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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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203-腹ペコ騎士

「おい、あんた大丈夫か!?」

「……」


進行方向からほんの少し離れた位置で倒れていた女性に駆け寄った俺は、彼女に大声で呼びかけながら頬を(はた)く。


しかし、気絶しているのかぐっすりと眠っているのか、彼女が目を覚ます気配はない。槍の雨を吹き飛ばす勢いで迫ってくるオスカーを前に、胸を上下させていた。


とりあえず、間違いなく呼吸はしてると思うけど……

このまま放っておいたら、オスカーに斬られかねないよな。

運んで逃げるしかないか……?


「ロロ、念動力で浮かべてくれ!」

「あいさー!」


女性を運んで逃げることにした俺は、肩に乗るロロに声をかけて彼女の背中と膝下に手を入れる。


彼女は遠目で見たよりも背が高く、多分俺よりも少ーしだけ背が高いのだが、ロロのサポートがあるので持ち上げられないこともない。


それでも、オスカーから全力で逃げるためには、できるだけ神秘で身体強化をしておいた方がよさそうだから……


"モードブレイブバード"


右目の碧眼を意識して、全身に青いオーラを纏う。

この状態ならば、大嶽丸ともやりあえたくらいだからこの人を運んで逃げるくらいわけないはずだ。


俺は女性を一気に持ち上げて、だいぶ前を走るセタンタを見据えながら走る。素早く行動したから、セタンタとオスカーならまだセタンタの方が近い。


やけに硬く、重い女性を運んで全身から悲鳴を上げながら、彼に追いつこうと必死に両足を回していった。

死の森と違って豊かなミョル=ヴィドは、草もしっかりと生えているためボロボロしておらず、走りやすい。


その分木の根とか枝には気をつけないといけないが、それはオスカーなども同じなので、人を運んでいても走りやすい、という部分が大きくどんどん進める。


すると、セタンタも少しは俺のことを気にしてくれていたのか、少しすると追いつけた。珍しいこともあるもんだ。

背後に迫るオスカーは、問題ないとはいえ槍の雨に降られている影響で遅く、まだ来ていなかった。


「待っててくれたのか? ありがとう」

「死ね!!」

「なんでだよ!?」


再びセタンタと並走しながらお礼を言うと、彼はちらりと俺が運んでいる女性を見やって暴言を吐く。

もうお約束みたいになってるけど、わざわざ待っててくれたくらいなのにまだ言うのかこいつ……


「俺は待てっつったよなぁ!?」

「いや、言われてない。ほっとけって言われた」

「どっちにしろ行くなっつってんじゃねぇか!!

今すぐ捨てろ、そんなやつ!!」


俺が変わらず荒々しい対応に呆れてため息をついていると、セタンタはやけに苛立った様子で噛み付いてきた。

なぜかかなり怒っているようだったので、思わず冷静に訂正してみれば、彼は目に凶暴な光を湛えて吐き捨てる。


もしかしたら嫌いな人物だったりするのかもしれないが、彼の事情すらよく知らない俺は戸惑うばかりだ。


「なんでだよ……?」

「いいか? 頼りになるセタンタ様が教えてやる。

そいつは円卓の騎士、序列5位のテオドーラ。俺の敵で、多分お前にとっても敵になるやつだ!!」

「……マジで?」

「マジだ!! バカタレ!!」


セタンタが教えてくれた女性の正体。

シャーロット、ヘンリーと同じく円卓の騎士であり、序列は二人よりもいくらか上の5位。


オスカーが何位か知らないが、あの姉弟も厄介だったのだからそれより上の女性――テオドーラが厄介じゃない訳がない。


それを聞いた俺は、思わず目をぱちくりとしながら聞き返してしまう。明らかに厄介事を持ち込まれたセタンタは、顔を真っ赤にして怒っていた。


いやまさか、本当に俺が疫病神になってしまうとは……


「ちなみに、あの戦闘狂はオスカー・リー・ファシアス。

この森の女王の弟で、円卓の騎士序列1位だ」

「はぁーッ!? なんてもんに追われてんだお前ーッ!?」

「そりゃあこの俺だからな!! 1位も興味満々よ!!」

「ドヤるなぁ!! あと、満々ってなんだ!? 津々な!?」


テオドーラという厄介な存在を助けたことで、俺が若干セタンタに申し訳なく思っていると、彼は唐突に爆弾をぶっ込んできた。


反射的に噛み付くも、彼は1位に追われているという事実自体は誇らしいのか、俺の叫びに反応して胸を張る。

あんなにウザがってたのに、何なんだこいつは……!!

