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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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207-逃避行の協力者・後編

「お邪魔するわー、起きなさい村長ー」


村長宅のドアを開けたジェニファーさんは、自分がされた時は怒っていたというのに、相手のことなどまったく気にせず家主を呼ばわる。


実際に何時なのかは時計がないのでまったくわからないが、少なくとも深夜。逃亡中だからと静かにしていたのに、それも構わずよく通る声を響かせていた。


パッと見はちゃんとした人なのに、普通に誰よりも傍若無人かもしれない。


「あっはい……起きてます起きました、はい。な、何でしょうジェニファー様……あ、ども。はじめまして、村長です」


すると、ジェニファーさんと同じく2階から顔を覗かせたのは、これまた村と同じく質素な服装でどこか怯えた表情をした少女だった。


彼女はジェニファーさんを見ると慌てた様子でわたわたと動き、左右にある階段を使って降りてくる。

一応村長のはずなんだけど……どうやら、管理者であるらしいジェニファーさんの方がだいぶ偉いようだ。


彼女がとてとてっと降りてきたのを確認すると、夜更けに押しかけた謝罪をすることもなく俺達の紹介を始める。


「村長さん、こちら……森を騒がせるいたずら小僧セタンタに、侵入者っぽい人間と神獣。……ねぇ、あなた達って誰?」

「俺はクロウで、こっちはロロです。

……村長さん、こんな夜遅くにすみません」

「い、いいえっ! 私はそこまで眠る必要もないので、気にしなくて大丈夫です! それに、私はいるだけの木偶の棒なので、仕事がもらえるのなら嬉しいな、なんて……あは……」


一瞬言葉に詰まったジェニファーさんに促されて、初対面の俺達は2人に名前を名乗る。

同時に、夜更けに押しかけて流石に悪いなぁと謝っておくと、彼女は慌てて首を横に振った。


あまり眠る必要がないってのも気になるけど、自分のことをいるだけの木偶の棒って……なんか、すごく自虐的な人だ。


しかし、それを彼女と面識のあるジェニファーさん達が気にすることはない。話は滞ることなく進んでいく。


「はい、じゃあここ使わせてもらうわね。

体を休めたり、相談したりする場所として」

「場所として……わ、私はいらないですかね……?」

「いらないわ」

「そ、そうですか……」

「ばぁちゃーん、なんかお菓子くれよー」

「セ、セタンタちゃん……! もちろんいいよ、ちょうどこの前、フラーにいる子から届いたものがあってね……」


本当に仕事がほしかったらしい村長さんだったが、場所と聞いてジェニファーさんに問いかけると、バッサリと切り捨てられてしまう。


言い方にも一切容赦がなく、村長さんは目に見えてしょげてしまっていた。しかし、セタンタが珍しく親しげにお菓子を要求すると、嬉々としてそれを取りに引っ込んで行く。


嬉しそうだったけど、なんか可哀想だな……

普通にセタンタが懐いてることにも違和感しかない。

あいつは大人しく待つことはなく、取りに行く村長さんについて行ったから本当に慕っているようだ。


「……えっと」

「何? 聞きたいことでもあるの?」


村長さんとセタンタのやり取りが気になってジェニファーさんを見ていると、椅子に座った彼女はすぐにこちらが思っていることを察して声をかけてくれた。


若干質問するの怖いけど、彼女自身のことではないし、流石に地雷は踏まないかな……?

不安は完全には拭いされないが、どうせ予定決めでは俺がやり取りすることになるし、遠慮なく聞いてみることにする。


「村長さんはばぁちゃんって呼ばれてたけど、見た目……」

「神秘に成れば見た目なんて当てにならないわよ?

あの子は別枠だけど、それでも何百年も生きてるもの」

「じゃあセタンタも?」

「あの子は……10歳とかじゃなかったかしら?」

「は……!?」


やはり他者の質問で地雷はなかったらしく、ジェニファーさんは特に手を出すことなく質問に答えてくれる。


村長さんの年齢については、マキナや美桜なんかも若々しいというか実際若い見た目なので、驚きはない。

だが、2つ目の質問の答えについては、俺を大いに驚愕させるようなものだった。


セタンタは、青年の見た目で10歳前後……

それって多分、神秘に成って急成長したってことだよな?

まさか逆バージョンもあるとは思わなかった……


「え、何で……?」

「この村は食料生産の地。人間は大量の食料を生産し、そしてそのすべてを献上しなければいけない。正直、アヴァロンの神獣も解放したいとは思っているのだけどね。そんなことは不可能だから、あの子は1人で自由を叫ぶ」

