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化心  作者: 榛原朔
三章 審判の国
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191-暴禍の獣を追って

ようやく3つ目……長い道のりでした。自分はこの作品と最近始めた蜜柑の対策しか書いていないのですが、章ごとに1作感覚で成長しているので、より文章力の上がった(と思いたい)三章をお楽しみいただければと思います。

鈴鹿さんに飛ばされた俺達は、瞬く間に流れていく景色の中で目的地――アヴァロンに辿り着くのをジッと待つ。


光には実体がないため、俺達の体を完全に包み込んでいてしがみつく必要などはない。

ただ、尋常じゃないスピードに目を回してしまわないように注意していればいいだけである。


はっきりと景色が見える訳では無いが、海を超えて、山を超えて、花々や草原の下などを通過していくのを眺めながら、ぼんやりと一瞬の旅路を楽しんでいた。




「ふぉー!! やっぱ速ぇー!!」

「め、目が回ります……」

「じゃーなれるまでは、目とじてればー?

オイラたちもこのい動したのは、のんちゃんと同じかいすーだけど、向き不向きはあるもんねー」


リューがはしゃいでいる隣で、ロロを膝上に乗せている海音が苦しげにつぶやくと、彼はそう助言する。

俺達がこの移動をしたのは、ガルズェンスに遊びに行った時が初めてなので2回目。


だが、光速での移動というものはそうそう体験するものでもないので、海音はまだ慣れていないようだ。

もっとも、ガチの光速だと目的地を通り過ぎてしまうため、加減はしているみたいだけども……


ついでに、俺達はガルズェンスから八咫へ行くのにもぶっ飛んで来たため、そこの違いもあるだろう。

もちろん、あのジェット機のスピードはこの光の足元にも及ばないけど、それでも肉体以上の速度には違いない。


一週間以上似たような経験をしていた俺達とは違って、海音がまだ慣れずに目を閉じるのも仕方なかった。

しかし、俺が他人事ながら少し可哀想に思っていると、彼女はすぐに目を開く。


数ヶ月前の戦いで、1人の鬼神(きじん)から毒を受けながらも最終的に4人の鬼神(きじん)と刃を交えた超人らしく、もう対応し始めたらしい。


まだ多少顔色が悪く、完全に慣れた訳では無さそうだけど、本当に恐ろしい人だな……アホだけど。


「い、いえ……すぐに慣れます。はい、慣れてきました」

「あっはっは、根性あるなぁ!!」

「どうせ到着はすぐですから」

「その通り! まだアヴァロンではないけれど、あそこに行く前に少し寄り道の時間さ」


そんな海音が、恐らく強がっていると、俺の隣りにいた鈴鹿さんがドヤ顔で胸を張り始めた。位置の調整のためか一緒にきていた彼女だったが、どうやらアヴァロンに直行しないからついてきていたらしい。


