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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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208-逃避行開始

「マ、マジで……?」


カムランへ向かうルートとして、ジェニファーさんすらも避けるティタンジェルへ近づくと聞き、俺は思わず彼女の顔を凝視してしまう。


しかし、ルートを提案したジェニファーさん本人は、自分が近づかないからか本気で向かわせるつもりのようだ。

ガノに性格が悪いと言われかけていたのがよくわかるような、邪悪さを感じる笑みを浮かべていた。


「当然マジよ。だってあなた達、女王がいるキャメロットへなんて近寄れないでしょう? 円卓の騎士が全員揃っているとまでは言わないけど、どこよりも多いのは確実よ?」

「う……」


彼女の言うことは尤もだ。女王のいる王都が、他の場所よりも警護が多いのは考えるまでもない。

アヴァロンの主戦力は円卓の騎士なのだから、その大部分が王都にいると見るのが当然だった。


しかし、その面子によってはなんとかなるのでは……? とも思う。1位のオスカーは森にいたし、2位3位もいなければ……

淡い期待を持った俺は、納得しながらも念の為問いかける。


「ちなみに、どれくらいいると思う……?」

「そうね……円卓の騎士は全部で12人。

女王は常にいるとして、2位がノーグにいるのならば、3位は確実に王都にいるわ。彼女達は対だから。一番の問題は1位。

彼は普段、森を遊び歩いているのだけど……」

「俺達、そいつに追われてきたんだよな……

テオドーラってのを囮にして逃げられた」

「ああ、ならいるわ。あれは森中を駆け回っている道化だけど、流石に迷子の仲間を放置はしない。

1位と5位もいる。あとは……7位と10位も大抵いるから、1位、3位、5位、7位、10位は確定ね」

「ほぼ半数……」


ジェニファーさんの見立てがどれ程のものかはわからないが、とりあえずオスカーがいるのは納得できてしまう。

あの人はテオドーラを受け止めたし、そのまま放置したなら追ってきていたはずだ。


あれとは会いたくねぇ……心の底から、会いたくねぇ……

それから、2位がノーグにいるってことは、ソフィアさん2位かよ……海音がいなきゃ死んでたぞ。


あんな人と対なら、3位も無理。

1位と3位が揃った王都に近づくとか、自殺行為にしかならないだろ。


ついでに、オスカーが王都に戻ってるならクルーズ姉弟も一緒に戻っていそうだ。戦力過多にも程がある。

何があるかわからなくても、ティタンジェルすらに行くしかないかぁ……


「ティタンジェル寄りのルート、行きます……」

「それがいいわ。キャメロットには入らないと思うけれど、序列11位は常にその陰から罪人を裁いている。一度目をつけられてしまったら、1位よりも手こずるはずだから」

「半数余裕で越えてるよ!! なんだよキャメロット!?」


ジェニファーさんの追加情報に、俺は思わず叫んでしまう。

だが、情報提供だけで完全に他人事である彼女は、ただ薄く微笑むだけだった。


くそっ、この人怖いし性格悪い……!!

セタンタが怯える理由がよくわかったよ……!!


「おーい、クロウ!! お菓子食うかー?」

「シーっ!! 夜だぞ……!? あと、ロロもまた寝てる……!!」

「……」


俺がキャメロットの鉄壁さとジェニファーさんの怖さを噛み締めていると、村長さんにお菓子をもらっていたセタンタが大声で呼ばわりながら戻ってきた。


慌てて口元に人差し指を立てて落ち着かせにかかれば、彼は見るからにショボンとしてしまう。

最初とは別人かってくらい素直で、なぜこんなに懐かれたのか不思議でしょうがない。


ガノが言うには一緒にいたかららしいけど、彼の実年齢を聞いてからだと本当に子どもにしか見えないな……


「お菓子はもらうよ、ありがとう」

「へっ、わかりゃいいんだわかりゃ」


ただ、荒っぽいのは変わらずだ。

俺がお菓子を貰おうと手を出すと、力強くバチンと叩いた後でポイッと投げてくる。


くそ痛ぇし、普通に落としそうだったぞ……!!