馬鹿だし!!


……だけど、少し落ち着いて考えてみると、それよりも気になることがあるな。興味満々は心の底からどうでもいいとして、1位ってことは重要だけど後回し。


何よりも気になることは……


「というか、リー・ファシアス? リー?」

「なんだぁ? 知ってんのかぁ?」

「……いや、聞いたのは初めてだよ。でも、俺の家族にも同じ名前を持ってる子がいるんだよな。リーってミドルネーム。

なんか関係あるのかな……?」

「なんだお前、クロウ・リー・なんちゃら?」

「俺の家族はほぼ全員血は繋がってない。ただのクロウだ」

「ふーん。オスカーとその子の関係ねぇ……俺は知らねぇな」

「そっか」

「そもそも、円卓の騎士はみんな神獣だぜ?

その子が普通の人間なら、今も続く関係じゃねぇだろ」

「円卓の騎士、神獣……」


正直、そのオスカーに追われているセタンタが知っているとは思っていなかったので、特に落胆はしない。

だけど、その後に続いた言葉にはあ然としてしまう。


犬の神獣だというクルーズ姉弟、オスカー、俺の腕の中で意識を失っているテオドーラ。この全員がことごとく神獣……

八咫の守護神獣を思い出すな……強いわけだ。


こいつが嘘つく理由はないし、ローズとオスカーの関係は深くはなさそうだからそのうちで‥


――グギュルルルル〜!!


俺が走り続けながらも思考を続けていると、突然雷のような音が夜の森に轟く。音は俺の前方、下から。

ギョッとして腕の中を見てみれば、そこには薄っすらと目を開けたテオドーラがいた。


「……」

「あ、あんた、起きたのか……?」

「早く捨てろ!! 今暴れられたら絶対に捕まるぞ!!」

「いや、いきなり落とすのもマズくないか……?」

「んなこと言って捕まったら殺すぞッ!!」

「……なか」

「え? なんだって?」


テオドーラをどうするかについて俺とセタンタが揉めていると、まだぼんやりとしていた彼女が何か呟く。

声が小さくて、なんて言ったのかはまったくわからない。


しかし、今のところは流石に罪人だと思われていないのか、ただ何か思ったことを口にしただけという感じだった。

焦るセタンタを抑えながら促すと、少しはっきりと周りを見始めた彼女は俺の目を見て口を開く。


「お腹減った」

「……はい?」

「お腹減った」


念の為聞き返してみると、彼女は俺の目をまっすぐ見つめながら澄まし顔で繰り返す。もしかしてこの人、空腹で倒れていた感じか……? 雷閃みたいなことしてる人だな……


「……そ、そう」

「ぼく、お腹空いてる?」

「いや別に……って、子ども扱いすんな」

「じゃあ、恵みをいただきます」

「は……?」

「人の子が使う道具、リュック。これには様々な食べ物が詰め込まれており、大量の食べ物を運べるのだとか。

とっても美味しそうな道具だね。あれ、開かない……」

「おいおい、勝手に開けるなよ……

あと、別に入ってるの食べ物だけでもないぞ?」


俺がお腹は空いていないと答えると、彼女は体をぐいーっと押し付けて背中のリュックを覗き込み始める。

どうやら物を運ぶ道具には食べ物が詰まっていると思っているらしく、お腹が空いてないなら貰おうということらしい。


空いてるって言ったら貰わなかったのか……?

別に食料を少し分けるくらいなら問題ないので、俺は彼女を放置してそのまま走り続けることにした。


そして、何やら豪快な音が聞こえてきたかと思うと、地面に物が落ちていくような音が耳に届く……


「あっ……」

「おい……まさかとは思うが、中身ぶちまけたのか?」

「……ご飯、みんな落ちちゃった」

「バカヤロー!!」


叫んでパッと振り返ってみると、そこには俺が収納箱から移していたすべてのものが転がっていた。


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