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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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206-逃避行の協力者・前編

「お邪魔しますよー……ジェニー……」


挨拶をして2階建ての家に入りながらも、決して家主にバレることがないよう小声、忍び足でガノは中に入っていく。

俺の後ろに続くセタンタも、ガシッと強く肩を掴んできていて警戒度が半端じゃなかった。


あまりにも2人が警戒しているので、俺もつい息を潜めてしまう。ロロはオスカーから逃れた後は寝ているから、何か起こっても落とさないように気をつけないと……


「……流石にもう寝ている、と見てもいいですかね。

ふぅ、よかった。これなら、朝彼女が起きる前に一度出て、今来たかのように振る舞えば‥」

「ふぅ〜ん? こ〜んな時間に乙女の家に押しかけておいて、あなた誤魔化す気なのねぇ〜。いい度胸だわ。

不法侵入なら、何されても文句は言えないわよねぇ……?」

「……!!」


俺達が慎重に家の中を進んでいると、突然、脅すように低く作られた女性の声が響いてきた。

その声を聞いたガノは、一瞬で体を硬直させてピタリと立ち止まる。


いきなり過ぎて、俺が背中にぶつかってしまったくらいだ。

肩を掴んでいるセタンタも、俺の肩を破壊するつもりなのかというくらいに力がこもっていく。


彼らにつられてロフトになっている2階を見上げると、視界に入ったのは背が高いツリ目の女性――ジェニファーだと思われる女性だった。


ガノを睨む彼女は、手すりに体を預けながらどんどん威圧感を高めていく。


「あはは……嫌だなぁ、ジェニー。私は親愛なる友に会いたい気持ちを抑えられなかっただけですよ?」

「私はすぐにあなたの言葉を信じるほど、浅い付き合いじゃないわ。見知らぬ人間に神獣、森を騒がせるセタンタくん……

厄介事を持ち込まないでほしいものね。

しかも、こんな夜更けに。乙女に夜更しは厳禁よ?」

「ですが、君はもう乙女という歳では‥」


ジェニファーを見たガノは、すかさず誤魔化しにかかるが、長い付き合いであるらしい彼女には通じない。

一緒にいる俺達の存在からだいたい察してしまった様子で、ツリ目をさらに細めながら受け入れを拒否されてしまう。


安全な場所を確保できる可能性は、かなり下がってしまったようだ。それどころか、彼女の出現に焦ったらしい彼は珍しく失言をしてしまった。


頬をピクリと痙攣させたジェニファーは、彼の言葉を遮るように懐から石を取り出して砕き始める。


「あッ……!! いえ、さっきのは経験豊富な美女だと‥」


慌てて言い訳を始めるガノだったが、ジェニファーが聞くことはない。ルーン石だと思われる石を数え切れない程砕いた彼女は、吹き荒れる神秘を容赦なく俺達に振るった。


"I.C,K.R.H.L.S."


瞬間、俺達に向けて放たれたのは、凄まじい威力の氷、炎、風、雷、水、光の奔流だった。


不快な発言をしたガノに容赦しないどころか、ただの同行者である俺とセタンタ、自らの家の玄関すらも顧みない神秘的な暴力。


ジェニファーのルーン魔術は、玄関を含めた前方の家を破壊しながら俺達を吹き飛ばしていく。

凍るし、燃えるし、裂けるし、痺れるし、溺れるし、何も見えねぇし……!!


2人が怯えた感じだったのも納得だ。

だけど、ガノは円卓の騎士で序列4位なんだよな……!?

それを圧倒するとか、この人も円卓の騎士なのか……!?


