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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
189/432

164-名を叫べ・前編

肯定……否定……

人は誰しも他者を求める。


理解されても、されなくても。

世界の誰かが求める理想を身に纏う。


その誰かが、自分自身ならばよい。

だが、それが自分以外であるのならば……


肯定……否定……

それは空っぽの器に満ちるモノ。




~~~~~~~~~~




「……ん? なんかまだ騒がしくないか?」

「そうだね、どこかから爆発したような音も聞こえたし」


俺が不思議に思ってついこぼすと、横で休んでいるヴィニーもため息をつきながら同意してくれる。

どうやら俺の勘違いではなかったようだ。


百鬼夜行がほぼ集結したことから、俺達は大人しく体を休めていたのだが、騒ぎは一向に収まる気配がない。

未だにどこかで暴れているような音がする。


土蜘蛛の報告では、妖怪は討伐完了、鬼人もほぼ確保が終わっていて死鬼は味方のはずなんだけどな……?

当然ここにいる鬼人がすべてではないだろうが、ここにいる鬼人は既に大人しくなっていた。


そして、ここには星熊童子などの名前持ち……というか、襲名した称号を持つ鬼人が全員いるらしい。

もし他の場所で自由にしている鬼人がいたとしても、大した騒ぎは起こらないはずだ。


だというのに、まだ騒がしい……

最初に暴れていた他にも妖怪がいるのか……?


俺達がそんなふうに唸っていると、タイミングを見計らったかのように土蜘蛛がやってきた。


「おーい、あんたら。けがは治ったかい?」

「んー、まぁぼちぼちかな。無理すりゃ戦えるくらいには」

「そうかい」


ヴィニーも少し動くくらいなら平気そうだったのでそう答えると、彼女は騒がしい方を向いて考え込む。

やっぱり何か起こっていそうだ。

……俺はもう戦えるけど、正直つらい。


「どうかしたんですか?」

「あーいや、凛ちゃんは治療に専念しといてくれ。

特に律くんが起きられるように」

「たしかに私は戦えませんけど……この子が必要ってことは、やっぱり何かあるんですね」

「正直、なんで初っ端から出てきてんだって感じさね。

……見かけたことがあるから、予想はしてたんだけど……ほら、来たよ」

「は? 何が……」


俺達が土蜘蛛の言葉に頭上を見上げると、夜空に浮かんでいたのは巨大な球体だった。

いや、浮かんでいるというよりは、飛んでいるといったほうが近いかもしれない。


暗くてはっきり見えない上に、頭の真上と言えるような位置にあるためなんとも言えないのだが、段々と大きくなっていってる気がする。


……つまり、俺達のいるところに落ちるってことだよな?

土蜘蛛が落ち着いてるから大丈夫っぽいけど、潰されたりしないかちょっと不安だ。


俺がそんなことを考えている間に、その謎の飛行物体は俺達の目の前に墜落してくる。


それは予想していた以上にとんでもないスピードで飛んできていたらしく、地面は大きく抉れてクレーターが生まれ、街は爆風で崩れていく。


「くっ……!!」

「うわっ……!!」


俺達はどうにか踏み止まるが、風が強すぎて前を見ていられない……!! 風が収まるまで顔をかばう必要があるため、その物体の確認もできなかった。


だけど、まだ戦う相手がいる風な口ぶりだったし、多分生物ではあると思うけど……

こんな勢いで落ちてくるようなのが、生物……!?


「収まった……」

「さっきのは一体……?」

「おう、あんたら。構えな。凛ちゃんは律くん連れて下がって、安全なところでその子を目覚めさせてやってくれ」

「わ、わかりました」


風が収まると、土蜘蛛は俺達に警戒を促す。

凛さんは寝てしまっている律を連れて後ろに下がっていき、俺とヴィニーは剣を、土蜘蛛は巨大な金棒を構える。


彼女がここまで警戒していて、実際に凄まじい衝撃と共に墜落してきて……これでピンピンしているようなら、間違いなく俺達の想像を超えた、規格外の化け物だ。


