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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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196-ブロセリアン

海音とリューを追っていく俺達は、フーのそよ風を使うことで可能な限り素早く彼らに接近する。

荷物は俺のリュックと収納箱くらいで、他に重さが加わるのは俺とロロだけだ。


いくらフーの風がそよ風だと言っても、ある程度のスピードが出る。流石のリュー達といえど、無警戒ではないのかすぐには突入しなかったため、すぐに追いつくことができた。


「おい、リュー!! と海音!!」

「あー? なんだよクロウ」


珍しくちゃんと周りを見回しながらも、歩き続けるリューを早速怒鳴りつけると、彼はダルそうに振り返る。

1人……ではないが、勝手に突撃していっていることは頭にないようだ。


それとも、死の森に近くなったらスピードを緩めたことで、今までとは違うと思っているのかもしれない。

今回は怒られるようなことはしてないだろ、と。


だが、どちらにせよ俺からしたら堪ったもんじゃない。

いつも通りにお前ふざけるな案件だ。不服気なリューに負けることなく、俺はそのまま怒鳴りつける。


「なんだじゃねぇよ、勝手に行くなバカ!! 死ぬぞ!?」

「わかってるよ、だから待ってんだろ?

つうか、俺はライアンと約束したから死なねぇ!」

「なんだそれ? いつの間にそんな約束したのか?」

「おう、だから心配ねぇ。ほら行こうぜ!

海音は全く止まってねぇ」

「ああ!?」


リューに促されて前を見ると、そこにはさっきと同じように進み続けている海音がいた。

真っ先にリューを止めたことで、自分は話しかけられてないとでも……!? 名前は呼んだぞ、ちくしょう!!


まぁ、ロロとフーも止められないながらついていってるし、警戒はしてるみたいだから心配なさそうだけど……

ちゃんと警戒するくらいなら離れるなよ……ここは死の森だぞ……?


「……はぁ、あいつヤバいだろ」

「はっはっは!! まだ何も出てきてねぇんだから、さっさと行こうぜ! 何がいるのか知りたくても、入り口じゃな!」

「はいはい」


リューに促された俺は、仕方なく彼に同意して奥に進む。

振り回されっぱなしで腹は立つが、今度は海音を追って駆け足になった。




「……マジでなんにも出てこねぇな」

「そうですね。死の森と言うだけあって、生き物の気配が全くありません。植物も枯れて、虫すらいなそうです」


海音に追いついてから数分後。

ようやく2人共と足並みを揃えることができた俺達は、静かな森を当てもなく進み続けていた。


海音の言う通り、生き物の気配は全くない。

細っこい木々は大きいだけで枯れたようにボロボロで、森の外で感じた獣の獲物を狙うような視線も消えている。


地面には足跡もなければ、雑草も枯れ葉もない。

どこを見ても土、土、土。文字通り死んだような土地だ。


しかし、死んだ土地ならばそれをやったものがいる。

静かだった森は、リューが発した警告で段々と賑やかさを取り戻し始めた。


「……ん? おい、クロウ! 何にも、じゃあなかったみたいだぜ! 視線が戻ってきた」

「魔獣か? ロロ、数わかるか?」

「ご、ごめん、数えきれないや……! 周りからどんどんあふれてくる。オイラたち、おびきよせられたみたいだ……!!」


リューの警告を受けて、ロロに感知を頼んでみると、彼は俺の肩で震えながらそう呟く。


神秘が濃い場所ではよくできないと言われていたが、今回は感知はできたらしい。

だが、その数があまりに膨大であるようだ。


周りから……前も含めて全方向から溢れてくる、と。

とんでもないな。変に逃げてもよくないかもしれない。


距離があるのか、俺にはまだはっきりとはわからないけど……

2人しているというのなら、いるんだろう。

フーは変わらず無言、海音は気にせず進んでいるけども。


「おい、海音! 魔獣がいるらしいぞ、気をつけろ!」

「あ、はい。わかってます。ですが、まだ襲ってくるつもりはないみたいですよ。随分と統率の取れた動きです」

「いや、むしろ悪いだろそれ!? どうすんだ!?」

「斬ります」

「聞いた俺が悪かった!!」


海音のあまりの無警戒さに慌てて注意を促すと、彼女はしれっとうなずいてそのまま歩いていく。

どうやらリューよりもずっと前から気がついていた様子だ。


だというのに、全く気にしなかったというのだからふざけてる……!! 何が生物の気配が全くないだよ!!


せめて教えろよ、俺はまだよくわかってないんだぞ……!?

