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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
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17-嫌がらせ

俺がリューの元に行き大声で呼びかけると、彼は割とすぐに目を覚ました。

……目は、覚ました。

ただ、余りに静かすぎて俺がきつい。


さらに彼は、魔獣が迫っている事にもすぐに気が付いたらしく、俺が言いかけただけで首を縦に振った。

それからずっと沈黙。凄く居心地が悪い。


みんな……急いでくれ……

俺は切実にそう願った。






「お〜い、クロー」


10分もすると、無事ローズを見つけられたらしく、ロロがウキウキで駆け寄ってくる。

俺はほっと息を吐き、問いかける。


「ローズは無事か?」

「うん。ちょっと疲れてただけだったから治癒力高めてきたよ」

「よかった。ならこいつも頼む」

「あいさー」


少し後ろからヴィニー、ローズ、フーもやってくる。

ローズは少し顔色が悪いかな?

フーが肩を貸している。


「やぁ、クロウ。久しぶり」

「おう、無事でよかった。状況は‥」

「うん、分かってる。みんなボロボロだし、私がやらないとね」

「はぁ? あたしも遊ばせろよ」


フーはローズの覚悟を一蹴する。

ああ‥この女怖すぎ……

この言い方、俺達と同じだけの戦闘をしてた筈なのにまだ前線で戦うつもりだぞ。


「手伝ってくれるの? ありがとう」

「えーと‥援護とかじゃなくて主力で戦うつもり?」

「何当たり前のこと言ってんの? 援護なんて楽しくないじゃん?」


ローズは最初、好意だと受け取っていたみたいだが、ヴィニーへの返答に流石に少し面食らったようだ。瞬きがすごい。


「俺達も端の方でちまちま倒してくから、あんま気負わずにな……」


そんな会話をしていると、急に強風が吹いた。

その方向を見ると、リューが既に飛んでいる。


……もしかして、あなたもバリバリ戦う感じ?

あははー助かるなー。


……この双子、怖。


「……」


彼は無言でこちらを一瞥すると、魔獣の群れの方向へと飛んでいった。


「時間稼ぐから落ち着いたらこいだってさ」

「え、何で分かるの!?」

「そりゃあ双子だし〜」

「便利だな」


あいつは思ったよりまともだったようだ。

真偽は分からないがな。


「じゃ、あんたら休みなよ」

「お前は?」

「あたしももう行くよ? 獲物が無くなる」

「そっすか……」


フーもそう言い残すと飛んでいった。

リューに比べるとゆっくりだが、それでも便利だ。

俺達はこの瓦礫の山を超えないといけない……あ、連れて行って貰えばよかった。


……そういえば茨があるか。


「お言葉に甘えて休もうか。俺も下手したら倒れそう……あれ?」

「どうした?」

「なんか怪我がもう治ってる……」

「は? ん……俺も全快だな。何でだ?」


ヴィニーの背中は、血が止まってはいたが傷は生々しく、見ていて辛くなるようなものだった。

だが、今見てみると確かに綺麗サッパリ消えている。


そして俺もだ。

左腕が少しネジ曲がった感じだったのが、正常な形に戻っている。

当然、全身の裂傷もすべて消えている。

不思議に思っていると、


「そう不思議な事じゃねぇだろ? そこの神獣だって面白い力持ってるようだし」


そう声をかけられた。

また気づかないうちに男が立っている。

ディーテで会った化け物だ。


「うわっ!!いつの間に!?」


驚いて心拍が上がる。

あの神父といい、どいつもこいつも急に出てきすぎだろ……


「えーと、何故ここに?」

「んー? 魔獣に興味を惹かれて」

「なんだ、手伝ってくれんのか?」

「いや、思ったより雑魚ばっかだからもう興味ねぇ」


期待を込めて聞いてみると、彼はそんな事を言い出した。

俺達とっては油断できない事なのにとんでもねぇ。


「は? 俺達に色々言ってきた癖に?」

「大丈夫、多分死なねぇから。あとまぁ……死ぬならその程度って事だしな」

「勝手すぎだろ……」

「……」


男は心の底からどうでもいいと思っているようで、つまらなそうに俺を見る。


「怪我ねぇなら行けば? 俺が出る必要はねぇけどお前らは必要だろ」

「言われずとも、お嬢が回復したら行きますよ」

「ふん、もう彼女も大丈夫だろ」


終始面倒臭げな様子の男は、鼻で笑い吐き捨てるように言う。疲れるてるのか?


