156-百鬼夜行、終結
「あったま痛ぇ……」
「ははは、俺もだよ。
直接戦闘に関わる能力じゃないのに、お互い大変だね」
「はぁ……何でだよ……」
どうにかヴィニーを倒した俺は、傷口から真っ二つに切れた呪符を取り出した彼と並んで倒れていた。
自分で操ったからか知らないけど、どうしようもなく頭が痛い。
なんと言うか……脳みそ叩き割られたような痛みと、かき混ぜられてるような気持ち悪さがある。
……まぁこうやってちゃんと考えられているんだから、流石にそれは誇張か。少しレベルを落とすと……定期的に頭を思いっきり殴られて、ついでに揺さぶられてる感じかな。
はぁ……けがも酷いけど、頭がきつくてなんか色々と平気だ。
良いことじゃなさそうだけど……あー……痛ぇ。
とりあえず、チルの時の技はいいとしても、幸運を掴む者は軽はずみに使わないでおこう。
どうせ死にそうな時には勝手に発動してるんだろうし……
そういやヴィニーの能力聞いてねぇな。
使ってる様子は……あったか?
風も水も出してたし、万能で威力は低いようなやつかな……と考えながら、横を向いて聞いてみる。
「ところで、お前の能力なに?」
「主君の道筋って言うんだけど……そうだね、未来視的な? 負担は大きいけど、少し先が見えるよ」
「お前も俺みたいな補助能力かー……」
すると彼は、顔色が悪いながらも朗らかに答えてくれる。
何度も見えてるだの知ってるだの言ってたもんな……
俺と同じタイプか……
直接戦闘に使えない補助能力……だけど、多分どれも強そう?
うまく思い出せないけど、なんか……なんかこう、あった気がする。リューとか関連で。
……まぁいいか。
忘れてるってことは、大して重要なことでもないだろ。
そんなことよりも、他の戦場がどうなってるかだよな。
さっき野放しになってる魔獣が通っていったし、とりあえず誰かは負けてたみたいだけど……
「それはそうと、さっきの大蛇に見つからなくてよかったな……動かなくて正解だった」
「あはは、動けなかったの間違いでしょ? まぁ君がいるからだろうけど、運がいいね。あれが向かった先も……」
「あ、また使ったな!? 倒れてんだから大人しくしとけよ」
「大丈夫だよ。もう戦いは終わったんだから」
俺が大蛇の話題をふると、どうやらまた未来視をしていたらしく、ヴィニーは軽く笑い始める。
その能力のせいで倒れているというのに、注意してもどこ吹く風だ。
こいつ、前はもっとしっかりしてたような……?
あと、どうやら悪くない未来だったようだけど、その場にいないのにどうやって見てんだか。
そんなことを考えていると、俺が同じような質問をする未来を見たのか、口に出す前にヴィニーが答えてくれた。
なんか、影綱と話してるみたいだな……
「侍達に知ってる人がいてね」
「おい、だから見るのやめろ」
「あはは、そんな先は見てないって。俺が見たのは、君の友達とお姉さんが来ることと、ドールとの合流する辺りまで。
それも断片的にね」
若干諦めつつも止めてみるが、やはり彼は気にしない。
それどころか、普通に見た内容まで教えてきた。
いいのか? あと、その負担も俺はわからねぇんだけどな……
以前も、砕けた感じになってからは肩の力は抜けてたけど、それを踏まえてもやっぱり少し適当になった気がする。
まぁ、ローズがいないからかもしれないけど。
しっかし、内容はマジだなこれ。
ディーテで律と凛に会ったのは俺だけだし、八咫で2人に再会した時にもヴィニーはいなかった。
ドールとは一緒に会っているけど、ローズと先に行ってしまったから同行してるのも知らないはず。
……うん、断片的でも便利だ。
俺の運はよくわからない部分が多いし、それに比べるとわかりやすく便利だ。
補助能力だけど、ちょっと羨ましいかもしれない。
いや、運も極めたらとんでもなさそうだけど……
「あー、吐きそう」
「だからやめろよ!」
「そうだね、うん。あと少しで楽になれるけど、それはそれとしてキツい」
突然、さらに顔色を悪くしたヴィニーが口元を抑える。
どうやら言うほど大丈夫ではなかったようで、今回は流石に俺の静止を聞いてくれた。
また意味深だけど……律のお姉さんなら凛だから、彼女が少しは回復してくれるのだろう。
律以外でどれだけ効くのかはわからないけど……
少しでも十分ありがたい。期待して待っていよう……
俺達がその後も頭痛が収まるのを待っていると、かすかに足音が聞こえてきた。何かを背負ってるような少し重い足音……
だけど人ではあるようだったし、ヴィニーの予言っぽいものもあるため、警戒の必要はなさそうだ。
特に起き上がったりはせず、大人しくしていることにする。
すると現れたのは、やはりヴィニーの話通り凛だ。
しかし律の姿はなかった。
視界の端でしか見えないけど、音や体勢的におぶっているのかもしれない。
彼女はゆっくりと俺達のところまで歩いてくると、少し悲しげな声色で声をかけてくる。
「こんばんは。無事……ではないようですけど、とりあえず生きていてよかった」
「はい、凛さんも。律はどう?」
「少し力を使いすぎちゃって……今は背中で寝ているよ。
2人は普通にけがしているみたいだけど、治しましょうか?」
倒れたまま顔を向けると、彼女は軽く背中を見せてくる。
夜で見えにくいけど、たしかに律っぽい子が寝ているようだ。……力を使いすぎたら眠るのか?
