森の相談役……バロンっていうケット・シーを見つけたいな〜。それか〜、最悪でもヴァイカウンテスってやつ。他は苦労人のデューク以外、ろくなのいねぇぜ〜。

そんで、デュークは王の代わりに仕事してるからな〜」

「それって、国のトップの話だよね……? 最悪でもってことは実質2人……この国大丈夫? 頼れない人どれだけいるの?」


まず頼る相手として挙げられたのはバロンで、その次点からもう最悪でもという扱いのヴァイカウンテスだ。

それも、バロンが森の相談役ということから、実際に仕事をしているのはデュークだけだろう。


神獣の国とは思えない程に自然そのままの荒れた国であることもあり、ローズは恐る恐る問いかける。


「七皇って言うんだけどさ〜? 怠惰な王様、我儘な女王とその太鼓持ちみたいな女侯爵、変人学者の伯爵って感じの奴らと、さっきの3人が国のトップだぜ〜」

「半数以上がそれなんだ……」

「八咫よりもどうしようもないですね。この感じ、多分愛宕幕府みたいな組織もないんでしょう? サボりが致命的だ」


ライアンの答えを聞くと、ローズとヴィンセントはそれぞれ呆れたように呟く。


怠惰な王様というのは最初に聞いた通りだが、女王は我儘。

その下にはろくなやつじゃないとして彼女の太鼓持ちと変人学者が続くのだから、デュークというケット・シーの苦労は想像もできない。


そんなのが国のトップだというのだから、もう絶望的だ。

おまけに、この森は自然そのままに放置されていることから、整備するような組織もないのだろう。


また、トップがそんな状態ならば、一般のケット・シーにもあまり期待はできなかった。森の相談役であるというバロンも、それなりに大変な役回りを担っていそうだ。


どうしようもないと評されたこの国の友人だったが、流石のライアンも擁護できずに苦笑する。


「ははは……ま〜そういう訳だから、まずはバロンに会いたいんだよな〜。デュークは大変だろうし、ヴァイカウンテスは……他のよりはマシだけど、ちょっと話通じねぇし」

「そうか、ならば私は別行動をさせてもらうぞ。

暇だからついてきたが、正直興味はない」

「え、ソンさん行っちゃうの!?」

「俺も行くぞ。森でリフレッシュしたい」

「えぇっ!? リューも!?」


ライアンの予定を聞いたソンは、それさえ把握していればもう一緒に行動する必要はないとばかりに、はっきり言い捨てて歩き始める。


さらには、ローズが目をまんまるにして驚いていると、それに同調してリューも彼を追って行ってしまう。

フーはついて行くつもりがないようで、表情が薄いながらも微かに微笑んでいた。


そして、リューとフーをペアで考えるのならばソンのペアはアブカンであり、彼は彼女と違ってついて行くつもりのようなのだが……


「ほほう? ならオレも‥」

「お前は来るな」

「ノーン!!」


ワクワクと足を踏み出したアブカンに、ソンとリューは口を揃えて来るなと強めに言い放つ。だが、主にも悪童にも拒否された彼は、ふざけた調子で驚いて見せるも、特に気にせずついて行っていた。


するとソン達も、それ以上は逆にアブカンがうるさくなるとでも思っているらしく、彼を置き去りにするべく足速に立ち去っていく。


そんな彼らのやり取りを見たローズ達は、呆れつつも面白そうに去っていく後ろ姿を眺めていた。


「あはは、仲良いねぇ」

「ですね。やはり、アブカンのような人がいると場が和みます。以前のリューは厄介でもありましたけど」

「あっはっは! ま〜少しは気が晴れるといいよな〜」

「お兄ぃ、強い……アブさん、愉快」

「だね。まずはそこらにいるケット・シーに話を聞こうか」


多少は話せるようになりながらも、未だ言葉少なに呟く程度のフーに、ヴィニーは優しげに同意する。

そして、彼の号令で一行は木陰に目を向けると、ライアンの言うバロンを探すべく、まずは聞き込みを開始した。



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