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化心  作者: 榛原朔
間章
220/432

間話-雷陰の根本には火事一つ

橘獅童、烈火を宿す都(カグツチ)、愛宕幕府初代将軍。

これらの名前が指すのは、すべての聖人を育てた男のことである。


同時期に神秘と成り、森から降りてきた卜部美桜に戦いを教えた彼は、やけに神々しい女性、胡散臭い狸、たまたま島に来ていた外国の魔人と鬼人を味方に、幕府を開いた。


隠れ、潜む鬼人。

彼らは鬼人の大火で気が済んだのか、あれ以降そこまで積極的に襲ってくることは無くなった。


だが、それでもしばしば姿は見せるし、実行犯の下の世代ではまた人に追われて恐怖を抱いた者もいた。

決して気を緩めることなどできなかったのだ。


そのため、数百年前――幕府が開かれて数百年経った頃にも、彼は鬼に村を滅ぼされた少年らに稽古をつけていた。




「ほれぃ!! もっとキビキビ動かんかい!!」


炎を纏った刀を振るう体格の良い青年――獅童は、微弱な雷を帯電させている刀を構える12〜3歳少年――雷閃に容赦なく技を打ち付ける。


雷閃が刀で受けようとすれば、それをたたっ斬るように。

飛んで避けようとすれば、滞空中を狙って。

しゃがんで避けようとすれば、頭上から押し潰さんばかりの勢いで。


前後左右上下、どこへ逃げてもどこまで離れても、炎により拡大した攻撃範囲を遺憾なく発揮し、豪快に雷閃を狙いながら平原を穿っていた。


「ひぇぇ……!! 僕らまだ子どもなんだよ、お兄さん!?」


そんな獅童の稽古を受けさせられ、もちろん雷閃は悲鳴を上げる。及び腰になってしまっている彼は、現在3メートル以上の距離を取っているのだが、それでも炎の刃は余裕で届く。


この無茶苦茶な稽古を受けているせいで、何度腕を飛ばされたか、全身に火傷を負ったのかわからないほどなのだ。

雷閃の悲鳴は迫真のものだった。


しかし、必死な目を向けられているはずの獅童は、顔を引きつらせて叫ぶ雷閃の意向などまったく気にとめない。

限界などとは露ほども思っていなさそうな表情で、容赦なく刀を振り続ける。


(オレ)に世辞使ってもなんも出ねぇぞ!!

神秘ならば年など気にするな、願えばそれが現実となる!!」

「願いって、下手したら死んじゃうじゃないかっ……!!」


どうやら彼は、雷閃の限界を見極められていないどころか、お兄さんという呼びかけを手を抜いてもらうための方便だとでも思っているらしい。


サボっている暇なんてないぞとばかりに、むしろさっきよりも火力を上げ手数を増やしていく。

ここまで来ると、雷閃もまともに稽古など受けられない。


どこか悟ったような顔をすると、素早く納刀して逃げ始めた。彼らの稽古に選ばれた平原は、一面焼け野原の穴ぼこだらけである。


「おい雷閃ッ!! 逃げるんじゃあねぇよ!!」

「いや、いやいやいや……!! 逃げなきゃ死ぬじゃん……!?」

「待ちやがれいッ……!!」

「ひぃぃっ……!!」


雷閃が逃げると、獅童も彼を追っていく。

さっきまで一定の範囲内だけに振り下ろされていた炎の刀は、彼らの進行方向に向かって被害を拡大させていった。


あとに残されたのは、同じく稽古に励んでいたもう一組の神秘達である。とはいえ、その修行方法は彼らとはまるで違う。


ひとまず刀に全力を込めて渾身の一撃を……というような獅童の脳筋訓練とは真逆の、どれだけ巧みに自身の神秘を操って活路を開くか……という訓練を受けていた少年――影綱は、稽古をつけてくれているチャイナドレスの女性に、隣から聞こえてきたことについて尋ねる。


