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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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200-太古の森-ミョル=ヴィド

死の森に侵入した俺達は、アフィスティア、ヤーマルギーアなどの化け物に気付かれていないことを確認しながら進む。

たまに近づいてくる警備らしきデスマーチも、事前に動きがわかるので一度も出くわすことはない。


荒れている以上に運もよく、順調に目的地に近づいていた。

だが、ブロセリアンとミョル=ヴィドはまた別の領域だ。


森をかなり進んだ頃、アフィスティア達から意識を逸していなかったロロは、最初とはまた別の警告を発した。


「ちょ、ちょっとまって……」

「どうした?」


必死に神経を研ぎ澄ましていたため、唐突に静止された俺は戸惑いながらもすぐさま足を止める。

アフィスティア達に動きがないことは確認済みであるため、理由は全くわからない。


雰囲気的に緊急事態ではなさそうだが、場所が場所なのでなんとなく不吉な感じだった。


「えっと、多分もうすぐミョル=ヴィドに入るんだけどね。

だけど、ブロセリアンとはちがったにぎやかさがあるというか……なんか、だれかおわれてるみたい」

「追われてる……? 俺達とは別の侵入者でもいたのか……?」

「わかんない。オイラ、うごきがわかるだけだから。でも、おってるのはアフィスティア並の化け物だよ」


ロロの報告を聞いた俺は、彼と一緒になって頭をひねる。

俺達みたいな明らかに外敵である侵入者以外を追っている、アフィスティア並みの化け物……


追われているのが誰かっていうことも気になるけど、ミョル=ヴィドにはアフィスティア並みのがゴロゴロしてるらしいことにより気が重くなるな。


アフィスティアに動きはなさそうだし、森の連中もその誰かを追っているというのなら、流石に俺達はバレてないと思うけど……


「どこら辺を通るかわかるか?

ここに潜んでたら様子を見られるかな?」

「多分見れるよ。すごいあばれてて進み方がめちゃくちゃだから、目の前を通るかはわかんないけど……

その分、どこからでも見えるよ。追ってる人数が多いから、すごく気をつけないといけないけどね」

「オッケー、じゃあ適当な木の陰……上の方がいいかな?」

「うーん……下はこわいけど、上は見えないかも……」


ロロに逃亡者と追跡者が通る場所について聞くと、ここからでも見えると思うとのことなので隠れ場所を探す。

どんなやつらかはわからないが、進み方がめちゃくちゃになるってことは、逃亡者がかなり暴れてるようだ。


……一体どんな逃げ方をしてるんだろう?

