表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
20/432

18-ヴィンダールの傷

魔獣と戦った翌日、俺は病院に来ていた。

他の仲間は別行動。

そして……


「なぁー、俺らも付いてっていいだろ?」

「…………」


目の前にいるのはヴィンダール兄妹だ。

戦いっぱなしで体力の落ちていたリューはロロの力でも治らずベッドに横になり、フーはその前の椅子に座っている。


そして、笑顔で話すのはなんとリューだ。

なぜかライアンと同じように陽気で、だが彼よりしっかりした感じになっている。

正直違和感しかない。


「一時共闘じゃ無かったのかよ」

「ああ、多分こいつはそのつもりだったかもなぁ」


そう言い彼はフーを目で示す。

彼女はリューと真逆で、まるで喋らない。

言葉のやり取りは単語一つをポツリと言うときだけ。

昨日までとは別人だ。


つまり、こいつらの性格がほぼ入れ替わっている状態だ。

なんだよ、これ?


「……あのさぁ。……なんで急に喋りだしたんだ?

で、なんでこいつは静かに?」

「んー何でだろうな? 俺も記憶が曖昧になっちまって分かんね」

「お前は?」

「…………さあ」


そして、さらなる変化がリューにはあった。

これは俺達全員を驚愕させたのだが、なんとオーラが白くなっている。

どうやら彼は、聖人になっているようだった。


……もう意味がわからない。

来るのはいいとして、これは頭が痛い問題に……なるかもだ。

分からないけど。


「俺としては別に付いて来ようがどっちでもいいけどよ。

お前、聖人になってるだろ?

あんまり一緒にいない方がいいんじゃねぇか?」

「別にいいと思うけどなぁ。

そもそもフーが魔人な時点で聖人には白い目で見られるし、場合によっては殺し合いになるし……」

「そう聞くと中々ハードな人生だな……」


最初は恐ろしいやつだと思っていたが、この2人もかなり苦労が多そうだ。なんて言うか……不憫?

操られてたってのもどれほどの物か分からないが、その単語がもう重い。


そしてそんな話題を笑顔で話すリューは心が強すぎないか?


対象的に、フーはその間無表情。

会話に全く入って来ずぼんやりとリューを見ている。

これもその後遺症か何かなんだろうか……?


「不都合はありそうだけど……まぁ別に来たきゃ勝手に付いてくれば?」

「へへっ、話が分かるねぇ」

「ローズ攫った以外被害なかったしな」

「結局共闘したしな。ヴィンセントとの戦いも楽しかったな〜」


やっぱり戦いが好きではあるんだな……

仲間になるなら頼もしいけど。


「でもその体じゃ旅は無理だろ」


改めてリューを見る。

ヴァンに全身を押しつぶされた傷は、所々歪んでいるという形で残っている。

さらには暴威の監獄で背中も引き裂かれているし、鹿の角で腹に穴も開いていた。


旅をするにはキツそうだ。

そう思って聞いて見ると……


「俺、飛べるし?」

「いや、疲れるだろ」

「夜休む!!」


とドヤ顔で言われた。少し腹立つ。


でも結局それ、普通に旅するより疲れるよな……?