「願えば現実になるんですか、美玉(メイユー)お姉さん?」

「んー? ある程度ならなるだろうさ。決して万能じゃないけど、願うだけならばただ。願ってみるがいいよ!」


影綱が操ってる影を見ながら、自身は槍をくるくる回して遊んでいた美玉は、足に付いた車輪で空を飛びながら答える。

稽古内容的に獅童よりはまともで、質問にもちゃんと答えているが、若干軽薄な物言いで真偽は定かでない。


だが疑うほどのことではなく、こういった話でもある程度の信用もあるらしく、影綱は真面目にそれについて考え始めた。


「……僕の、願い」

「雷閃少年の雷は、獅童の炎よりも国を照らす。

影綱少年の影は、美桜の桜よりも広く都を包む。

うんうん、わかりやすくていいものだよ!」

「あいつを支えること?」

「真っ先に浮かんだのなら、そうなんだろうさ!

無自覚にパッと溢れた言葉は、本心に最も近い。

君にはそれを大事にしてほしいものだよ!」

「そうですね……僕たちも、獅童将軍たちと似たような思いを持ってる。死んでもそれは、貫きたい」


にぱっと笑いながらそう言う美玉を見上げる影綱は、彼女の後ろに見える山々に視線を移しながらしみじみと呟く。

幼いながらも、大人びた微笑みを浮かべながら。


すると、そんな影綱の様子を空から眺めていた美玉は、横向きにした槍に寝そべりながら満足そうに頷いた。


「うんうん、悠久を生きるには必須の心がけネ!

じゃーそのために。君はその影で何を為す?

理想がわかれば、次はより精度や威力を高めるために言葉で縛るだけさ! 陰陽道との差は、札という外付けの媒体を使うか、自分という神秘を使うかの違いだけなのだよ!

術は誰でも使える分、適正なければ呪文が増えるけどさ」

「理想は、まずいち早く国の異変に気付けること……とか?」

「いいねいいね! でも、それは普段から能力に気を配る……的なものっぽいよ。だとしたら、必要なのは昼でも影を‥」

「おーい、メイメーイ! 差し入れ持ってきたよー!」


彼らが影綱の能力の拡張を行っていると、街の方から声がかけられる。話し合いをやめて振り返ってみれば、彼らの視線の先にいたのは2人の女性。


桜色の着物を着た、ふわふわした髪型の女性――美桜と、青空に浮かぶ雲のような柄の男物漢服を着た短髪の女性――碧雲(ランユン)が、それぞれ大きなバスケットを持ってやってきていた。


「Oh! ランラン! さんきゅーネ!

お寿司とかあればとても嬉しいよ! なければ項垂れるネ」


碧雲達に気がついた美玉は、さっきまで横になっていた槍を地面に突き刺すと、足に付いた車輪で彼女達に飛びついていく。


差し入れに被害が出ないよう、雲でバスケットを持ち上げ、美桜を横抱きにしながら避けた碧雲は、呆れたように笑っていた。


「あはは、そこはなくても喜んで?」

「もちろんだよ! だーけーどー??」

「はい、お寿司」

「やっはー! もちろん信じていたんだよ!

これはいくらでも食べられるものさ! 感激だよ!」


美桜を下ろした碧雲が、バスケットから寿司を取り出すと、目を輝かせた美玉はその器をひったくるように奪って食べ始める。


変わらず足に付いた車輪で浮かんでいるが、支えのないはずの体はまったく揺れてない。だが……


「あと、肉まんとか小籠包とかもある‥」

「わはー! 君いつの間に神になったの? って聞きたくなるくらい有能なんだよ! あ、僕ら故郷では神だったよ!」


碧雲が続いてバスケットから取り出したものを見ると、体を大きく揺らして喜び始める。


寿司の入った器を持っている手は揺らがないが、それ以外は今にも倒れてしまいそうな程ブレブレだ。

そんな美玉を見る碧雲は、やはり呆れ顔だった。


「ご飯のときは静かにね、メイメイ」

「わかってるよぅ、ランラン!

