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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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185-呪いは災いに誘われて・中編

「……!!」

「こんばんは、君達」


顔が視認できるほどに接近してきたエリスは、やはり以前と同じく、黙りこくったままの俺達に挨拶をしてくる。

純白の翼を翻しながら、カラスの羽根のようなボロボロのマントをはためかせながら。


「エ、リス……!!」

「……挨拶は大事だって、前にも言ったよね?」

「くっ……!!」


"ティエラカース・ピラストロ"


どうにか声を振り絞ろうとした俺の口から無意識にこぼれ出たのは、彼の名前。彼の求める挨拶ではなかった。

そのため、エリスは笑顔を崩さないままではあるが、周囲の岩を操って俺を殺そうとしてくる。


槍のように伸びてくる岩は、何段にも重なり合っていて上に飛んでも体を貫かれるだろう。


もちろん下も同じで、俺という的を中心に円型を作る岩槍は、完全に俺を囲んでいて逃げ場がない……!!

穴開けられればいけるかもだけど、壊せるのか……!?


"神威流-穿剣"


「は……!?」


しかし、俺が剣を構えて覚悟を決めていると、俺の視界はまばゆい閃光に埋め尽くされた。


上も下も、360°あらゆる場所で光の剣が舞っている。

光……どうやら、また鈴鹿さんに助けられてしまったようだ。


一点突破を狙えば、多分自力で助かる可能性はあったけど、そうしたら背後から来てたやつに貫かれてそうだし……

はは、本当に助かった……


「あらら、せっかく避けられないように岩で囲ったのに」


変わらず上空で眺めているエリスは、まったく残念そうに感じられない口調で苦笑しながらつぶやく。

前回の見えない爆発みたいなのもそうだけど、なんでこんな平然と全力で殺しにこれるんだ……!?


とりあえず、岩はなくなったから一応避難しておこう……

俺はエリスから目を離さないようにしながら、足元に気をつけて鈴鹿さんの方に近づいていく。


みんなが寝かされてる場所を俺ごと狙われたりしたらヤバいし、攻撃が真っ先に俺へ来たならわざわざ狙わないはずだ。

彼らの多くは、挨拶をしないんじゃなくてできないんだから。


もし狙われたとしても……土蜘蛛なら岩は防げるだろう。

鈴鹿さんも手招きしてるし、的の分散的にも多分これでいいはず……


「久しぶりだね、エリス。どうやらまだ死にたがっているようだけど、我が殺してあげようか?」


俺に手招きしていた鈴鹿さんは、俺が隣に避難してきたのを確認してから口を開く。


岩の槍にもすぐさま反応していたし、今も平然と話しかけているし、久しぶりとは言ってるけどかなり見知った仲なのか……?


「鈴鹿御前……それは嫌味かな? 僕は死んではいけないんだよ。君も知ってると思うけど」


唾を飲み込みながら見守っていると、エリスは少し苦笑してから返事をする。開口一番に殺すと言われたのに、ほとんど感情を動かされていない。


それどころか、最初に苦笑した後は俺の聞き間違いだったかという程に清々しい口ぶりで、不気味に感じる程ににっこりとした笑顔を浮かべていた。


いや、そもそもエリスが死にたがってるって……?

たしかに前回は邪魔と言いつつも眼中になかったようだし、今回も俺を殺せてないのになんとも思ってなさそうではあるけど……


俺が弱くて気にするまでもないってだけじゃないのか……?

