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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
188/432

163-荒天の権化、憎悪の狂人

本編内で.5話と同じような内容が出ているため、ものすごくエグいです。

今宵、彼らは目を覚ます。

今宵、彼らは立ち上がる。


心は死なぬ。恨みは忘れぬ。

怒りを背負い、悲しみを抱き、絶望を眺め。

溜まり、募り、廻り、恐れ、壊れ。

それでも彼らは希望(絶望)を目指すのだ。


それは、約束。それは、願い。

斃れた同胞の想いを継いで、暗闇の中を彼らは進む。


天災の予兆は既に彼の島へ……




~~~~~~~~~~




晴雲に促された雷閃と紫苑は、他の面々より先んじて出発したはずだったが、もっとも進みが遅く、未だに御所目指して歩き続けていた。


理由は単純。彼らがとてものんきな性格だったからだ。

現状、気張る必要がない雷閃はほんわかしているし、紫苑は今を楽しんでいるため、騒ぎをあまり気にしていない。


さらには、1人になったり先頭に立ったりすると、雷閃が何処かへ行ってしまうという問題もあった。

もちろん誰かについて行くだけなら迷いはしないだろう。


だが、先頭に立つのは紫苑だ。

辺りが暗くてよく見えないとはいえ、彼にとって街を笠無しで歩くのは貴重な体験である。


彼は、浮足立って街を見て回っていた。

そのため彼らは、誰よりも早く出発したにも関わらず、誰よりもゆっくりと目的地に向かっていたのだ。


「ねぇ、鳴ちゃ〜ん……

夜なんて何にもないんだから、早く行こうよー……」

「夜だからこそだろ!! 開放感すげぇじゃねぇか!!」

「はぁ、仕方ないなぁ……って、あれ?」

「どしたー? 閃ちゃん」

「炎……」


紫苑に先を促すことを諦めかけていた雷閃は、空に飛び上がっている炎を見つけて目を細める。

位置は月の少し下辺り、神奈備の森の方向だ。


雷閃の視線でそれに気がついた紫苑も一緒に、彼らは2人黙ってその炎を見つめていた。

その、火の粉を散らしながら力なく落ちてくる炎を。


「……ッ!! おいおい、ありゃあ……」


狙いすましたように彼らのもとに落ちてくることから、次第に炎の全貌が見えてくる。光の中に映る2つの人影が。

すると紫苑は、その正体に気がついたのか、緊張に顔を歪ませた。


はっきりとはわかっていない様子の雷閃も、何かは感じたらしく沈痛な面持ちだ。

彼らが身構えながら待っていると、それは、すぐに彼らの目の前に墜落する。


「ガフッ……!!」

「ハッハァ!!」

「くっ……」


墜落した炎は、激突と同時に周囲に炸裂する。

街を焼き尽くす勢いで、紫苑も雷閃も巻き込む勢いで、激浪となった烈火が迸った。


とはいえ、巻き込まれた2人も神秘であるため、彼らは足元から雷を放出することで事なきを得ている。


街は燃え盛っているが、住民は最初から避難しており、侍達もこの騒ぎの元凶からは逃げていたので、おそらく人的被害はゼロだろう。


それを知ってか知らずか、炎の中心にいる人物たちは容赦なく被害を拡大させていく。


「ハッハハハハ!! おいおい、そんなもんかよクソガキィ!!

そんなんで初代八咫国将軍かァ!? ザコすぎんだろ!!」

「ふぅ……ふぅ……貴様も血だらけじゃろうがい!! クソが!!」


未だ収まらぬ騒ぎの元凶、都を烈火にて守る者、島に嵐を呼ぶ怪異。彼らは雷閃達には気がついていないようで、鬼のような形相で斬り結んでいた。


「血、だけだ!! 斬られた痕も、もう消えてる!!

さっきから見てるよなァ? 我は死なねぇ!!

ダメージ受けてんのはテメェだけだぜ、ゴミが!!」


"ヒノカガビコ"


一方が振り下ろした刀を、もう一方が炎に包まれた中からでもわかるほどの輝きを帯びた刀で受け止める。


しかし、両者にはかなりの実力差があるのか、受け止めた方はすぐに体勢を崩して、そのまま雷閃達の方に吹き飛ばされてしまう。


「ガッ……グッ……!!」


燃えながら炎の壁を突き破って飛んできたのは、胸部を大きく抉られているだけでなく、腕や脚もズタズタになり、血で全身を真っ赤に染めた大男――橘獅童だ。


彼は普段と違って若々しく、横幅も控えめに筋肉質だったのだが、それでもあまりの勢いに弾むように飛んでくる。

そんな彼を受け止めた雷閃は、驚愕に顔を歪ませながらも冷静さを保って問いかけた。