多分、暴力暴言男なのも変わってない気がする。


まぁ別に、最初から口で治安の悪いことを言うだけで、特に何かされた訳でもないしな。

気にせず接しよう。信頼はできるし。


「あのぅ……今日はここに泊まるんですよね?」

「そうさせてもらえるとありがたいです」

「もちろんです。可能な限りいていただいて構いませんよ」

「ヤッホー、泊まりだぜ泊まりぃー!!」

「セ、セタンタちゃん……!! し、静かに……!!」

「あ、私も泊まらせていただくわ」

「ジェニファー様も……!?」


泊まるか聞いてきた村長さんに頷くと、彼女は安心したように微笑んだ。やっぱり彼女は、役に立ちたいという気持ちが強いらしい。


だが、その言葉を聞いたセタンタが騒ぎ出すと慌てた様子で止めにかかり、ジェニファーが便乗すると焦りや緊張で体を震わせ始めた。なんか、不憫だなこの人……


「ガノに家を壊されてね。鍵をかけられないと、誰か入って来るんじゃないかって怖いじゃない? ほら、乙女だし」

「は、はぁ……では、お部屋へ案内‥」

「俺上なぁー!!」

「セ、セタンタちゃん……!!」


めちゃくちゃ乙女を強調するジェニファーに戸惑いながらも、村長さんは気丈に案内をしようとし始める。

だが、セタンタがドタドタと2階へ上がっていくのを見ると、案内する余裕はなくなった。


彼を静かにさせるために、急いで追っていってしまう。

俺は間取りとか知らないし、2人について行くことになるんだけど……


とりあえず一つ、言いたいことがある。

家を壊したのって、ガノじゃなくてジェニファーだよな……?




~~~~~~~~~~




翌日。

村長さんの家で目覚めた俺達は、ジェニファーさんが考えたルートでカムランへと向かうため、村を出ようとしていた。


「お世話になりました。俺達はこの国では罪人なので、また来られるかはわかりませんが、お元気で」

「はい。私もクロウさん達が来てくださって、とても楽しい時間を過ごせました。幸運を祈っております」

「俺はまたそのうち来るぜ、ばぁちゃん!!」

「うん、楽しみにしてるね。3人共、またいつか」

「あいさー!」

「はい、では」


俺が村長さんが挨拶をしていると、槍をブンブン振り回していたセタンタが彼女に無邪気な笑顔を向けた。

正直、らしくない話し方で話してた自覚はあるから、場が和んでありがたい。


ジェニファーさんは見送るつもりがないのか、まだ中でのんびり朝食を食べているけど、もう出発していいかな……?

少しだけ悩むが、無駄に緊張感が高まる気がするのでさっさと出発してしまうことにする。


「じゃ、行くぞセタンタ」

「おうよ!!」


俺達は手を振る村長さんに背を向けると、カムランへ向かうべく村の横断を始める。しかし、歩き始めて数歩のところで背後から声がかかった。


「お二人さん」

「ん……?」


ジェニファーさんの声だったので反射的に振り返ると、視界に飛び込んできたのは一つの丸い物体。若干キラキラと神秘的に輝いている……これはもしかして、ルーン石?


キャッチしたその石を観察してみると、その石は変な模様……いや、俺には読めない文字のようなものが書かれている。

矢印の傘の部分が2つ口を開いて噛み合っているような、模様っぽい文字だ。


どんな効果があるのかはわからないが、これを砕けばルーン魔術を使える……!!


「いいのか……!?」

「えぇ。ロロちゃんに頼り切っていて、あなた自身には回復手段がないでしょう? ほんの餞別よ。

隣の小僧も作れるでしょうけどね」

「回復……って、セタンタルーン石作れるのかよ!?」

「ん? まぁ、俺はドルイドの里行ったことあるからな!!」


興奮気味に確認を取ると、ジェニファーさんはなんてことはないといった風に笑う。


回復のルーン石はとてもありがたい!!

けど、それよりも驚いたのがセタンタも作れるという話で、バッと彼を見ると、彼は誇らしそうに胸を張って見せた。


すごいよ、すごいけど……教えろよ!!

オスカーもくすねたとか言ってたし、まさか量産できるとは思ってなかったぞ!? 生存率に関わるってのに!!


「先に言っとけ、コノヤロウ!!」

「あぁん!? ルーン使っただろうが!! 察しろや!!」

「くすねたとか言われてただろ!! 否定をしろ、否定を!!」

「なんであいつの前でんなこと言うんだよ!!」

「その場でやんなきゃ忘れんのかお前は!?」

「あの、クロウくん……? セタンタちゃん……?

逃げている途中なんだよね……? 急がなくてもいいの……?」

「はい、すぐに出発します!!」


話すべきことを話していなかったことで、つい怒鳴り合いを始めてしまう俺達だったが、村長さんが声をかけてくれたことで我に返る。


よく考えたら、俺も自分の呪いのことなんて教えてないし、セタンタのも聞いてない。そもそも、何一つ情報共有してなかったのだから仕方ないことだった。


……いや、俺については運がいいしか言うことないけど。

だけどセタンタは、ルーン魔術っていう八咫の陰陽道みたいに色々とできるであろう技術の使い手だ。


ちっぽけな運と違って、かなり重要だろ。……まぁ、うっかり共有するの忘れてたんだから、俺もこれ以上は言えないか。


俺は思わずため息をつくと、セタンタと一緒にジェニファーさんに笑われながら、村長さんの家を後にした。



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