179-晴天・後編
――人々は異形を否定した。
――世界には不要だと忘れ去った。
――それでも、俺達は片隅に根付いたんだ。
――怨嗟が俺達を蝕み続ける。
――同胞は死を選び、我らはその血肉を食らい意志を継いだ。
――何千年も、何千年も。死にたくて、忘れたくて。
――それでも生きるのは、あいつらの怒りを受け継いだから。
――いずれ世界は歴史を忘れ去る。
――怨嗟の土台が崩れ、共存の時代が訪れる。
――だとしても、俺達だけは……
――だとしても、俺だけは……
――お前達を、否定しねぇ。
――お前達を、忘れねぇ。
――過去に囚われない子孫達が光の中を飛んだとしても。
――俺だけは、最後までお前らと……
~~~~~~~~~~
楽しみの仮面に運ばれた俺は、それなりに大嶽丸に近づいたところで降ろしてもらう。
相変わらず空には光の剣を降らせる雲のような光輪、地上には嵐を生む大嶽丸がいる地獄ではある。
だが、近くにはほぼ互角で渡り合っている雷閃、何度でも食らいつく紫苑、気を引き続けているヴィニー達がいた。
鈴鹿さんの作戦なら、俺も役に立つことができるため、臆さず攻撃を仕掛けるべきだ。
俺は楽しみの仮面に感謝を伝えると、より大嶽丸の意識を分散するために、別々に攻撃を始める。
「さぁ、嵐を味方に♪ ぶっ飛ぶよー♪」
"ビント・オブ・ドール"
俺を降ろしてすぐに右に移動していた楽しみの仮面は、体を薄れさせ風になりながら飛んでいく。
鈴鹿大明神の光の剣、土蜘蛛の岩柱などと共に、大嶽丸に少しでもダメージを与えるための特攻を……
"暴封雨"
だが、すぐに彼女に気がついた大嶽丸は、横目で見ただけですぐに視線を鈴鹿さんに戻してしまった。
ちらりと見た、それだけで楽しみの仮面だった風は雨に絡め取られ、消されてしまう。
「うぇ♪」
「っ……!!」
ドールの能力は、感情ごとに属性を持った分身を生み出す。
それは火、水、風と多種多様で一見万能。
しかし、その分身体が他の何かに特化した神秘と同じような威力を出す場合、死ぬことが前提だ。
あとしばらく楽しみの仮面は出てこられない。
この位置には俺1人……
鈴鹿さんの刀から、気をそらせるくらいの一撃を……!!
「アァァアアァッ……!!」
"本能解放-鳴神紫苑"
俺が楽しみの仮面の消滅を飲み込んで一歩踏み出すと、丁度別方向から耳が壊れそうな程の叫び声が聞こえてくる。
素早く一瞬だけ視線を移して見ると、運良く同じタイミングで接近していたのは紫苑だった。
今までのような拡散した雷ではなく、細身の金棒に凝縮された雷を纏って突っ込んでいく。
"紫電迅雷"
しかも、大嶽丸の嵐なんてなんのそのだ。
雷を絡み取る雷雨、氷の牙、黒い炎雷など、そのすべてを硬質化した肉体を使って力ずつで突き破っていく。
これには流石の大嶽丸も気を向けざるを得ず、鈴鹿さんへは強めた嵐で無理やり対処し始めた。
空から延々と圧をかけ続ける鈴鹿さん、嵐を無理やり突破していく紫苑、何度でも特攻をかけるドール達。
ここに混じって俺も斬る……!!
最も自分で認知しやすい右目に意識を集め、より力を高め……飛ぶ、ただ幸運1つに勇気を持って……!!
"モードブレイブバード"
俺が右目……そしてそれに付随して全身に力を高めて進み出している間に、紫苑はもう大嶽丸の目前だ。
大嶽丸の刀と紫苑の金棒が激突する。
「死ねッ……クソガキィ……!!」
「テメェこそだッ……老害ィ……!!」
激突と同時に、辺りには地面を抉っていく雷が迸る。
島自体が大嶽丸に何度も斬られ、もとから脆くなっていることもあって、俺が接近するための足場までも崩れていた。
それでも……続く!!
