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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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218-森を突破するために

現状の戦力では死の森――ブロセリアンを突破できないと判断したライアン達は、戦力増強のためにまずはケット・シーの国を目的地に設定する。


そして、少しでも早く助けに行けるように、すぐさまテントの解体を開始して準備を整えていく。

だが、それに混じるのはライアン達だけではなく……


「本当にあんたらも来んのか〜?」

「ああ、もちろんだ。ここにいても暇だからな」


テントを畳もうと持ち上げていたライアンは、同じく反対側を持ち上げていた男に問いかける。

返事をするのは、無表情のままながらテントを微動だにさせない力強さを見せるソンだ。


彼は円卓の騎士であり、死の森を突破しようとしている彼らは敵であるはずなのだが、海音の侵入も意に介さなかった辺り、かなり仕事に不真面目な人らしい。


自分達に協力するつもりらしい彼に、ライオンが困惑したように笑っていても、素知らぬ顔で作業を続けていた。


「あんた、すげぇ胆力してるよな〜……俺らと一緒に森を突破するとしたら、その後仲間のとこ戻りにくくねぇか〜?」

「ルーンを盗られたから入れない。このまま外にいる訳にもいかないから、目的が同じ者に同行する。それだけの話だ」

「はは、それがすげぇんだけどな〜」


迷いなく告げるソンに対して、ライアンはもちろん困惑しかない。彼に負けじとテントの片付けをしながらも、理解不能といった雰囲気で苦笑している。


そして、この場で異質なのはソンだけではなかった。

テントは一つだけではないので、その隣でも他のテントを片付けている者達がいる。


同じく二人組で片付けている者達の片割れ、騒がしい男と正気を失って静かな男のちぐはぐコンビの騒がしい方。

もう一人の異質な存在とは、もちろんソンの相棒である馬の神獣――アブカンだ。


彼は一切反応を示さないリューにも率先して話しかけ、無視されても1人でゲラゲラ笑っていた。


「人間っておもしれーよな!! 草原とかで寝っ転がる方が気持ちいいってのに、わざわざ布の膜なんか作ってよ!!」

「……これが最善。でも、あいつらから距離が……」

「可能性を取るか、何もできなくても近くにいることを取るか、悩ましいよな!! だけど、どっち選んでも地獄行き♪

ならばオレは縁結び♪ 出会いは爽快♪ 気晴らし了解♪

遊びと仕事の両立バンザイ♪」

「フーは守れるけど、見捨てるなんて……」

「ガッハッハ!! ほうれ、急ぐぜパートナー!!

しっかり掴んどけぎゅーとなー!!」


リューに無視され続けたアブカンは、最終的に反応を気にしないどころか無視して無理やり作業を速めようとし始める。

全力でテントを上下に振って、勢いでリューが空に舞い上がろうと気にせず、流れのまま力尽くで畳んでいく。


これには周りも唖然とするばかりだ。

特にフーなど、兄がボロ雑巾のように振り回されているのを見て無表情を崩している。見かねたローズが、ヴィニーに止めさせようとする程だった。


「ヴィニー、助けた方がよくない?」

「……どうやってです? 俺は未来を見るしか能ないですよ? 見れば先読みして掴みますけど……」

「未来視はなしで! でも助けて?」

「はーい……」


最初はできないと暗に告げていたヴィニーだったが、ローズに頼まれると彼はどんなことも断れない。

心の底から嫌そうな顔をしながらも、力なく返事をして止めに行く。


そんな彼を見送るローズがしているのは、彼とは違ってそこまで大変ではない荷造りだ。ハラハラしながら見守るフーと共に、テントに入れていた物を詰めたり、いらないと判断した物の処理をしたりしていた。


食事はその場その場で作るため、本当に荷物を整理するだけだ。なぜそんな作業に2人もいるのかというと、ローズの体に負担をかけないため、それからヴィニーの老婆心である。