どこにドヤ顔するところがあるのかは、甚だ疑問だ。

……まぁ、段々と流れが緩やかになってきている景色は、もうすっかりフラー辺りのもので実際すごくはある。


とはいえ、やっぱり寄り道でドヤ顔なのはよくわからない。

しかしそれをありがたがっている人もまたいて、鈴鹿さんを見つめる海音の顔色は目に見えてよくなってきていた。


……ただ、そんな話は聞いていないから、どこに行くつもり、もしくはどこに連れて行くつもりなのかは謎だ。

鈴鹿さんに限って、そんなにヤバいところへは行きたがらないと思うけど。


……いや、割りと行く人か。人間として尊重したいからって、鬼神(きじん)を放置するような人だもんな。

海音には悪いけど、必要のない場所だったり変な場所だったりしたら、今からでも直行してもらおう。


「それで、どこに行くんだ?」

「ソフィアって国の大図書館さ。キミ達、そこの司書ちゃんに記憶を写してもらったんだろう? その刀からも、獅童の戦闘の記憶を取り出すべきじゃないかな?」

「え、そんなことできんの……!?」

「さぁ? でも、このまま暴禍の獣(ベヒモス)と戦うよりはいいだろう? どうせ移動は一瞬なんだから」


必要なければ止めようと思って聞いたけど、これは行くべきかもしれない。当然危険は一切ないし。

ただ、他のメンバーを無視するのもよくないな……


「……まぁ、そうだな。みんなもそれで‥」

「ということで、到着さ!」

「早ぇよ!?」


鈴鹿さんと俺が行きたいと思っても、リューなどがさっさとアヴァロンに行きたがったら揉めて面倒だ。

そう思ってみんなにも聞いてみたというのに、俺がそれを言い終わる前に光はかき消えた。


いきなりの着地……

しかし、移動中に俺達を包み込んでいたのと同じで、着地時にも支えとなった光のお陰で転けたりすることはない。


思わずギョッとしたものの、全員が綺麗に大図書館の目の前に降りたっ……


「……ん? ここ、本当にウィズダム大図書館……?」


俺達はウィズダム大図書館の目の前に降り立ったはずだった。しかし実際に目の前にあったのは、大図書館がある街――イーグレースの中の空き地のような場所である。


空き地とはいえ、こんなに広い土地は大図書館しか思い浮かばないが、大図書館がなくなったという方が信じられない。

どちらかといえば、同じくらい広い空き地という方が信じられるけど……


ちらりと鈴鹿さんを見てみると、彼女は彼女でかなり混乱しているというか、ショックを受けて呆然としていた。

騒がしいリューに返事をしているが、明らかに心ここにあらずだ。


「あー……そのはず、だよ」

「嘘つけ!! どこにもねぇじゃねーか!?」

「ないねー……」

「間違えてなんかの跡地にでも飛んでんだろ、これ!!」

「えー……? 我、そんな適当な操作していたかなー……?」


よくわからないが、どうやら鈴鹿さんの能力では大図書館には移動できないということらしい……?

大図書館が消えたのだとしても、他の場所に着いたのだとしても、ここ以外には着かない……と思う。


念の為辺りを見回してみると、周りに広がっているのは明らかにソフィアにある街イーグレースだ。

この空き地に向かって、本屋や学校などが立ち並んでいる。


街の中心にある空き地ということは、やはりここはウィズダム大図書館があるはずの場所だろう。なぜかないけど。


……いや、どういう状況?

明らかにウィズダム大図書館が、消えてる。


あの、バカでかい図書館が。

この星の歴史を記す、叡智の結晶が。

街はいつも通り人が行き交っているけど、シルとヘズに何かあったんだろうか……?


「ともかく、その大図書館はないのですよね? 消えてしまっているのであれば、もうアヴァロンへ向かうべきでは?」

「そうだぜ!! 探す当てもねぇしな!!」

「えー……? それでいいのかなー……」


俺が街を観察しつつ考えを巡らせていると、思考を放棄したらしい海音達は、アヴァロンへ向かおうと提案し始める。

ロロはフーと同じように黙り込んでいるが、異論がないなら多数決的にも確定だ。


シル達のことはかなり気になるけど、いつまでもここで突っ立っていても仕方ないし、入り方がわからないアヴァロンで悩む方がいい。


「気になるなら、俺達を送り届けた後でまた来ればいいんじゃないか? 俺も気になるから、次会ったら教えてくれ」

「えー……? ……はぁ、キミまでそう言うなら仕方ないか。

直行からもう我はいらないね。すぐ着く‥」


"天岩戸-開幕"




"天岩戸-閉幕"


「はっ……!?」


俺の提案……というか頼みに頷いてくれた鈴鹿さんが、おもむろに手をかざしたかと思うと、次の瞬間、俺達は巨大な壁の前にいた。


慌てて後ろを振り返って見れば、そこには今にも消えてしまいそうな光の扉が。

どうやら、ソフィアとアヴァロンはかなり近かったらしく、あっという間に辿り着いてしまったようだ。


「うぇ!? おいおい、もう着いてんじゃねぇか!!」

「…………」

「わぁ……すごいですね。というか、あんなに時間かけなくても来られるんじゃないですか。驚きました」

「いや、ならもっと驚けよ!?」

「……まぁ、それはいいとして。これがクロウさんの聞いたという不可侵の扉――ノーグですか?」


騒ぐリューと無言のフーに挟まれながら、ロロを抱いた海音がつぶやく。


いきなり連れてこられたため、俺はまだ大図書館の行方が気になってはいたのだが、ここまで来たら仕方ない。

海音の声につられて、俺は再び前方にそびえ立つ壁を見上げた。



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