「ローズ、行けるか?」

「そうだね、大丈夫そう」


離れていた彼女に声をかけると、ホントに回復しているようで、そう返された。


「じゃあ行こっか」

「了解です」

「せいぜい頑張れ」


男は最後まで投げやりな態度だ。

そんな不機嫌に話す位なら来なくても良かったのにな。

どんだけ急いできたんだか。


"茨の操舵"


俺達は男を残して屋敷を後にした。




~~~~~~~~~~




町の東側の平原。

門を出て、ヴィンダール達が陣取っていた地点まで行くと、彼らは思いの外苦戦していた。

やっぱり疲れてるようで、動きがさっきまでと違って鈍い。

特にフー。


「お前ら、やっぱ休めば? 俺とヴィニーがいれば援護には十分だぞ」

「……」

「いや〜違うんだよ。疲れは猫ちゃんに消してもらえてる。なぜか知らないけど、呪いが弱まってるようなんだよねぇ」


俺の提案に、フーは顔をしかめながら応じた。

呪いが弱まっている……? そんな事があるのか……?


「お前らの神秘が薄くなったのか?」

「さ〜てね。あたしらはただこの力で……」

「どうした?」

「……なんだろ……記憶が曖昧。やっぱ休ませてもらおうかな〜」


フーは頭を振りながらそう言う。


なんかこいつ、忙しいやつだな。

倒した時は最初より狂ってた感じだったのに、ヴァン戦では少し落ち着いて今は敵を前に休むとか言ってやがる。

不思議だ……


「彼も休んだ方がいいよね?」

「いや〜あいつは大丈夫そうだねぇ」

「そうか。彼の強さは実際に体感したからね。すごく頼もしい」

「じゃあ、後はよろしくねぇ」


そう言うと彼女はふわふわと町の方へと飛んでいく。

心なしか不安定な気がする。

特にできる事もないけど気になるな。


「じゃあ、始めよっか」


"茨海"


茨の海が広がる。

とはいえ俺とヴィニー、ロロも同じ場所で戦うので控えめだ。


「厄介なのは……あの奥の鹿かな」

「ですね」


魔獣は20頭にも満たない程度だったが、大体は元が聖獣のようなので同格くらいだ。

俺やヴィニーが何とか倒せるかどうかってレベルで強いだろう。


ちょっと厳しいのは、元が神獣だと思われる鹿。

ただそれも上位の個体ではなさそうなので、ローズとリューならどうにか出来そうだ。


それでもこれだけの魔獣が集まっている時点で、追い払うのも倒すのも労力が半端じゃない。

あいつの言うとおり何とかなりそうだが、やっぱり下手したら死ぬ。


慎重にやらないとな……




魔獣と対面してからしばらく経った。

彼らは硬く、今の所六頭しか倒せていないが、かなり安定した戦いだ。


一番きつそうなのはヴィニーだが、彼の役目は撹乱なので無事であるだけで役目を果たせている。


リューもまた苦労していそうだが、火力のある呪いだけあって問題なさそうだ。


ローズは言うまでもない。六頭中四頭を彼女が倒している。


そして、俺達はというと……


ブモォ!!


牛だ。

俺より神秘が強く、かなりデカい牛の魔獣。

ローズかリューに任せるべきなのは分かっているのだが、大きさしか武器がないようなので取り敢えず気を引いていた。


だがロロがいれば小さな一撃もダメージが出せるので、出来れば倒したい。


「次、ギリギリを動かしてくれ」

「あいさー」


この牛は小回りが利かないので、見極めを間違わなければ俺達でも倒せる。

当たれば全身が砕けるだろうが、俺は運がいいからな。

多分いける。


瞬きが命取り何じゃないかと思ってしまう程のスピード。

俺の身体能力だけでは見切れないが、ロロがいれば……


目前に凶悪な鼻面が迫る。

体感、それと激突したかのような感覚を受けるが実際は問題ない。

牛のふさふさな毛が掠るだけ。


俺は牛の左側の脚をどうにか斬る。

身じろぎもしない位に浅い傷だが、反転のお陰で少しずつ動きが鈍る。


20秒もすると、彼は大人しく地面に体を押し付けた。


「ふぅ‥毎回ありがとな」

「うん!! オイラもクローの役に立ててうれしい!!」


これでかなりデカいのが消えた。

一段落したので周り様子を見てみると……


ヴィニーは小型を一匹、リューはデカめのやつを二頭も斬り伏せている。流石だ。