「獅童……!? なんでそんな昔の姿に……

というか、あれは誰だい……?」

「カフッ……!! おう……雷閃か。ありゃあすべての元凶じゃ。

(オレ)ァちいと様子見に行っただけなんじゃが、ハァ……ハァ……明らかに脅威じゃったもんで、戦闘になった」

「元凶……もしかして、昔紫苑が言ってた長老……?

里を捨てようとしたら殺されかけたっていう」


獅童が息も絶え絶えに敵の存在を伝えると、雷閃は何かに思い当たったようで紫苑に視線を移す。


しかし彼は、炎が落ちてきた時から予想していた様子だったため、今は返事をする余裕もないらしい。

うっすらと怯えを滲ませながら、警戒を緩めることなく炎の向こう側を凝視している。


「人間はもう俺達を殺さねぇんだぞ、おっさん!!」

「ハッハハハ!! 仲間を殺されたから、殺すんだ!!

自身が殺されかけたから、殺し返すんだ!!

ハハハ……妖鬼族の怒りは消えねぇ、恨みは晴れねぇ!!

過去を知らねぇゴミも、綺麗事ばかりほざくガキも!!

意志を通したけりゃあ力尽くで押し通れ!!

この世に平等なんてねぇ。すべては奪い合いだ!!

止めたきゃあ殺し合いだ!! かかってきやがれ反逆者ァ!!」


紫苑が堪えかねたように叫ぶと、炎を割って現れた巨漢はその言葉を押さえつけるように怒鳴り返してきた。


雷閃によると、紫苑はこの巨漢に殺されかけたことがあるらしく、魂にまで恐怖が染み付いているようだ。怒鳴りつけられた紫苑は、かすかに体を震わせると黙り込んでしまう。


だが、巨漢は初対面でも震え上がってしまうような容貌をしているのだ。彼らの身長差は2倍近くある上に、紫苑は恐怖を植え付けらているのだからそうなっても仕方がない。


それを見た雷閃は、紫苑を気遣うように前に出る。


「大丈夫かい? 鳴ちゃん」

「ハッ、もうとっくにわかってたことだ!! 気にすんな!!」

「そう……でも、あれはちょっと洒落にならないね……」


彼らと相対する巨漢の身長は、3メートルを優に超えている。

炎に照らされた四肢は黒光りし、いかにも硬そうだ。

さらに頭には、人の腕ほどもある巨大な2本の角が生えていて威圧感が半端ではない。


既に獅童が半殺しのような状態になっているのだから、雷閃が畏れを抱くのも当然であると言える。

どうにか立ち上がった獅童、言葉とは裏腹に萎縮している紫苑と共に、彼もまた動けずにいた。


しかし当然、巨漢がそれを見逃すはずがない。

世界を威圧するような笑い声を上げると、巨大な刀を片手に一気に飛びかかってくる。


「ハッハハハハ!! せいぜい楽に死ねるように祈ってなァ!!

まずはテメェだクソガキィ!!」

「ッ……!! 下がって獅童!!」

「テメェにゃあまだ用はねぇぞ? ゴミ共の将軍!!」

「熱っ……!!」


"火怨"


ふらつく獅童を庇った雷閃だったが、巨漢が地を踏み鳴らすと黒炎が吹き出してきて、彼は身に纏った雷ごと押し流されてしまう。


当然背後の獅童も巻き込まれているのだが、彼は炎の神秘であるため、ある程度耐性がある。

雷閃がどうにか遠くに吹き飛ばされる前に脱出している中、彼は少し顔をしかめているだけで堪えていた。


「……ハハッ、お前も死んどけや」

「っ……!!」


"封雷雨"


"天鼓"


巨漢が左手を動かすと、その動きに合わせて雷雨が走る。

紫苑も雷を纏った金棒で迎え撃つが、そのほとんどが巨漢の動きに合わせて流されてしまうので、胸部を横一文字に焼き切られて吹き飛ばされていった。


「ぐあぁッ……!!」


そして、巨漢はその流れのまま獅童にも牙を剥く。

目や牙を燃えるように輝かせながら彼を斬り倒し、その巨大な手で頸部辺りを掴んで持ち上げる。


まだ獅童には軽口を叩く余裕はあるようだが、抵抗する余裕はないらしく無抵抗だ。


「回復する余裕くらい、与えんかい……バケモンが」

「ハハッハァ!! 神秘は丈夫で、瀕死からでも平気で復活してきやがるからなァ!! まずはテメェから確実に殺すぜ!!

腕ェ捩じ切って、脚ィ引っこ抜いて……」

「獅童ーッ!!」

「グ、グァ、アアァァァッ……!!」


巨漢は地面に大刀を突き刺すと、空いた右手で獅童の左腕をガッチリと掴み、ブチブチと不気味な音を響かせながらそれを捩じ切っていく。


血が噴き出し、千切れた肉が滴り、骨が露出する。

痛みに耐えようとする獅童は、下唇を噛みちぎっていた。


「フゥ……フゥ……」

「ハハッハハハ!! こんなんも温泉で治んのかァ!?