弱いけど邪魔されるのはウザいから、適当に相手して殺せるならラッキー的なノリだと……


「おやおや、意外だね。じゃあ君は何をしに来たのかな?」

「俺はそこのガキを殺しに来たんだよ」


さっきまで楽しげに笑いながらふわふわと浮いていたエリスだったが、提案を断られた鈴鹿さんが質問で返すと、今度は何故か薄っすらと不機嫌さを滲ませて答える。


一人称や声の低さまで変わっていて、かなり苛立っているらしい……? それを見た鈴鹿さんはうんざりとした様子だ。


「はぁ……相変わらず面倒な人だね。ごちゃごちゃしすぎて、誰が誰だかわかりゃしない。ふむ……今はボード辺りかな?」

「私は私だよ。目的だってブレてない。本当に彼を殺したいとは思っているんだ。どうせ邪魔してくるだろうからね。

ただ、彼が私を殺したとして、それでも僕の目的は果たされる。着地点は変わらない。僕はどちらでもいい」


知り合いである鈴鹿さんと話しているからか、彼は以前とは違ってコロコロと感情や一人称を変化させている。

やっぱり俺達はなんとも思われていなかったようだ。


これが素なのか、鈴鹿さんに心を乱されているのか、今目的を語っている彼は女性のように柔らかく、わずかに震えている声だった。


とはいえ、その目的の内容を話している訳ではないので、俺には何の話か理解できない。

前回も殺すと言いながら鼻歌を歌っていたし、いまいちよくわからない人だな……


「仮面が剥がれているよ、エリス。立て続けに大厄災が滅ぼされているのが、そんなにショックかい?」

「当たり前で……ッ!?」


僕という一人称に戻ったことで、エリスの声は最初に会った時と同じ高さになり震えもなくなる。

その間、俺は鈴鹿さんとエリスとをチラチラ目で往復するだけだ。


彼らは会話を続け、俺達は動けず、状況は全く動かない。

だが、エリスの声が突然途切れたかと思うと……


"アサルトゲイル"


視界の端……岩戸の方向から飛んできた風が、エリスを吹き飛ばしてしまった。


「はっはァ、吹っ飛べ!!」

「っ……!!」

「へ? リュー!?」


純白の翼を持っているエリスだったが、流石に予想外のことだったらしくほとんど抵抗できず地上に落ちていく。

逆に、エリスを吹き飛ばした風はその場に留まり拡散し、中からは足を振り切った格好のリューが出てくる。


どうやら彼がエリスを蹴り飛ばしたらしい。

あいつ、いつの間に八咫に来てたんだ……


「おーっす、久しぶりぃ! そしてこの状態では初めましてだな、クロウ。助けに来たぜ!」

「リュー……? それに、フーも。

なんか、しばらく見ないうちに随分と変わったな……?」

「ど、ども……久しぶり。えと……初め、まして?」


俺が突然すっ飛んできたリュー達にあ然としていると、彼は背後に隠れるようににふわふわやってきたフーと一緒に挨拶してくる。


久しぶりと初めましてを同時に口にする彼らは、確かに以前とは別人だ。


リューは戦闘中なのに話せているし、今までの好きなことをする自己中というよりは、爽やかな好青年といった雰囲気。

フーに至っては、話せてる話せてない以前にナイーブな性格になっているようだ。


今までは無口か自己中かだったから、極端に偏らなくなったというだけなのか……?


リューは優しさがわかりやすくなったくらいだけど、フーはただ喋らないだけで物怖じしなかったのが、人見知りっぽくなってて混乱してしまう……


「ふぅん、こうなるわけか。

まぁ、あの子の選択だ。尊重しよう。……で?」


俺が混乱している間に、叩き落されていたエリスも再び上空に戻ってくる。どうやら彼は、リュー達の人格がコロコロと変わっている理由を知っている様子。


しかし、それに対して特に思うところはないらしく、冷めた目で笑いながらどうでもよさそうに吐き捨てた。


「もちろんテメェを殺すのさ、エリス!!」


さっきまでもエリスの笑みはどこか恐ろしかった。

隣人に向けるような笑顔なのに、取る行動は誰かを殺そうとするものだったから。その見た目の感情と行動のズレが。


しかし今は、それがさらに冷たい目で増幅されており明確な恐怖を感じる。だというのに、リューは一切臆することなくエリスに向かっていく。


離脱していくフーに危害が加えられることのないように、彼女とエリスの間という位置関係を保ちながら。


「僕には怯えないんだね、君は」

「はっ、今更怯えるかよ!

