表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
169/432

152-八咫の守護神・前編

クロウがヴィンセントを、ライアンがローズを倒す少し前、雷閃四天王がまだ死鬼と戦っていた頃。

大口真神とぬらりひょんの激闘も架橋に差し掛かっていた。


もはや彼らの周囲にはまともな場所などなく、下はすべての大地がぬらりくらりと海のようにうねり、上は吹雪が飛び散る大地を押さえつけるように叩きつけている。


しかもまともに立てる場所がないだけではない。

常に殺意を向けてくる吹雪はもちろんのこと、柔らかく捉えどころのない大地すら、隙があれば硬く尖って襲いかかってくる。


普通の人なら……いや、たとえ神秘であってもほとんどの生物が音を上げるだろう。

そんな地獄のような環境を生み出しながら、彼らは戦い続けていたのだった。


「いい加減……食らいなさい……!!」

「はぁ……はぁ……十分食らっとるわ!! 打撃なら完全無効なところ、貴様の攻撃は4分の1は食らっとる!!」

「理不尽すぎるのですよ……!!」


"しずり雪"


"白牙"


完璧に避けながらそんなことを言うぬらりひょんに、大口真神は忌々しげに吐き捨てる。

そして、吹雪の中から鋭利な刃を降らせ、下でうねっている大地の表面に残った雪から、白い牙を生み出す。


"柔靭裂波"


だがぬらりひょんは、上下からの斬撃ももちろん防ぐ。

仮に受けてもぬらりくらりと体が曲がるのだが、多少のダメージは残るため大地を曲げた。


手の動かす通りに大地をうねらせ、下からの牙も上からの刃も弾き飛ばしてしまう。

さらには、掌を大口真神に向けることでうねる大地は固まりながら彼女の元へ向かった。


"柔掌地殻"


大口真神は雪を操りつつ素早く移動して避けていくが、相手は八咫の大地すべてだ。逃げる先々で牙をむく鋭利な岩石や岩壁に囲まれ、追い詰められてしまった。


「雪は、そろそろ大地を飲み込めますかね……?」


しかし、彼女は慌てることなくポツリと呟く。

現在視界を覆っているのは大地だが、空気は冷え切り、操った雪は大地に飲み込まれないように移動してある。


この戦闘中で順調に積もらせていたため、その量は小さな村程度は飲み込んでしまえる程。飲み込まれて溶けなければ、ぬらりひょんに対抗するには十分な量だった。

それを、彼女は一気に開放する。


"惑いの雪原"


空から降る雪を増やし、地面に積もった雪を巻き上げて地面を雪で覆っていく。この場に現れるのは飛鳥雪原の紛い物。

地面よりも脆い雪でも、硬い牙を砕くことのできる、彼女の聖域だ。


「しまったッ……!! こまめに潰していたつもりだったが、上から見ただけでは判断がッ……!!」


もちろん、揺らぐ大地に乗ることで、ほぼ空中にいるような状態のぬらりひょんに当たりはしない。

しかし、だからこそ積もった雪の量を正確に測ることはできなかった。


雪は彼らの外側や岩壁の周囲から押し寄せると、大口真神を囲っていた岩を、その圧力で砕いていく。


「惑いなさい。あなたにはもう、この場所がわからない」


"白闇"


雪崩は圧倒的な破壊力を見せるて岩石を破壊するが、さらに追加で一帯に細かな雪煙が舞う。

それは真っ白い闇のようで、白銀世界の主以外は自分がいる場所がどこかわからなくなる。


しかも、本来硬い大地はぬらりひょんの力によって海のように波打っているのだ。

これにより、雪煙で前後左右がわからない、大地が揺らいで上下もわからないという最悪の組み合わせが生まれていた。


「クソッ!! すぐに地面を固めていればッ……!!」

「その場合、雪はあなたに牙をむくでしょう」

「最初からある大地、後から増える雪!!