クレーターを見つめる俺達の緊張は、かつてないほどに高まっていた。凛さん達はもうかなり遠くに避難しており、縛られていた鬼人達もいつの間にか消え去っていて静かだ。


だが、クレーターから巻き上がっていた土煙は収まり始め、今にも沈黙が破られそうな予感が……


「qjg様fer@bq@!! 我f3k方i呼f@;3k方kq/i生gw3k方kq/i戦4!! iy:@yus@se4b@nf我t@必r@殲滅dwh;94c@!!」

「ッ……!!」


うっすらとクレーターの底が見えてきた頃、そこにいた巨大な物体は、街を粉砕していくほどの声を上げる。


俺達も、耳を押さえていないと鼓膜が弾け飛んでしまいそうなほどの声だ……!! 押さえていてもかなり痛い……!!

土蜘蛛やヴィニーの声も、俺自身の声もまったく聞こえない……!!


「なん……こ……」

「あ……は……世界……た……神……だ!!」

「……だけ……で……を……」


うるさくてよく聞こえないけど……耳、痛ぇ……

神って言ってたような……? 頭、痛ぇ……


世界中に響きそうな大声の影響か、底に溜まっていた土煙は完全に晴れていた。

それにより、空から降ってきた物体――声だけで街を破壊していく化け物の姿も確認できる。


「あれが、さっき降ってきたやつか……?」

「そう。あれが妖鬼族の真の主導者……」

「5人いる、鬼神(きじん)の1人……」

「未来を見たのかい? ヴィンセント。

……あたしもあれの名前は知らない。

けど、あれは正真正銘規格外の化け物。もはや自然とそのものと言えるような、概念に近いもの。強すぎる神秘――神」


そこにいたのは、軽く3メートルは超えていそうな化け物。

全身真っ赤で、鎧を着込んだような硬そうな皮膚に、ドリルのように絡まった角を持った鬼人だ。


俺のつぶやきに反応した土蜘蛛と、未来で彼女の言葉を聞いたらしく、目を押さえているヴィニーが言うところによると、鬼神(きじん)らしいけど……


鬼人でも鬼神(きじん)でも、あれが化け物であることに変わりはない。存在感からして俺達とは神秘としての格が違う。

それこそ、ヒマリのような……


「qjg様fbbifeuektZ……!! dtdbk上ifiy:@yt@e.u!? 我を恐;w逃:@weh4og@lmkk鬼人m!! uof@nu殺dq@!! s@4p同胞uof@我t@暴;qsw死ifdue!! 目i映.r^@wを鏖殺dwh;94c@!!」


俺達が固唾を呑んでそれを見つめていると、それはまたしても世界を震わせ、俺達に向かって飛んでくる。

今回はさっきほどの音量ではなかったけど、声の振動で体が震えるし、本人が来るのがいきなりすぎだ!!


俺はもちろんのこと、みんなに警戒を促していた土蜘蛛すらすぐには反応できていない。

それは瞬く間に俺達の目の前に現れ、丸太ほどもある巨大な腕を振るう……!!


"-@40yq/sm"


「ッ……!!」


"水鬼の舞-神眼"


「……え?」


なんの抵抗もできずに、俺達が潰されようとした瞬間。

ヴィニーは俺と土蜘蛛を横に突き飛ばすと、1人鬼神(きじん)の前に出てその狂腕を受け流した。


いつものように攻撃の側面を的確に打ち、その力にねじ伏せられることもなく、水が流れるように靭やかに懐に潜り込む。


「vsを超5qvs<0r@ti鬼kt6lt@r.神秘!!

gxjZpe4yk呪符を埋/込j;wequ!?

死鬼sm/ydgt@3.94q@t@!!」


すると、鬼神(きじん)は目を見開いてやはり叫ぶ。

至近距離でその衝撃を食らったヴィニーの耳からは、血が流れ始めた。もう、連携とかって話じゃない……!!

まともに戦えるのかどうかってレベルの話だ……!!


しかし、彼は耳からも目からも血を流しながらも、それを意に介すことなく剣を振るう。

鬼神(きじん)もまた、それを真正面から叩き潰そうと足を振りかぶった。


いくらヴィニーが未来を見れるからといって、あの至近距離であれの動きに対応できるのか……?

