間話-星が見る、星を見る
順番入れ替えた方がいいと思い、入れ替えさせていただきました。すみません。
月が妖しげに光る夜。愛宕に百鬼夜行が訪れた夜。
ほとんど何も見えない部屋の中で、一つの人影が動いていた。
窓から入る月明かりは、生暖かい風と同じく部屋中に行き渡ることはない。
明かりもついていないため、人影の顔どころか、体のラインすらはっきりしていなかった。
人影は黙り込んだまま盤の前に立つ。
右手にはサイコロ。瞳は天井へ。
それは手元を見ることもなく、左手で天地盤の天盤十二神に十二天将を配布していく。
「……」
配置が終わると同時に、右手からサイコロがこぼれ落ちる。
偶然落ちたかのように自然で、しかしそれは慌てることなく天を見上げ続けていた。
盤上に落ちたサイコロはコロコロと転がり、やがて止まる。
すると突然、それらは妖しげに光り出す。
それはとても弱々しく、まるで印象に残らなそうな光だが、不思議と存在感を放つ光だった。
その光のおかげで、それの顔があるはずの部分が照らされる。だが、それはのっぺりとただ黒かった。
目も口もなく、首も肩もない。そんな、人ではないなにか。
しかし、表面の数字は問題なく浮かび上がる。
黒い八面体サイコロが出した値は、一。
赤い八面体サイコロが出した値は、八。
「天地否……通じず。困難苦労。ふ〜ん……
星の位置は良し。結果も予想通り。それでも失敗ねぇ。
まぁ、盤を見ても凶凶凶。無理もないかー……」
それの視線は、やはり天を見上げたままだ。
だが、どうやってかサイコロの目、盤上に配置されたものの位置や特徴を完璧に理解しているようで、占った結果をつまらなそうに呟く。
「だけど、私的には面白いからいいかな〜。
中立だから、どちらが勝っても関係ないもんねぇ」
人影の呟いた結果は、それにとって良くないもの。
しかし、どうやら問題も、興味すらもないらしい。
それが求めるのは刹那の愉悦……
少しだけクスクスと笑ったそれは、すぐに笑いを引っ込めて、またもつまらなそうに吐き捨てる。
「どうせあの子は生き返らないしー……ふん。
まぁとりあえず、あの化け物の封印を解いて、親愛なる友に式神を送って、それから……うん、外に出よっか」
求めるものと同じく、ほんの一瞬の間にコロコロ感情が切り替わっていく。だがどちらかというと楽しさが勝つらしく、最終的には楽しげだ。
のっぺりとした人影は、暗闇の中で朗らかに笑いながら、テキパキと天地盤を片付けていく。
サイコロを懐にしまい、配置していた十二天将や盤を箱に入れて閉じる。
「ふふ……本音を言わない、愉快でバカらしく、くだらない友よ。あいつが来るかどうかで、私の生死が決まるかもねぇ。
ワクワクするな〜」
道具を片付け終わったそれは、暗闇の中に消えていく。
頭から順に、水に溶ける絵の具のように跡形もなく。
「かつて延命のために眠らせた、名もない獣よ。
目覚めの時だ。あの子のために、命を燃やせ。
かつて人類に排斥された同志達よ。
恨みを晴らす時だ。一族のために、怒りを燃やせ」
誰もいなくなった部屋の中には、ただ声だけが響いていた。