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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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215-円卓会議

最古の森、ミョル=ヴィド。

他とは比べ物にならない程の濃い神秘に満ち、遥か昔……それこそ科学文明が滅びた直後から鎮座し続ける神秘の森。


そんな、最も強大な神秘が生まれやすいであろう森の支配者は、円卓の騎士と呼ばれる神獣達だ。


故に、アヴァロンは神獣の国。

人のみが統治するガルズェンスとも、かつて人と神獣が統治していた八咫とも違って、人よりも早く神秘に愛された獣達のみが支配する国だった。


彼らは森の掟に従い、人を管理する。

ティタンジェルに眠る大厄災を目覚めさせないよう、現状の秩序を維持し続ける。


そのため、反逆者や侵入者にはすぐさま審判が下されるだろう。明朝……コーンウォールに逃げ込んだクロウ達が、活動を始める少し前。


首都キャメロットにある王城の一室にて、森の現状についての会議が行われていたように……




「つまり、反逆者と侵入者を合流させてしまい、結果誰一人捕らえることができなかった……ということですね?」


キャメロット城上階、玉座の間。

左右にそれぞれ騎士と魔術師を侍らせている女王は、玉座に腰を下ろしたまま冷徹に言い放つ。


そんな彼女の鋭い視線に曝されているのは、横で気絶している騎士達――テオドーラ、ヘンリー、シャーロットを1人で運んできたオスカーだ。


彼は女王の詰問ににへらーと笑うと、頭をかきながら陽気に返事をする。


「あっははは。いやぁ……言葉にするなら、そうなる可能性もあったりするんじゃないかなぁ。でもまぁ、よくない?

そこまで強くなかったし、どうにでもなるよ」


オスカーの序列は1位。それ故の慢心か、実際にクロウ達には全力を出す価値もなかったのか。彼は左右に転がされている騎士達を叩きながら笑う。


2位のソフィアとは違って、裁きや真面目さ、忠誠などとはかけ離れた姿だった。すると、それを見た女王の左に立つ騎士は、目を細めて彼を責め始める。


「真面目に話してください、オスカー様。ここは歓談の場ではありません。あなたは円卓の一員とここにいるのですよ」

「頭固いなぁウィリアム。どうせ姉さんだって、堅苦しいのは苦手じゃん? もっとゆる~くいきましょ」

「誤解を招くような発言は控えよ。

我はあなたの姉である前に女王である」

「姉のが先じゃない?」

「……」


ウィリアムの叱責を受けたオスカーは、懲りずに軽い調子で女王に話しかける。彼女に厳しい言葉を投げかけられても、お構いなしだ。


逆に正論をぶつけて、彼女を黙らせてしまった。

すると、今度は右側に立っていた魔術師の女性が口を開く。

内容は変わらず、オスカーに形式を求めるものである。


「姉という役職は、統治者という役職よりも重要ですか?

ここで言っているのは順番のことではありませんよ」

「意味あるのかなぁ……こんな身内ばっかの会議で」

「たしかに何千年も同じメンバーですが、緊張感があるのとないのとでは効率が違うので意味はあります。もう何百回も言っていますよね? いい加減にしてください」

「はいは〜い」


女性に説き伏せられたオスカーは、適当な返事でダルそうにしながらも、一応は姿勢を正す。

そして、ようやく納得した様子のウィリアムに不満そうな目を向けたあと、報告を再開した。


「ま、そうですね。セタンタと侵入者――クロウという魔人とロロという神獣は、見事逃げおおせましたよ。

ですが、捕まっていたテオドーラ卿は回収いたしましたので、そのことも考慮していただければ……と思います」

「捕まっていた……倒されたのですか?」

「いえ? これはいつも通りの行き倒れですよ。今も、ただ空腹で倒れてるだけです。あっはは、馬鹿でしょー?」

「オスカー卿」

「へい」


最初こそしっかりとした言葉遣いで報告をしていたオスカーだったが、逃げられた理由の話になると、お腹を鳴らすテオドーラを叩きながら笑う。


もちろん女性にはすぐ注意されてしまい、彼は返事をすると一瞬で表情を改めていた。同時にウィリアムも顔をしかめていたが、女王は気にしていないらしい。


彼女は右手に握った杖を揺らしながら、周りは気にせずに考えを巡らせていた。


「セタンタに仲間ができてしまったと……

もし頭が回る相手なら厄介ですね。魔人だというのならば、人の神秘としては質の悪いものが多いですし」

「そうですね。ただ暴れるだけなら放置もできたのですが、どこでどう暴れるかまで考えられると手に負えません。現在地がわからないようでしたら、ラーク卿に探させますか?」

