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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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192-不可侵の扉・前編

「これがクロウさんの聞いたという、不可侵の扉――ノーグですか?」

「あー……」


海音に促された俺は、再び前を向いてよく見てみる。

目の前にあるノーグと思しき壁は、人の手足以上の太さがある木が幾重にも重なり合った、思わず呆然としてしまう程の強固な壁だった。


左右遠くまで眺めてみても、その切れ間は見えない。

扉と聞いていたけど、これはただの壁だよな……?


とりあえず、鈴鹿さんの間違いじゃなければここは神獣の国アヴァロンがある神秘の森――ミョル=ヴィド。

その道を阻む不可侵の扉――ノーグなのだろう。


壁にしか見えないけど、実際に入れないのだから不可侵の扉としての役割は果たしていると言える。

ほぼほぼノーグだと見ていいはずだ。


「……初めて見たけど、そうだと思う」

「そうですか。では、開くか見に行きましょう」

「開かねぇから不可侵なんだろ? いやまぁ、そりゃ見には行くけど……手を出すつもりはないぞ。ロロに感知頼む」


開かなくても開こうとしそうな海音を諌めつつ、彼女の腕の中にいるロロに頼んでおく。

神獣の国だというアヴァロンに、他に手がないならともかく、到着してすぐに喧嘩なんて売りたくない。


海音は相変わらず無表情に近い凛とした表情をしているが、わずかに面倒くさそうにしているため目を光らせておかなければ……


「あいさー。けど、リューはもう行ってるよ?」

「はぁ!?」


海音に釘をさせて気を抜いていると、直後にロロは、上空を見つめながら爆弾を放り込んでくる。

慌ててノーグの方向を見てみれば、そこには彼の言葉通り、ノーグに向かって空を切り裂いて進むリューがいた。


おいおい、冗談じゃねぇぞ……!? 不可侵の扉からの侵入なんて明らかに敵対行為だろうがよ、あんの自己中野郎……!!


脳筋に意識を割きすぎた!! 興味津々自己中風男こそ、元祖振り回しメンバー!! 水をまとうけど一言で言えば侍な海音と違って、風をまとって飛ぶあいつこそ目を離しちゃいけなかったのに……!!


風に乗って飛ぶリューは、明らかにノーグに突っ込もうとしており、今にも激突しそうだ。ちなみにフーは、我関せずとばかりに花を摘んでる。お前はお前でそんなだったか……?


「おい、脳筋!! あれ撃ち落とせないか!?」

「あ、やっていいんです? ならば斬りま……いえ、鞘で峰打ちですね。ガルズェンスでの恨み、ここで晴らします」


走っても追いつけるはずがないし、そもそも俺は上空にいるリューに手を出せない。そのため試しに海音に聞いてみると、彼女はあっさりと頷いて刀を構えた。


どうやら、本気で叩き落とすつもりのようだ。

半分くらい冗談だったんだけど、彼女は鋭い視線でリューを射抜いている。え、マジであれ落とせんの……?


俺がドキドキしながら見守っていると、刀を構える彼女の周りには水の円のようなものが現れる。

本気で斬らないとはいえ、ぶつけることに変わりないため……もしくは、斬らないからこそ水の勢いは必要らしい。


ぐるぐると渦巻く水は、みるみる波打ち鞘に入ったままの刀や彼女の全身に力を溜めていき……


"天叢雲剣-鞘"


海音が刀を振り下ろしたことで、一気にその力が霧散した。

水は空に伝わり、その軌跡を辿るように天がネジ曲がっていく。


その射程範囲は、当然標的であるリューに届くほど。

峰打ちであるため斬れはしないが、ネジ曲がった天は彼の無防備な背中に炸裂し、抵抗すらさせずに地面に叩き落す。


……だが、ネジ曲がる天はそれだけでは終わらない。

どう見てもリューが近くまで飛んでいたからなどという理由ではなく、狙って当てた一撃。


天叢雲剣は、バカでかいノーグのてっぺんからその根本までを、斜めに容赦なく本気で遠慮なく片手間に斬り裂いた。

いや、実際には傷一つついてはいないけども……


「って、うおぃ!? ノーグに手は出さねぇって言ったよな!? なんでノーグも斬ってんだ!?」

「……つ、ついでですよ。ついで。

それに、鞘で斬れるとも思っていませんでした。

後で本気で斬ってみたいものです」

「斬るなぁッ!!」


この場合、手を出したという方が重要だ。

不可侵の扉がどういうものかはわからないが、ガルズェンスと違って完全に封鎖しているというのなら、見張りが誰もいないなんてことはないだろう。


さっきの行動がバレて、敵対行為だと受け取られたら、入る入らない以前に敵認定されてしまう可能性があった。

いや、敵認定されない方がおかしいし怪しい。


もう、この国の神獣たちとまともに話し合えるとは思わない方がいいかもしれないな……ちくしょう。

けどとりあえずは……


「フー! 叩き落したリューの回収を頼む!」

「…………ん」


花を摘んでいたフーに頼み、墜落させられたリューの回収だ。壁に攻撃が加えられて目の前に不審者がいるとなれば、確実に捕まえようとする。少なくとも、俺ならそうする。


振り回されるけども、家族を見捨てるのはありえない。

なぜかフーは落ち着いているし、これであいつは大丈夫だろう。次は脳筋……


「……さて。それでお前は、こっそりノーグに近づいて何をしようというのかな? 脳筋の海音さん……?」

「いえ、今度はリューさんなどを巻き添えにしないような位置から全力で斬ろうかと」

「俺は!! 斬るなと!! 言ってんだ!!