「なるほど……魔人セタンタ、やっぱり信頼できそうだ。

本当にガキだったみたいだけど」

「じゃあそろそろいいかしら? ここは一時しのぎの場。

逃亡先を求めているのでしょう?」

「……!! ああ」


アヴァロンで唯一人が住んでいる村、コーンウォール。

その闇を見た気がするけど、俺はこの国の歴史を何一つ知らないので、細かな事情はいまいち理解はできない。


ただ、明確に円卓の騎士と敵対してる反逆者であるセタンタは信頼できると確信しつつ、またしても色々と察してくれたジェニファーさんに促されて本題に入る。


「俺達は……本当はここまで深く入るつもりはなかったんだけど、結果的にミョル=ヴィドに侵入しちまった。外に出たい。

もしくは、仲間が来るまで安全な場所で隠れていたい」

「……仲間」

「まず、今から出られると思うか?」

「無理ね。あなた達は円卓の騎士に見つかった。

アフィスティア達にも情報は伝達されている頃でしょう」

「そっか……じゃ、安全な場所はあるか? ここは危険か?」

「……まずは簡単な国の地理を教えるわ」


俺達がたった2人で死の森を突破できたのは、あの森の支配者であるアフィスティア達が仲間割れをしていたからだ。

連絡がいって警戒を強められたら、戦えるのが俺しかいない状態で突破できる可能性は1%もない。


外に出ることは諦めることにして、安全な場所で隠れることに目標を設定する。そのためにまず、このミョル=ヴィド内を逃げ続けるための地理講座を受けることになった。


「現在地は言わずもがな。食料生産の村コーンウォール。

その東にあるのが、不可侵の扉ノーグよ。さらには、北側……グラストンベリーという町には、この村から連なっている畑と共に、騎士達の駐屯地がある。すぐそば……という程でもないけれど、ここを安全とは言えないでしょうね。

そもそも騎士には、私の家を直す依頼を出しましたし?」

「なるほど……」


挿絵(By みてみん)


テーブルに紙を広げたジェニファーさんは、簡易的な地図を書きながら説明をしてくれる。

ノーグが近いってのも意外だったけど、まさか北には騎士達が詰めているとは……


逃げ込める場所がなかったのは仕方なかったとしても、仲間から離れるように、敵には近づくように移動してるとは思わなかった。


死の森も遠くて、円卓の騎士が近いというのなら、なおさら安全な場所を確保しないとな……

俺は危機感を強めながら、さらにジェニファーさんの話へと意識を集中させる。


「南側にあるティタンジェルという土地には……いいえ。ここはやめておきましょう。部外者が知るべきではないわ」

「……? 別にいいけど、安全でもないか?」

「一言だけ説明しておくと、このアヴァロンという国で最も危うい場所よ。人間は決して近寄らない、ただの騎士でもまだ危険。円卓の騎士クラスまで来て、ようやく近寄れる」

「ちなみに、あんたは……?」

「入れなくはないわ。けど、どうしても入らないといけないような場合でも、できるだけ円卓に任せてる」

「わかった、行かないし聞かない」


ティタンジェルについて隠すような言い方だったため、一応聞いてみると、彼女はかなり恐ろしい情報を教えてくれる。

俺達4人を吹き飛ばしたこの人すら入りたがらないなら、俺も絶対に入らない。


情報すら渋るのなら、もう知ろうともしたくない。

もしかしたら逃がすつもりがなく、安全だから隠そうとしてるのかとも思ったけど、とんでもなかった。


念の為セタンタや村長さんにもそれとなく確認を取るけど、うん……バレたら逆に行かれてしまうような言い方をすることはないはずだ。きっと、ティタンジェルはマジでヤバい……


「コーンウォールの周辺はこんな感じね。あとは距離が離れるけど……ここから西に進めばアヴァロンの女王が住まう王都――キャメロット。その南にはドーズマリープールという湖。

さらに南に進めば、闘技場のある街カムランがある。

最後に、国の最西端にある集落レオデグランス。

ここはルーン石を作るドルイドの里よ」


詮索しないことについて同意した俺に、ジェニファーさんは手を止めず簡易的な地図を書きながら説明を続ける。


俺達にとっては、ティタンジェルとは別の意味で最も危険だと思われるキャメロット、潜める可能性を感じるカムラン。

だが、俺が1番気になったのは……


「ドルイドの里……」

「一応言っておくけど、ここは女王の兄が支配している土地よ。行きたければ勝手に行けばいいけど」

「あっいいです、やめときます」


森に入る前に聞いたソフィアの説明によると、ルーン石は見れば自分でも彫れるというものではないらしい。

だったら直接もらいたいなーとも思ったが、流石にそう上手くはいかないようだ。


レオデグランスに行くのも危険そうだし、諦めよう。

……あれ? でもたしか、セタンタってルーンをくすねたとか言われてたような気がするな?


もしかして、わざわざドルイドの里に忍び込む必要はない?

……まぁ、後でまだ覚えてたら聞けばいいか。

今はどこに隠れるべきかを聞かないと。


「地理はなんとなくわかった。

それで、結論どこへ行けばいい……?」


おそらく最後になる、最も大事な質問をすると、彼女は簡易地図を眺めながら考え込む。

しばらく待った後、口を開いた彼女が告げた場所は……


「ティタンジェル寄りのルートを通って、カムランへ」


俺が感じていた通り、カムランだ。

ただ、ルートは……何があるかも教えてもらえなかったのに、ティタンジェルへ近づくルートになるとは。


思わず地図から顔を上げるが、そこにあった彼女の顔に迷いはなかった。


ガルズェンスの地図は、化心のスピンオフ及び設定集である呪心という作品に投稿してあります。

よければアヴァロンの地図も投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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