下にいて巻き込まれたら目も当てられないけど、上から見て見逃すのもな……


とはいえ、追ってる人数が多いなら少しこちら側に近づくだけで危ないし、上すぎず下すぎずが最善な気がする。

いや、大人しく引き返すのが最善かもしれないけど。


「あんまり高いとこには登らず、でも巻き込まれないように下にはいないようにしよう。念動力で補助頼む」

「あいさー」


安全と興味。そのせめぎ合いの末、俺達は木の樹冠かは少し下辺りにくっついて様子を窺うことにする。

枝に乗るとかではないため、神秘で体が強くなっていたり、ロロの念動力で補助されてなければきつかった……




俺達が木にくっついて様子を伺っていると、十数分ほどして辺りが騒がしくなってくる。こんな時間なので、ほぼ確実に逃亡者と追跡者だった。


目的の人物たちがやってきたことを確信した俺達は、決してバレることのないよう、より息を潜めて様子を伺う。

せっかくアフィスティア達を回避して侵入できたのに、こんなとこでバレたらすべて水の泡だ……




~~~~~~~~~~




そんな風にクロウ達が隠れていると、すぐにミョル=ヴィドの住人達はやってくる。彼らの目の前に現れたのは、いかにも逃亡者といった風貌のマントを翻している青年。


続いて、そんな彼を追っている複数の騎士達だった。

青年を追う騎士の人数は10人以上いたが、中でも明らかに強いのが先頭で指揮を取る3人の騎士だ。


一向に騎士達を振り切れない青年は、さらにその3人から執拗に攻撃を受けながら腹立たしげに叫んでいる。


「だぁッ!! しつけぇなてめぇら!! 俺はただ自由に生きてるだけなんだから、ほっとけ!! それか森から出せ!!

んで死ね!! 森出てもウザそうだからすぐ死ね!!」

「あっはっは!! 私がウザい? ひっどいなー!!

ちょっと戯れてるだけじゃないかー。ほら、地割れー」


逃亡しているということは、ある程度よくないことをしているはずなのだが、青年の態度は実に強気だ。

語気荒く追跡者に治安の悪い言葉を投げつけている。


しかし、3人の騎士の中でも特に前に出ている男は、まったく気にした様子を見せず陽気に笑いかけていた。


といっても、戦いに手を抜いているということはない。

軽いノリで逃亡者に話しかける彼は、手に持った槍を地面に叩きつけて大地を裂いていく。


戦わずに逃げたいのに、足場から崩される逃亡者は度肝を抜かれながらも激怒していた。


「ぬぉッ!? てめぇの遊びは遊びじゃねぇんだ戦闘狂!!

道化なら道化らしく、村で大道芸でもしてやがれ!!」

「オーケー、じゃあこういうのはどうかなー?」

「村でやれってんだ!!」

「そうれー」


すると、青年の言葉を聞いた騎士は素直に頷き、止める彼に構わずこの場で芸を披露し始める。

さっき引き裂いた地面の隣に追加で地割れを作り、一枚の板となった大地を引っこ抜く。


そして、それを青年に向かって投げつけると、自分でも一部の部下を引き連れて板の側面を走っていった。

この行動についていけているのは、彼と同じように先頭にいた2名のみだが、それでもくり抜かれた大地自体が脅威だ。


少しずつ地面と平行になっていく津波のような板と、これを芸として披露した騎士に、死物狂いで逃げる青年は森中を震わせるような大声でツッコむ。


「あっはっは!! 鯉の滝登りならぬ、神獣の大地登りだよ」

「どんな規模感で生きてんだテメェ!?」

「きゃー!! 大地登りだー!!」

「わわっ、こんな芸があるんですねっ。勉強になりますっ」

「ガキ共も大概だな!? てめぇら無邪気かッ!?

はしゃぐな!! 信じるな!!」


これを引き起こした騎士は、もちろん常識外れの人物であると言えるだろう。だが、そんな彼と共に部下を率いる2人も、当然常識外れの人物であるようだ。


双子の姉弟と思しき見た目がそっくりな子ども達は、片や純真無垢にはつらつとした顔で笑い、片やかけらも疑うことなく、今にもメモを取り始めそうなことを言っている。


道化の騎士にツッコんでいた青年は、たまらずその姉弟にもツッコミを入れていた。


しかし、彼にとって何よりも優先すべきことはこの場を無事に乗り切ることだ。ツッコミを入れながらも、手にした槍で目の前の邪魔な木を薙ぎ払って逃げていく。


「邪魔邪魔邪魔ァ!! 俺の道を塞ぐんじゃあねぇよ!!

道を開けろ、自由に生きさせろ、ミョル=ヴィド!!」


引き裂かれ投げつけられた大地に押し潰されるまでもなく、青年の槍によって森は薙ぎ倒されていく。

不思議と彼の道を塞ぐように並ぶ木は、彼の目の前ではなくともまとめてメキメキと音を立て……


「うわっ……!? 暴れてるにも程があるだろ……って、なんだこれ!? でけぇ地面が降ってきてんじゃねぇか!?」

「うにゃぁぁ!? にげてっ、クロー!!」


そして、木に張り付いていた侵入者の存在を露わにした。

どうやら彼らは、木に張り付いていたため、騎士の起こした大地の津波が見えていなかったらしい。


だが、青年の槍で木から強制的に落とされると、辺り一帯の視界がスッキリしたことで初めてそれに気が付き、悲鳴を上げる。


騎士達もまた彼らに気がつく中、青年と並走するように逃げ始めた。


「あれれ? なんか変なのがいるね? 侵入者かな?」

「そーみたい!」

「あわわわ……審判の間もなぜか荒れているし、これは大事になっちゃいそうな予感です……!! 落とさなきゃ……!!」

「ほほー、なら標的追加ですなー。

あの少年と神獣も捕らえて、審判の間に落としましょー」


大地の津波を走ってその先頭に立っていた騎士達は、クロウ達を見ると不思議そうにしながらも外敵と認識する。

そんなことはつゆ知らず、眼下で逃げている彼らは……


「なんだぁ、てめぇら!? 目障りだ!! 殺すぞ!?」

「誰のせいでこうなってると思ってんだよ馬鹿野郎!! お前も森の敵なら共闘しろよ!? 死にたくねぇんだこっちは!!」

「俺もだボケ!! 誰が好き好んで死ぬってんだぁ!?」

「じゃあ殺すなよ!! 敵の敵は味方だアホ!!」


成り行きで一緒に逃げることになった青年と、派手な喧嘩を繰り広げていた。深く考えるまでもなく、明らかに体力の無駄遣いである。



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