目から血も出ているし、そう何度も使えるはずないのに……!!


"金鬼の一撃-神眼"


"-@4g'hq/sm"


俺と土蜘蛛が突き飛ばされた体勢で何もできずにいる間に、彼らは互いの攻撃を直撃させる。


ヴィニーはうっすらと雷を纏った一撃を。

鬼神(きじん)は単純な蹴り上げを。

しかし、相手にダメージを与えることができたのは、鬼神(きじん)だけだった。


ヴィニーの攻撃は、雷が呪いや祝福で生み出されたものではなく、単純に神秘で発生させたものであるからか、鬼神(きじん)の硬い鱗を貫けずに弾かれてしまう。


それに対して、鬼神(きじん)の攻撃はただ蹴り上げただけだ。

普通ならば、せいぜい打ち身になるくらいで、痛いだけで終わるだろう。


しかし、神秘としての格が違うからか、それはいとも容易くヴィニーの体を貫き、彼は力なく吹き飛ばされてしまった。


「カハッ……!!」

「ッ……!! ヴィニー!!」


上空に蹴り飛ばされた彼は、血を撒き散らしながら地面に落下していく。やっぱりまともに戦える相手じゃない……!!

せめてこれ以上ダメージを重ねないように、墜落前してしまうに受け止めないと……


「神秘fz4d@)4kpe命9lz9h!! 腹i3ut@3eqwes@w@f死ifdueZ!! thd@zu絶命をthiyr^@d!! zjlf追撃!! 死,Ziy:@y!!」


だが、俺が空を飛ぶヴィニーを追っていると、何故か鬼神(きじん)も彼をを視界に映しながら何か叫び始めた。

どうやらあれはヴィニーにとどめを刺すつもりらしい。

腰を落として、今にも走り出しそうだ。


いやっ……俺じゃあその前に受け止めることも足止めすることもできないんだけど……!!

絶対に巻き込まれて圧死するぞ……!?


「そのまま走りなぁ!! クロウ!!」

「っ……!? おう!!」


どちらを選ぶべきかわからず、俺がつい歩を緩めてしまっていると、駆け出した鬼神(ぎじん)の背後から声が飛ぶ。

ちらっと見ると、そこには決意に満ちた表情をした土蜘蛛がいた。


重そうな金棒を振り上げているため、何か足止めをしてくれるつもりらしい。俺は彼女を信じて走り続ける。


"白縫-地縛"


「っ……!! 土蜘蛛っ……!?」


足止めは上手くいったらしく、鬼神(きじん)はヴィニーにとどめを刺すどころか、俺に追いつくこともない。

俺がヴィニーを受け止めて背後を見ると、そこには地面から突き出した石柱などに押し潰され、拘束されている鬼神(きじん)いた。


「おうさぁ!! ヴィンセントはどうだい!?」

「腹に穴空いてる!! 凛さんに回復してもらわねぇと!!」

「ならまずはこいつから隠して足止めだ!! 律くんが起きたら来る!! その前にこいつが暴れちゃ終わりだよ!!」

「了解!!」


俺が土蜘蛛と話している間にも、鬼神(きじん)は自身を拘束する大地をビキビキとひび割れさせている。

今にもすべての柱を粉砕して、俺達のところに向かってきそうだ。


ずっと聞き取れない声で叫んでいるし、文字通り鬼のような形相をしていてめちゃくちゃ怖い……!!

だけど、ひとまず土蜘蛛の言う通りヴィニーを隠して戦わないと……


俺は鬼神(きじん)から目を離さないようにしながら、こちらを見ていないタイミングを見計らってヴィニーを動かす。

彼の意識は落ちていないが、痛みをこらえるので精一杯のようだ。


「うっ……」

「大丈夫……じゃないだろうけど、少し待っててくれ。

凛さんが来たら、すぐ治るから」

「はぁ……はぁ……りょー、かい……」

「dyd@(4t@我k邪魔をr.uZZ!! 我f主kedを遂行r.q/ivsを殺r!! 目izeqmkto殺r目iztuhwm殺re.s思Zqo殺r!! 人se4獣を許ruZ!!」


無事、気づかれずにヴィニーを隠すことができた俺は、鬼神(きじん)がこちらを見ていないことを確認してからその場を離れた。


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