狩りしてたことがあるとはいえ、素人なんだから。


……はぁ。とりあえず、こんな森の中で魔獣の群れに襲われる時の対応を考えないと。壁はないし、襲われる前に森を出るくらいしか思いつかないけどな……


「リュー、こういうときはどうしたらいい?」

「あー……突っ切る」

「……じゃあ、海音は群れが動き始めたら教えてくれ。

円形を作って、隙をなくしながら進もう。

手薄なとこがあれば、リュー達の風で飛べるだろ」

「はい、もう動いてますね」

「すぐに教えろやァ、さっきからァ!?」


俺がリューの言葉から作戦を考えていると、変わらず歩き続けている海音がしれっとのたまい思わず怒鳴る。


もう動いてるってなんだ!? もうそんなに数が集まってるのか!? まだ動いてないとか言っといて、準備早すぎるだろ!?


敵が俺達のところに押し寄せてきたら、どうにか壁の薄いところからリューの風で突破して置き去りにしたいところ……!!


「そうですね……もちろん数えるのは無理ですが、逃さないようにか背後が厚く、続いて前と左、最も緩いのが右側ですね。おそらく、ノーグがあるからでしょう。ですが基本的に、どの方面からも獣の濁流が来ると思ってください。

リューさん達の風も、逃げで使えば抑え込まれるほどの」


身構えながら周囲に気を配っていると、海音は刀を抜きながらいきなりめちゃくちゃ詳しい説明をし始める。

やっぱり風で飛んでなくてよかった気がするけど、直前で教えるってなんだよ!?


いや、直前じゃなければここまで詳しくなかったのかもしれないけど、さっきから緊張感がおかしくないか!?


「すっごく詳しい!! マジで初めから言っとけよ!?

全方向って聞いてなきゃ、最初から逃げようとしてたぞ!?」

「第一陣、来ます」

「っ……!?」


反射的に文句を言っている間に、敵は一気に押し寄せる。

眼の前に現れたのは、真っ黒い絨毯かと思ってしまうほどに積み重なった黒い犬の群れだ。

言われた通り、背後から押し寄せてきた。


「海音、斬れ‥」


"天叢雲剣"


俺が頼む前に海音は刀を振り上げる。

繰り出されたのは、天で斬る天変地異のような斬撃。

刀に纏った水は空気を伝い、目の前の景色ごと黒犬達を捩じ斬っていく。


「前からも、来ます」


海音の斬撃は凄まじいが、それでも一太刀だ。

仲間を盾にするような形で突っ込んできた黒犬が何十頭も押し寄せてきて、俺達に襲いかかってくる。


俺には大した力はないけど、海音の警告を聞きながらどうにか長剣でそれらを防ぐ。ロロは俺の肩……


「リュー、フー!」


おそらく、俺がこの中で求められているのは指揮だ。

いくら運が良くても、剣一本で群れはどうにもできない。

一番敵が多いという背後に、思わずとはいえ海音をぶつけてしまったのなら残りは前進に使うしかない。


まだ来ていない左右に注意を払いながらも、俺はリューとフーに指示を出す。すると、彼らは性格を入れ替えながら強力な風で敵を吹き飛ばし始める。


「アッハハハ!! 数が多いならあたしの出番ってねぇ!!

うっすいナイフでも雑魚ならカンタン、すーぐに道を開いてやるよぉ!! あ、もちろん油断はしないから安心しな!!」

「……」


"そよ風の妖精(ゼプュロス)"


"魔弾-フーガ"


フーがポーチから取り出した、雨のように大量のナイフは、そよ風に乗って前方から押し寄せる黒犬をなぎ倒す。

威力は低いが確実に怯み、続くリューの風の弾丸で文字通り風穴を開けられていった。


やっぱり、一撃は海音だけど、複数相手ではこの兄妹の方が便利だ……もし、前に進むならこのまま……


「獲物は5人、敵になるのはそのうち3人かねぇ?

四方から囲めば直に手数で圧倒できそうだ」


倒れても倒れても押し寄せてくる黒犬を必死に倒していると、突然、どこかから声が響いてくる。

しかし、同時に左右からも黒犬がやってくるので、探す余裕はなかった。


風で飛んでも抑え込まれる、俺みたいにただ斬るだけでは防げない、手が、足りない……!!


"モードブレイブバード"


「一度上に飛ばせ、全員!!」


声の主を確認したい、四方から押し寄せる黒犬を防ぎたい。

両方するなら、無理やりだ!!


"恵みの強風(ノトス)"


右目の碧眼を意識し、全身に青い光を纏った俺は、2人に頼んで全員を空に飛ばしてもらう。

すると、さっきまで俺達がいた場所は一瞬で黒に染まり、そのまま上空にいる俺達に向かって黒い柱が生まれ始めた。


稼げた時間はほんの一瞬。

だけど、どんな状況でもちっぽけな運だけで勇気を振り絞る。冷静に周囲を見回す俺の目には、離れた場所から冷たい眼を向けている巨大な黒犬が映っていた。




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