"水の相-行雲流水"
札を使うことで剣により強力な水を纏い、川の流れのように緩やかに雷を受け流して接近する。
足場はかなり崩れているが、ヴィニーのようによく見ていれば接近できないほどじゃない。
しばらく拮抗していた紫苑がついに力負けし、吹き飛ばされているのを見ながら大嶽丸の目前に……
「ガ、ハッ……!!」
「ハッハァ!! 圧し殺してやるぜ、紫苑ッ!!」
紫苑の金棒を弾き、振り抜いて嵐で吹き飛ばした大嶽丸は、彼がドールと違ってタフなことを知っているため、追撃しようと一歩踏み出す。
鈴鹿さんが降らせる光の雨は嵐で防いでいるからか、今は紫苑に意識を集中させているようだ。
他にも雷閃とかいるはずだけど、俺には気がついていないのか……?
「行かせねぇ、よ!!」
「ぬッ!?」
俺が叫ぶと、どうやら本当に気がついていなかったらしく、大嶽丸は目を見開いて俺を見る。
しかし、追撃をやめることはなく、移動することで回避も同時にするつもりなのか、そのまま紫苑に向かっていく。
紫苑との間に入っていれば防げたが、位置的にそれは不可能だった。ならせめて、耐えることを信じて隙をつく……!!
"雷激"
「ガゥッ……!!」
「ハッハハハハ!! 雷で潰れろッ、反逆者!!」
大嶽丸が刀を振るうと、その軌道に沿って、吹き飛ばされた勢いで屈んでいた紫苑の全身に雷の柱のようなものが叩きつけられる。
斬られる、焼かれる、潰されるどころか、すべてが塵になってしまいそうな程の勢いだ。
だが、タフな紫苑はなかなか倒れない。
手こずっている間に、俺も大嶽丸に追いつくことができた。
「ハハッ、おいおい……テメェよく追ってこれたなァ?」
完全には意識から抜けていなかったのか、俺が近づくと大嶽丸はすぐに俺のいる方を振り返る。
紫苑はまだ倒れていないため、力を緩めることはできないだろう。
どれだけ意識を割いてるかはわからないけど、少なくとも一対一よりも遥かにいい。チャンスだ……!!
「そりゃあ俺は運がいいからな……!!」
「じゃあその運のせいで死ね……!!」
"黒運死界"
俺が攻撃しようと踏み込むと、大嶽丸は紫苑を圧し潰したまま左手を動かした。すると、周囲に満ちたのは視界が完全に覆い尽くされる程の黒雲。
それも、空気がないんじゃないかというくらいに息がしづらく、雷や炎なども含んでいるものだ。
ただ突っ込んだんじゃ、俺が弱るだけ。
だけど……
"水の相-行雲流水"
これは、すべてを受け流す。
どこかから飛んできた炎でできた空間に黒雲を流し、うまい具合に盛り上がっていく地面を足場に、決して滞ることなく距離を詰めていく。
紫苑は潰されてしまっているが、視界を悪くしたこともあって俺はまた意識から外れている。
大嶽丸は隙だらけだ……!!
「ッ……!! テメェまたッ……!!」
直前で俺に気がついた大嶽丸だったが、流石に反応することはできなかった。
俺に殺されることはない、という油断もあってか、左腕を斬り飛ばすことに成功する。
「ただただウゼェ!!」
「くッ……!!」
"水海剣"
しかし、顕明連を持っている手は右手だ。
左腕を再生させる片手間で、振るわれた刀から生み出された激流に飲まれて押し流されてしまう。
そもそもが水刃と同義なのだが、他にも当然雷や氷なんかも混じっているため、中にいるだけで痺れたりしてキツイ……!!
下から突き上がってきた岩柱のおかげで運良く助かったが、もしこのまま流されていたら溺れるか凍りつくかしていたはずだ……!!
