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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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209-カムランへ

「確認をしてなかったのは悪かった。後で人がいないとこに着いたら、お互いの力をちゃんと話しとこうな」

「へいへい」


ジェニファーさんにセタンタがルーン魔術を使えると聞いた俺は、お互いの力をまったく共有していなかったことを思い出して話しかける。


だが、当のセタンタ本人は、さっき怒鳴り合ったのが気に食わなかったのか単純に面倒なのか、適当な返事をしてきた。

死にたくねぇとか言っといて、生き残る努力はしねぇってのかこいつは……!!


「タンター。オイラね、あんまり強くないからさ。

すっごく強いタンタの力、知りたいなー」

「はっはっは!! そうだろそうだろ!?

そりゃあそうだよなぁ!? 聞きたくてしょうがねぇから聞くんだよなぁ!? いいぜ!! 教えてやる!!」

「ちょろ……おい、村出たらな?」

「おうよ!!」


俺が情報共有について話した時は気のない素振りだったのに、ロロがワクワクした表情で聞くと、セタンタは自慢げに胸を張って今にも話しだそうとする。恐ろしくちょろい。


思わずちょろいと呟いてしまうが、ロロに夢中になっている彼は、ロロの頬をつついていて聞こえていないようだ。

念の為釘を刺しておくと、彼はハッとしたように口を閉じてスキップしながら村の外へと急ぎ始めた。


本当にわかりやすいし、やっぱりガキ……

そしてやっぱり都合の悪いことは聞こえないらしい。

彼のアホさに呆れながら、俺は脈動を始めた村の音に耳を傾けながら外へ向かう。


「とーちゃん! 今日はなにすんの?」

「んー? 今日はなぁ、お供え物の穀物の世話とか‥」


「あーダルい。自分らで食えねぇ食料生産とか」

「そう言うな。神獣様のおかげで暮らしていけてるんだ。

それに、お供え物が間に合わなければ、困るのは私達さ」

「迷信だろ? 人の代わりに食料を、なんて‥」


「あれ……? あのお兄ちゃん、セタンタににてるね」

「ほんとだ。あの人も、畑仕事いやがりそ‥」


「畑の世話をしながら、狩りや採集で食いつなぐ……

はぁ、何も考えられないくらい充実した日々だ」

「どーだかね。あんたのは自己暗示に近いものを感じるよ」

「ははは、たしかにね。お供え物を作るために生きている……それを充実してると評するのは、歪かもだ。でも‥」


俺の耳に届くのは、ただ食料生産のみをして生きているらしい人々の声だ。お供え物、自分達で食べられない、子どもも畑仕事をしている、人の食料は狩りや採集で得たもの……


思っていた以上におかしな国だな。

セタンタが反逆しているのも無理はない。


ただ、他の村人たちはそんなことを考えたこともないのか、普通に朝食を食べ、道具を詰め、畑へと向かい始めている。

文句を言う人もいるが、そのほとんどはこれこそ生きる意味と言わんばかりに笑顔だった。


俺だったら、こんな国で生きたくはないけど。

それこそ、セタンタみたいに……


「……な? 嫌だろ?」

「んー……まだ事情を全部知ったわけでもないからな。

他国の文化を頭ごなしに否定するのもちょっと……」

「んだよ、ここ出身の俺が嫌だっつってんだぜ?」


村を観察していた俺に気がついたのか、随分と先に行っていたはずのセタンタは、足を止めると同意を求めるように声をかけてくる。


だが、俺は曖昧な返事をしてしまったので、またしても少し不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。


まぁ、彼が言うこともわかるけど……

神獣――おそらく円卓の騎士のおかげで生きているとも言ってたし、部外者がそれを悪と決めつけるのは無理だ。


思ったり口にするのは自由だけど、周りに本人達がいるんだからな。ここはやっぱり……


「ロロ、煽てろ」

「あいさー」


俺は肩で丸まっていたロロをつつくと、危険がなければ興味はないとばかりに無関心を貫く彼をセタンタにけしかける。


「ねぇタンタ! タンタってさ、他の人にはない強い意思があるんだね! すごいや!」

「だーっはっはっは!! そうだろそうだろ!? ここのやつらは負けちまってんだよなぁ自然に。人間は自然に生きてきた神獣にゃ勝てねぇってよ。だが、俺様は自然にも神獣の生存本能にも負けねぇぜ!! 強い意思で自由に生きてやる!!」

「オイラも神獣ではあるんだけどねー。そこまで強くないのは、タンタみたいな強い心がないからかなー」

「おいおい、大自然に生きる神獣様がそれでいいのかぁ!?

