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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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204-裏切りの騎士

「うう……ぼく、拾ってきて……?」

「んな余裕があるかっ!! 全部捨てていく!!」

「そ、そんなぁ……」


リュックの中身を盛大にぶちまけたテオドーラは、未だに俺の腕の中で脱力したままで目を潤ませる。


しかし、オスカーに追われている俺達にそんな余裕がある訳もなく。迷いなく無理だと断言すると、彼女は俺の胸に顔を押し付けて嘆き始めた。グーグーお腹を鳴らしながら。


……この人、本当に円卓の騎士?

全然敵に見えないっていうか、ちゃんと戦える人なのか?

リュックをうまく開けられなくて中身全部ぶちまけるとか、どんなドジっ子だよ……開けれねぇなら移動中にやんな。


「だから言っただろうが!! 面倒なやつだってよ!!

俺は見たことあるぞ!! こいつが腹鳴らしながら他のやつに飯あげてんの!! しかも、頻繁に高い所から落ちてる!!

意味がわからん!! 困ってるやつしか見えねぇのか!?」

「聞いてねぇよ!? 捕まるとしか!! 聞いてねぇよ!?

言うことあんなら全部言っとけよコノヤロウ!!」


テオドーラが空腹に苦しんで嘆いている中、俺とセタンタはもう何度目かの怒鳴り合いを始める。

さっきと同じで絶対に言われていないけど、具体的な例まであるなら本当に言ってほしかった。


この話を聞いていれば、確実にリュックの荷物をぶちまけさせることはなかったはずだ。

助ける助けないの話ならやっぱり放っては置けなかったし、新情報でもいい人っぽいから関係ないけど。


とりあえず、こいつは暴言ばかりでしかも言葉足らずなのがめちゃくちゃ腹が立つ……!!

まぁ、面倒そうだっていうのは同意できる。


「ですよねぇ。すべてさらけ出すからこそ信頼が生まれる」

「うぉッ!? なんだお前!?」


俺がセタンタと怒鳴り合っていると、いきなり彼がいる方とは逆側から声が聞こえてきて思わず飛び上がる。


慌ててバッと視線を向ければ、そこにはいつの間にか現れていた、俺達と並走している騎士の姿。

ところどころを赤く染めた騎士服を着ている、礼儀正しそうな雰囲気の男だった。


「テメェ……!! ガノ・レベリアス……!!」

「どうも、セタンタさん。ご機嫌いかがですか?」


いきなり現れたことに驚く俺とは違い、セタンタは今までの騎士達と同じように面識があるようであまり驚かない。

赤く染めた騎士服の男――ガノ・レベリアスを見た彼は、俺の頭越しに苛立った様子で吐き捨てた。


服的にもセタンタの反応的にも、おそらく円卓の騎士。

他の騎士達と同じく、あまり歓迎できない相手のようだ。


そのことを察した俺は、遅れながらもセタンタの方に寄ってガノから少し距離を取る。

背後にはオスカーがいるので、足は止められない。


クルーズ姉弟やオスカーとは違って、実際に話しかけられるまで接近に気が付かなかったくらいだから、多分無駄なんだろうけど……


「おや、初対面なのに随分と警戒されてしまったようだ。

私としては、その男よりは信頼できると思うのですがね」

「無視しろクロウ!! こいつは俺が一番嫌いなやつだ!!」

「ふふ、あなたの一番嫌いは何人いるんでしょうね?

まぁ安心してください。私は今回、少し手を貸そうと思っただけですよ。オスカーから逃げたいのでしょう?」

「……協力してくれるのか?」

「馬鹿やめろッ!! どうせろくなことにならねぇッ!!」

「はい、協力致しますよ。王に逆らうことになるとしても、私からするとそちらの方が得なのでね。利害の一致……その男と同じで、とても信用できる理由でしょう?」


セタンタに必死で止められながらも、俺はガノの言葉に耳を傾ける。オスカーから逃げる手助けをしてくれるってのは、俺達としては願ってもないことだ。


彼はクルーズ姉弟よりも遊び感覚が強いらしく、そこまで必死で追ってきている感じでもないけど……

今も、俺のリュックから落ちた物に目を向けているけど……


セタンタが言うには序列1位、なんだよなぁ。

あまり真面目じゃなくても、脅威としては最大級。


ガノが信用できるかはわからないけど、とりあえず逃げるだけなら危険もないはず。

そもそも、判断は方法を聞いてからでもいい。


「……方法は?」

「馬鹿野郎ッ!!」

「はいはい、セタンタさんは黙りましょうねぇ。

方法は簡単ですよ。その得高きバカ騎士を捨てます」

「はぁ……?」

「実は、既にクルーズ姉弟は気絶させてきてましてね?

