201-森での出会い
森が荒れていると知った俺達は、ロロと2人で行動することでバレることなく最古の森――ミョル=ヴィドに侵入できた。
海音の言っていた通り、アフィスティアはヤーマルギーアに許可を出したことで揉めていたらしい。
侵入自体は彼女にまったく感づかれることなくできて、昼に襲われたのが夢だったと思ってしまうほどだ。
だというのに……!!
「なんでこんなことになってんだよ、ちくしょう!!」
「耳障りだ、殺すぞクソガキ!!」
現在俺とロロは、おそらく円卓だと思われる騎士達から逃げていた謎の青年に巻き込まれ、全力で逃げていた。
騎士たちが巻き起こした大地の津波はとてつもない規模で、逃げる以外の選択肢がない。
その上、騎士達が現れた元凶である青年はこの言い草だ。
初対面で名前も知らないのに、口を開けば目障りだの死ねだの腹立たしいったらない。
彼が木を薙ぎ倒さなければ、地面に飲み込まれてという面もあるが、そもそも彼がいなければ騎士達はいなかった。
俺は焦りと怒りをぶつけるように彼を怒鳴りつける。
「こっちはお前に巻き込まれてんだよ!!
どうにかしろよ、この状況!!」
「はぁ!? てめぇは槍で地面に穴空けれんのかぁ!?
ピーピー泣き喚く前に、そのぷるぷる震える足動かせや!!」
「お前の方がうるせぇし、足は動かしてるから揺れてんだ!!
何もできねぇくせに、口だけ威勢がいいな!!」
本っ当に腹が立つ……!!
人を巻き込んどいて、謝るどころか暴言の嵐とか……!!
誰が泣き喚いてんだよ、誰が!!
「ク、クロー……多分、あの地面そろそろ落ちるよ」
「でかしたロロッ!!」「でかした子猫ッ!!」
「ああん!?」「ああん!?」
俺が足を止めることなく青年に憤っていると、肩にいるロロが怯えながらも津波が落ちることを教えてくれた。
反射的にお礼を言えば、隣からもほとんど同じ言葉が聞こえてきてまた腹が立つ。
子猫じゃなくてロロだ、暴言男……!!
俺からは喧嘩腰で話してないのに、なんでセリフ被ってこいつも怒ってんだよムカつくなぁ……!!
しかし、暴言男に怒ってばかりもいられない。
あの大地の津波が落ちてくるなら、その後は逃げるか戦うかでこの場を乗り切らないとだ。
……まぁ、逃げるのはきつそうだな。ひとまず、こいつと協力して生き残るなら意思疎通くらいはまともにできるようにならないと。お互いが苛つかずに。
あと、こいつが逃げるつもりなのか戦うつもりなのかも知る必要がある。こいつに意見を聞くとか心底嫌だったけども、俺はため息の勢いに乗るように暴言男に問いかけた。
「はぁー……どうすんだ? 逃げる? 戦う?」
「お前の目は節穴か? 見てりゃわかんだろ?
逃げれねぇよ。せめて1人は倒しとかねぇと無理だアホ」
「ッ……!! 質問するやつが全員無知だと思うなよ……!!
確認だ、確認!! 認識共有!!」
「はーはー、そういうことにしといてやるぜ」
「こんにゃろ……!!」
暴言男の返答は、もちろん喧嘩腰である。
逃げない……と、ただそれだけ言えばいいというのに、こいつはわざわざ挑発するように言ってきた。
ほんと、俺になんか恨みでもあるのか?
口悪かったから腹立って同じように返してるけど、俺からしたのって騎士との戦いに割って入ったくらいだよな?
それも、木に張り付いていたら巻き込まれただけだ。
これが理由で嫌われているとしたら、理不尽にもほどがある。こいつは性格だと思うけど……
「あーもう、わかったわかった。で、どう戦うんだ?」
「おいおいお〜い、てめぇは確認しねぇと自分からなんにもできねぇのかぁ? 手取り足取りバブちゃんでちゅか?」
「あ? バラバラに動いていいってか……? 意図せずお前の邪魔しても文句ねぇの……? お前絶対怒るだろうが……!!」
「俺は目障りなやつは殺ーす。邪魔できねぇだろ?」
俺は歩み寄ってんのにこいつはさぁッ……!!
独裁者か、このクソ暴言男……!!
「おい、ロロ。俺はこいつをどうしたらいい?」
「えっとぉー……とりあえず、かこまれちゃったよ?」
まともに会話すらできない暴言男に苛つき、俺は気持ちを落ち着かせるためにロロに問いかける。
すると、彼は首をギクシャクと動かしながら、俺達に周りを見るように促す。
ハッと周りを見回してみると、周囲には俺達を逃さないように隙間なく円形を作る騎士達がいた。
彼らは1人の例外なく剣や槍などの武器を構え、俺達に敵意を向けている。
あの3人も、もちろん先頭に立って戦闘準備は完了だ。
前と左右にわかれて、決して逃さないように3方向を固めている。あんな規模で攻撃してくる相手に方位されるとか、絶望的すぎだろ……
「おい!! お前のせいでまたヤベーことになったぞ!?