瞬殺できなかった時点で、我の負けは決まっていたかッ!!」


"忘れ雪-絶夢"


叫ぶぬらりひょんを、純白が包む。

極限まで体温を下げる冷気、まるで夢の中のように上下左右前後が曖昧な空間。


ここが現実なのか夢なのか、生きているのか死んでいるのか、空にいるのか地面にいるのか。

彼は何一つわからないまま眠りにつき、夢すら絶たれた。


「……おや、いつの間にか外に出ていましたか」


白い夢を解除した大口真神は、周囲を見回して独りごちる。

彼女がいたのは、雪崩に飲み込まれた街の中だ。

しかし、神経を研ぎ澄ましてみても人の気配はない。


「よく考えたら彼は土台を壊していましたし、我は結界を上書きしてますしね……子ども達が逃げていてよかった」


戦闘開始からずっと大地は揺らいでいたし、最後のほどではないにしても雪も舞っていた。

そのため、彼女にはいつ外に出ていたかわからなかったが、ひとまず人に被害がないことに安心し、ホッと息をついた。




~~~~~~~~~~




ぬらりひょんが倒れたことで、獅童と天逆毎の戦いにもようやく変化が現れた。


今までは焼け溶けるたびに再生していたため、どんなに強力な炎でも気にしていなかった天逆毎だが、これ以上の無茶はできないと察して距離を取る。


多少の傷ならば塞げるとしても、獅童の炎は火力が強すぎて不可能だ。相対している獅童もそれを察したのか、凶暴な笑みを浮かべて口を開いた。


「ぶわっはっは!! よ〜ぅやくヤツが倒れおったか!!

これでてめぇをぶち殺せるってもんじゃのぉ!!」

「あらあら。あの爺もこの爺も腹立たしいクズばかり。

(わたくし)こそあなたをひねり潰して差し上げます」


獅童は今が好機とばかりに式神にも指示を飛ばすが、天逆毎は余裕の表情を崩さない。


獅童の炎と、その勢いを増す比和の関係にある騰蛇の炎、相生の関係にある青龍の木が迫る中、なおも拳を振るう。

勢いは雷閃の時より凄まじく、三方から迫る攻撃に連撃で返し、そのすべてを吹き飛ばしていた。


"千里飛ばし"


もちろん重点的に抑えるのは獅童の方向だが、青龍も比和より炎の勢いを増してしまうため騰蛇よりは優先順位が高い。

獅童より的が大きい上に、彼ほど戦闘慣れしている訳でもないため、数発受けてしまった。


「ぐぅ……!!」


首辺りに一発、胴体に三発。

構えていたため千里は飛ばないが、それでも数百メートルほど吹き飛んでしまっている。


「カハハ!! 情けねぇなぁ!!」

「ちゃんと前を見なさいよ! 目の前!! あなた死ぬぞ!?」

「んぁ?」


それを見た騰蛇は、天逆毎から目を離して豪快に笑う。

狙われたのは青龍。自分は後回しにされているみたいだから大丈夫だろ、という判断だ。


しかし、真面目な青龍は注意を促す。

2人の距離はかなり空いているが、どちらもそれなりに巨体であるため、普通に会話ができているようだ。

焦ったような青龍の声に、騰蛇が反応して前を向いた。


「ぉぅ……やべ」

「アホねぇ。可愛らしくてとことん愛でてあげたいくらい。

ふふ、我に従いなさい?」


"千里飛ばし"


すると、目の前にいたのはもちろん天逆毎だ。

愉悦に満ちた笑顔で、騰蛇を屈服させようと拳を振りかぶっている。


彼は油断していたため、避けることはできない。

身構えればそこまで飛ばされないかもしれないが、少なくとも青龍のいる位置にまでは飛ばされるだろう。


だが、蛇と龍では多少の体格差もあるため、そう上手くもいかないはずだ。彼は冷や汗をかきながら致命傷を受ける覚悟を決める。


「てめっ……いきなり(オレ)を無視し始めるんじゃあねぇ!!」