「はぁ……はぁ……」
「グガァァッ……!!」
「いい加減、死ねよッ……!!」
激流から逃れた俺が色んな意味で震えていると、どうやらまだ意識のあった紫苑が、また大嶽丸に立ち向かっていた。
まだ左腕を再生する最中であった大嶽丸は、心底鬱陶しそうだ。さらには……
"神便鬼毒酒"
「そのままいったらええよ、紫苑。うちが弱らすさかい」
「こんのアマァ……!!」
いつの間に嵐を超えてきていたのか、硬質化した状態で盃を傾けている鬼人が、俺を押し流していた激流に自身の力を乗せて操り、大嶽丸を閉じ込める。
すると、大嶽丸の顔は赤くなったり紫色になったりと異常な変化を見せ始めた。最終的にドス黒い色になってふらついているため、毒かなにかだったようだ。
おそらく同じように紫苑もそれを被っているはずなのだが、彼の勢いが弱まることはない。
ふらつく大嶽丸の脳天に、迸る雷を纏った、とてつもなく重い一撃を振り下ろす。
"紫電万雷"
「グッ……ガァァッ!!」
「カハッ……」
"三千大千世界"
「紫苑っ……!?」
しかし、大嶽丸も黙ってやられはしない。左腕の欠損、毒でふらつく全身、脳天への重い一撃と迸る雷。
このすべてを吹き飛ばすように叫ぶと、毒も雷も紫苑もまとめてぶった斬ってしまう。
多少距離があるためはっきりとは見えないが、どうやら紫苑は一刀両断にされ、毒で弱らせた鬼人も体の一部を斬られてしまっているようだ。
紫苑は明らかに上下が分かれ、鬼人も手足のようなものが舞っている気がする。また、減った……
けど、それでも気を引かないと……
"神威流-穿剣"
「ウッ……!!」
震えの治まった俺が、また大嶽丸に向かって足を踏み出していると、彼らがいる方向をいくつもの輝きが満たす。
慌てて顔を覆って目を慣れさせていると、どうやらその光の正体は鈴鹿さんの攻撃のようだった。
大嶽丸の背後に現れた鈴鹿さんは、光の剣をどんどんひび割れさせることで衝撃波のようなものを発し、大嶽丸の四肢を穿っている。
三明の剣ではないため決定打にはならないが、再生した左腕を含めた全身は、みるみるボロボロになっていく。
そして同時に、大嶽丸に致命傷を与えるべく三明の剣でも攻撃を……
"天の魔焰"
「テメェにだけは、斬られやしねぇよッ!!」
"三千大千世界"
「くっ……!!」
背中に向かって光熱を纏う一撃を放った鈴鹿さんだったが、ドス黒く、血で赤く染まった大嶽丸は、振り向きざまに的確に三明の剣を迎え撃つ。
三明の剣が斬られることはなかったが、三明の剣の一振りは鈴鹿さんの手を離れ、俺がいる方に飛ばされてしまった。
俺が、いる方……
俺が、いかないと……!!
「なんだァ、テメェ!? もう一本は、どうしたァ!?」
猛る大嶽丸は、刀を失った鈴鹿さんに斬りかかる。
だが、三明の剣を失ったはずの鈴鹿さんは平静そのものだ。
もはや大嶽丸を殺すすべを持たないはずなのに、距離を取るどころか向かっていく。
薄っすらと笑みを浮かべながら、舞うように。
大嶽丸の繰り出す剣閃と、付近で宙を舞うように操っている光の剣で完璧に打ち合っていた。
ほとんどを弾き、時には避け、しばらく打ち合った彼女は、最後に左右に揺れて攻撃を避けると、後ろに向かって回転しながら宙を舞う。すると同時に……
"神殺しの神火"
「炎ッ……!?」
鈴鹿さんが飛んだ真下を、嵐を突き破った神々しい炎が通過した。当然、その炎は意表を突かれた大嶽丸には直撃する。
既にドス黒いため変化はないが、紫苑の時よりも大きな叫び声を上げているのでダメージは大きそうだ。
さらには……
"天羽々斬"
炎を耐えるために屈んだ大嶽丸の背中を、神々しい水の刃が斬り裂いた。その太刀筋は真っすぐで、大嶽丸を斬ったことで打ち上がったそれは、天を割っている。
誰がどこから飛ばしたのかはわからないけど、とんでもない威力だ。というか、今までで一番ダメージを与えているような気さえする。
「ガァッ……どこ、から……来やがったァァッ……!!」
「前後、だよ」
"布都御魂剣"
たまらず背後を振り返った大嶽丸だったが、視線の先には誰もいない。逆にその隙をついて、天を焼くほどの雷を纏った刀を構える雷閃が接近していた。
しかし炎や水刃とは違って、大嶽丸は異常なスピードでそれに反応してみせる。
爆風を伴いながら捻った体をもとに戻し、すべてを斬ってしまう斬撃をもって迎え撃つ。
"三千大千世界"
「それも、食らっちゃぁいけねぇやつだなぁァ!!」
「わかるんだねっ……!?」
「テメェが強ぇ神秘だから余計になァ!!」
血走った目で叫ぶ大嶽丸は、雷閃の雷を斬り、刀を弾く。
体勢を崩すことはなかったが、紫苑、鬼人、鈴鹿さんと続いていた連撃も途切れ、まともに一対一で戦うことになってしまった。刀は拾ったけど、俺は、あと少し……!!
