間話-とある書物の記述③
アルタイルを放置することにした美桜達は、彼がティータイムを満喫しているのを尻目に捜索を続ける。
目当てのものはいくつかあるが、その最たるものがクロウに聞かれた神について、それから彼のような存在に伝えるように頼まれた物についてだった。
「神とは、概念……で、合ってる〜? アルタイル」
「なぁんで私があなたに教えないといけないのです?」
白虎と手分けして探す美桜は、本を読みながらアルタイルに問いかける。話しかけながらも目は本に釘付けであるため、宣言通りそこまで期待して聞いた訳では無いだろう。
マイペースにクッキーをかじっているアルタイルも、それがわかっているのかまともに答えない。
美桜も気にすることなく、次の書物に目を移し始めていた。
「次は仲間……確信……彼が既に見ているもの? 私達が生まれる前の伝承……百の手……あなたはいつから生きてるのかな〜?
アルタイル」
「少なくとも、百の手なんて知りませんねぇ」
「守護神獣たちは百の手に……勝った? 負けた?
正体も残らず、結末も残らず……う〜ん、これは……
ソフィアにあるっていう、大図書館に行ってみるべき?」
「ほほう。ならば土産を期待していましょう」
「そんなことは、こちらに利益をもたらしてから言うことね〜! 敵はいないのだから、面倒はないでしょう〜!?」
ソフィアと聞きお土産を要求するアルタイルに、美桜は対価を要求する。屋敷を貸し、嗜好品を与え、匿っているというのに、ここの管理以上の協力はせず、何かあっても見殺しにしてくるのだから当然だ。
追加で何か得がなければ、これ以上何かしてあげる義理はない。すると、本気でお土産が欲しかったらしいアルタイルは、ティーカップを揺らしながら少し考えると、口を開く。
「神とは概念。火、水などの神秘そのもの。
神秘とは大自然。人が手を加えるまでもない生命の輝き。
大自然とはこの星。細胞の如く神秘を内包する地球。
……さて、どうだろう? 誰にもバレずに、何か面白いものや美味しいものなどを調達してきてほしいものです」
「行けば、ね〜」
「ふっふふふ。私は辛抱強い。気長に待つとしましょう」
面倒事の起こらない範囲での取り引き――美桜とアルタイル間でのみ影響がある取り引きは、あっという間に行われた。
アルタイルが何から隠れているのかは不明だが、今まで通り誰にも言わずに調達すれば、敵が生まれることはない。
崑崙に閉じこもっているアルタイルは、安全に新しい物を手に入れられるとの期待からか、いつになく楽しげである。
書物にかじりついている美桜を眺めながら、口の端を吊り上げて笑う。
「美桜殿、恐らく見つけたぞ!
クロウくんに渡すよう言われたものとはこれか?」
彼らの取り引きからしばらくして、書庫に白虎の声が響いたことで遠くを見つめるアルタイルは肩を跳ねさせる。
美桜の数メートル上を見ていた彼が、笑みを引っ込めながら視線を下ろすと、ちょうど白虎が彼女に駆け寄るところだ。
「あ〜……多分?」
「はっきりしないな」
「いやぁ、大分昔のことだから〜……でも見ればわかるよ〜」
白虎に手渡された本を見た美桜だったが、実物を見ても反応はあまり良くない。しかし、実際にその本を開き、内容を確認すると困ったような笑みを浮かべた。
「あ、あれ……これってもしかして大事なやつ……?」
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審判の国アヴァロン
彼の国は支配者に縛られた。審判の代行者に選択を委ねた。
その報いは既に彼の地へ。
閉ざされた森。途切れぬ視線。
彼らにもはや自由な生活はない……
……
だが、その掟に逆らう者がいた。
かつての自由を取り戻し、この地を文明の姿へと。
支配者はその目を彼らに向ける。
自由が与えるのは滅びか繁栄か。
その結末は、いつかの未来に……
これで間話は終了です。
次回からいよいよ三章に入っていきます。