なんなら、俺様が鍛えてやろうか? はっはっは!!」


俺の肩からセタンタの肩に飛び移ったロロが煽てると、彼はものすごい笑顔ではしゃぎ始めた。


多分この村達の人と違って、一緒にいてくれるのが嬉しいから俺に懐いたっていう感じだったし……

やはりその意思を褒められるのは、とてつもなく嬉しいことのようだ。


彼は不機嫌と上機嫌を繰り返しているはずなのに、まったく疲れを感じさせずに自分の生き方を熱弁している。

戦闘能力のないロロに鍛えてやる、とまで言い出す始末だ。


さっきセタンタを知ってそうな子もいたし、そんなに騒がないでほしいんだけどな……


「他を否定しないけど、俺もお前はすごいやつだってわかってるよ。神獣には負けねぇんだろ?

さっさと目的地に行こうぜ」

「おう、わかってらぁ!! 行くぜカムラン!!

円卓の騎士を叩く準備を進めるために!!」

「いや、別に俺らはそこまでするつもりねぇけどな……?

あと、声は落とせ? 周りに人いるんだぞ?」

「おう、わかってらぁ!!」

「わかってんなら静かにしろっての!!」


戻ってくるロロを受け止めながらも、俺は村人を否定せずにセタンタを肯定する。すると彼は、もう何度目かのちょろさを見せて同調してくれた。


行ったり来たり、不機嫌上機嫌の落差だけで疲れ切ってしまいそうだが、無駄に元気に駆けて行く。


暴言が減っても落ち着きはないが、俺はとりあえず無理やり彼を大人しくさせると、急いで村を離れた。




~~~~~~~~~~




「あー、周りの目が明らかに怪しんでてヒヤヒヤした……」

「だっはっはっは!! 俺らはあんなのよりも強い意思で生きてんだぜ!? 構うな構うな!! それが神秘だろ!?」


村を出た俺が木に手を付きながらホッと一息ついていると、隣で仁王立ちしているセタンタは自信満々に叱咤してくる。

どうやら、俺達が人間とは生物として明らかに別物なので、何かされてもどうにでもなるとでも思っているらしい。


自信があるのはいいけど、油断してたら結局他の神秘を呼ばれることになると思うんだけどな……

円卓の騎士と真正面から戦うのは分が悪いから、俺達はカムランに身を潜めるはずだ。


油断してると、絶対に痛い目を見る。

彼はやたらと機嫌がいいけど、釘を刺しておかないと……


そう思った俺は、周りを気にせず丸くなっているロロを撫でながら、顔を上げてセタンタに注意を……


「ふっふふふ。彼らは言うなれば目と耳です。戦うのは我ら円卓の騎士なのですから、その言い分は通用しませんよ」


注意をしようとした俺が口を開いた瞬間。

俺達の頭上から、聞き覚えのある涼やかな声が降ってきた。


少し間をおいて見上げてみれば、枝の上に立っていたのはやはりガノ。ジェニファーに吹き飛ばされていったはずだが、ちゃんと無事だったようだ。


すると、そんな彼を見たセタンタは、やはりすぐさま噛み付いていく。安定すぎる暴言である。


「なんだよ、死んでなかったのかガノ・レベリアス。

さっさと死ね!! つうか、敵か? 敵なんだよな!?」

「いや、ジェニファーが怖いから野宿してただけです。

私は敵じゃありません、最後まで同行しますよ」

「そこは敵であれよ!! よし、お前は敵な!? 殺す!!」

「ちょい待てっ!! 何殺そうとしてんだよ!?

戦力はあればあるだけいいに決まってんだろ!?

なんなら、危なくなったら囮にしたらいいんだから!!」

「……それもそーだな。うし、同行を許可してやる」


ガノの言葉を無視して攻撃しようとしたセタンタだったが、俺が慌てて説得をするとすぐに納得してくれる。


敵じゃなくても敵として殺しにかかるとか、とんでもねぇ……

荒々しい笑顔で槍を構えてたから、止めてなきゃ本当に殺し合いが始まるところだったぞ……


「本人の前でする話ですかねぇ、それ」


こんなやり取りを目の前で見せられたガノは、もちろん微妙な表情で俺達を見下ろす。だが、この場での戦闘を回避したのだから、文句はないはずだ。


俺はその言葉は無視することにして、地上に降りてきたガノも連れてカムランへの移動を始めた。



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