「俺ガァ、妖鬼族ダァッッ……!!」
「僕が、愛宕の……八咫の、光だッ……!!」
"火怨轟雷"
"天動氷牙"
"壊倒螺破"
"三千大千世界"
"不知火流奥義-却火"
大嶽丸のドス黒い光輪が回転すると、右側から大地を引き裂く氷の牙、左側から抉り取る暴風、空からはすべてを消し飛ばす黒い炎雷が降り注いだ。
同時に雷閃に向けられたのは、人もで島でも、すべてを斬る斬撃。まばゆい炎雷の光輪をより輝かせた雷閃が放つ、周囲に雷を弾けさせている、獄炎の斬撃と激突する……
「はぁぁッ……!!」
「ガァァァッ……!!」
「くぅ……!!」
「お前らは、俺がァ……否定、させねェ……!!
もう、止まりゃしねェ……!!」
嵐と炎雷に俺が近づけずにいると、しばらくして彼らの激突に決着がつく。雷閃は嵐にズタズタにされ、大嶽丸の一撃で左腕を飛ばされ倒れ伏していた。
対して大嶽丸は、左肩から腰までを大きく斬られ、右腕は斬り飛ばされている。刀が……3本目の三明の剣が、大嶽丸の手から離れた……!! だけど、もう……
"神威流-穿剣"
再び接近した鈴鹿さんが攻撃を始めるが、もう他には土蜘蛛とドール、ヴィニーしかいない。
ドールは最初から嵐で簡単に対処されているし、ヴィニーは未来が見れる以外は俺並だ。
あそこまで接近できる戦力は残っていないだろう。
やれるのか……?
「いや、やる……」
俺はすべて飲み込んで再び足を踏み出す。
大嶽丸自身の力で辺りはめちゃくちゃだ。
黒雲や嵐、盛り上がった岩石や土蜘蛛が動かす大地に紛れて大嶽丸のすぐそばへ。嵐は運良く互いにぶつかり合って、俺に傷を与えることはない。
さっき接近した時よりも荒れているが、慎重に行けばバレずに接近できそうだ。
なにせ、俺はちっぽけな神秘だからな……
"天羽々斬"
鈴鹿さんに攻められながらも、少しずつ傷を再生していた大嶽丸だったが、さっきの場所から少しズレた場所から水刃が襲いかかる。あの援護もあれば、きっと……!!
「グッ……!! ガァァッ、あァ……?」
俺が大嶽丸の近く――斜め後ろ辺りに辿り着くと、水刃に斬られていた彼は突然振り向いて訝しげな声を上げる。
思わず体を硬直させてしまうが、彼が光を防ぎながら向かったのは俺の反対側で……
「そこにいんのは、誰だァッ……!?」
「未来を歩く聖人、ですよ……!!」
俺から見て大嶽丸の反対側、さっきまで誰もいなかったはずの場所には、剣脱力してを構えるヴィニーが潜んでいた。
また狐のお面をつけている彼は、凛と声を上げると大嶽丸に向かっていく。
まだ俺は気づかれておらず、背を向けられている……
今がチャンスか……?