何年プセウドス共に弄られてきたと思ってやがる!!

こいつらは大厄災とやってたんだろ?

なら今手ぇ出させるつもりはねぇ、今度は俺の番だ!!」


だが、さっきとは違いちゃんとリューを認識しているエリスは、もう吹き飛ばされたりはしない。

同じように繰り出された足を左腕で難なく受け止め、底の見えない瞳で彼を見つめる。


見つめてどうなるのかは俺にはよくわからないが、何かあるにせよないにせよ、エリスのそばにい続けるのは絶対に危険だ。


だというのに、何故かリューは離れない。

それどころか、エリスの腕に足がくっついたのかと錯覚してしまうくらいに身動き一つしていなかった。


「いやっ、離してっ……!!」

「ッ……!? 泥ッ……!? フー!!」

「君達も、もう一度会いたい人の1人や2人……いるでしょ?」


しかし、その謎の硬直も地上から聞こえてきた悲鳴によって破られる。


エリスから目を離せなかった俺達が、離脱して下に降りてきていたフーがいる方に目を向けると、そこには泥の人形に捕まってしまっているフーがいた。


それも、段々と体が肌色になっていき、髪や服も作られて人に近くなっていく泥人形にだ。ぶ、不気味すぎる……!!


"神威流-穿剣"


"ティエラカース・ピラストロ"


「っ……!!」

「感動の再会だからね。邪魔しちゃいけないよ、人外」


すかさず鈴鹿さんが、俺を助けてくれたように光の剣を向かわせるも、リューがフーの元へ向かったことで自由になったエリスが邪魔をしたことで届かない。


しかし俺とリューは邪魔にならないのか、直接向かっているのに完全にスルーだった。


"スワンプマン"


俺達がその場についたとき、目の前には泥人形などいなかった。そこにいたのは、完全な人間。

頭では偽物だとわかっていても、それでも人だと思ってしまうような人達だ。


「母さん……!! 父さん……!!」


少し離れた場所で、俺と同じように泥人形達を見つめていたリューは、わずかに赤くなった目を見開きながら、震える声でつぶやく。


視線をたどると、その先にいたのはフー。

どうやら彼女を捕まえているのは彼らの親だったらしい。

それが、親に向ける視線なのかは俺にはわからないけど……


「フー、こんなに大きくなって……」

「いやッ、離してッ!! あなたは……あなたは……!!」

「もう……死んだんだろう!?」


"魔弾-フーガ"


親の泥人形に捕まっているフーは、親であるはずなのに必死に身をよじって逃れようとしていた。

同じように、リューもそれを親とは思っていないのか迷わず彼らを撃ち抜く。


それによってフーは解放されたが、倒れ込んでしまって逃げられずにいるし、両親のもの以外にも泥人形はいる。

俺も戦わないと……


「あはは、君たちは親を殺せるんだね。もう会えない人に焦がれることはないのかな? 羨ましいなぁ」

「っ……!? エリス……!!」


俺も参戦していると、いつの間に現れたのか、エリスが宙を浮かんで興味深そうに俺達を眺めていた。

鈴鹿さんを邪魔していたはずなのに、空で寝転んで完全にくつろいでいる……!!


「あの人達が死んだのを、俺達は見た!!

いや、見せられた!! もう、俺の家族はフーだけだ……

あいつを守るためなら、俺は……!!」

「何度でも親を殺せるのかな?」

「ああ!?」


苦しげに叫ぶリューを見て、エリスは暗い笑顔で質問する。

彼の背後では光が散っているが、それを気にすることなく指をさすと……


"スワンプマン-ヴィンダール夫妻"


さっきリューが吹き飛ばした泥人形と、まったく同じような姿をしたものが何十人も立っていた。


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