なァ!? 八咫の守護者様よォ!?」

「おい、雷閃……」

「ハハッ、無視かよ!?」


獅童に無視された巨漢だったが、彼は特に気にした様子もなく次の作業に移る。捩じ切った左腕をゴリゴリと噛み砕いて喰らうと、獅童を持ち替えて右腕に……


「今助けるッ……!!」

「邪魔だぜ、小僧……」


"黒運"


炎から脱出した雷閃は、左腕を食べられた獅童を苦悶の表情で見ると、すぐさま彼の救出に向かう。

だが、巨漢が視線を移すと辺りには不穏な黒雲が立ち込め、彼の合図とともに昼間と見まごうほどの雷が放出された。


"雷激"


「がぁ……!!」


雷閃の能力も同じく雷ではあるが、先程紫苑の雷を流したものと同質の風が吹き、その雷撃は雷閃に直撃する。

まともに食らった彼は、致命傷ではないものの膝を付き、息も絶え絶えに獅童を見守るしかなくなった。


助けを失った獅童は、先程と同じく右腕を捩じ切られてしまう。しかし、もはや彼はそんなことはお構いなしに雷閃に語りかけていた。


「国を守るのがぁ……(オレ)の、意志じゃあ。

人を守るのがぁ、(オレ)の……意志じゃあ。

ハァ……ハァ……燃える都を見た。殺される人を見た。

これが(オレ)の、原点……

お前もかつて経験したことで、今も見とるもんじゃあ。

我らの芯に、残るもんじゃあ……」

「ああッ……!! 見てるッ……見てるよ獅童さんッ……!!」

「誓えぃ!! 同じ決意を秘める者よ!!

この獄炎の中にて、その宿願を果たすことをッ……!!

我が、意志を!! 継承するとッ……!!」

「当然だ!! 僕は、それを誓って今、ここにいる!!

この八咫国の将軍として、貴方の後継として!!」

「ぶわっはっは!! 目ぇ逸らすなよ?」

「ッ……!!」


彼らが語り合っている間に、巨漢の作業は最終段階に移行していた。彼は両腕を捩じ切って喰らい、両足も引っこ抜いて喰らい、もはや胴体と首だけになった獅童を楽しそうに見つめている。


「頭ァ握り潰して、心臓を引きずり出しゃあ終いよぉ!!」


そう宣言すると、獅童の頭部がりんごのように潰される。

巨大の手の中から噴き出してくるのは、今までとは比較にならないほどの量の赤い液体だ。


霧状になったそれは、ボタボタと垂れる血肉と共に周囲の景色に溶けていく。

巨漢はそれを満足そうに見つめると、手の中のものを口に突っ込んでから、獅童の体の中心から心臓を引きずり出す。


「ハハハハハッ!! これであのガキは確実に死んだ!!

待たせたなァ、クソガキ共!!」

「はぁ……はぁ……」


巨漢は心臓を飲み込みながら彼らに笑いかける。

しかし、雷閃は荒い息をするだけで反応を返さず、紫苑もいつの間にか現れていた貴人の治療を受けていて、反応を返す余裕がなかった。


「忘れないよ、獅童さん……貴方の想いは継承された。

今こそ僕は、この国の将軍として完成するだろう。

貴方から継いだ力と共に、この怒りと共に。

僕は、貴方が辿り着かなかった、もう1つ上の段階に至る」


"八咫の守(タケミカヅチ)"


"烈火を宿す都(カグツチ)"


両足で揺るぎなく立ち上がった彼は、決意を秘めた目で仇を射抜く。その身に纏うは、どこまでも輝かしい炎。

背後には、炎に混じる雷が形作る光輪があった。


「あの日の雷……"八咫の守(タケミカヅチ)"。

今見ている炎、貴方から受け継いだ炎……烈火を宿す都(カグツチ)

2つ合わせて、聖神"暗雲に差す炎雷(ホノイカヅチノカミ)"」

「ハハハ……テメェも神を名乗れるだけの格を得たってか?

ならば改めて名乗ろうか。我は鬼神大嶽丸。

人類を恨む神類(じんるい)。かつて排斥された人の成れ果てだ!!」


"本能解放(リベラシオン)-大嶽丸"


巨漢――大嶽丸が苛立ちを見せながらも笑ってそう宣言すると、最初から硬質化していた肌は、より硬くなっていく。

炎雷を纏う雷閃に対抗するかのように、より黒く、冷たく、もはや生物ではないのではないかと思うほど、トゲトゲしい化け物に。


「滅べ、人間(ゴミ)ガァアアアァァァ……!!」

「はぁぁ……!!」


時折島を覆っていた嵐は今夜、愛宕の都を包む。

彼らは互いに組織の長として、その本能のままに激突した。


お前もう主人公だろ、雷閃……なんつう主人公ムーブだよ……

(作者はもう雷閃主人公にして、2章を独立した小説として書けよ……

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