ちょっと想像してみると、より過酷な旅が頭に浮かぶ。

まぁこいつがいいってんならいいけどよ……


「文句言うなよ?」

「もちろんだ」


そしてどっちにしろ怖いこの女、フー。

話を聞いてるのかどうかも分からない無表情。

でも一応聞かないとな……


「あー‥フーは?」

「…………行く」


息が詰まる。

是非リューと足して2で割ってくれ。


そんなどうあっても無理な文句をつけていると、リューが目的地を聞いてくる。

少し小突いてみるか……


「俺達は元々イーグレースって街に向かってたんだ。

何事も無ければこのまま直行だ」

「へー、叡智の国ソフィアに行くのか」

「ちなみにお前らが邪魔しなければ、この町にこんな長くいる予定はなかった」

「ははは、わりーわりー」


ちょっと嫌味を言ってみたら、実に軽薄な態度で返してきた。

本当の意味でいい性格してるよ、今のこいつ。


「お陰でロロにも会えたし、いいけどよ」

「俺らは?」

「敵だっただろうが」


正直、こいつらがいなければヴァンに勝てなかったからありがたくはある。

でもフーがローズを攫わなければ多分勝ててるし、絶対感謝はしない。


「……ところで、フーがローズを攫ったんだよな?」

「…………そう」


茨って万能だとおもったんだけどな……

俺が倒せたフーに負けちまうもんか?

そんなことを考えていると、リューが興味津々に聞いてくる。存外に敏い……?


「なんだなんだ?」

「ヴィニーはフーに負けてるんだな、と思ってよ」


本当に最初のイメージとは変わったなぁ。

最初のフーのように活発で、だけど友好的だ。


俺は改めてリューの変貌ぶりに驚きつつも、素直に答える。

すると、その問いの相手――フーは、口調は変わらず、だが最初の時のような強い眼光を向けてきた。


「…………相性」


うーん……?