僕ももう大人さ、母親面しないでほしいものだよ!」

「ほら、ほっぺにお米が付いてるよ」

「ありがとぅ! ママって呼んでいい?」


胸を張って大人だと言い切る美玉だったが、碧雲に頬の米を指摘されると、躊躇いなく取ってもらってママと呼び始める。実に鮮やかな手のひら返しだ。


「君、さっきなんて言ったのさ?」

「僕は今を生きているのさ! 人は変わるものなのだよ!」

「自分のしたことに責任は持たないってことでしょ?

どちらにせよ僕の柄じゃないって」


遠慮なく甘えてくる美玉に対して、碧雲は嫌そうに顔をしかめて見せるも、密かに嬉しそうである。


漫才じみたやり取りで笑い合う彼女達の周りには、ここだけ切り取られたのかというくらいに目を引く、賑やかな空気が漂っていた。


しかし、その隣……美桜と影綱達の周りの空気も、騒がしくないだけで楽しげだ。美玉達と違って平原に腰を下ろした彼らは、ほんわかと和やかにくつろいでいる。


「は〜い影綱ちゃん、お茶どうぞ〜」

「ありがとう、美桜お姉さん」

「ん〜……? 雷閃ちゃんと獅童は?」

「獅童お兄さんは平原を破壊しながら雷閃を追ってますよ」

「あらら〜……あいつ、加減ってものを知らないんだから……」

「ね、時間があれば止めてあげてほしいんだけど……」

「まったく、仕方ないですね〜獅童は」


獅童と雷閃の話を聞いた美桜は、影綱と一緒にホッと一息つきながらお茶を飲む。下手したら雷閃が死んでしまうというのに、どちらも信じられないほど呑気だ。


もちろん、雷閃の強さや獅童の最低限の見極めなどを信頼してのことではあるだろうが……

ともかく、彼女はゆっくりとお茶を飲み、カステラなどのお茶菓子をじっくり味わってからようやく席を立つ。


「碧雲、獅童が暴走気味なんですって〜。

ちょっと抑えに行くのを手伝ってくれませんか〜?」

「ああ、もちろんいいよ。丁度こっちも、メイメイの腹ごしらえが終わったところだから。じゃあ、またねメイメイ」

「バイバーイ」


お茶や間食の器をバスケットにしまった美桜達は、美玉達に挨拶をすると獅童の炎を辿って去っていく。

残された美玉達は、また影綱の祝福についての話し合いを再開した。


「さて、じゃあ再開だよ!

とりあえず、自分を影そのものとできれば間違いないさ!」

「それは神の領域ですよね……? 僕にはまだ無理だよ……」


美玉は再び槍を弄びながら、足に付いた車輪で宙に浮く。

影綱は生真面目な表情で座り込みながら、木の陰を小鳥などの小動物に変化させる。


彼らは力任せではなく、頭を使う理論的な稽古を続けた。


少し前から風邪を引いていて、お知らせとか書いたか覚えてないので何かしら書いてたらすみません。


まず、風邪を引いていて一週間近く一文字も書けていません。一応書き溜めはあるのですが、今学期から完全対面授業にもなるため、あんまり消費したくないなと思っていてしばらくは投稿が疎らになります。


次に、間章が終われば三章に入るのですが、二章と違ってクライマックスでの区切りはない気がするので、今回のように休載しての連続投稿はしません。対面の負担にもよるのですが、理想は2日に1回の投稿で、それを自分が潰れないよう不定期と称して行っていく予定です。


次に、あまり見ている方や気にしている方はいないかもしれませんが、4月1日に一話投稿して、Twitterで本編とどっちを進めるかアンケートすると言っていたことを無断で中止してすみませんでした。


風邪を引いていたということ以上に、呪心の根源の書、本編、呪心とは違ったスピンオフの三作を書いていて、バトロワなんてやってる場合じゃねぇってなってました。投稿も三作を順々です。


化心は三章までで一区切りついて、その先は今までと違って陰鬱にしていくつもり(力不足が怖くはある)なので、その前に書こうかなと(今度こそ)思ってます。


あとがきに長々とすみません。

活動報告だと見られもしないかなと書かせていただきました。これからも化心をよろしくお願いします。

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