そんな人初めて見たな……不思議だ。
まぁそれは置いておいて、凛の能力は律以外には効果が弱いって話だったけど……
「治ります……? けっこう深いけど」
「んっと……多分、動けるくらいには……」
「じゃあお願いします」
「うん、任せてください。
……この子との縁を頼りに。この子が悲しむ傷よ、癒えて……」
今は動ければ十分だったので頼むと、彼女は律を慎重に横たえてから、倒れたままの俺達に手をかざす。
するとその手から、疲れた心まで癒やされるような優しい光が流れ出てきた。
そして、ゆっくりと俺達の頭と胸の傷に入ってくる。
"存在律生"
みるみる治る……とまではいかないが、それでも治りは普通にやってるよりも断然早い。
神秘で元から丈夫なこともあって、早くて十分くらいで治りそうだ。
「ん……? なんか、ヴィニーは遅めだな?」
ふと視線を向けると、ヴィニーの治りが遅かったので聞いてみる。一応自然に治るのを待つよりは早いけど、俺と比べたらその差は歴然だ。
「そうだね。なんでだろう?」
「この子との縁かな。あなたは会ったこともなかったから……
律が大事に思っているクロウくんとの縁で、少しは治せてますけど、私では今日中の治療は無理だと思います」
「なるほど……」
うーん……本当に律のためだけの力だな。
だけど、それでもちょっと仲良くしてるだけで少しずつ治っていくのはすごい。
特に頭痛なんかは、傷がないからかもうほとんど治ってる。
そして、どうやらそこだけは同じだったようで、ヴィニーも顔色は治ってきていた。
彼は体を起こすと、凛に軽くお礼を言ってからこの後のことを提案してくる。
「でも、頭痛はだいぶなくなりました。ありがとう。
クロウが治ったら街へ行こうか?」
「んー……まぁヴィニーが言うならそれでいいぞ」
「オッケー、じゃあそうしよう」
俺達は軽い運動ができるくらいにまで回復すると、まだ暴れていると思われる、八妖の刻以外の妖怪、鬼人をどうにかしようと街へ向かった。
~~~~~~~~~~
しかし俺達が街へ着くと、そこにいたのはほぼ制圧された鬼人と侍達だった。
そして、彼らの中心にいるのはドール達と……誰だ?
背中から、棒っぽい飾りが生えているように見える女性が、ドールと一緒に鬼人を監視している。どうやら神秘ではあるっぽいけど、雷閃四天王以外にもいたんだな……
俺は、既に解決しているっぽいことに拍子抜けしながらも、どんな状況か聞こうと声をかける。
「おーい、ドール。百鬼夜行は解決したのか?」
「ク、クロウさん……は、はい。と、と、とてもふ、不安でしたけど、つ、土蜘蛛さんがつ、強くて……」
俺達に気づいたのはおそらく不安の仮面。
彼女はビクリと肩を震わせると、俺達に視線を向けて返事を返してくれた。
土蜘蛛……神獣っぽい名前だけど、守護神獣以外でも魔獣とされていなかった神獣はいたんだな。
とすると、詳しいことはドールよりも彼女に聞いた方がいいか……
そう思った俺は、冷徹やドールではなく、棍棒のような物を持っており少し怖い土蜘蛛に確認を取る。
「はじめまして、土蜘蛛さん。
鬼人って、ここにいる人達だけですか?」
「いやいや待ちな。あたしはつっちーだよ」
「え?」
すると彼女は、自分のことを紫苑の友達、つっちーだと名乗り始めた。んー……紫苑って鬼人だし、その友達が人間側につくなんてことがあるのか……?