本当に何なんだ!? 疫病神か馬鹿野郎!!」
「疫病神はテメェだ!! 邪魔ばっかしやがって!!
あと、俺はセタンタだ!! 変な呼び方すんな!!」
「知るか、暴言男!! 言葉の意味も知らねぇで反論してくんなバカタレ!! 連れてきたのはお前だ!!」
俺がまた語気を荒げると、もちろん自称セタンタ――暴言男も怒鳴り返してきた。
邪魔するのが疫病神って何なんだ、腹が立つ。そもそも巻き込まれただけで、なんにも邪魔してねぇっての!!
ただ一緒に逃げてるだけでそんなに目障りか!?
正直、騎士達よりも隣の暴言男の方が敵に思えてくる。
しかし、実際はこの暴言男が味方で騎士達が敵なので、揉めている間に包囲してきた彼らは、呆れたように笑いながらも容赦なく武器を向けてきた。
「はいはーい、そろそろいいですかー? 反逆者と侵入者は捕らえないとだから、観念して捕まってほしいよー」
「ハッ!! 一体どこの犯罪者が、捕まってね、はいいいよ……なぁんて言うんだよ!? 寝ぼけたこと言ってねぇで死ね!!」
立場が上っぽい3人の騎士の内、目の前に立っている陽気そうな男の騎士が投降勧告をしてくると、隣の暴言男は当たり前のように暴言を吐く。
完全に包囲されているってのに、どんな心臓してんだよ……
相手が俺じゃなくても無駄に攻撃的で、騎士達が怒らないかハラハラだ。
しかし、彼らは暴言男とは違ってそこまで刺々しい性格ではないようだった。目の前の陽気な騎士はワクワクとした表情で笑い、左右の姉弟騎士はどこかズレた会話を始める。
「だってー、ヘンリー。死ぬー?」
「いやいやいや、何言ってるの姉さん!? 言葉で捕まらないのとか暴言はわかるけど、ほんとに死ぬのは何!?」
「あ、ごめん。なんも考えてなかった。あは」
「そうなの? じゃあ仕方ないね」
「あははは」
暴言男の言葉を聞いた少女が純真無垢に笑いかけると、少年は目を剝いてツッコミを入れる。だが、彼女が何も考えていなかったと答えれば、なぜか素直に納得してしまった。
最終的に2人で仲良く笑い始めており、もうどういうことなのかさっぱりだ。なんか、どっちも純粋すぎる……人を疑うとか一切しなそう。
「シャーロット、ヘンリー!」
すると、そんな彼女達のやり取りを見守っていた陽気な騎士は先程までとは打って変わってキリッとした表情で2人の名前を呼ぶ。
彼はどうやら3人の中でも一番強く、立場も上っぽかったので、流石に見過ごせなかったようだ。
部下達の手前、ちゃんと真面目に罪人を捕らえるように注意を……
「2人だけで楽しそうにしてるなんてズルいよ!
私も混ぜなさい! 芸でもなんでもするよ!」
「え、死ぬー?」
「死ぬ死ぬー!」
「待って姉さん、オスカーさん!?
え、どうしてそうなるの!? 捕縛任務は!?」
「あ、ごめん。なんも考えなかった。あは」
「そうなの? なら仕方ないね」
「あははは」
しなかった。なぜか混ざろうとした陽気な騎士――オスカーは、少女――シャーロットの言葉に嬉々として頷き始める。
さっきと同じくツッコミを入れる少年――ヘンリーも、やはりシャーロットの言葉に素直に納得し、今度は3人で笑う。
……もう、なんか無茶苦茶だ。暴言男にアホ三人組……まともなツッコミ不在で、カオスここに極まれり。
騎士達には完全に囲まれてるけど、モードブレイブバードで頭上を越えてけば逃げられるんじゃないか……?
俺がそんなことを考えていると……
「あっはっは!! じゃあなアホ共〜!!
永遠にそこで笑ってな!! んで死ね!!」
いきなり俺の肩をガシッと掴んだ暴言男は、懐から取り出した石を砕きながら笑い始める。暴言は健在だが、今までになく楽しそうだ。あれだけ喧嘩した俺の肩を掴むほどに。
「おい、いきなりなんだ‥」
"ウル"
俺とロロが意味も分からず混乱していると、砕いた石からは普通ではありえないほどの光が溢れていく。
それは暴言男の体に纏わりつき、彼の体をわずかに発光させていた。
しかも、ただ光らせるだけではなかったようだ。
俺を掴んだままの暴言男は、そのまま思いっきり身を屈めると全力でジャンプする。
「うぇぇーっ!?」
「だーはっはっは!! 死ね!!」
「彼、ルーンをくすねてたの……!?」
暴言男に掴まれた俺達は、周囲を包囲していた騎士達の頭上を飛び越えてこの場から離脱していった。