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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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150-ローズマリー・リー・フォード、前編

ライアンが玉藻前、狐のお面の怪人と戦っていると、またしても光の道がこの場に降ってきた。

そこから降りてくるのは、もちろん隠神刑部との交渉が終わったクロウ、ロロ、ドールの3人だ。

先程来た援軍と合わせて、幕府側の戦力はついに出揃った。




~~~~~~~~~~




交渉を終えた俺が愛宕にやってくると、そこに広がっていたのはどう見ても街ではないと思える光景だった。

建物はすべて倒壊したのか、どこにも見えない。


地面は全面土で、最初からなのか戦いの影響なのか、そこら中が崖になっていたり窪みになっていたりしてボコボコだ。

木々や岩も多数あり、本当に神奈備の森から出てきたのか不安になってしまう……


だけど、あの女の人は少なくとも隠神刑部より遥かに信用できる。出口がこの場所だったからには、きっとここが愛宕なのだろう。


木々が倒れたり、地面が割れるような音がしたり、明らかに普通の静かな森じゃない……というか戦闘中っぽいし。


「ロロ、どこ行けばみんないるかわかるか?

多分バラバラなんだろうけど……

できれば真神か谷爺、ライアン辺りに会いたい」


戦闘音は数か所から聞こえてくる。

少なくとも前後左右に1組ずついるようで、多分どこに行っても頑張れば状況は聞けるだろう。


だが、ほとんどの組が常に移動しているようなので、彼らを見つけるだけでも一苦労だ。

その上、もし見つけたのが獅童や射楯大神だと、さらに大変な思いをすることになる。


はっきり言って話が通じにくいし、目の前の敵しか気にしていなかったりすると思う。

特に獅童。あれには会いたくない。


そのため俺は、話しやすく、ちゃんと状況を理解していたり気にしていたりしてそうな人に会えるように、ロロに感知をお願いした。


「そうだねー……あ、すぐここにライアンくるよー」


ロロは集中するためか少し目をつぶると、すぐにパッと目を開けてそう言った。

彼が指差した方向を見ると、確かにこの方向から騒音が近づいているような気がする。


まだ遠くてよく見えないが、崖の上にはバカみたいに眩しい炎がチラつき、木々は燃えたり薙倒されたりしているようだ。


あれがここに来るのか……

なんか怖いけど、多分運がいい……な?


「すぐなら待ちましょうか。でも、一応巻き込まれないようにちょっと離れるべきですね」

「そうだな」


俺達は安全にライアンを迎えるべく、進行方向だと思われるルートから少しズレてから惨劇を見守った。




待つことほんの数分。

ロロの言う通り、ちょうどさっきまで俺達がいた所に戦闘中の生物達がやってきた。


1人は大きく眩い9つの尾を持つ、白面金毛の化け狐。

1人は何故か狐のお面を付けている、神秘っぽい変な男。

そして……


「……ライアン?」

「お、クロウか〜!!」


俺の声に反応してくれたのが、バカでかい槍を振り回している、鱗まみれで大量の尻尾が生えた……その他諸々盛りまくった巨人に変身したライアンだ。


どうやら力を奪いながら戦っているようで、変身中だからか足元には追従してくるサークルが広がっていた。


動くとか反則だろ……

けど、それなのに見た感じ互角っぽいのが恐ろしいな……

俺は明らかに不利な環境でも、ほぼ互角に戦っている妖怪達に軽く引きながら、状況確認を始める。


「一応ここはどこってのと、今どんな状況だ?」

「もちろんここは愛宕だぜ〜。状況は……」


ライアンは、ギリギリのところで狐の攻撃を防ぎながらも、可能な限り俺の質問に答えてくれた。


9つの輝く尻尾、その間に浮かんでいる太陽のような火の玉、何故か足元から大量に生えている茨。

どうやら足場も茨で自由自在なので、巨大な体でも厳しそうな相手だ。


場所を教えてくれただけでも十分すぎる。

……って、茨? 尻尾の間には火の玉……?

どこかで見たような組み合わせだな……?


俺が疑問に思っていると、ちょうど狐とお面の男をフェンリルの氷で吹き飛ばして、こちらに視線を向けた。

そして、今の状況……戦っている相手を答えてくれる。


「んで、相手はローズとヴィンセントだ」

「はぁ!?」

「えぇー!?」


彼が言うには、あの2人……多分狐のお面をつけた男がヴィニーで、太陽みたいな九尾の狐がローズらしい。

お面はつけてるだけだとして……ローズはなんで狐?


動物に変身するのはライアンだろ?

フェニキアで戦った半魔だって纏うだけだったぞ?

確かに同じ組み合わせなんだけど……まさか本人だなんて思わなかった。


「ホントだぜ。ほら、ローズも」

「……ごめんね、クロウ。私は本当にローズだよ。今は……苦しみを彼にぶつけてる。八咫を、滅ぼそうとしてる」


