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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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217-後発隊到着

八咫からアヴァロンへとやってきたクロウ達は先発隊だ。

彼らの一部が森に侵入する前に待ち望んでいた通り、後からやってくる仲間が何人かいた。


遅れる理由は、仲間の一人の調子が悪いから。

しかし、それもクロウ達が出発した時点でだいぶ良くなってきていたため、彼らはそう時間を置かずにやってくる。


クロウ達が審判の間に落とされて数日後。

海音が飲まず食わず寝ずでオスカーと戦い始めて数日後。


後発隊となっていたライアン達は、鈴鹿大明神の光に運ばれてついにノーグへと到着した。




「おお〜! すげぇ立派な壁だな〜」

「あはは、そうだねー。入国は認められてないらしいから、とっても面倒くさいことになりそうだよー。帰りたい……」


光の扉から現れてすぐに感嘆の声を上げるライアンに、隣で彼に寄りかかりながら立つローズは、疲れた表情ながら明るく言い放つ。


ここに来たということは、少なくとも旅をしても問題ないくらいには回復しているはずなのだが、まだ少し顔色が悪く、明らかにから元気だ。


そんな彼女の言葉を聞くと、後ろに控えていた彼女の従者――ヴィニーは真面目な顔で顔を覗き込み、提案した。


「えー、なら帰ります? お嬢」

「いや、流石にクロウを放っとくつもりはないって……

できるだけ何もしたくないけど、やる時はやるよ」

「あはは、わかってますよ。あなたはそういう人だ。

じゃあ、まずは合流ですね。私達はあっちで会うようです」

「オッケー。行こっか」


真面目な顔で提案していたヴィニーだったが、どうやら本気で言っていたという訳でもないらしい。

彼はローズが首を横に振ると、清々しい笑顔を見せながらも目を充血させて未来を見る。


リュー達がいるらしい方向を指差している彼は、数日ぶりに仲間と合流するというのに、どこか暗い表情をしていた。




仲間と合流するために進んでいくライアン達の目の前には、しばらくするといくつかのテントが現れる。

何故か外には馬もいるが、ヴィニーが指差した方向にあったテントなのでおそらくクロウ達だろう。


彼らはテントから人影が出てくるのを確認すると、笑みを深めながら手を振り声をかけた。


「お〜い、久しぶり〜……あれ?」

「……久しぶり? 私は君達とは初対面だと記憶しているが」


しかし、テントから出てきた人影をよく見てみると、それはクロウではないどころか仲間達の誰かでもない。

それどころか、知り合いですらない人物だった。


ライアンに明るく声をかけられた狩人風の男も、当然彼らを知らず、話しかけられた理由にも心当たりがない。

無表情ながら、緩慢な動きで首を傾げていた。


唯一、先にテントへ向かったライアンの代わりにローズを支えていたヴィニーだけは、未来を見ているのでしれっと挨拶をし始める。


「はじめまして、ソン・ストリンガーさん。

リューとフーがお世話になりました」

「……私の名を知っている。理由はその眼か?

