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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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195-死の森の偵察

ソフィアさんに話を聞いた俺達は、最初と同じように消え去り、壁へと戻っていく彼女を見送ってから死の森へと向かう準備を始める。


収納箱から元々入っていた車を取り出し、未だに気絶しているリューを押し込んで……


「そういえば、ドールもシリアもいねぇから運転できそうなやついねぇな……」


今まさに乗り込もうとした瞬間、俺は最も重要なことを思い出す。今この場にいるのは、俺とロロ、リューとフー、そして海音だ。


海音は八咫出身で残りはフラー。ロロに至っては猫だ。

ガルズェンス出身者がいないので、この車の操縦どころか、機械に慣れ親しんでいたような人物すらいない。


車を取り出してリューを押し込んだはいいものの、これではただの頑丈なテントでしかなかった。

……タイヤのついてる頑丈なテントって、ギャグみたいだな。

うん、本当にどうしよう。適当に動かしてみるか……?


すると、ぼんやりしながら操縦席を見ている俺に何を思ったのか、ロロをリューの隣に置いてきた海音が顔を覗き込んでくる。


「クロウさん、できないんですか?」

「んー、できねぇ」

「なら私がやりましょう」

「は……? 海音、運転できるのか?」

「いえ……ですが、少しだけ話を聞きました。

何かしらを押せば、どこかしら動く、と」

「よーっし、俺がチャレンジするしかねぇな!!」

「そうですか……? よろしくお願いします」


俺ができないと知ると迷わず名乗りを上げた海音だったが、明らかに任せてはいけない口ぶりに奮い立てば、すぐに折れて任せてくれる。


やはり考える前に行動……じゃなくて、考える必要をなくすために行動だったか。まぁ、どちらにしても結果は同じ。

とりあえず、今回は斬るという選択肢じゃなくて動かすという選択肢だったから助かったな。


この人はかなり斬るってことに特化した人だから、もし斬るって選択肢だったら止められなかった。

そして、脳筋に任せたらすぐさま大破だ。


ガルズェンスの機械とはいえ、こんな神秘の濃い神獣の森で……あれ、神秘が濃い森……?


「おい、ちょっと待て……

確認だけど、もう車壊れたりしてないよな……?」


ふと思いついた内容にゾットし、考えなければ仕事人……といった風にさっと助手席に乗り込んでいた海音に問いかける。

すると真面目な表情をした彼女は、やはりなんにも考えてなさそうな雰囲気で爆弾を落としていく。


「あれ、よくわかりましたね。少し錆びてきてます」

「うおーッ、マジかーッ!? マキナが成し遂げたっていう、科学に神秘を付与するって技術ショボッ!!

急がねぇと、下手したら走りながら大破じゃねぇか!?」

「そうなれば、地面を粉微塵にしてクッションにしますよ」

「そりゃどーも、脳筋!! 急ぐぞ!!」


俺は海音の申し出に適当に返事をし、大急ぎで乗り込んで死の森へと移動を開始した。




~~~~~~~~~~




結果として、運転ができる人がいないという心配については杞憂だったと言える。理由は、この車が全自動だったから。


神秘による破損でみるみる精度が落ちていくも、進むことだけは変わらない車は、俺達を乗せたまま壁に沿って爆走していく。


わずかに車体を浮かせている車はしばらくして、ふらつきながらも問題なく死の森ブロセリアンへと到着した。




「あー、楽だった」


段々と壁が切れてきて、明確に植物の質が変わってきた頃。

枯れてはいないが生命力を感じない、細くおどろおどろしい森の前に俺は降り立つ。


目の前に広がるのは、不可侵の壁ノーグとは違って道のある死の森ブロセリアンだ。


ただし、地面に余計な雑草はなく、木々にガルズェンスの森ような逞しさもなく、岩戸の宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)の祭壇周りの森のような輝かしさもない。


生きてはいるし、神秘的でもあるのだが、そのすべてがマイナス方面に……死に向かっている気がする。

普通の生物では生きては帰れない死の森と呼ばれるだけあって、まともではなさそうだ。


おまけに獲物を狙うような視線をいくつも感じる。

死の森というのは、死んでいるようなとか以外にも、凶暴な獣たちというのも関係しているらしい。

10や20ではない気がするし、とんでもないな……


「そうですね。浮いているお陰で振動もなく、快適でした」

「それに騒ぐやつも寝てるし、力任せも起こらない。

まぁ、入ろうとした時の大変さは変わらないだろうけどな」


同じようにブロセリアンを眺めながらつぶやく海音に、俺はつい本音をこぼす。車だったのだから快適は快適。

だけど、楽だったというのは暴走がないからだ。


しかし、海音は特に気にした様子もなく、入るための準備を始める。後部座席の錆を引っ剥がしてドアを開け、フーと協力して一緒にリューを外に放り出した。


「ぶへっ……!!」

「…………」

「おはようございます、リューさん。

死の森に到着しましたよ。斬り込みましょう」

「おー!! ついに殴り込みかぁ……!!

……でも、あれ? 俺はたしかノーグに突撃して……」


自身の最後の記憶と現在地の違いに混乱するリューを尻目に、俺はロロを後部座席から回収する。

正直、この2人はすぐに暴走するから止めたいところだけど、実際に偵察には行く必要があるから間違ってはいない。


水を指すことになりかねないから、ヤバくなったら手綱を握るくらいでいるつもりだ。ここまできたら、思い切りの良さと書いて脳筋さも必要。


そんなことを考えながら、俺も準備を始める。

収納箱は便利だけど、なんでも入る分ゴチャついていることは否めないので、適当なリュックを出して水や食料を詰めていく。


死の森は生気がないので、こういった準備はしていかないと怖い……


「ねぇねぇ、あれ、ほっといていいのー?」

「ああ、大丈夫だ。どうせ死の森には行くんだから、無駄に士気を下げる必要は‥」

「でも、もうとつげきしてるよー?」

「は……!?」


肩に登りながら困り顔で問いかけてくるロロに、俺は思わず聞き返す。もうデジャヴだ……

慌てて死の森の方面に目を向けると、そこにはノーグの時のリベンジを果たそうとしているかのように飛ぶリューが。


しかも、今回はその下に刀を携えた海音も走っている。

地上も上空も敵なし、爆走状態だ。あい、つらぁ〜……!!

突撃するにしても、準備ってもんがあるだろうが!?


もう考えるのが苦手とか関係ねぇな、海音も!!

今のあいつは、普通にワクワクと自分の感覚のままに喜び勇んで突撃してるよ!!


唯一、彼女と協力してリューを放り出していたはずのフーは突っ立っているけど……


「……はぁ。行くか」

「あ、あいさー」

「…………」


俺は準備もそこそこに、彼らを見失わないうちに死の森へ向かうことを決意する。ロロも気まずげだ。

フーは相変わらず無口無表情だけど、割りと協調性は見せてくれてて本当に助かるよ……


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