「彼はここを離れたがらない気もしますが……たしかに、理想ではありますね。念の為、アルム卿と向かわせましょうか」


セタンタはこの森で唯一の魔人だが、精神年齢は幼い。

見た目的には青年でも中身はクロウよりもずっと若いので、彼は今までただ暴れ回って逃げるのみだった。


それが、外部の魔人と手を組んだとなれば、悪くなることはあっても良くなることなどありえないだろう。

ウィリアムの案を聞いた女王は、もう一人円卓の騎士をつけて罪人を追跡すさせることを決める。


話し合うべき内容は終わったと見たオスカーは、速くも立ち上がってにこやかに笑いかけていた。


「あ、終わったかな? 私はもう用済みだね?

ならちょっとその辺をぶらぶらと……」

「あら? ソフィアから連絡が……」


しかし、魔術師の女性が首を傾げて呟くと、耳聡くその言葉を聞き取った彼は途端に足を止めて彼女を見る。


女王は疲れたように目を瞑っており、ウィリアムもふざけた態度のオスカーに気を取られていたので、気付いたのは彼だけだ。


「ノーグから侵入者……!? え、どうやって!?

しかも、ソフィアと野良の神獣二頭を突破して逃げたの!?

何その化け物!? おかしいおかしい!!

セタンタより断然ヤバいのが来たよエリー!! ……はっ!?」


どうやらソフィアからの連絡を受けたらしい彼女は、さっきまでの落ち着いた雰囲気が嘘だったかのように取り乱す。

それこそ、女王のことを普段呼ぶ愛称で呼んでしまった程だ。


すると、それを聞いたオスカーはさらに笑みを深めていく。

最後の方になってようやく女性も自らの失言に気がつくが、もはや手遅れである。


再び玉座の方に向き直った彼は、これ以上ないほどワクワクした表情で彼女達に宣言した。


「ふんふん、とても面白そうなことを聞きました。

では、早速私がその化け物を討伐しに向かいましょう!!」

「待ちなさいオスカ‥」

「とうッ!!」


オスカーの宣言を聞いた女性は、もちろん彼を止めようとして思わず手を伸ばす。だが、その手が玉座の横から届くはずもなく、彼の叫びに静止の言葉もかき消されてしまう。


女王やウィリアムも同様で、気付いた時にはオスカーは城壁を突き破って森へ飛び込んでいた。


「あぁ、やっちゃった……オスカーが暴走、森が……」

「とりあえず、会議は終わりにしましょうかローザ。

ウィリアム卿はテオドーラ卿達の看病をお願いね。

あと、申し訳ないのだけど城壁の修理や部下の統率も。

私は部屋に戻ります。あなたはこないでね、ローザ」

「了解いたしました。お任せくださいエリザベス様」


オスカーを暴走させて城壁を壊す結果となった女性は、顔を青くして膝をつく。


だが、女王エリザベスは苦笑するだけにとどめ、ウィリアムに指示を出してから、勝手についてくる彼女と共に奥の部屋へと引っ込んでいった。




~~~~~~~~~~




後のことをウィリアムに丸投げしたエリザベスは、ドレスをはためかせながら部屋へと急ぐ。嬉しそうに飛び跳ねて進む姿は、まさにるんるんという擬音ピッタリだ。


彼女は落ち込んでいるローザを無視したまま、玉座の間から続く通路を使って、プライベートな空間に突入した。


「ダグザー! お菓子いっぱいちょーだーい!」


エリザベスがドアを開けた先に広がっていたのは、巨大なプリンセスベッド、数え切れない程のぬいぐるみ、キラキラした装飾品などが置かれた、広々としたファンシーな部屋だ。


この玉座の間よりも豪華に感じられる部屋に入ると、彼女ははドレスがシワになることも気にせずに巨大なクッションへと突っ込んでいく。


さっきまでの、理想の女王といったような振る舞いとはかけ離れた、堕落の極みのような振る舞いである。


「えぇ、もちろんご用意しております。

こちらからお好きなものをどうぞ」


そして、そんな彼女に返事をするのは、この部屋で待機させられていた執事服の男性――ダグザだった。