あとはそこではしゃいでるオスカーのみなのですよ。

彼もそこら辺に落ちている彼女を拾うことはなかったでしょうが、直接投げつけられれば流石に受け取ります。

あ、ちなみに私の序列は4位です」

「マジか……」


……序列4位が言うならそうなんだろう。あの2人も気絶させてきたっていうのなら、信じない理由もない。

テオドーラを助けといて見捨てるのは後ろめたいけど、円卓の仲間に返すだけだし……


セタンタは騒いでるけど、テオドーラ返すだけで逃げられるなら乗らない手はなくないか? そもそも、もう2人倒してる時点で協力してもらってるもんな。


「よし、乗った」

「やめろーッ!! この女が面倒ならこの男は最悪だぞッ!!」

「よろしい、ならばお捨てなさい」

「え? なに、なんの話?」

「すまん、テオドーラ……達者でな」

「バカバカバカッ!! こいつ人質の方が俺は‥」

「ふぇ……? きゃーっ!?」


セタンタは叫びながら掴みかかってきて、もはや手段は問わずにガノの協力を拒絶しようとしていた。だが、素早く間に入った彼に止められて阻止することはできない。


俺はかなり申し訳なく思いながらも、とぼけた顔で俺を見上げるテオドーラを容赦なくオスカーに投げつけた。


「わはぁ! 人間爆弾的なー!? あははは!! おいしょ!」

「ふぎゅ……あら? オスカー、何してるの?」

「罪人を追ってたのさー。けど……」


ガノの言っていた通り、オスカーは自分に向かって飛んでくるテオドーラを華麗にキャッチする。

ミョル=ヴィドの女王の弟というだけあって、まるで王子様のように手慣れた様子だ。


まぁ、普通に楽しんでた気もするけど……とにかく。

彼はテオドーラを受け止めて足を止めていた。

それを確認した俺は、騒ぎながらもついてくるセタンタと、協力者になってくれたガノを伴って森を進む。


「よし、成功だな。助かった、ガノ」

「成功だぁ!? ガノの手を借りた時点で負けだ負け!!」

「はぁ……私に命を助けられたか弱い子犬はいい加減に黙ってください。キャンキャン吠えて耳障りです」

「あぁん!?」

「どーどー。とりあえず逃げられたんだからいいだろ?

ついてくるなら静かにしてくれ。また見つかる」

「グルルルル……」

「マジで犬だな」


オスカーから逃げることができたというのに、セタンタは変わらずガノのことを敵視しているようだ。

彼に対する俺のお礼にすら噛み付き、こんな態度をとられても理知的で、だが苛立ってはいるらしいガノに煽られてる。


まぁ、こいつの性格的に反発するのは想定内ではあるけど。

素直にありがとうなんて言った日には、俺は目玉が飛び出して出血多量で死ぬ。


ただ、静かにしろといったら唸り始めたので、もしかしたら本当に犬なのかもしれない……


「それで、これからどこ行くんだ?」

「ハッ、撒いたってんなら適当にその辺で‥」

「私の友人がいる村へ案内しますよ。この後の予定を決めるにも、まずは安全な場所は確保すべきでしょう」

「嫌だッ!! テメェの思い通りに動いたらろくなことに‥」

「なら来るなよ。お前の方が信頼はできるけど、ろくな案がないんないんだから俺はガノについてくぞ」

「……!!」


ガノへの質問に答え始めたセタンタだったが、彼はすぐに言葉を遮られてしまって怒り出す。

何一つまともな案がなかったくせに、ガノの妥当な案に乗ることは嫌らしい。まるで子どものように叫んでいた。


しかし、俺がガノについていくことを宣言すると、打って変わって大人しくなる。

今にも食い殺されそうな目で睨まれてはいるけど、どうやら俺が行くならついてくるつもりのようだ。


こいつ、すぐ殺すとか言うくせに意外と寂しがり屋か……?

もしこれで迷惑かけたら申し訳ないな……


「大人しくなりましたね。では行きましょうか?」

「……」


大人しくなったセタンタを見ると、ガノは目的地である村への案内を開始する。周囲を警戒しているのか、キョロキョロと辺りを見回しながらの先導だ。


……ただ、今回は本当に彼について行っていいのかということはしっかりと考えておくべきかもしれない。


彼はさっきオスカーを止めてくれた。

あの場の行動的には信用できる。現時点では味方だ。


だが、彼の言う利益とは?

案内先で部下に囲ませ、自分が捕まえて王からの褒美……とかの可能性は?


村の場所は把握しとくにしても、入るかどうかはガノの目的を聞いてからの方が、セタンタも安心できるかもな……


「どうしたんですー?」

「いや、何でもない」


かなり前方にいるガノに声をかけられたことで、俺はいつの間にか止めていた足を再び動かし始める。

その隣を見ると、警戒心を顕にしているセタンタが歯を剥き出しにしながら彼に殴りかかっていた。


あれだけ嫌がっていてもついてくるのか……

もしかしたら、根は素直だったりするのかもしれない。


「話はもう少し距離を取ったら聞きますよー?」

「ああ、頼む」


遠くから呼びかけてくるガノを問い詰める決意を固めつつ、俺は彼らに追いつくために駆け出した。



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