戸惑っている俺を見て、ライアンが狐に促すと、その口からはローズの声が聞こえてきた。

どこかヒマリに似た雰囲気……苦しみ、悲しみ、怒り。


それらがごちゃまぜになったような、ぶつけてると言う割には押し込めたような口調だ。


……ローズもか。ローズも、死んじまうのかな……

また、俺の周りでは、俺以外が……


「そっか……」

「だからよ、この子にくっついてきてるヴィンセントは任せるぜ。あいつは人のままだからいけるだろ?」


……また? 俺の村は、気がついたら滅んで……

俺が……あれ……?

俺のいる時に……? いない時に……?


「ピィ」

「チル……珍しいな、出てくるの」


ふと違和感を感じて肩を見ると、いつの間にか右肩にチルが乗っていた。彼は何かを諭すように俺を見つめている。


……頭の中で声が響く。

誰かの声なのか、俺自身が考え続けていることが回っているだけなのかはわからない。


けど、確かなのは滅んだこと……

違う、暴禍の獣(ベヒモス)に滅ぼされたって話だ。

俺とは関係なく、あの男が……


「どうした? クロウ」

「ん……?」


俺がぼんやりしていると、ライアンが火の玉を槍で弾きながら、合間合間に声をかけてくる。

視線を向けた先には、燃える茨の足場を飛び回り、苦しそうに戦っているローズ……


「国っ……なんてっ……!!」

「ローズ……わかったヴィニーだな?」

「おう、任せるぜ。俺達は場所を変えるけど、ちゃんと奪えたもんは奪ったままにしてくからよ」


"スリュム・フェッセルン"


俺がようやく返事をすると、ライアンはニコリと笑って、ヴィニーに向かって手をかざす。

すると彼の胸には、よくわからない紋章が……たてがみのような雄々しい模様が浮かんできた。


スリュムヘイムのサークルを植え付けた的な……?

何を奪ったのかは知らないけど、すっごいずるい……


「じゃあ行こうぜ、ローズ」

「ライ……アン……!!」


紋章をヴィニーにつけたライアンは、ローズを連れてどこかへ行ってしまう。


ローズは大きな九尾の狐になっているし、ライアンは彼女に合わせたのか少し小さめだが、巨人になっている。

俺達のような人とは違って、あっという間に離れていってしまった。


その後に残るのは、ライアンがローズにくっついてきてると称したヴィニーと俺達だけだ。

狐のお面で顔は見えないが、狐がローズと名乗ったのだから彼も本人……


「よう、久しぶり」

「そうだね。ようやく、この未来を生で見られた」

「は……? どういう……」

「その前に、ロロとドールはどうするの?」

「あー……」


意味のわからないことを言うヴィニーに戸惑ってしまうが、その後に彼が指摘したことは確かに放置できない。

……こともないけど、ヴィニーと一対一で戦うなら、2人がどうするかは決めておこう。


「どうする?」

「そうですね……結局わかったのは、場所と八妖の刻の1人がライアンさんと戦っていることくらい。これではなんとも……」

「八妖の刻と死鬼には、もう全員相手がいるよ。

君たちがするとしたら、星熊童子みたいなネームドや名無しの鬼人、妖怪の鎮圧かな」


俺達は、ローズ以外の八妖の刻をどうしているかを知らないため、ドールも決めかねたように呟く。

しかし、それに答えをくれたのは百鬼夜行側にいるはずのヴィニーだった。


ローズは自分の意思で八咫を滅ぼそうとしてるっぽかったし、彼もそうだと思ったんだけどな……

すると、同じく不思議そうな顔をしたロロが、ドールの肩に乗りながら質問する。


「ヴィニー、てきじゃなかったのー?」

「戦う相手ではあるね。けどお嬢だって、元々は呪符を入れられたから暴走してたんだ。あれが本心ではあるだろうけど、操られてるようなものだよ」

「なるほど……」


とりあえず2人を追い出そうとしてる……とかではなさそうだ。

ならドールに頼むのは、街で暴れてる妖鬼族や妖怪を鎮圧することだな。


「だってさ」

「わかりました。……これは人と鬼人・妖怪の戦争ですよね?

鎮圧というのは、殺す……ということですか?」

「ううん。これ以上どちらにも死人を出しちゃいけないよ。

殺されそうな人を助けて、殺しそうな人を殺さずに倒すか説得するんだ。紫苑の芽は、まだ死んでないからね」

「わかりました。頑張ってみます」


ドールが少し恐ろしい確認を取ると、ヴィニーハ迷わず殺してはいけないと断言した。


するとドールは、すぐに頷いて結界から出ようと走っていく。よかった……もう死者は出てるみたいだけど、これ以上人は死なないみたいだな……


2人がいなくなって、俺は改めてヴィニーに向き直る。

仮面で見えないが、声や雰囲気で確かに彼とわかるその姿を。


「俺もね。呪符があるから逆らえない」

「倒せばいいのか?」

「そうだね……」

「じゃあ行くぞ」


俺は、唐突に呟いたヴィニーに確認を取ると、彼を倒すべく一気に駆け出した。

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