"不知火流-大鎌"


だが、もちろん獅童も大人しくしてはいない。

少し離れた位置からだが、刀に炎を纏わせて横薙ぎにそれを阻もうとする。


「そんな切っ先で止められるものか!!」

「ガハッ……!!」


しかし、さっきまでの彼は時間稼ぎを念頭においていたため遊び半分だった。そんな状態で防げるはずもなく、拳は炎を突き破って騰蛇の顔面に直撃する。


ギリギリのところで身構えた彼だったが、青龍と同じように数百メートル吹き飛ばされていく。


「あ……う……あ……」


どうにか青龍より少し遠くで踏みとどまった彼だが、少しの間頭を揺らすと、すぐに倒れてしまった。

そして、式神であるため形が消えていく。


「言わんこっちゃない……ね!!」

「うふふ……警戒なんて無駄よ?」


その直後。青龍の目の前に天逆毎が現れた。

いきなりだったが、青龍は警戒を緩めていなかったので、すぐに反応して周囲を木で囲っていく。


"逆月"


……はずだったのだが、彼女が無駄という言葉と共に手を突き出すと、木々はどんどんネジ曲がっていき、体の向きも反対になってしまう。

そして彼女は、渾身の一撃を無防備な彼に打ち込んだ。


"千里飛ばし"


「うわ……ガァッ!!」


もはや地に足すらついていない彼は、そのまま遥か彼方へと吹き飛ばされていった。


"ヒノヤギハヤ"


直後、全身から炎を吹き出している獅童が彼女に斬りかかる。数秒遅れていたが、それでもかなりのスピードだ。


「ッ……!! あなたも速いですね……!!」


しかし、その爆炎もギリギリのところで防がれてしまった。

避けた先にも、動きを予測して目にも止まらぬ炎の連撃を繰り出していたが、天逆毎は手を焦がしながらも致命傷は避けていく。


やがて獅童が押し始めるが、その時にはもう離脱していた。

式神をまとめて消され、攻撃もほとんどいなされていた獅童は苛立って声を荒げる。


「復活できなくなったからって、いきなり本気で暴れるんじゃあねぇよ!! 楽しめねぇじゃろうが!!

あとついでに、ちったぁ身を案じた立ち回りしやがれ!!」


式神2体に突撃していったこと、今も挑発するような立ち回りをしていることなどについてガチギレだった。


しかし、もちろん天逆毎はどこ吹く風だ。

また一対一に戻ったこともあり、少し余裕そうな表情を浮かべて笑いかける。


「負けるのって、不快なんですもの。不利なら全力でやらないと。それより、対等に殴り合いませんか?

まだ遊びたいのでしょう?」

「ぶわっはっは!! 少ーしだけじゃぞ?

負けるわけにもいかんからのぉ、程々のところで斬るわい」


単純な獅童は、彼女がいなすのではなく殴り合うことを提案してきたことで、すぐさま笑顔に戻った。

式神のことも、死んだ訳でもないためもう気にしていないようだ。


喜び勇んで刀を腰に差し、腕を回したり屈伸したりと準備運動を始める。


「ふふ、いなすのは得意です」

「ハッ!! さっきもすぐ追い詰められておったくせによう言うわ!! 燃やし尽くしてくれる!!」


"火之迦具土神"


"天魔雄"


獅童は全身を炎で包むと、街を燃やしながら天逆毎に突っ込んでいく。対して、天逆毎は少し黒く靄が纏わりついているくらいで、見た目にはほとんど変化はない。


しかし、彼女の本領は単純な身体能力だ。

凶暴な笑みを浮かべながら、その身に宿る神秘を高めて迎え撃つ。


影の聖域、戸隠にて。

橘獅童と天逆毎は、最後の殴り合いを開始した。


式神だしほぼモブなんだけど、青龍の性格結構好きだな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