「人類は、滅べッ……!!」
「そんな未来は、見ていません……!!」
"双無き剣"
"鬼面舞踏会-死鬼"
大嶽丸が再び握った巨大な刀を振り下ろすと、ヴィニーは流れるような動きで飛び上がる。
そして、わずかに回転しながらその腕の表面を登りながら斬り刻んでいき、最終的にはその首に一撃を……
「その、刀はッ……!!」
しかしヴィニーが首を斬ろうとした瞬間、大嶽丸は目を見開いて嵐を吹き荒らさせる。
空中で無防備になっていたヴィニーは、なんの抵抗もできずに吹き飛ばされてしまった。
「あなたが持っていた刀……顕明連、でしたっけ?」
「テメェッ……!!」
氷の礫や炎雷に曝されたヴィニーは、全身をボロボロにしながらも立ち上がり、薄っすら笑う。
一瞬だけ、俺のいる方向に顔を向けて……!!
「……!!」
「さぁ、弱点を無くすべく来てみるがいい、大嶽丸!!
私にはお前の行動はすべて見えているぞ……!!」
「消えろ、ゴミがァ……!!」
"火怨轟雷"
"天動氷牙"
"壊倒螺破"
"三千大千世界"
瞬間、雷閃に対して放たれた嵐が巻き起こる。
すべてを斬り、すべてを壊す破滅の嵐が……
"鬼面舞踏会-死鬼"
しかし、もはやヴィニーが臆することはない。
水のように滑らかに、雷のように力強く、風のように軽やかに、見えていないように安定した動きで避けていく。
仮面の下からは血が流れているが、決して動きは止まらず、大嶽丸の注意は完全にヴィニーに。
小さく強力な嵐が俺とヴィニー、大嶽丸を閉じ込めているため、光の剣は届かず鈴鹿さんもいない。
これが、ヴィニーの作った好機……!!
すべての援護を無くしたことで、大嶽丸には逆に油断が生まれている……!!
「ガァァァッ……!!」
「……!?」
俺が接近しようとした時、懐から収納箱が落ちる。
慌てて手を伸ばすと、中からこぼれ出たのはリューに貸してもらった大剣。ヴィニーが斬る直前でバレたのなら……
「人間は、聖者は、消え去れェェッ……!!」
……人は、正しくはなれない。
異質な人は視界から消してしまうし、感情に縛られれば非人道的なこともしてしまう。
「人が、人を、許さねェェッ……!!」
でも、それが人間だ。
それでも生きていくのが人間だ。
鬼人の……鬼神達の境遇には同情するし、助けを求めてんならなんでも協力する。
けど、俺達の敵になるなら……
仲間を傷つけるなら、否定する。
狂気に染まってねぇ鬼人と手を取って、あんたらを滅ぼす。
俺達が生きるために、この人生に、お前らは邪魔だッ……!!
「はぁぁ……!!」
「ッ……!! テメェ、またッ……邪魔をッッ……!!」
"今を保つ剣閃"
大嶽丸の首に当てた大剣は、盛り上がる地面や左右から吹き荒ぶ嵐の影響で決して離れない。
口ぶりや必死に離れようとしないことからも、その下にある三明の剣には気がついていない……!!
「死ね、大厄災ーッ!!」
「なッ……!? 地球を滅ぼしたゴミがッ、我をッ……!?」
大剣を手放し、三明の剣だけを握った俺は、大嶽丸を滅ぼせる唯一の武器を渾身の力で振り抜く。
自分の剣で何度もやったように、今度こそこいつを殺せるように。
綺麗な弧を描いた大嶽丸の首は、俺とヴィニーに向き合うような形で地面に墜ちた。
「ハハハ……おい、クソガキ。よぉく覚えとけよ……
俺達はテメェらにとって悪だが、俺達にも帰りを待つ家族はいたんだぜ? 人と認識してもなお、自らが助かるために命を奪ったってこと、忘れんじゃねぇぞ……? カハハ……」
「わかってるよ。あんたら鬼人は人間だ。
だからできるだけ殺してないし、殺すのはあんたらみたいに暴れた鬼神だけだ。……大嶽丸、俺はあんたを忘れない」
首だけになっても喋る大嶽丸に、俺は静かに答えを返す。
彼らの帰りを待つ家族……彼らの帰りを待っていた家族……
俺は、悪人だなぁ……くそ、頭痛ぇ。
大嶽丸の目から光が消え、俺達を覆っていた嵐が晴れると、空には妖しさがなくなり、しかしどこか昏い月が浮かんでいた。