彼はさっきまでお世話をしていた少年と女性から離れると、併設されたキッチンから巨大なお盆でお菓子やドリンク等を運び、エリザベスに提供する。


クッションに埋もれたままの彼女も、目の前に出された甘味の数々にご満悦だ。釣られてやってきた女性と共に、宝石のように輝く笑顔でそれらを口に運ぶ。


「フォーマルハウト。私は職務を全うしてきたんだから、私が食べたいものは譲ってもらうからね!」

「あぁ、別にいいよ。あんたらにはお世話になっているし、何より取り合いは面倒だ。好きにするといいさ」

「やった! じゃあこれとこれとこれとこれとー……」

「選ぶのはいいけど、私の分は残しとけよ?」


エリザベスの要求を快諾する女性――フォーマルハウトだったが、次々に消えていくお菓子を見ると流石に顔をしかめた。

邪魔にならないよう長い髪をまとめながらも、自分のところに奪い続けるエリザベスの手を掴む。


「えー。今はそこまででも、後で食べたくなるかもだよ?」

「つまり、今は思ってないんだろ。面倒事を起こさないためには、譲り合わないとだよ女王サマ」


白く細い腕を完全に止められたエリザベスは、頬をぷくっと膨らませて見せるも、フォーマルハウトはなびかない。

女性にしては低く落ち着きのある声で、淡々と彼女の説得にかかる。


だが、頬を膨らませたエリザベスに目を輝かせる者もいた。

彼女が面倒くさがって閉じなかったドアから、タイミングよく顔をのぞかせていたローザは、駄々をこねる彼女を見ると一目散に駆け寄っていく。


そして、スッとエリザベスから離れたフォーマルハウトを無視して彼女に抱きつくと、全身全霊で愛で始めた。


「エリー♡ 可愛いねぇ可愛いねぇ♡ お菓子がほしいならいくらでも作ってあげるから、私と結婚しよ♡」

「あーもう、鬱陶しいってローザ! 嫌いになるよ!?」

「あぁ、嫌がる表情もとっても可憐♡ でもあなたに嫌われたくはないっ……!! この葛藤はどうすれば……!?」

「アンブローズさん、私アイス食べたいなー。

溶けるからここにはないんだよなー」

「あぅっ……♡ 冷たい視線はまた違った刺激が……♡

任せて♡ このローザちゃんが、ドルイドの全力を持ってして完璧なアイスをお届けするわ♡」


エリザベスに抱きついたローザは、彼女に心の底からウザがられながらも気にせずじゃれついていく。

むしろ、ウザがられているということにも魅力を感じているようだ。


最終的に、愛称呼びをやめたエリザベスの棒読みのお願いでようやく離れると、凄まじい勢いで部屋の外へと向かっていった。しかし……


「ダグザ!! 私はエリーにこんなに頼られているのよ!!

ドルイドの統括だって、すぐに奪い返してやるんだから!!

覚悟して待っていなさいねっ!!」

「そうですか。今から恐ろしくて、夜しか眠れませんよ」

「ふふふ、そうでしょう!? じゃあまた後でねエリー♡」


瞬く間に部屋を飛び出していったローザだが、すぐに戻ってくると、ひょっこり顔をのぞかせながらダグザに対して宣戦布告する。


もちろん、このお願いは彼女を遠ざけるためのもので、特に頼られたということではいない。


だが、盲目的な彼女にとって事実はどうでもいいのか、彼が適当に流すと満足そうにうなずいて、今度こそ去っていった。


「あー疲れた疲れたー。お菓子お菓子ー」


嵐のようなローザが去った後、部屋には誰もいないのではないかという程の静寂が満ちる。音自体はあるが、彼女の騒がしさとは比べ物にならないため、そう錯覚してしまうのだ。


つまるところ、この場の全員が気を緩めているということで、エリザベスはこの流れのまま押し切ろうとお菓子を独占していく。


「待ちな。譲り合い、だ。エリー」

「フォウちゃんのケチーっ!!」


だが、フォーマルハウトの目を逃れることは叶わず、部屋にはローザに負けず劣らずな声が響き渡っていた。



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