目に宿る光は強いけど、やっぱり一言じゃわからない……


だが、リューはその一言だけでフーの言葉の真意がわかったようで、朗らかに補足をしてくれる。


「あいつは観察力がすごかったもんなぁ。

フーの戦い方は、意表を突くような不規則さとか数。

そりゃ初見じゃあ負けるよな。奇襲だったし」

「なるほどなぁ‥」


観察力か……俺も教えてもらおうかな。

そこを磨ければリューみたいなタイプも相手にできるかもしれない。

後で頼んでみるか。


「明日には出るから、来るならどうにか退院しとけよ」

「りょ〜か〜い」

「…………」


フーはやっぱり返事をしない。

あんまり来たいと思ってなさそうだけど……リューが来るって言うんだからしょうが無い。


やりづらいから、せめて少しは会話が出来るようにしてほしい。

そのような事を伝えて俺は病院を出た。




~~~~~~~~~~




次に訪れたのはロロの所だ。

というより、町をぶらぶらしていたら声をかけてきた。


今回も何かやることがあると言って、どこかへ行っていたのだが、どうやら終わったらしい。

見せたいものがあると言われたので、俺は町を見て回るつもりだったが急遽ロロに付いて行くことになった。


さらに、その途中でヴィニーも回収されていた。

確実に感知を使ってる。


彼は、ディーテの時と同じように旅支度をしていたのだが、やはりもう終わっているらしい。

前回より人数が増える予定なので、荷物もその分増える。

それなのに相変わらず異常な速さだった。




俺とヴィニー、屋敷に乗り込んだ面子だな……

そう考えていると、まさにその屋敷に連れてこられた。


門から見ると、あまり変化が見られない。

だが中に入ってある程度進むと、倒壊しており人が住める環境ではなくなっている。

ついでにその影響で日光が入り、明るい。


家主がもういないから全く申し訳ないとは思わないけどな。

リューもいらないって言ってたし。


……今更なんの用があるんだろうな?


「何でまたこんなところに連れてきたんだ?」

「えーっとね。あのときたたかった魔人いるじゃん?」

「いたね……あれ、半魔だったりした?」

「え、なんで分かったの!?うん、あれ半魔だった」


ヴィニーが言った言葉に、ロロが飛び跳ねて驚く。


俺が分からなかったのは別に俺の能力が足りてねぇ訳じゃねぇよな……?

なんでこいつ分かるんだ……

少し恐怖心すら感じながら聞いて見る。


「半魔? 町の入口で襲ってきたやつら?」

「オイラそれは知らないけど‥」

「そう思うよ」


なぜかヴィニーはそう断言した。

……てかたまたま当たったんじゃなくて確信?


そう思ってさらに聞いて見ると、どうやら記憶力の問題のようだった。


何でも、中庭で戦った中に覚えのあるのがいたのだと。

神秘、気配、表情などなど、ほとんどがまるで違ったけど顔の造形は同じだったらしい。

造形を覚える……なんてやつだ。


「それ覚えてるのすげぇな。顔なんて燃えてたりして見えなかったのに……」

「それから知能‥というか自我が無かった事。

似たような行動パターンしか無かった事。

ロロがヴィンダール兄妹を正常だと思われる状態にした事。

ここまでくればほぼ確定」

(風の魔人はリューの劣化っぽかったしね)


確かに動きは分かりやすかったけど、俺は力の制御が出来てないやつらだと思ってたぞ。


ここまで繋げて考えないといけないのか……

これを習得できる気がしない……


「今のヴィンダールの状態……操られてたっていうのも人格まで影響出てるっぽいし。

彼らも色々いじられたなら、魔人にもなるよね」

「あーなるほど……精神に影響を及ぼす呪い、か」

「ぜんぶ言われちゃった……」


そうこうしている内に、中庭だ。

ロロはここに彼らを集めているらしい。


てか、どうやって治したんだ?


「でもでも、会わせてって言われてたから」

「話は聞きたいと思ってたから大丈夫。ありがとね」

「うん!!」


壊れた扉をくぐると、魔人になっていたらしい賊達が集まっていた。今は自我があるようで、少し会話が聞こえる。

俺達は話を聞くべく、彼らに近づいていった。






話を聞いてみると、彼らが会いたかった理由というのはここにいない仲間がいるからという事だった。

俺達が何か知らないか? と。


「お前ら、ボスの事どれだけ知ってる?」


「ボスはみんな知ってるぜ」

「ボスは身内に優しかったからな」

「だけどここ最近の記憶はちょっとぼんやりしてんだよな……」


ヴィンダール兄妹と同じだな。

これはやつに風以外の力が……いや、そういえばもう1人いたか。あの神父。あれが元凶か?


「じゃあ、参謀と言ってた神父はどう?」


「それがあの人の事を一番覚えてねぇんだよな……」


「確定だね。多分あれはヴァンだけじゃなく、有力な者も連れ去ってる」

「マジか……またあんなのと戦うのか……」

「気をつけた方がいいかもね」


結局、そういう結論に落ち着いた。

もしあの神父が魔人を量産出来るなら脅威だ。


それから賊達と……いや、もう足を洗うらしいから元賊達と、連れ去られたやつらに会ったら助けると約束をして屋敷を後にした。




~~~~~~~~~~



一夜明け、俺達が町の入口で出発準備をしていると……


「オッスオッス〜。無事退院できたぜ〜」

「…………」


リューがフーのそよ風に運ばれてきた。

飛べるって妹任せ?


「なんで自分で飛ばねぇんだよ」

「町壊れるだろ?」

「加減できねぇのか?」

「さあな」


いや、試すぐらいしろよ。

そんな言葉を押し込み、取り敢えず準備。


この2人は当てにならんから俺とヴィニーで残りの荷物運び、馬の世話などをする。

ロロは朝早いから寝ているし、ローズは何か考え事をしている。

そのため、これだけ人数がいて俺達2人だけでだ。感謝しろ。

しかも今回は2台。


それでもヴィニーのお陰ですぐに終わり、全員が乗り込む。

俺とヴィニーが御者をし、フェニキアを出立する。


右手には妙に頑丈そうで小さな港。

そこには海から突き出した塔のような物がある。

不思議なもので、風が吹き出しているように見えた。


さらには、沖には何か巨大な影。

あれらがこの町の名所かな?


次は近くで見ようと心に決め、俺達は北東、ソフィアへと旅立った。



よければブックマーク、評価、感想などお願いします。

気になった点も助かります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 新しく加わった仲間の説明が丁寧で、どういう状況にあるのかよく分かりました。 [一言] 参謀とかいう神父が何を企んでいるのか気がかりですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