1-少年の孤独
――数年前――
ここは……どこだっけ……?
いや、ここは俺の故郷……のはずだ。
倒壊した家屋。抉れた地面。
もう見る影もない、役割を終えてしまった……村だったもの。
「俺は……何で1人だけ生き残っているんだ?」
頭が痛い。何も思い出せない。俺は……
いや、せめて片付けて供養しよう。
何年かかっても。
そう心に決めて、俺はまず黒い水溜りを埋めようと足を一歩踏み出した。
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俺は毎晩、夢を見る。何年も何年も、同じ夢だ。
誰かと暖かい家の中で笑い合う夢。
その誰かと別れ、暗い森の中で何かを1人で追いかけ続ける夢。
それははっきりとしたものではなくおぼろげだが、どこか懐かしいような気がする。そんな、心をかき乱す夢。
その終わりはいつも『落ち着け』という声。
多分これは、俺の望みなのだろう。
廃村で孤独に生きる俺の、一番望んでいること。
誰かと暖かい家の中で笑い合いたい。
その誰かのために、狩りや農業をしたい。
家族が欲しい……と。
「ピィ……ピィ……」
「わかった……わかったから……」
俺は朝日が昇るより早く、ペットの小鳥――チルの鳴き声で目を覚ます。
窓の外を見ると、日はようやく森の縁に現れたところだ。
……早いな。
だが、今日は旅に出る予定の日だ。
廃村で迷惑をかける相手もいないので、焦ることはないが早い方がいい。
「ピィ」
「朝食だろ? 分かってるって」
チルが再度鳴き声を上げるので、俺は渋々餌を用意する。
畑で採れた根菜を刻み、貯水タンクから水を汲む。
水はそろそろなくなりそうだが、旅立ち直前なので中々にいいタイミングだった。
それらを小皿に入れて、テーブルに。
するとチルは途端に鳴き止み、空から降りてくる。
催促した割にはのんびりと食べるな……
そんなチルを横目に、俺も自分の朝食の準備を始める。
最近は狩りをしていないので肉はない。
というか、そもそも食料は残り僅かな野菜のみ。
それを塩で茹で、質素な朝食を摂る。
……昼はもっとまともなものが食べられるといいなぁ。
朝食が終わると次は洗面台へ。顔を洗い身支度を整える。
焦げ茶色をした、木の枝のような寝癖を撫でつけ、シワ一つない顔を洗う。
暗い感情も洗い流されるかのような爽快感だ。
自身を見返してくる琥珀色の目もいつになく明るい。
「……ふぅ」
「ピィ」
「チル、ちょっと待ってくれ」
俺は僅かな食料、衣類、水筒などをカバンに詰めていく。
少しの水や火種程度なら神秘で出せるため、荷物は少なめだ。
「よーし、行くか」
俺は、森のそばにポツンと立つ小屋から出る。
周囲にあるのは、俺1人では片付けられなかったような石造りの教会だけだ。
何で滅びたんだろうな……と、俺はこの数年に思いを馳せる。
気がついたら誰もいなくなり、廃墟になってしまった故郷を、1人でひたすら片付け続ける日々……うっ考えるのやめよ。
取り敢えずもうガレキは見たくねぇ……
気を取り直して、右肩に止まる青い鳥に話かけて勢いづける。
「おーし、出発だ。どんな面白いやつに出会えるかなぁ」
「ピィ」
俺は、出会いを求めて旅立った。
0話でも書きましたが、ここが1話なのでもう一度。
神秘≒魔法や魔力のイメージで書いています。