……まぁ、あいつは人間愛好家だから、わかりやすく敵対はしないかもしれない。殺さないという条件下ならありだ。
それに、多分あれはあだ名だっただろうし、いつもマントみたいなものを纏っていたからな……うん、ありえる。
「ありえる、じゃなくてそうなんだよ。
土蜘蛛だからつっちーだ」
「あ、口に出てたか」
「あっはっは。んじゃ、説明してやる」
彼女は俺のつぶやきを聞くと、感情のこもっていない声で笑ってから説明を始めた。
それによると、どうやら百鬼夜行はほぼ解決したと言っていいようだ。
妖怪は魔獣なので、殺す、もしくは追い払っていて、鬼人は土蜘蛛、ドール達の手でそのほとんどが捕らえられている。
例外は死鬼だが、彼らはそれぞれ雷閃四天王と激突していたらしい。
様子を見に行った侍達によると、雷閃と紫苑、海音と酒呑童子、影綱と茨木童子、美桜と鬼女紅葉の組み合わせ。
どちらが勝っているかはわからないが、それもとりあえず決着はついていそうだったようだ。
どっちが勝ったかわからないのはまずいのでは……?
そう思ったのだが、多分どちらも重傷で動けない。
もしくは紫苑のように敵対するつもりがないようで、一緒に行動しているらしい。
……それなら、最初から百鬼夜行を止めてほしかったぞ。
心変わりなのか……? よくわからないな。
それから、八妖の刻のことも確認済み。
ぬらりひょんを筆頭に、ほぼ全員が討伐されているとのこと。相討ちに近いところもあるようだが、相手も動けないのでこちら側の勝ちだ。
しかしこれまた例外がいて、8つの首を持つ大蛇、八岐大蛇だけは勝って結界から出てきたらしい。
「……それはダメじゃね?」
「安心しな。あれが向かった先には海音がいる。
すぐ死ぬさ」
「そ、そうか」
死鬼と違って、明らかにピンピンしているような説明だったので思わず聞き返すと、土蜘蛛は少しうんざりしたように答えた。
最初会った時も逃げてたし、嫌な思い出でもあるのか……?
しかし、だからこそ信頼も厚いようだ。
どうやら彼女は勝っていることが確定らしいし……
あれ?
海音が戦っていたのは酒呑童子。
妖鬼族のリーダー格である死鬼の中で、さらにそのまとめ役をやっているという鬼人の首領。
……え、安心? 一番当たっちゃダメな人じゃないか?
妖鬼族の首領、八妖の刻で唯一勝利した化け物。
そんなやつらと連戦ってことだよな?
助けに行った方が良くないか……?
なんてことを考えていると、どうやら表情からそれを読み取ったらしく、土蜘蛛が先手を打ってくる。
「言っとくけど、海音こそ化け物だからな?
律みたいな規格外を除けば、あいつは八妖の刻すべてを1人で相手できる唯一の超人さ。もちろん十中八九負けるだろうけど、他のやつならまともに戦えもしないよ」
「えぇ……!? 俺ヴィニーだけで手一杯だったのに……」
「あ、俺は八妖の刻じゃないよ。まぁ彼女には、お嬢と二人がかりでも負けたけど」
「はぁ!?」
実際に2人がかりで負けって……強すぎだろ……
ヴィニーはただの人間だった時から、既に半魔や魔人に勝っていたから超人だと思ってたけど……
1人でパワーバランス崩してる海音こそ超人だ。
いやまぁ、ヴィニーはヴィニーで、何でもできるから別の意味で超人なんだけど。
「別に俺、才能はないからね。
お嬢のために、必死に色々見て覚えただけだよ」
俺が驚いて見つめていると、彼はスッキリしたような顔つきでそんなことを言う。
どうやら努力した結果、色々予測できるようになっていただけのようだ。……あれ、聖人になった今も同じだな?