そして、ローズ。今度は六頭も締め上げ、妖火の爆発で倒している。エグい。

何か彼女は戦うたびに強くなっている気がするな……


ともかくこれであとは鹿一頭。

そう思い俺達が鹿を見ると、


キィー‥


「うっ‥」


突然の異音。若干、平衡感覚が狂わされている感じがする。

地味に嫌なやつで、俺達はその場に立つことだけに意識を向けさせられた。

さらに……


「……」


鹿は俺達に向けて突進を始めた。標的はリュー。

あの牛ほどじゃないが、かなりのスピードだ。


普段どおりなら避けられただろうその攻撃は、彼が動きを阻害されている間に当たり、彼を数十メートルも吹き飛ばした。

俺が標的だったらと思うとゾッとする。


だが何故か勢いはその瞬間に消え、今は直立している。

なんか不気味だ。


「治った、ヴィニー!!」

「はい!!」


それと同時に俺達の平衡感覚も治る。

これはチャンスとばかりに、攻撃を。

ヴィニーが囮として、鹿に向かって駆ける。


キィー‥

鹿は再び音を出し、平衡感覚を狂わせにかかる。


ヴィニーはそれを受けまた動きを封じられるが、ローズはちゃんと距離を取り、茨で遮音もしている。


俺とロロも念動力で音を掻き消していて動けるので、ヴィニーに攻撃が向かないように前に出る。


突進自体は角さえ気をつければ受け止めて問題ない。

ナイフを使って角を受け止める。

異音以外は、今までの奴らに比べればかわいいもので、軽々その勢いを止められた。


すると間髪入れず、茨が鹿の脚に絡みつき動きを完璧に封じる。

だがそうなってもまだ音を発し続けているようだ。


「可哀想だけど、強めにやるしか無いね」

「妖火か?」

「うん」


彼女は大型の場合に妖火も使っていたが、この鹿は多分一番丈夫なのでその方が良さげだな。


彼女の手の平に小さな火が浮かぶ。

だが一応加減はするらしく、3つだけだ。

俺も初めてちゃんと見る、彼女の2つ目の呪い。


それはフヨフヨと鹿に近づき、軽く爆発した。

これがあの時の賊がされた事だと思うと……


爆発の衝撃と共に軽く焦げた鹿は、最後に一声鳴きし倒れた。




人知れずに行われた戦いは終わった。


それからの後始末はフーと、これまたローズ。

風も茨も便利すぎで羨ましい。


本来ならリューもだが、彼は流石にダウンしている。

自己治癒能力上がったとしても、治りきっていなければ蓄積するからな。

今日の彼の負担は相当なものだったからしょうが無い。


そして俺達。

残った2人と一匹は、魔獣達の治療、連れて行く場所探し、リューを医者に連れて行ったりと色々していた。

珍しく明確な仕事があったから、役に立ててよかったよ……




何故魔獣が押し寄せたのかは今も分からないが、無事彼らも自然に返す事ができた。

俺達のディーテから続いた面倒事にも片がつき、いつもの日常が戻ったのだった。


まぁヴァン達賊の面倒事は、だけど。

大厄災どうするかな……




~~~~~~~~~~




フェニキア南西の丘の上。

遠目に魔獣の群れが見渡せる場所にて、2人の人物が、戦いが終わるのを見ていた。


クロウ達は苦戦こそしていたが、特に危なげなく戦いを終わらせる。

それは彼らの予想通りとはいえ、面白くないものだった。


「今回は、そこまで面白くなかったですね」

「そうじゃな……まさかあの神獣が逃げるとは思わなかったわい」

「ええ、あれがなければ献上できたでしょうし」

「……うむ。じゃが、あれが逃げたおかげで見ごたえができた」

「……しかし負けたのではつまらない。こういうものは、偽善者が堕ちるからこそ楽しめるというのに」


乾いた風が吹く。

それは戦いを終え、疲労感に満たされているクロウ達をさらに苦しめるかのように。

そんな、悪意の具現かのような風。


「まぁ良かろうよ。

こんなちっぽけな戦いで終わるよりも、滅亡をあと一歩で止められなかったという方が面白いからの」

「そうですね……記憶には刻まれましたか?」

「……じき忘れるじゃろうな」


彼らは平原に背を向け、南へと去って行った。



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