ロロ、念動力でこいつ抑えといてくれ!!」


リューへの対策を立てている間に、素知らぬ顔でノーグに向かって歩き始めた侍を問いただすと、彼女はごまかすこともなくしれっとのたまう。


さっきは少しだけ悪いことをした的かな反応があったのに、もうすっかり開き直っているようだ。


こいつ、やることはやるしある程度は言う事聞くけど、その規模が馬鹿にならないし「まぁいっか」的なノリでめちゃくちゃなことをし始めるから手に負えない……!!


「ご、ごめん……のんのんきん力いじょーで、まったくおさえられる気がしないやー……」

「はぁ……!?」


しかも、手で押さえる訳でもないロロの念動力まで効かないようだ。そりゃ、そんな強い力でもなかったけど……

足止めにもならないって、なんなんだよこいつ……!!

ふざけんな超人コノヤロー!!


「マジで頼むから、ノーグに斬りかかるのやめてくれ!!」

「そ、そんなにダメですか……? ちょっとだけ……

1回だけひょいって斬るのは……?」

「却下ァーッ!! 無しだ無し!! 観察だけ!!」


俺が海音の腰辺りに抱きついて必死に止めると、彼女はようやく聞く耳を持ってくれたようで足を止める。

振り返った彼女は、眉を下げて心の底から斬りたそうにしており、「すごく斬りたいの、ダメ……?」という雰囲気だ。


なんか、本当はこっちが悪いのかと思わされる。

しかし、それにも負けずに止め続けると、ようやく諦めてくれた海音は力を抜いてくれた。


……はぁ、疲れた。というかこの人、こんなに斬りたがる人だったか? どこのバーサーカーだよ。


そのうち人斬り始めたりしないよな……?

今までもまずは斬ろうとしてたけど、少し止めればすぐにやめたのに……


「仕方ないですね……ですが、それなら私はどうやって突破しようとかは一切考えませんよ。苦手ですので」

「おい、まさか……考えるのが面倒だから、とりあえず斬って解決しよーってことか?」

「はい。もちろんそうです」

「よーっしわかった!! 重要だからこそ、急ごう役に立とうとかそういうことな? なら、一旦落ち着け!!

別に国滅ぼそうってんじゃないんだから、協力できればそれが一番だ!! 今の感じだと、お前のが魔人だぞ!?」

「落ち着きましょう、クロウさん」

「だぁれのせいだと思ってんだーっ!?」


疲れ切った俺に投げかけられた宣言で、俺はようやく海音の在り方を理解することができた。


今までもまずは斬ろうとしてきた海音だが、すぐに止まって他の誰かの案に乗っていたためここまで暴走したことはない。しても、そこまで問題のない範囲でだけだ。


そのせいで、考える前に斬ろうとするから気をつけないといけない人だと思っていたけども、実際は違う。

考えたくないから斬ろうとするので、考える必要があったり急ぐべきだと思わせたりしてはいけないという人だ。


つまりは、仲間内にめちゃくちゃ頼りになるブレインがいて、彼女に考えさせなければいい……と。

よーっし、俺の負担がとんでもなくなってきたぞー!!


「……はぁ」

「とりあえず、壁を観察するんですよね?」

「ああ、そうだな……」

「元気出して? クロー」

「そうですよ。元気出してくださいクロウさん」

「ああ、そうだな……」


苦悩の現況といつも一緒にいる猫に慰められる俺は、ひとまずノーグに近づいて観察することになった。




「感知、どうだ……?」

「えっとね、すき間とか入り口とかはまったくなくて、上も結界みたいになってるのか、こえられなそー。南のほうに行って、死の森から入るしかないんじゃないかなー」


気絶しているリューをフーに見張らせつつ、俺達はロロに壁の感知をしてもらう。結果はもちろん絶望的。


この何十メートルもある壁は不可侵の扉というだけあって、ガルズェンスの時のようにひっそり越えることも、力付くで突破することは不可能のようだった。


いや、もちろんそんな方法で行くつもりはなかったけど。

一応それは最後の手段で、できるだけ穏便に。

……ともかく俺達は、結界とかいう予想以上に鉄壁な侵入対策に頭を悩ませることになった。


すると数分経った頃、作戦などは考えないと宣言した海音が、何も始まらないことに痺れを切らしたのか、あからさまな質問を始める。


「ちなみに厚さはどうです?」

「……斬るなよ?」

「確認です」

「えっとね、キャンプできるくらい広い?

あと、すっごく強い人……神獣? がいるよ」

「え、じゃあさっきのまずいな……」

「そうですね。少しだけ斬り難いです」

「斬るな?」

「冗談です」


考えないと言いつつ、ちょいちょい斬ろうとする海音に思わずため息がもれる。斬ってもらうとしても、絶対にノーグよりは死の森――ブロセリアンの方がいいよな……


ただ、死の森は死の森で、名前の通り生きては帰れないって言われたから入りたいと思わない。

もしも上にいる強い神獣と話してだめなら、森を全部海音に斬ってもらうことを検討するけども。


そんなことを考えながら壁を見上げていると……


「……」

「……あ」


ノーグの上から下を覗き込んできた、強い神獣だと思われる人物と目があってしまった。


調子乗ったこと言って恥ずかしくなったので、より文章力の上がった(と思いたい)に訂正しました。

戦闘シーンとか、必殺技の安売りという指摘があったので、気をつけようと思います。

(長すぎる物語で、このスタイルじゃないと終わらない気がするため、少し気をつける程度で直しはしない)

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