そのような力は、時に自然現象よりも厄介な概念だ」


ヴィニーの挨拶を受けた狩人――ソンは、初対面だというのに自分を知っている彼にわずかに目を見張る。

だが、無表情を大きく崩すことはなく、彼の充血した目を見て何かを察したように言葉を返した。


いきなり能力を看破されかけているヴィニーだったが、彼はそれも既に見ているらしく微笑むだけだ。

礼儀正しく頭を下げ、未だ事情がわからない仲間への説明を求めていく。


「お褒めに預かり光栄です。ですがひとまず、諸々の説明をお願いしてもよろしいでしょうか? 私はもう知っているのですが、私の仲間は混乱しておりますので」

「……ふむ。私も絶賛混乱中だ。お互いの自己紹介から始めよう。フーさん、来てくれ」

「ん……おひさ」

「フー!」


ソンはヴィニーの要求を受けると、テントを振り返ってフーの名を呼ぶ。テントから顔を覗かせたのはもちろんフーだ。


ライアン達に気がついた彼女は、ソンよりもさらに数段上の無表情で彼らを見ながら挨拶をする。

フーを迎え入れる彼らも、一週間弱ぶりに再開した仲間に歓声を上げた。


「え、戦闘中じゃなくても話せるようになったの!?」

「少し……戻った。八咫で……偽装」

「……よかったねぇ。お兄ちゃんとも、普通に話せるようになったのかな? 私達も嬉しいよ」


たどたどしいながらも普通に話せるようになったフーを見て、ローズは涙を浮かべながら彼女を抱擁する。

2人を見守るヴィニー達も、八咫での彼女があの時だけではなかったことに喜び、温かい目を向けていた。しかし……


「私がここにいる理由は私から、それ以前の話はフーさんに補完してもらう。私はソン・ストリンガーだ」

「え……? お、おう。俺はライアン・シメールだ。

よろしくな〜、ソン」


フーと出会ったのはつい最近であり、ライアン達とも初対面であるソンは、この場の空気などお構いなしだ。

いい雰囲気をぶち壊してでも話を進めていき、なんとか応じるライアンも戸惑いを隠せない。


ヴィニーはそんな彼らの様子に苦笑しながらも、ソンが望む通り話を進めていった。




一通り自己紹介が終わった後、彼らがソン達から聞いたのはクロウと海音の行方と現状だ。


まずはフーから、ノーグとブロセリアンで見聞きしたもの、その影響で荒れたと思われる死の森へ偵察に行って、戻ってこなかったクロウの話を。


次にソンから、海音にルーン石を奪われて入国できなくなりここにいるということ、彼女は単身クロウの救出に向かったという話を。


それぞれ、たどたどしかったり内容に似合わず無感情だったりする2人の話を聞いた彼女達は、予想以上に悪い状況に顔をしかめていた。


「ふぇ……見事に散り散りだね? かなり危なくない?」

「ですね。どうやらこの面子でも突破は難しいですし」

「ん〜……それよりよ〜、ヴィニー能力使うのやめときな〜?

さっきまで充血だけだったのが、流血になってんぞ〜」

「あはは、神秘は丈夫だから大丈夫だよ」


ローズに相槌を打っていたヴィニーだったが、どうやらまだ未来を見ているらしい。死の森での戦いを見てきたような言葉をこぼし、ライアンに注意されている。


しかし、八咫で神秘に成ったヴィニーは、もはや多少の自己犠牲などものともしなかった。

普通の人よりは丈夫で傷もすぐに治るからと、忠告を無視して血涙を流し続ける。


「いや、そういう問題じゃないって。心配だから言うんでしょ? もう無駄に能力使うのはやめましょうね。

もう血が流れ始めてるんだから、普通に今を見て」

「わかりました」


だが、すかさずローズが言葉を添えると、彼はライアンの時とは打って変わって素直にうなずいた。

むしろ反射的だったと言える程に、迷いのない返事である。


普段は敬っているだけで、特に狂信的な部分などは見せないヴィニーだが、やはり彼の中心にあるのはローズらしい。

そんな彼の言葉を聞いたローズは、血が止まるのを確認してからふわっと笑う。


「でも、最後に一ついいです?」

「なぁに?」

「ライアンが得た縁はとても良いものですね」

「……!!」


ローズの笑顔に折れて、完全に能力を使う気をなくした様子のヴィニーだが、見たものを忘れる訳では無い。

彼はその前に見たと思しき内容をライアンに告げ、それを聞いたライアンは驚きに目を見開く。


直後、比較的静かな面々があつまるこの場には、ライアンの陽気な笑い声が響き渡っていた。


「あっはっは!! なんだよ本当にすげぇな〜!! そうだな。あいつらに加勢を頼むってのが一番いいと思うぜ〜!!」

「はは……うん、それが俺達の進む道だよ」

「……あいつら?」

「ああ、すげ〜頼りになる助っ人だ。俺がガルズェンスまでの一人旅で出会った友人、ってとこだな〜」


決断を促すように微笑んだヴィニーと笑い合うライアンは、ローズの質問に答えると、南東方向に視線を移しながら立ち上がる。その表情はどこか誇らしげで、喜びに満ちていた。


「まず目指すはフラーの西方、ケット・シーの国だぜ〜!!」


クロウを助けに行くために、海音に加勢するために。

そして何よりも、ミョル=ヴィドにて暴禍の獣(ベヒモス)を確実に討伐するために。


彼らは新たな戦力を求めて、次の目的地を設定した。


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