「クソッ、しくじりました……!!」

「ギャーッ!? テメェ、ガノ・レベリアスッ……!!」

「おいこれ、洒落にならねぇっ……!!」

「ふにゃぁぁぁっ!? いたいよクローっ!?」


寝ていたロロも強制的に起こされ、俺達は家からほぼ行動不能状態で叩き出される。ルーン魔術は俺達4人をまとめて吹き飛ばすだけあって、大河のように広範囲だ。


6属性もの神秘を秘めた嵐は、俺達、玄関、その周囲の地面、隣の家などをまとめて消し飛ばす。

もちろん俺達も神秘なので、家と違って俺達が消し飛ぶことはないけど……


「クロー、動けない……」

「俺もだ……」


一方的な暴力に曝された俺とロロは、まともに手足を動かすこともできずにその場に倒れ付すことになってしまった。

ただ、残りの2人に関してはその限りではなかったようだ。


"ブレイクスルー・ゲイボルグ"


"サルバシオン・メーデー"


両者共に魔術を受けながらも、セタンタは槍を突き出すだけである程度は相殺し、ガノは赤く光る剣から盾状の斬撃を繰り出して身を庇うと、そのまま外に弾き出されている。


「だぁ!! 殺す気かッ、ジェニファーッ!!」

「ふふ……ああ、危なかった。本当に、危なかったです……」


彼女のルーン魔術が収まると、なんとか耐えて立ち続けながらも、手足を震わせているセタンタが暴言を吐く。


あんなのを受けて、ビビっていて、よくもまぁここまで強気に出られるものだと思うけど……

まぁ、彼はどんなときでも平常運転である。


弾き出されていたガノも、最初以外は食らっていなかったので無事だ。いつものように冷静な口振りだが、遠目でも少し冷や汗をかいているっぽい。これ、どうなるんだ……?


「さて、鬱憤は晴らせたので話は聞きますわ。

それでいいわね? ガノ、セタンタ」


どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。

ジェニファーはもう気が済んだようで、自らが破壊した玄関から外に出てくると、話を聞く体勢になる。


すると、さっきまで強気だったセタンタはビクリと体を震わせてビビリ、ガノは柔らかな物腰で周囲を見回し始めた。


「ッ……!! お、おう……わかりゃいいんだ」

「ははは、感謝します。ですが、この惨状はどのように?」

「村の子たちは畑仕事をしなきゃいけないのよね。……まぁ、騎士に依頼を出しておくわ。どうせあなた達暇でしょう?」


"アンスル"


ガノの指摘を受けたジェニファーは、再び懐から石を取り出すと迷いなく砕き、そこから生まれた光の筋を北西の方向に流し始める。


依頼を出しておくと言っていたから、あのルーンは連絡手段なのだろう。砕くだけで何でもできる……便利だ。


「これは手厳しい。我々も一応、日々罪人を追っているのですがね。それはそうと、話はどこで?」

「どの口が言っているの? あなた今、罪人の逃亡を手助けしてるじゃない。……まぁ、逃亡者を玄関が壊れた家にいさせるのもあれねぇ。村長さんの所にお邪魔しましょうか」

「ふふ、自分は夜更けに押しかけるなと言っておいて、村長にはいいんですか? 流石はあなただ。性格が悪‥」


"I.C,K.R.H.L.S."


ガノはジェニファーの皮肉を軽く受け流すと、ようやく本題に入っていく。しかし、それに答える彼女の言葉を聞くと、またしても失言をしてしまい吹き飛ばされていった。


今回のは、正直失言というかお互いに口喧嘩してた気がするけど……うん、あんまり逆らわないでおこう。

ジェニファーさんは、怖い。


「あらあらあら〜? 何か言ったかしら、ガノちゃん?

あぁ、そもそもこんな場所に来るはずないわね〜。腹どころか全身真っ黒ジャガーはほっといて、行きましょうか」

「お、おう……」


吹き飛んだガノを見たジェニファーさんは、めちゃくちゃ悪い顔で薄っすら微笑む。


自分で吹き飛ばしておいて、彼がここに来るはずがないというブラックジョークっぽいことを言う彼女に、セタンタも怯えて素直にうなずいていた。


ガノというジェニファーさんの起爆スイッチが不在で、セタンタも素直とくれば、もう横槍が入ることはない。

俺達はできるだけ彼女を刺激しないよう、案内に従って静かについていく。


「村長さんはすぐに起きる人だから、安心していいわ」

「そ、そうなんですね……」

「……にゃー」


……というか、ガノ全然戻って来ないな。

もしかして、今度こそまともに食らって本当に消えたか……?

彼の行方を若干危惧しながら、適当に相槌を打って村長宅に足を踏み入れた。



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