「ほら、ヴィニーに任せとけば問題ないよ」

「……ん。あの人、器用……」


彼女達が荷物整理をしながら見守っていると、ヴィニーは宙を舞うリューを捕まえて地面に降ろし、どうやってか踏ん張らせてその間にアブカンの動きを補佐していった。


その光景を見たフーはホッと息をつき、ローズと共に自分達の仕事を終えて戻ってくるライアン達を迎え入れる。


「いや〜、豪快な片付けだな〜」

「……危ない。けど……ヴィニー、よし」

「ふふふ、うちのヴィニーはすごいからねー」

「骨組みはあの男がやっていたか?」

「あの男じゃなくてヴィニーね! そうだよ。

ペアいなかったから、1人でパパっとやってくれたの」

「そうか」

「そうかってお前……何に対してもそっけないやつだな〜」

「必要なことはやっている」

「アブカンさんとは見事に真逆ねー……」


彼女達が戻ってきたライアン達と話していると、ヴィニー達もテントを畳み終わって戻ってくる。

アブカンは上機嫌に笑いながら、ヴィニーはぼんやりしているリューを小脇に抱えながら。


普段は騒々しいリューなのに、今は文字通り荷物になっているというのは面白い絵面だった。


「あっはっは!! リューは本当に重症だな〜。

いつも通り気楽に好き勝手やってりゃ楽なのによ〜」

「ライアン……俺はお前ほど強くねぇぞ……? 人格が壊れてる時はそれしかできねぇだけで、中身は必死なのさ……」

「おいおいニイチャン! オレとはまったく喋らねぇのに、そこのニイチャンとは喋るのか!?」


陽気に笑うライアンにリューが反応すると、今まで無視されていたアブカンが目を剥いて騒ぎ始める。


リューはヴィニーの小脇に抱えられたまま無視しているが、ソンなどは慣れているからこそ鬱陶しいらしく、冷めた目でズバッと切り捨てていく。


「お前のは会話ではない。ただ、相手に好き勝手言葉をぶつけているだけ……私はそう思うが」

「お前にゃ聞いてねーんだよ、ソン!!

根暗狩人は引っ込んでな!!」

「まーまー落ち着いて。そろそろ出発ですよ、皆さん」


ソンの言い草を聞いてさらに荒ぶるアブカンだったが、出発と聞けば黙らざるを得ない。渋々ながら口を噤み、ヴィニーの話に耳を傾ける。


しかし、当のヴィニー本人に指揮を取るつもりはなかったようで、アブカンを落ち着かせた後はライアンかローズに任せるように黙り込んでいた。


「……ヴィニー、よろしく」

「え、俺なんです? じゃあ……」


ローズが声をかけると、ヴィニーは驚きながらも渋々頷き、みんなをまとめ始める。彼はローズを信じているため、必要以上には口を挟まないが頼まれたことは断らない。


「これより我々は、ケット・シーの国を目指して出発します。具体的な場所はライアンに聞きながら行くとして、移動方法としてはアブカンやライアンの獣化、リュー達の風などを使用します……ですよね?」

「あっはっは! お前が言うならそうなんだろうな〜」


ヴィニーがライアンに視線を飛ばして確認を取ると、彼はお前が決めろとばかりに投げやりな返事をする。

実際、行き先を見ていたらしいヴィニーなのだから、任せておけば間違いはないだろう。


しかし、おそらく唯一現地に行ったことがある人としては、かなり無責任だ。ヴィニーはそっとため息をつくと、気を取り直して話を続けた。


「ということで、これらを使用します。常に最速で進むために、リューとライアン、フーとアブカンの交代制。ソンさんは自分で飛びますか?」

「私はカナリアの神獣だぞ? ちっぽけな小鳥に、遠国まで自力で飛んで行けと言うのか?」

「一応確認したまでですよ。

では、俺とお嬢と一緒に乗るだけの側ということで」

「ああ、当然だ」


カナリアの神獣だというソンが飛ぶことを拒否したことで、乗る側はローズ、ヴィニー、ソン。これにプラスで休憩組が入るので、運ぶ側は5人を運ぶこととなった。


まず運ぶ側になるのは、体力がありそうなリューとライアンの組。リューはフーよりも力強い風をまとって、ライアンはアブカンに負けないだけの神馬――スレイプニルに変身する。


運ぶのはそれぞれ、リューがフーとローズ、ライアンがソンとヴィニーと人型になったアブカンだ。


「馬に乗るなんていつ振りだ!? いっつも小鳥に乗り回されてうんざりしてたんだ!! 駆け抜けろ、獣のニイチャン!!」

「後ろで叫ぶな騒々しい。乗られる時ですら騒ぐのだから、乗る時くらいは静かにしていろ」

「あはは……まぁ、喧嘩は程々にね?」

「あっはっは!! 俺は速ぇぞ〜? 舌噛むなよアブカン!!」


「茨痛いってぇな……」

「ごめんね? リュー。振り落とされないか心配で……」

「わーってるよ。調子悪ぃんだろ? どうせすぐに治るし、全力でしがみついてな。けど、痛いとは言うぜ」

「隠さない……よい……」


地上でスレイプニル――ライアンに乗る男組は少し荒れそうな雰囲気で、上空でリューに纏わりついた茨の中にいる女子組はどちらも互いを思いやって待機する。


「じゃあ、出発するよ!」


そして、ヴィニーの合図で同時に飛び出し、ケット・シーの国へと向かっていった。



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