「とまぁ、こんなとこだ。そこらの鬼人は確保、死鬼は敵意を収めた、妖怪はほぼ討伐完了。
これにて百鬼夜行は終幕だよ」
「演劇みたいな言い方だな……紫苑かよ」
「あんなのと一緒にすんな……と言いたいところだけど、まぁ数百年の付き合いだ。そりゃあ似るよなぁ」
海音の時よりも嫌そうな顔をした土蜘蛛だったが、すぐに諦めたような表情になって、どうでもよさげに吐き捨てる。
数百年ってすげぇ……2人共アニキ気質、アネキ気質っぽくて性格も似てるし、相当わかりあってるな。
俺達もこうなるのかね……聖人も案外変人ばっかで嫌だな。
まぁ何百年も先を考えても仕方ない。
どうやら俺達がやるべきこともないようだし、大人しく凛にけがを治してもらおう。
俺達は、今まで通りこの場は土蜘蛛とドール達に任せておくことにして、少し離れている凛達のところに向かう。
当然律はまだ寝ていて、その隣にはロロもいた。
「クロー、おつかれー」
「お前も頑張ったみたいだな」
「えへへ」
俺達が近づくと、彼は明るく話しかけてくる。
しかし、念動力を使いすぎたのかペタリと倒れたままだ。
百鬼夜行の動きを止めていたようだし、疲れは相当だろう。
脱力している彼は、水みたいに平らになっていて、思わず突いてみるとぷにぷにだった。
特に嫌がられなかったので、マッサージ気分でモフる。
気持ちいい……癒やされる……
「あ、あの方達に……こ、殺される……」
そんなふうに俺達がのんびりしていると、土蜘蛛達の方向から鬼人達の怯えた声が聞こえてきた。
殺されるって、死鬼にか?
敵対しないっていう話だったはずなんだけどな……実はそんなことない?
もしかしたら、隠神刑部みたいに騙してくるようなのがいるのかもしれないけど……紫苑以外に会ったことないし、よくわかんねぇ。
それにあの狸……
あの妙に神々しい女性が言うには、本体ではなかったらしい。
守護神獣達を引き連れていたからかもしれないけど……
多分、それ以前にあれはそういうスタイルなのだろう。
適当なことばかり言って会話を続け、結局「わいがするのは時間稼ぎだけでさぁ」とか言って消えてしまった。
そんなのと死鬼が同じとは思えない。……だよな?
流石に死鬼が分身で戦うなんてことはないよな……?
やっぱりタイプが違う気がする。
「紫苑の意思は和解だよ!! それに、それは雷閃もだ。
わかったらとりあえず大人しくしてな!! 何があっても、このあたしがあんた達を殺させやしないから」
「姐さんが、そう、言うなら……」
しばらくざわざわしていた鬼人達だったが、土蜘蛛が怒鳴りつけると、彼らはすぐさま口をつぐむ。
彼女は神獣で、彼らは鬼人……
似た存在ではあるけど、別物なはずだ。
しかし彼らは、どこか恐れのようなものが混じった視線で彼女を見ていた。紫苑繋がりで面識があったのかもしれない。
やっぱり俺達必要ないな。
ローズとヴィニーとも合流できたし、出遅れたためいつの間にか百鬼夜行も止まっている。
これで本来の目的も、この国で生まれた目的も完了だな。
……次は、村のみんなのために俺が果たすべき目標。
暴禍の獣のいるアヴァロンだ。
記憶が抜けていても、これだけはしっかりけじめをつけないといけない。
……まぁ、今は八咫だからな。
しっかり休もう。
すっかり気を緩めた俺達は、後のことを土蜘蛛に任せると、これからに向けて体を休めた。
ようやく百鬼夜行が終わりました……疲れた……
秋期の授業や課題が多すぎるので、一旦休載させていただきます。
空いてる時間に少しずつ書きはするので、きりのいいところまで書けたらまた連続投稿します。
もしかしたら間話は投稿するかもしれません。
あと、名無しの妖怪とか鬼人ってまったくと言っていいほど書いてないですけどあった方がいいですか?
もともとモブはほぼ書かないですし、今更ですかね……?
二章だけやたら長かったのでそれ以外でも、怪人とも戦わせてから本番のつもりだったのをカットしたりしたんですけど……
隠神刑部との交渉場面とかも、もしあった方がよければ割り込み投稿かちょろっとくっつけるかしようと思います。
ご意見お待ちしてます。